サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

「気候変動の地元学」により、気候変動を自分事化しよう

2015年06月13日 | 気候変動適応

「気候変動の地元学」は、環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクト研究課題「S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究(以下、S-8研究と表記)」のテーマ2(1)「地域社会における温暖化影響の総合的評価と適応政策に関する研究」の一環として、開発し、長野県飯田市で、地域の行政、NPO、企業関係者とともに研究会を設置して検討、2014年度に試行までを実施してみたものです。

飯田市以外でも、地域の地球温暖化防止活動センターにおける地球温暖化防止活動推進員の方向けの研修において、簡易なやり方で実施したことがあります。本年度は、より本確的な方法で、地球温暖化防止センターで実施する予定もいくつか、あります。

この方法でなければならないという絶対的なものはなく、地域毎に工夫して実施していただくことができます。以下に、「気候変動の地元学」の考え方と実施手順例を示します。実施を希望される地域はご相談をいただければと思います(sirai.nobuoアットgmail.com)。

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1.「気候変動の地元学」の考え方

(1) 地域住民が主体となった実践課題解決型の学習

「地元学」は、水俣市の吉本哲郎氏が実践してきた地域住民が主体となって、地域にあるものを調べ、それを地域に役立てる方法を考えていく地域づくりの方法である。一連の過程を通じた主体形成と関係形成を重視し、地域住民が中心となること、また地域住民(「土の人」)だけでなく、地域外の人(「風の人」)の視点や助言を得ていくことにもこだわりがある。

この「地元学」の考え方を踏まえて、地域住民が、地域にあるものが気候変動の影響をどのように受けるかを調べ、適応策の考え方や気候変動の将来影響予測結果等の専門情報を活かして、気候変動時代の地域づくりを考える、こうした一連の実践課題解決型の学習プログラムを「気候変動の地元学」と名づける。

(2) 気候変動の地域への影響の自分事化

地域住民にとっては、気候変動といっても将来のことであり、インフラが整備されていない開発途上国で影響が深刻化し、日本ではあまり影響を受けないと、他人毎に捉えがちである。また、専門的な気候変動の将来予測結果だけを提示されても、難しくて理解できないと敬遠されがちである。しかし、気候変動の地域への影響が既に顕在化していることを実感することで、気候変動は身近な地域で発生している現在の問題であると認識される。これにより、気候変動の問題が「自分事化」され、適応策(ひいては緩和策)に対する住民の主体性を引出すことが可能となる(白井・馬場・田中(2014))。

2.「気候変動の地元学」の実施手順

(1) 気候変動の地域への影響事例を調べる

気候変動の地域への影響事例の調査について、説明・依頼書と調査票を配布し、調査票への記入や一連の試行への参加を依頼する。調査票では、気候変化により、昔はあった(できた)が現在はなくなった(できなくなった)こと、あるいは昔はなかった(できなかった)が現在はある(できる)ようになったことについて、影響分野(自然・生き物、農業、水災害、水質、健康、伝統文化・産業、生活等)毎に事例をあげ、影響の概要の他、上記の原因となる気候変化、変化がみられるようになった時期、変化がみられる場所、影響を顕在化させている社会経済的要因、影響を軽減するための適応策のあり方等について、回答してもらう。

(2) 影響事例の調査票の集計と「気候変動の地域への影響地図・影響年表」作成

(1)の調査の回収票をもとに、事務局が中心となって、調査票から得られた情報を元に「気候変動の飯田市への影響地図・影響年表」を作成する。さらに、回答された影響事例を集約し、影響分野毎の影響事例集を作成する。

(3) 「気候変動の地域への影響と対策」ワークショップの開催

(1)の調査への参加者のうちの希望者を集めて、(2)の作業結果を報告する。また、緩和策と適応策の基本的考え方、可能であれば気候変動の将来影響の予測データ等を説明する。さらに、(2)の作業結果をもとに、影響事例にぬけがないか、影響事例のうち特に優先的に対策をとるべきものは何か、気候変動の影響を改善するために、どのような緩和策と適応策を行うべきか等を話し合う。

(4) 気候変動適応の行動計画の策定等

1回だけのワークショップで終わるのではなく、何回かのワークショップを積み重ねることで、気候変動の影響情報の精査や住民の気候変動適応の行動計画の策定等につなげていくことが考えられる。

 3.「気候変動の地元学」の試行例(長野県飯田市)

  長野県飯田市での試行では、環境リーダー層を中心に66名から、98の影響事例の回答を得た。同一の回答を統合すると影響事例数は73であった。一人当たりの回答は1つあるいは2つであっても、比較的に重複した回答は少なく、共有することで多くの影響事例を抽出することができた。

  回答された影響事例について、原因となっている気候変化では、「夏の高温化・猛暑の増加」が46%ともっとも高く、次いで「冬の気温上昇」17%、「降水量の増加・豪雨の増加」18%、「冬の積雪の変化」5%という結果であった。また、影響分野では、「農業」28%、「生活・暮らし」23%、「健康」16%、「水災害」14%、「自然生態系」10%であった。

  影響事例調べの結果は、地図と年表にまとめたほか、影響分野毎に整理して、ワークショップで報告した。地図と年表の結果は、気候変動の影響というネガティブな情報が公表され、過剰な反応を得ることを避けるため、ここでは掲載しない。ワークショップにおいても、あくまで今回の調査結果であり、学習の材料であること、今後さらに情報の信憑性についての精査が必要であると説明し、スライド投影のみにより、説明を行った。

  分野別の影響事例の整理例を表1、表2に示す。気候変動の影響を顕在化させている要因として、気候変化だけでなく、社会経済的な要因についても回答を得ることがポイントである。

  5つの班によって、個性的な結果が発表された。重点的に取り組むべき適応策では、農業の収量の低下、子供が暑さ慣れしていない事への対策、山崩れ等が共通してあげられたが、自然に詳しい人材が多かった班では、野生生物の変化や鳥獣害について、さらにモニタリングによる調査が必要という点が強調された。また、住民の意識を高めることを強調する班もあれば、リンゴの被害では品種を変え、魅力的な加工品づくりも図り、地域の付加価値をあげていくというような戦略な方向性を示す班もあった。

  適応策と緩和策に対する行政予算配分の比率では、「どちらも手が抜けない」、「両立が必要」、「当面は適応であるが長期的には緩和で元を断つ」というように優劣をつけない考え方を発表する班があった。一方、「適応7:緩和3」とした班では、「現在起きている問題をまず解決する」や「適応策は検討段階が多いので、お金がかかる」という理由が示さえた。「適応3:緩和7」3票、「適応4:緩和6」1票、「適応6:緩和4」1票というように、班の中での多数決を行った結果を発表した班もあった。

  影響事例調べの回答前とワークショップの実施後の気候変動の影響及び緩和策と適応策に関する意識の変化を集計した結果、将来の影響や緩和策及び適応策の実施必要性や自分自身の実施意向が高まったことが確認できた。適応策の考え方は、本ワークショップにおいて初めて学習機会を得たものであり、このプログラムが適応策の学習において有効であることを確認できた。そして、適応策を中心としたワークショップを行ったにも関わらず、適応策のみならず、緩和策についても同程度の学習効果があがっていることが重要である。気候変動の地域への影響を入口として、緩和と適応の学習を一体的に行うことの有効性を示している。

 

参考文献:

白井信雄・馬場健司・田中充(2014)「気候変動の影響実感と緩和・適応に係る意識・行動の関係~長野県飯田市住民の分析」、環境科学会27巻3号、127-141.

 

 

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