今年度は、全国各地の地方試験研究機関を訪問し、地域における気候変動の影響と適応策に関する研究の実施状況や課題等のインタビューを行っている。
これまで訪問したところでは、農業(栽培)分野では北海道、神奈川、富山、岡山、高知、長崎、畜産分野で富山、和歌山、水産分野で神奈川、和歌山、長崎といったところである。農業分野でも、神奈川は野菜(春キャベツ)、富山と長崎は水稲、岡山はモモ、高知はナシと多彩である。
これからも宮崎や山形等を訪問し、その上で分析をまとめていく予定であるが、現段階でポイントだと感じていることを数点、記しておく。事実の整理屋裏づけは少し曖昧な点があるが、多くの示唆が得られそうだと感じている。
まず最初に、これらの研究機関は、どこも人員規模や予算の縮小傾向にあったり、分野統合の傾向にある。予算規模が縮小する対応としては、国等の研究予算(競争的資金といわれる)の獲得を増やす傾向にある。分野統合では、北海道が最たるもので、農業、畜産、水産、森林、工業、環境の分野が1つの研究機構になっている。第一産業関連では、農畜産林水産が別々だったものが統合される場合が多いようだ。予算制約下では、気候変動の長期影響のような短期的な産業振興への成果にならないような研究は重視されない傾向にある。一方、分野統合により、分野横断的な戦略研究テーマとして気候変動適応を位置づけた北海道の例がある。
2つめに、研究テーマは現場の課題があげられ、その研究可能性や必要性を精査することで決定されていく。行政側のトップダウンや外部有識者の意見が重視される研究計画策定の仕組みをもっているところもあるが、それが弱い場合もある。現場課題においては、現在発生している気候被害対策はあげられるが、長期的な気候変動を見越した研究はあげられにくい。
3つめに、研究成果をもとにした政策支援や開発した技術の普及については、研究側ではあまり踏み込まず、行政機関や普及機関にゆだねる場合が多いようである。気候変動適応は、栽培方法や品種開発等で完了するわけではなく、開発しや品種によるブランディングや農業経営のあり方の改善に踏み込みこんで、社会経済システムの変革や地域活性化等と一体的に推進されるべきものである。この意味で、研究の側から実践に踏み込む姿勢が期待される。
4つめに、気候変動に関する研究の遂行において、機関単独で実施する場合と他地域と連携したり、国の支援を得て行っている場合がある。後者は、国が設定したコンソーシアムに参加したり、国の研究機関が調整をしている場合がある。地域によっては、単独で成果をあげるだけの研究資源が十分でない場合もあり、地域を超えた連携や国の調整へのニーズがある。
5つめに、長期的な気候変動の影響予測は地域単独で行うことができない。長期的な影響予測情報を国が整備して、信頼できる形で地域に提供していけば、地域での長期的な研究設定の裏付けも可能となり、さらに地域での研究が推進される可能性がある。
6つめに、農業の体力がある地域とそうでない地域の差がありそうである。農業の体力のある地域では、研究機関の研究も比較的活発に実施されるが、そうでない地域では小規模零細な農家が多いがゆえに、気候変動の被害を受けやすいにもかかわらず、研究機関の対応ができないという状況になる。こうした気候変動への感受性や適応能力に問題がある地域に対して、国の位置づけや重点的な支援が必要ではないか。
などなど。もう少しインタビューを進め、11月にはまとめをしていきたい。