仙台POSSE(NPO法人POSSE仙台支部)活動報告

仙台POSSEは、労働相談・生活相談をお受けしています。ボランティアも募集中です。お気軽にお問い合わせください。

生活保護【保護の補足性原理―二つの補足性】について

2012-05-30 08:59:28 | 記事
先日、「全国で209万人が受給する生活保護費の適正化に向けて政府が動き出した。小宮山洋子厚生労働相は25日、経済的な余裕がある受給者の親族に保護費の返還を積極的に求める考えを表明した。返還に応じなかったり、扶養を拒んだりした場合、法的手続きを取る。支給水準の引き下げも検討する」(2012年5月25日、日本経済新聞)といったニュースが報じられたことをはじめ、生活保護という制度を見直す動きが活発になっています。

しかし、上述の直し案だけではなく、近年の生活保護「適正化」の議論には、公的扶助そのものに対する基本的な認識が抜け落ちているように思えます。そこで、本記事では、生活保護の基本的な原理、とくに「保護の補足性の原理」について確認をしていきたいと思います。

・保護の補足性の原理
生活保護法第4条は、保護の要件を次のように規定しており、保護の補足性をその原理としています。
「保護は、生活に困窮するものが、その活用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活維持のために活用することを要件として行われる。
2.民法に定める扶養義務者の扶養および他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3.前2項の規定は、急迫した事由がある場合には、必要な保護を行うことを妨げるものではない。」(生活保護法第4条)

この条項は、保護の補足性を規定していると同時に、公的扶助制度固有の「資力調査」に基づく保護の実施に根拠を与える条項です。生活保護法による保護は、個人の努力や他の社会保障・社会福祉の諸制度に先立って行われるべきものではなくて、補完的に行われるものであることを示す原理ですが、保護の補足性には、二つの意味合いが含まれています。

第一には、今日の社会における親族扶養などの私的扶養を含む自助努力を補足するものであり、第二に社会保障・社会福祉などの社会的扶養のシステムを補完するものとなります。

・自助努力の限界のうえに成立した公的扶助
そもそも生活保護をはじめとする社会保障は、自助努力のみで生活を維持することが不可能であり、社会的支え=社会的扶養が生活上不可欠であるとの認識が人々の間に広まっていく中で、発展してきました。

とくに19世紀後半から20世紀初頭にかけて労働者家族の貧困が社会問題化する中で、C.ブースの「ロンドン調査」やB.S.ラウントリ―の「ヨーク調査」をはじめとした大規模な社会調査の蓄積のうえに、貧困を個人責任に帰する誤りを克服して、近代公的扶助が成立してきたのです。
つまり、社会保障としての公的扶助は、もともと自助努力の限界のうえに成立した制度であり、自助努力を一義的に要請すること自体、社会保障としての公的扶助の性格を損なうおそれがあるということを認識する必要があります。

しかし現代社会を生きていくうえで、自助努力が必要であることはまた事実であり、現代の社会生活は、こうした自助努力と社会的扶養という異なった原理の狭間の中で維持されているといえます。最低生活の維持を保障する生活保護制度もまた、この二つの異なった原理のせめぎ合いの中で成立しているのです。

そのような視点からみると、ここに示された保護の要件は、「その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを活用すること」としており、ほとんど際限なく自助努力を強制しているようにみえ、不適当な規定になっています。とくに「その他あらゆるもの」の表現については、当時立法に携わった小山進次郎自身が、のちに不必要な表現であったことを回顧しています。

このように一見際限ない自助努力の強制は、いっさいの財産を失い、「丸はだか」の状態にならなければ生活保護を受けることができないのではないかという印象を人々に抱かせる結果となっています。

なお、親族による私的扶養に関しても、保護を受ける要件としていますが、ここで扶養と公的扶助の関係を少し確認しておきたいと思います。

・扶養と公的扶助の関係
「解釈と運用」によれば、扶養と公的扶助との関係は以下の三類型があり、先進国における二者の関係は、次第にaからcへ発展してきているとされています。

a.私的扶養がカバーする領域を公的扶助と関係させず、その代わり扶養を忌避した場合に扶養義務者に刑罰を課し強制させる。
b.実際の私的扶養の有無を問わず、扶養の期待できる条件の有る者には、公的扶助の受給資格を与えない。
c.公的扶助に優先して私的扶養が事実上行われることを期待するけれども、これは期待するだけであって、事実上扶養が行われたときだけに、これを収入として取り扱う。

そして、法4条2項に規定する生活保護と扶養との関係については、cの「私的扶養が事実上行われることを期待しつゝも、これを成法上の問題とすることなく、単に事実上扶養が行われたときにこれを被扶助者の収入として取り扱う」(「解釈と運用」120頁)こととしています。したがって、「すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」という条項も、適切さを欠いていると言わざるをえません。

むしろ、社会保障としての公的扶助の補足性は、どのような事情があるにせよ、一定の受給要件を要する社会保障・社会福祉の諸制度では支えることができない場合に、生活に困窮しているということを要件に保護を行うという、補完的役割こそ重視する必要があるのです。

・最低限度の生活の保障
保護の補足性原理を生存権保障の視点からみると、保障されるべき最低限が、「健康で文化的な最低限度の生活」水準ですから、「丸はだか」の状態とは相容れません。また、そもそも生活の基盤がなければ社会生活を維持することはできないのです。わたしたちは単なる生存ではなく、生活を営む権利を有しています。この場合の生活とは、地域社会の中で営む社会生活にほかなりません。したがって生活を営むための社会基盤は不可欠です。すべての資産、能力その他あらゆるものを投入して維持される最低生活では、それは単なる生存に近い状態となってしまいます。

しかし、何が生活基盤の社会的標準であり、その最低限をどこにおくのかは裁量の余地のある問題です。保護の補足性の原理を、現実の社会条件に合わせて柔軟に解釈し運用するのか、それとも厳しく保護を抑制する手段として運用するのか、それによって生活保護制度のあり方は大きく変ってくるのです。

【参考文献】
杉村宏(2002)『公的扶助―生存権のセーフティネット―』放送大学教育振興会
尾藤廣喜・松崎喜良・吉永純編者(2006)『これが生活保護だ[改訂新版]―福祉最前線からの検証』高菅出版

NPO法人POSSE事務局 渡辺寛人

****************************
仙台POSSEでは、この度の東日本大震災における被災者支援・復興支援ボランティアを募集しています。ボランティアに参加したいという方は、下記までお問い合わせください。
NPO法人POSSE仙台支部
法人代表:今野晴貴(こんの はるき)
所在地:宮城県仙台市青葉区一番町4-1-3 仙台市市民活動サポートセンター気付
TEL:022-266-7630
Email:sendai@npoposse.jp
HP:http://www.npoposse.jp/
BLOG:http://blog.goo.ne.jp/sendai-posse
****************************

最新の画像もっと見る

コメントを投稿