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ニッポンのゆる~い日常

4島譲歩では上坂さんも泣く

2009-05-12 09:28:07 | 正論より
5月12日付    産経新聞より


4島譲歩では上坂さんも泣く    杏林大学客員教授・田久保忠衛氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090512/plc0905120334001-n1.htm



 ≪何よりもロシアの不道徳≫

 亡くなった上坂冬子さんはとにかく怒っていた。2006年に第31吉進丸の船長坂下登氏が、北方領土周辺海域でロシアの監視船に一方的に銃撃されて甲板員を殺され、国後島(くなしりとう)に連行され、有罪判決を受け根室に戻ってきた。即座に彼女は行動を起こす。坂下船長にインタビューし、抗議デモに参加した。すでに本籍を国後島に移していた上坂さんは、モスクワでのシンポジウムに出席し、言いたいだけの抗議をぶちまけてきた。

 私は上坂さんと月刊『正論』で対談し、それは産経新聞から出された『北方領土は泣いている-国を売る平成の「国賊」を糺(ただ)す』の一書に収められている。

 領土問題にかぎらず、何ごとも力を基準に発言し、行動するロシアには、その弱点が現れてくるのを待って対応しなければならないと私は述べた。すると即座に「田久保先生は思ったより楽観主義者ですね。見通しが明るすぎる。私は気分的にもうこれ以上、『待つ』ことに耐えられません」とお叱(しか)りを被った。

 彼女の立腹の対象はロシアの不道徳だった。石油・天然ガス開発事業「サハリン2」にクレムリンが横車を押して経営権を強奪したり、反体制ジャーナリストを次から次へと殺す。近代国家ではとうてい考えられない蛮行を平気で繰り返す異常さへの痛憤だった。

 ≪スターリンの暴挙改めよ≫

 この対談後、私はたまたま『フォーリン・アフェアーズ』誌に載った前ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏の一文を読んだ。当時のジュリアーニ氏は共和党大統領候補の一人としてキャンペーンを展開中で、同じ共和党ながらブッシュ政権第2期の外交に不満を抱いていたらしい。外交には「力」が結びついていなければ役に立たぬと当然の主張をしていたのだが、その「力」の内容はズバリ「軍事力、経済力、道徳」の3つだと明言していた。

 いまさら砲艦外交でもあるまいが、ロシアや中国は明らかに軍事力を外交に直接投影し、それを隠そうともしない。が、日本には自衛力の強化が外交力の強化につながることを理解する政治家が何人いるのか。シーファー前駐日米大使は離任にあたって外国人特派員協会で講演し、過去10年間、米国、中国、ロシア、韓国が軍事費を増やしたにもかかわらず、日本の防衛費だけがGDP(国内総生産)比で減っているのはどういうわけかと首をかしげていた。

 日本の外交上の切り札は、経済あるいはそれに関連する技術くらいのものであろう。だが、私はロシアが北方領土問題の原点でもある道徳的に劣った国であるとの指摘をやめてはいけないと考えている。ジュリアーニ氏は決して外交の専門家とはいえないけれども、道徳を欠いた「力」の外交がいかなるものかも知っている。上坂さんは「力」の重要な要素である道徳を最も問題にし、「北方領土問題の解決の道は、民主ロシアがスターリンの暴挙を“実績”と認めるのか、それとも暴挙を一新して先進国の態(てい)をとるのかにかかっているというのに、日本は一向に事件の核心に触れずにいる」と力説していた。

 ≪主権の切り売りは許せぬ≫

 日本の外交官の中でも私が尊敬する一人、谷内正太郎政府代表が北方領土問題で、3・5島でもいいのではないかと毎日新聞紙上で発言したニュースは、私はワシントンで聴いた。その直後に空港で帰国の便を待っていた私は谷内氏と偶然会った。「自分の真意は毎日に正確に伝わらず、欧州など外国との関係が悪化し、天然ガスや石油価格の下落に見舞われたロシアをして日本を必要とする方向に持っていく戦略的外交が必要だ」と説く谷内氏の説明にさしたる違和感を覚えることなく帰国した。

 家に着くや否や私は、谷内発言をめぐる議論に巻き込まれた。よく調べてみたら、発言記録の中に「私は3・5でもいいのではないかと考えている」が含まれていた。政府高官の発言としては国会における全党一致の決議を踏みにじるものでジャーナリズムが騒いで当然だろう。私は躊躇(ちゅうちょ)なく日本国際フォーラムの「対露交渉の基本的立場を崩してはならない」とする新聞用意見広告の代表署名者の一人に名を連ねた。

 北方四島の面積を2分の1に分割する考え方は、麻生太郎首相が2006年の外相当時、毎日新聞のインタビューで述べ、さらに衆院での質疑応答で内容を明らかにした。当時、外務次官だった谷内氏に直接会って私は同志とともに抗議した。今年の2月に麻生首相はメドベージェフ大統領と樺太で会い、「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」で解決することに合意した。そのうえでの谷内発言である。地下で何かが動いているのであろうか。

