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Iさんがメールで、受賞ニュースに関連して、朝日新聞3面に、「近頃では高校でもGFPをつかった遺伝子組換え実験がおこなわれている」と出ていたわよと教えてくれた。
だとしたら、それは学芸大学をはじめとするいろいろな大学や研究所の先生方が根気よく研修をしてくれたおかげだし、金銭的にバックアップしてくれる大学や研究所やSPP事業などのおかげ、簡単なキットを作ってくれたバイオラド社や島津などのおかげだな。
以前、大腸菌の組換え実習をやったときの写真があった。
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一番左のシャーレは、大腸菌の培養液をLB培地に塗りつけて、一晩培養したもの。大腸菌が増殖してコロニーとコロニーがくっつき、一面クリーム色。塗り方が雑だったのもばれてしまう。
二番目は、同じようにやったのに、すっきりとしてまったく何も生えていない。どうしてかと言うと、培地にアンピシリンという抗生物質がいれてあるからだ。抗生物質のおかげで、大腸菌は増殖できなかった。
右の2つは、ぱらぱらとコロニーができている。同じよう抗生物質いりの培地なのに、抗生物質などものともせずに培養液1mlに20個ほどの菌が生き延びて増殖し、目に見えるほどに増えて固まりとなり、コロニー(日本語だと集落!)となった。どうしてかと言うと、アンピシリンを分解する酵素タンパク質をつくる遺伝子が組込まれているからだ。といっても、すべての大腸菌に組込みが成功したら、一番左のシャーレのようになるはずだけれども、組換えが成功し、新しい遺伝子を獲得し働かせられる形質転換っていうのはそうやすやすと高い確率でおこせるわけではない。
そして、左から3番目のシャーレにUVを当てると・・・光る。
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どうして光るかというと、3番目の培地にはアラビノースという糖がいれてある。ここで使う遺伝子の運び屋さんのプラスミドという小さな環状DNAには、アンピシリンの分解酵素の遺伝子(の塩基配列)とアラビノースを分解する酵素の遺伝子がいれてある。実はこのアラビノースを分解する酵素の遺伝子に細工をして、本当は3つの酵素をつくる3つの遺伝子があるところにGFPの遺伝子をいれてある。このプラスミドと大腸菌をイオンなどを調整した液体培地中でまぜ、温度を高くしたり低くしたりという簡単な作業でプラスミドは大腸菌の中に入りこんでくれる。大腸菌はこれまでもっていた遺伝子に加えて新たな遺伝子を獲得し、それを読んで新しいタンパク質を作れるようになる。これが組換え、組込み、形質転換。
大腸菌は、アンピシリンに平気になるし、アラビノースがあると、それを分解して利用するための酵素をつくろうとしてGFPをつくって光ってしまう。アラビノースがないと、必要ない遺伝子は読まないので光らない。つまり、アラビノースという糖がスイッチになっていて光ったり光らなかったりする。アンピシリン分解酵素のほうはこのスイッチは関係ない。大腸菌はこのようにしていつも使うたんぱく質をつくることと、必要なときに必要なたんぱく質を作ったりやめたりすることをしている。
となると、一番右の大腸菌にアラビノースを与えてみると、光り出すはずで、やってみると3時間くらいでコロニーは光るようになる。いままで、LB培地のなかのブドウ糖を栄養に生きていた大腸菌が、おっアラビノースがあるじゃないか、これもいただき・・・って感じで遺伝子を発現させてGFPを作ってしまったのだ。自分があたえた糖液が引き金になって、遺伝子の転写・翻訳がひきおこされるってのを目の当たりにするのはワクワクする。ちょっと怖い。生命活動の確かさみたいなものも感じる。
遺伝子組換えが成功したかどうか、大腸菌内に遺伝子が入ったかどうかは、見てもわからないし調べるのもむずかしい。でも光ってくれれば一目瞭然というわけだ。
以前、ある研究所の施設公開で、シロイヌナズナの芽生えが光ってるのを見せてもらったことがある。大腸菌に限らず、いろいろな遺伝子操作実験でGFPは活躍している。
この実習を始めてやったころ、オワンクラゲが大阪海遊館にいるという情報を得て、見たくてどきどきしながらいったことがある。あいにく、飼育されていなかった。いま、山形県の鶴岡市立加茂水族館がこのオワンクラゲで人気だそうだ。HPでみたら、クラゲ展示室クラネタリウムとか、クラゲレストランがあって、クラゲラーメンやクラゲ定食をだしていたり、面白い水族館だ。クラゲの飼育種数世界一だそうだ。今、発光させてみせてはいないそうだけれども。
下村先生の所属は、ウッズホール海洋生物研究所だけれども、そこは歴史のある臨海実験所だ。単一の研究所としては最も多くのノーベル賞受賞者を輩出している。遺伝学(ショウジョウバエ)のモーガンや、二重らせん構造のワトソンなど、そうそうたる研究者が在籍していたことがある。
ところで、日本には、このウッズホールよりも2年早く世界で一番最初に出来た臨海実験所、東大附属の三崎臨海実験所がある。開所当初の明治の頃、そこで見つかったゴブリンシャークの和名(ミツクリザメ)と学名(Mitsukurina owstoni)は、初代の所長箕作先生とこのサメを捕獲し寄贈したオーストンさんの名前にちなんだものだ。いま、ウニやトリノアシ(ウミユリ)などを材料に、進化や発生の研究がバリバリ進められているみたいだ。と同時に、子どもたちや一般にむけて磯の生物の観察会なども行ってくれている。
日本でも、どんどんすばらしい研究がされるといいな。がんばれ三崎!