筆者は、埼玉県内市町村における太陽光発電の設置補助金の実態調査及び設置補助金単価等の最適値に関するモデル分析を行い、次のことが明らかにした。
(1) 埼玉県内市町村の太陽光発電の設置補助金は、市町村によって補助金単価、予算総額等において相違がある。例えば、2011年度の埼玉県内市町村のkW当たりの補助金単価をみると、1万円から3万円未満が34市町村で5割を超える。単価が安いところは1万円未満のところもあり、高いところは7万円である。それらの単価の設定根拠を調査した結果、売電収入による初期投資の償却期間を根拠に検討した場合もあるが、他の自治体の状況を参考して、十分な根拠を持たずに設定されている場合がみられる。
(2) 太陽光発電の設置補助金について、需要関数・供給関数を作成し、予算総額制約における補助金単価を求めると、理論的には補助件数及び設置開拓件数を最大とする最適値が存在する可能性がある。また、設置開拓件数の目標値を持った場合、最適な補助金総額と補助金単価の組み合せが存在する可能性がある。
こうした結果をもとに、補助金制度の設計のあり方を次のように考察することができる。
(1) 補助金単価の最適値であるが、白井・大野・東海(2011)が検討したように設置開拓件数を評価指標とすれば補助金単価は低い方がよい。しかし、補助金単価が低い場合には補助金への申込み件数が、予算上の補助件数を下回る可能性があり、それを下回らない範囲でできるだけ安く補助金単価を設定することが望ましい。
(2) ただし、補助金総額(供給)が小さい場合には、予算上補助件数が小さくなり、補助金への申込み件数は予算上補助件数を上回ることになる。この場合には、補助金単価はできるだけ低くし、予算上補助件数を増やすことが必要になる。ただし、実際に埼玉県内市町村の補助金制度の実施状況をみると、補助金単価が低いところでも、予算が未消化な場合がない。つまり、需要よりも低いところで予算が組まれている。
(3) 加えて、白井・大野・東海(2011)は、太陽光発電の設置意向は、初期投資の負担額と売電収入額といった設置条件だけでなく、太陽光発電の便益性及び負担容易性の評価によっても規定されることを明らかにした。つまり、補助金への申込み件数は補助金単価の条件にだけ規定されるわけでなく、補助金の認知度や行政の住民への働きかけの程度、住民の太陽光発電への意識向上等によって、申込み件数が増える可能性がある。
(4) 補助金単価は低いほどよいが、補助金単価を高く設定することが必ずしも誤りというわけではない。補助金単価を高くすることで、住民の太陽光発電への関心を引き付けるシグナル効果もあると考えられる。また、補助金単価を高く設定し、かつ応募者は補助金の交付を受けずとも設置することが条件であるとして、抽選方式で補助先を決定する場合では、供給上の制約以上に設置開拓件数を高める可能性がある。ただし、抽選方式については結果の不公平が問題にもなりがちであり、申込みが殺到する場合の補完的な方法に留め、予算以上に設置を促す効果までは期待しない方がいいとも考えられる。
(5)以上より、自治体における太陽光発電の設置補助金の設計は、需要・供給の理論を踏まえつつ、柔軟かつ合理的に行う必要がある。近隣市町村の状況と足並みを揃える制度設計は経験データを活かすものであり、あながち非合理的とは言えないが、補助金単価は申込みが予算を下回らない範囲で低い方がよいこと、普及啓発等の補助金以外の施策を積極的に行うこと等を踏まえた設計が必要である。
参考文献:
白井信雄・正岡克・大野浩一・東海明宏(2012)「住宅用太陽光発電の設置者特性と設置規定要因の分析」、『Journal of Japan Society of Energy and Resources』、33(2)、44
白井信雄・田中充・増冨祐司・嶋田知英・東海明宏(2013)「住宅用太陽光発電の設置補助金制度の最適設計~埼玉県市町村を事例として」、計画行政36(2) 49-56