5月1日付 産経新聞より
首相の「次の課題」は憲法改正 日本大学教授・百地章氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090501/plc0905010328002-n1.htm
≪総選挙前のチャンスに≫
昨年9月の発足以来、マスメディアによって一方的なバッシングを受け続けてきた麻生太郎内閣の支持率がようやく底をうち、上昇し始めた。麻生首相は100年に1度といわれる世界的な金融経済危機に臨んで、総額約75兆円におよぶ緊急経済対策を実施し、更に15兆円の追加経済対策を発表した。後は成果を待つばかりということか、首相主催の「桜を見る会」でも「開花はこれから」と上機嫌であったという。
とすれば麻生首相が次に正面から取り組むべき最重要課題の一つは憲法問題であるべきだ。憲法改正こそ自民党の結党以来の悲願であり、わが国が当面している防衛・安全保障問題の抜本的解決は、まず憲法を改正して対処するしかないからである。しかも、これらの問題は民主党にとってのアキレス腱(けん)であることを考えれば、秋までにある総選挙対策としても格好のテーマとなろう。
前回の参議院選挙では、安倍晋三首相の率いる自民党は、マニフェスト「155の約束」のトップに「新憲法制定の推進」をあげていた。だが、折からの年金問題に埋もれてしまい、憲法改正問題はまともに論ぜられなかった。それ故、今度こそ与野党間での本格的な論戦を望みたいと思う。
≪集団的自衛権が焦眉の急≫
防衛・安全保障問題について、麻生首相は昨年暮れ以来、着々と手を打ってきた。「テロとの闘い」のため、海上自衛隊のインド洋派遣を延長させ、3月には海賊対処のため護衛艦2隻をソマリア沖に派遣している。
先の北朝鮮によるミサイル発射に際しては、自衛隊法に基づき初の「破壊措置命令」を発し、イージス艦やパトリオットミサイルを配備して万一に備えた。現在、国会で審議中の海賊対処法案も、今国会で成立する見通しである。麻生内閣のこのような積極的な対応は高く評価すべきであろう。
その中で新たに浮上してきたのが集団的自衛権の問題であった。北朝鮮のミサイル発射の際、アメリカのゲーツ国防長官はミサイルが米本土に向かってこない限り迎撃しないと述べた。発言どおりとすれば、たとえ日本が攻撃されようとも、アメリカは集団的自衛権を発動して日本を守ることはないということになろうが、これでは日米同盟は破綻(はたん)する。
奇妙なことに、わが国政府は、従来、集団的自衛権は「保持」するが「行使」できないとしてきたから、アメリカ本土や米軍基地に向けて発射されたミサイルを日本は迎撃できない。
このような解釈をわが国が採り続ける限り、米中関係を重視するオバマ政権の下では、万一の際、アメリカによる日本防衛を期待することはますます困難となろう。北朝鮮がわが国に対してミサイル攻撃を行う場合はもちろん、より現実的な課題として、もし中国が尖閣諸島への上陸を強行した場合、アメリカは本当に応援に駆けつけてくれるだろうか。
麻生首相は、就任直後から集団的自衛権を認めるべしと発言してきたが、連休明けにはいよいよ政府解釈の変更に向けて、本格的検討に入るという(産経新聞4月24日、日経新聞4月25日)。今こそ首相の決断で集団的自衛権の行使を容認し、アメリカに対しその意思を表明して、同盟関係の遵守(じゅんしゅ)を要求すべきである。
≪領域警備と武器使用の緩和≫
とはいうものの、アメリカに頼る前にまずなすべきことは、もちろん、自らの手で日本を守り、平時から尖閣諸島や対馬などわが国土を断固防衛することである。
そのためには、一日も早く自衛隊法に「領域警備」規定を定める必要がある。その際、必要なことは、武器使用についても国際標準を採用することで、「任務遂行のための武器使用」を認めなければならない。今国会で成立予定の海賊対処法では、正当防衛や緊急避難のための武器使用以外に、新たに「船体射撃(危害射撃)」も認めるという。
海賊対処のためだから憲法上問題はないというが、しかし、はるかアフリカ沖での武器使用基準を緩和しておきながら、最も肝心なわが国の領土、領海の警備に当たる自衛隊の「海上警備行動」や「領域警備」については相変わらず武器使用を制限するというのでは、本末転倒であろう。
今後、「集団的自衛権の行使」を容認し、自衛隊法に「領域警備」規定を定め、「任務遂行のための武器使用」を承認することができれば、自衛隊はまた一歩、普通の国の「軍隊」へ近づくことになる。そうなれば、憲法に「自衛軍の保持」を明記するのは、もはや時間の問題であろう。これこそ、憲法9条2項改正の突破口と呼ぶゆえんである。
再軍備より経済復興を優先した吉田茂元首相も、本音は再軍備に賛成であり、国防問題について非常に責任を感じていたという。そのDNAを受け継ぐ麻生首相であれば、経済の次の課題は「憲法改正」のはずである。今こそ、その第一歩を踏み出すときではなかろうか。(ももち あきら)
