石巻市で在宅被災者に配給していた食料配給を見直す動きが出てきている。市が自立を求める一方で、配給支援を必要とする市民は多いのが実情である。単に自立を求めて支援を打ち切るだけでは問題は解決しない。それどころか、支援の打ち切りが生活困窮をもたらすことはたやすく想像できる。避難所から仮設への移行を「自立」としてしまったことで、一部の被災者に生活困窮をもたらしてしまったことと同じだ。
重要なことは、被災者が自らの意思で必要なものを入手できるように生活基盤を整備することではないだろうか。それを抜きにして、食料配給を打ち切り、「自立」を求めるというのは無責任である。たとえば高齢者の場合、お金があったとしても、スーパーまで行く移動手段がなかったり、重い荷物を自力で運べなかったりする。そこへの支援を抜きに「自立」ということはありえない。生活の不安定性を解消できるためのさまざまな施策を講じていく必要があるだろう。「支援を受けている」=「自立できていない」ではなく、「自立」するためにこそ、支援が必要なのだ。
焦点/石巻市 在宅被災者支援/食料配給 見直し苦慮(河北新報2011年08月04日)
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20110804_01.htm
自宅が地震や津波の被害を受けながらも、避難所に入らず自宅で生活する「在宅被災者」に毎日の食料をいつまで配給するか、石巻市が苦慮している。周辺の商店が再開し、ライフラインが復旧しても、支援継続を求める被災者が多い。夕食の弁当の支給を受けるのは今も約1万人。何を根拠に、どのタイミングで配給の在り方を見直すのか。市は難しい判断を迫られることになる。(土屋聡史)
◎市、自立が健全/市民、ないと困る
<経費1000万円超>
「いつもありがとうございます」。午後6時、石巻市湊小の体育館。同市大街道東の無職女性(71)は、息子や孫夫婦ら家族5人分の弁当を市職員から受け取り、風呂敷に包んだ。
女性宅は市の判定で「一部損壊」。1階は浸水したが、2階なら住めるため仮設住宅に入る気はない。電気とガス、水道は復旧し、家の近くでスーパーや飲食店が営業を再開した。それでも、食事と生活用品は市の配給で賄う。
板金工だった40代の息子は、震災で職を失った。女性は「今後の生活に不安がある。できるだけお金は使いたくない。もらえる物は、もらいたい」と話す。
市によると、在宅被災者として配給を希望した世帯は7月24日現在、3155世帯1万651人。市の委託を受けた配送会社が、集会所や避難所など計174カ所に弁当や朝昼食用のおにぎり、パンを配る。在宅被災者は市が6月に発行を始めた「配給カード」を提示し、物資を受け取る。国費が賄う経費は1日当たり1000万円以上だ。
災害救助法は、物資の支給対象者を選別する線引きを示していない。市は当初、電気や水道が復旧せず食事が用意できない世帯や、近所の商店が再開していない世帯を配給対象と位置付けた。
その時点では、義援金の支給や商業施設の再開が進めば、ほとんどの世帯が「自立」に向かうと予測した。
<買い物難しい>
現実は違った。義援金が配られ、一部地域で商店が再開した7月上旬になっても、配給希望者数はほとんど減らない。市は「公的支援を頼りたくなる気持ちは痛いほど分かる」としながらも、「食料が当たり前のように支給される状況が常態化するのは健全ではない。近くに商店が開いた地域などは自活にかじを切ってほしい」と話す。
気仙沼市は7月10日、避難所以外で暮らす被災者約2000人への食料提供を原則として打ち切った。ライフライン復旧や商店再開にめどが立ち、自立できると判断した。宮城県内のほかの沿岸市町も6月末までに、避難所並みの食料配給は一部を除いて終えた。
石巻市は生活再建支援金の支給などに合わせ、徐々に配給の打ち切りも検討する。8月分の新しい配給カードには「生活必需品を確保できる世帯は支援を受けられない」と初めて明記した。
今も商店が再開していない沿岸部の同市湊地区や半島部では、不安の声が上がる。自家用車を流された世帯が多く、市中心部に買い物に行くのが難しい事情がある。
被災者は、配給の打ち切り時期や継続地域の条件を注視するとみられ、市の丁寧な説明が不可欠となる。
関西学院大災害復興制度研究所の山中茂樹主任研究員は「一口に自立と言ってもいろいろな考え方があり、やり方によっては被災者の復興に向かう意欲をそぎかねない。行政は就業支援など自立に向けた環境整備もセットで行ってほしい」と指摘している。
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