ℚ(√5,i)のガロア群 2020.08.12 (水)
[Ⅰ] 体 ℚ(√5,i)の体ℚ上のガロア群(Galois群)を基底に着目して求める。
ここに ℚは有理数体とする。
[命題1]
ℚ(√5,i )=ℚ[√5,i]
「証明」
(√5)²=5,i²=-1 だから (√5i)²=-5 ゆえに 多項式環 ℚ[√5,i]の要素は、
a+b√5+ci+d√5i と書ける。ここにa,b,c,d∈ℚ とする。
そこでこの逆数を考えて、「分母の実数化と有理化」をしてみると
a+b√5+ci+d√5i≠0のとき
1/[a+b√5+ci+d√5i]
=1/[(a+b√5)+(c+d√5)i]
=[(a+b√5)-(c+d√5)i]/[{(a+b√5)+(c+d√5)i}{(a+b√5)-(c+d√5)i}]
=[(a+b√5)-(c+d√5)i]/[(a+b√5)²+(c+d√5)²]
=[(a+b√5)-(c+d√5)i]/[(a²+5b²+c²+5d²)+2(ab+cd)√5]
=[(a+b√5)-(c+d√5)i][(a²+5b²+c²+5d²)-2(ab+cd)√5]
/[(a²+5b²+c²+5d²)+2(ab+cd)√5][(a²+5b²+c²+5d²)-2(ab+cd)√5]
=[(a+b√5)-(c+d√5)i][(a²+5b²+c²+5d²)-2(ab+cd)√5]
/[(a²+5b²+c²+5d²)²-20(ab+cd)²]
この右辺の 分子∈ℚ[√5,i] (∵ ℚ[√5,i]は環)分母∈ℚだから、
1/[a+b√5+ci+d√5i]∈Q[√5,i]
であることが分かる。
ゆえに ℚ(√5,i )⊂ℚ[√5,i] 逆の「⊃」は明らかだからℚ(√5,i )=ℚ[√5,i] となる。
(証明終わり)
[命題1] から ℚ(√5,i )の要素もa+b√5+ci+d√5i と書ける。ここにa,b,c,d∈ℚ とする。
なお、{1,√5,i,√5i}はℚ上1次独立である。証明は容易である。証明しておこう。
[命題1.5]
{1,√5,i,√5i}はℚ上1次独立である。
「証明」
a,b,c,d∈ℚ とし。 a+b√5+ci+d√5i=0とする。⇒ (a+b√5)=-(c+d√5)i。⋯(#)
もし仮に c+d√5≠0 とすれば、i=-(a+b√5)/(c+d√5) ここで 右辺∈ℝ (実数全体)
一方 左辺の i∉ℝ これは矛盾。よって c+d√5=0 でなければならない。
√5∉ℚ だから、⇒c=d=0 ⇒(#)からa+b√5=0・ よって、また a=b=0
こうして a=b=c=d=0 ゆえに{1,√5,i,√5i}はℚ上1次独立である。
(「証明」終わり)
☆ [命題1][命題1.5]により、体の拡大次数は [ℚ(√5,i):ℚ]=4
さて、ガロア群 Gal([ℚ(√5,i)/ℚ)の元 μ:ℚ(√5,i)→ℚ(√5,i)はℚ準同型で
5∈ℚ だから、μ(5)=5。(√5)²=5であるから、μ((√5)²)=5。
μは体の準同型だから、これは
μ(√5×√5)=μ(√5)×μ(√5)=5 ⇔(μ(√5))²=5。⇒μ(√5)=±√5…①となる。
また、i²=-1より、μ(i²)=μ(-1)=-1。つまり、μ(i²)=-1。
μは体の準同型だから、μ(i²)=μ(i×i)=μ(i)×μ(i)=(μ(i))²=-1
⇒μ(i)=±i…②となる。
よってガロア群 Gal([ℚ(√5,i)/ℚ)の元μはℚ準同型だから、
μ(a√5+bi+c√5i+d)=aμ(√5)+bμ(i)+cμ(√5)×μ(i)+d…③である。
故に μはμ(√5)とμ(i)の値によって決まる。