首相の「次の課題」は憲法改正 日本大学教授・百地章氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090501/plc0905010328002-n1.htm
≪総選挙前のチャンスに≫
昨年9月の発足以来、マスメディアによって一方的なバッシングを受け続けてきた麻生太郎内閣の支持率がようやく底をうち、上昇し始めた。麻生首相は100年に1度といわれる世界的な金融経済危機に臨んで、総額約75兆円におよぶ緊急経済対策を実施し、更に15兆円の追加経済対策を発表した。後は成果を待つばかりということか、首相主催の「桜を見る会」でも「開花はこれから」と上機嫌であったという。
とすれば麻生首相が次に正面から取り組むべき最重要課題の一つは憲法問題であるべきだ。憲法改正こそ自民党の結党以来の悲願であり、わが国が当面している防衛・安全保障問題の抜本的解決は、まず憲法を改正して対処するしかないからである。しかも、これらの問題は民主党にとってのアキレス腱(けん)であることを考えれば、秋までにある総選挙対策としても格好のテーマとなろう。
前回の参議院選挙では、安倍晋三首相の率いる自民党は、マニフェスト「155の約束」のトップに「新憲法制定の推進」をあげていた。だが、折からの年金問題に埋もれてしまい、憲法改正問題はまともに論ぜられなかった。それ故、今度こそ与野党間での本格的な論戦を望みたいと思う。
≪集団的自衛権が焦眉の急≫
防衛・安全保障問題について、麻生首相は昨年暮れ以来、着々と手を打ってきた。「テロとの闘い」のため、海上自衛隊のインド洋派遣を延長させ、3月には海賊対処のため護衛艦2隻をソマリア沖に派遣している。
先の北朝鮮によるミサイル発射に際しては、自衛隊法に基づき初の「破壊措置命令」を発し、イージス艦やパトリオットミサイルを配備して万一に備えた。現在、国会で審議中の海賊対処法案も、今国会で成立する見通しである。麻生内閣のこのような積極的な対応は高く評価すべきであろう。
その中で新たに浮上してきたのが集団的自衛権の問題であった。北朝鮮のミサイル発射の際、アメリカのゲーツ国防長官はミサイルが米本土に向かってこない限り迎撃しないと述べた。発言どおりとすれば、たとえ日本が攻撃されようとも、アメリカは集団的自衛権を発動して日本を守ることはないということになろうが、これでは日米同盟は破綻(はたん)する。
奇妙なことに、わが国政府は、従来、集団的自衛権は「保持」するが「行使」できないとしてきたから、アメリカ本土や米軍基地に向けて発射されたミサイルを日本は迎撃できない。
このような解釈をわが国が採り続ける限り、米中関係を重視するオバマ政権の下では、万一の際、アメリカによる日本防衛を期待することはますます困難となろう。北朝鮮がわが国に対してミサイル攻撃を行う場合はもちろん、より現実的な課題として、もし中国が尖閣諸島への上陸を強行した場合、アメリカは本当に応援に駆けつけてくれるだろうか。
麻生首相は、就任直後から集団的自衛権を認めるべしと発言してきたが、連休明けにはいよいよ政府解釈の変更に向けて、本格的検討に入るという(産経新聞4月24日、日経新聞4月25日)。今こそ首相の決断で集団的自衛権の行使を容認し、アメリカに対しその意思を表明して、同盟関係の遵守(じゅんしゅ)を要求すべきである。
≪領域警備と武器使用の緩和≫
とはいうものの、アメリカに頼る前にまずなすべきことは、もちろん、自らの手で日本を守り、平時から尖閣諸島や対馬などわが国土を断固防衛することである。
そのためには、一日も早く自衛隊法に「領域警備」規定を定める必要がある。その際、必要なことは、武器使用についても国際標準を採用することで、「任務遂行のための武器使用」を認めなければならない。今国会で成立予定の海賊対処法では、正当防衛や緊急避難のための武器使用以外に、新たに「船体射撃(危害射撃)」も認めるという。
海賊対処のためだから憲法上問題はないというが、しかし、はるかアフリカ沖での武器使用基準を緩和しておきながら、最も肝心なわが国の領土、領海の警備に当たる自衛隊の「海上警備行動」や「領域警備」については相変わらず武器使用を制限するというのでは、本末転倒であろう。
今後、「集団的自衛権の行使」を容認し、自衛隊法に「領域警備」規定を定め、「任務遂行のための武器使用」を承認することができれば、自衛隊はまた一歩、普通の国の「軍隊」へ近づくことになる。そうなれば、憲法に「自衛軍の保持」を明記するのは、もはや時間の問題であろう。これこそ、憲法9条2項改正の突破口と呼ぶゆえんである。
再軍備より経済復興を優先した吉田茂元首相も、本音は再軍備に賛成であり、国防問題について非常に責任を感じていたという。そのDNAを受け継ぐ麻生首相であれば、経済の次の課題は「憲法改正」のはずである。今こそ、その第一歩を踏み出すときではなかろうか。(ももち あきら)