 当初は「返せ」の要求が「返してほしい」の要請になり、実力者に来日してもらえないかのお願いになった。あげくの果てに主権を切り売りするところまで日本外交は落ちていくのだろうか。道徳すら引っ込めたら日本は国家と言えるのか。(たくぼ ただえ)

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小沢代表辞任

2009-05-12 09:18:11 | 陸山会(小沢一郎)
5月12日付   産経新聞より

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090512/stt0905120337002-n1.htm


【主張】小沢代表辞任 判断遅すぎ、信頼を失う 後継選びで基本政策を競え



 民主党の小沢一郎代表が、西松建設の違法献金事件をめぐる混乱回避を理由に、代表を辞任すると表明した。

 そもそも小沢氏と一心同体である公設第1秘書が、政治資金規正法上の違法行為を犯したとして逮捕・起訴された事件である。当初から小沢氏の政治的かつ道義的な責任は明確であり、代表辞任は遅すぎたと言わざるを得ない。

 秘書の起訴後、小沢氏は1カ月以上、代表に居座り続け、巨額な政治資金の使途などについて説明しようとはしなかった。きわめて遺憾であり国民の信を失っていることを理解していない。離党もしくは議員を辞職するような事態であることを認識すべきである。

 小沢氏の続投を容認し、秘書逮捕から2カ月余にわたり、十分な自浄能力を発揮できなかった党執行部の責任も重大だ。

 新代表選びでは、信頼回復の方途を模索すると同時に、基本政策を含めた論争を徹底すべきだ。

 小沢氏は会見で「今日でも政権交代は可能だが、さらに万全にするため」と辞任の理由を述べ、続投への批判が党内外にあり、自分自身が挙党態勢の支障になっている点は認めた。

 ≪説明責任は果たされず≫

 同時に「衆院選を通じた政権交代の実現が国民生活重視の政治への転換を可能にする」と述べ、新体制を支えていくという名目で引き続き衆院選対策の実務に取り組む強い意欲も隠さなかった。

 これでは、辞任要求が拡大する前に自発的に辞任し、影響力を残したということではないのか。小沢氏は「政治資金について、一点のやましいところもない」と強調したが、事件について反省し、説明責任を果たそうとはしなかった。辞任するだけで、違法献金事件の批判や疑念を一気に払拭(ふっしょく)できると思っているのだろうか。

 政治とカネをめぐる国民の政治不信を増幅させたのに、こうした辞め方が党の信頼回復に結び付くとは思えない。民主党は自民党よりもクリーンな政党だというイメージを、大きく壊した事件であることを忘れてはなるまい。

 事件の説明責任が消滅するわけではない。有権者は新体制がどれだけ自浄能力を発揮できるか厳しい視線を向けるだろう。

 この5年間を見ると、平成16年に菅直人氏が年金未納問題、17年には岡田克也氏が衆院選敗北、18年には前原誠司氏が偽メール問題で、それぞれ任期途中で代表を辞任した。

 小沢氏自身、16年にいったん党代表に内定した後、年金未加入問題で就任を辞退したことがあるほか、19年には自民党との大連立構想をめぐり混乱を招いたことから辞意を表明し、その後撤回した経緯がある。

 ≪個人依存から脱却を≫

 小沢氏が19年の参院選を勝利に導き、政権交代の可能性を高めた力量、手腕が大きいことは多くの人が認めるところだろう。しかし、そのために「政局至上主義」と呼ばれる国会戦術を押し通し、社民党などとの野党共闘を優先した。外交・安全保障政策がゆがめられていないか。異論を唱える動きが広がりを持たない党の現状を直視する必要がある。

 今回の事件でも、小沢氏個人の力量に依存しすぎていたために、有権者の多数が辞任を求めていても、党内で党首の責任をほとんど追及しなかった。その背景にも、党内での政策論争の不足が指摘されよう。

 今国会で、民主党はソマリア沖での海上自衛隊を主体とした海賊対策に強い疑問を示し、海賊対処法案の早期成立に応じようとしていない。

 在沖縄米海兵隊のグアム移転をめぐる日米両国の協定締結承認案には、反対の方針をとっている。日米同盟や国際協調行動にかかわる具体的な政策対応で、民主党の政権担当能力を疑わせる事例が進行している。

 新代表選びに手を挙げる候補者は、こうした基本政策に関する論争を避けてはなるまい。

 内閣支持率の急落などで、一時は政権の危機も取りざたされていた与党は、小沢氏の秘書の逮捕起訴という「敵失」によって息を吹き返したにすぎない。

 民主党の新体制にどう対応するのか。自民党への不信は払拭されていない。

 違法献金事件では、複数の自民党議員への資金提供をめぐる疑惑も指摘された。政治資金の透明化へ与党の努力が必要なことに変わりはない。

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