帰省途中でいろいろな刺激を受けながら、中でも心に響いたことの一つが「美味しいものって嬉しい」ってこと。何をいまさら・・・とおっしゃるなかれ。食べ物なんて(食事なんて)、お腹がそこそこ満たされて、必要な栄養分が摂取できればいいと思っている人だっています(もちろんどう思ったって個人の自由だと思います)。でも、僕はやっぱり美味しいものに目がないなぁーと改めて実感してしまった。ここのところ旅紀行の中でちょこちょこと書かせてもらっているのであらためてまた書くことはしませんが、とにかく美味しいものを食べて嬉しかった僕です。
で、僕のなりわい、お客様に気持ちよく、快適に、美味しく、できれば少し感動してもらってお過ごしいただくことが大切ですから、自分だけ美味しいもの食べていい気になっていちゃいけませんよね。そう反省していると、旅で受けた刺激もあって以前からやってみようと思っていたメニューの一つが目の前にイメージされます。
そんな折「あさっての夜、いただきもののお肉が食べきれないから来ない?」というお誘いに、行く・行く!と即答しつつ、僕も新メニューにトライしてみるので、実験台になってくださいね・・・とお願いしたのでした。
やってみようと心に決めたのは“ポット・パイ”。全部パイじゃなくて、スープカップで作る、スープの上にパイで蓋したやつです。今回は、テストを兼ねて夕食をお誘いくださったご近所さんが被害者になるかもしれませんが、これも運命と思って諦めていただくしかなさそうです。
あっという間に2日間が過ぎ約束の日、午後電話がかかってきました。
「今日6時半だったよね?」
「いや、確か7時だったと・・・」
「6時半にしようよ」
「でも、試作品が間に合わなさそう」
「いいよ、じゃ7時で」
ってことで、話が決まりました。すでにポットパイの上に乗せる、パイ生地は作成途中だったのです。僕がやってみたいのは、もちろんパン生地ではなく、かといって厳密なパイ生地でもなく、クロワッサンの生地なんですよね。つまりスープにクロワッサンで蓋しちゃおうと。
お料理担当のカミさんにはあれこれ無理難題をてんこ盛りにして、海老の頭でソース取った海老とホタテとほうれん草のクリームスープを作成してもらってあります。事前に冷ましておかなくちゃいけないって情報は入手済み。時計見ながらクロワッサンの生地を伸ばしてぇー、冷やしてぇー・・・。

で、早速焼き上げてみたところ・・・あー、大失敗。蓋がポンと膨らまなくちゃいけないのに、ポッチャンってな感じでスープの中に落ちてしまいました。あー、ふやけたらさらに美味しくなくなる。仕方ない、このまま持ち込んで食べてもらおう。30分早いけど・・・!
行った先で何と言われたかは想像通りです。あんたが30分早くできないって言ったからまだ準備できてないよ、ウチは。でもって、こりゃ失敗作だねー。もう少したたないとワインも冷えないし(テラスに出してありました)。そこを無理強いしてしまうのは、僕の得意科目ってわけじゃないけど、まぁ結論的にはそうなりました。
曰く、「うん、うまいよ、味はね」と。
1日明けた本日は、もう本番です。何と気の早い、まぁそうですよね。さすがに僕も不安で、必要数の倍だけスープを用意してもらいました。失敗したら普通のスープをいつも通り召し上がってもらえるように。さすがにポチャンをそのまま「エヘヘー、味は悪くないと思いますので・・・」と言うわけにはいきませぬ!
まずは生地をしっかり薄く延ばし、スープカップの縁は残しておいてもらった溶き卵で糊情に塗り、少し大きめの生地をしっかり張って蓋しました。ヨシ!っと心の中でつぶやくと同時に、オーヴンに入れました。200℃にて8分。

さぁーどうでしょう・・・?少々ドキドキ。
少しずつ生地に焦げ色がついてきました。ウン、いい感じ。
どうやら成功です、しめしめ!!
ピーッと焼き上がりのサインがしてオーヴンから出すと、美味しい香りが部屋中を満たします。よーし・・・。でもさぁ、ちょっとパイの蓋がでかくね?落ちるのを気にして、余寸を大きくし過ぎちゃったようです。うーん・・・。
幸い空っぽのカップが帰ってきてホッと胸をなでおろすも、次回はもう少し小さく(プラス薄く)焼き上げて、上品さも演出せねば・・・!
それにしても・・・、こうやって刺激を受けたことも「実験台になってみて」と宣言する機会があったこともホントに運が良かったです。こういう機会がなくっちゃ、いまだにトライしないまま「できたらいいな」で過ぎて行ってしまっているだけなのかもしれませんからね。