ところで、①②から、μ(√5)=√5 またはμ(√5)=-√5…④の2通りあり、
μ(i)=i,μ(i)=-i…⑤の2通りあるから、
全部で2×2=4通りある。
そこで
(ア) σ(√5)=√5,かつσ(i)=-iのときはσ(√5i)=-√5i。
故に、 σ²(√5)=√5,σ(-i)=-σ(i)=i
より、σ²(i)=σ(σ(i))=σ(-i)=iとなる。よって
σ²(√5i)=σ²(√5)×σ²(i)=√5iとなる。
即ち③から、
σ²=idとなる。σは位数2の元と言う事である。同様に、
(イ)τ(√5)=-√5かつ τ(i)=i…⑤と定義すれば、τ(√5i)=-√5i
となり、τ²=idとなる。
また、
(ウ) τσ(√5)=τ(√5)=-√5, στ(√5)=σ(-√5)=-√5。
即ち、 τσ(√5)=στ(√5)=-√5。
同様に τσ(i)=στ(i)=-i, よってτσ(√5i)=στ(√5i)=√5iとなる。
故にσとτは可換で、στはσ,τとは異なる。
στ(√5)=-√5。στ(i)=-i,στ(√5i)=√5i である。
以上により、ガロア群は Gal(ℚ(√5,i)/ℚ)={id,σ,τ,στ}となり、
σ,τ,στは位数2の元で、στ=τσだから、 Gal(ℚ(√5,i)/ℚ) は
{id,σ}と{id,τ}との直積であり、Z/2Z×Z/2Zに同型 つまり、
いわゆるクライン(Klein)の4元群と同型である。
ゆえに ガロア群 Gal(ℚ(√5,i)/ℚ)≅Z/2Z×Z/2Z≅V₄
☆ さて、ℚ(√5,i)を単純拡大にしてみよう。例えば次のようにできる。
[命題2]
ℚ(√5,i)=ℚ(√5+i) …⑥ である。
「証明」
ℚ(√5,i)は、√5,iを含むℚ上の拡大体だから、ℚ(√5,i)∋√5+i
よってまた、ℚ(√5,i) ⊃ℚ(√5+i) [∵ ℚ(√5+i)は、√5+iを含むℚ上の
「最小」の拡大体だから] が成り立つ。逆の包含関係 ℚ(√5,i)⊂ℚ(√5+i) …⑦を
示そう。
a=√5+i とおく。⑦は ℚ(√5,i)⊂ℚ(a) … ⑧となる。
a=√5+i ⇔ a-i=√5 …⑨ ⇒ (a-i)²=(√5)² ⇔ a²-2ai-1=5
⇔ a²-6=2ai …⑩ a=√5+i≠0 だから、⑩から i=(a²-6)/(2a) …⑪
ここでℚ(a)は体で、
a∈ ℚ(a) だから i=(a²-6)/(2a)∈ ℚ(a) ゆえに i∈ ℚ(a) …⑫
また a∈ ℚ(a) 、ℚ(a)は体 だから「差」について閉じていて a-i∈ ℚ(a)
即ち ⑨ から a-i∈ ℚ(a)⇔ √5∈ ℚ(a) …⑬。明らかに示したいときは
√5=a-(a²-6)/(2a)=(a²+6)/(2a)∈ ℚ(a) つまり
√5=(a²+6)/(2a)∈ ℚ(a)。 ⑫,⑬から i,√5∈ ℚ(a) ゆえに ℚ(√5,i)⊂ℚ(a) …⑧
となり ⑧ 即ち ⑦が示された。以上により ℚ(√5,i)=ℚ(√5+i) となる。
(証明終わり)
☆ 次に a=√5+iの最小多項式を求めてみよう。
[命題3]
a=√5+iの最小多項式は、f(x)=x⁴-8x²+36 であり、f(x)=0 の 4つの解は
√5+i,-√5+i,√5-i,-√5-iである。
「証明」
[命題2]の⑪ ,i=(a²-6)/(2a) の両辺を平方して、-1=(a²-6)²/(4a²)
⇔-4a²=(a²-6)²⇔-4a²=a⁴-12a²+36 ⇔ a⁴-8a²+36=0 …⑭
つまり、a=√5+i ⇒ a⁴-8a²+36=0 よって aの最小多項式は、
f(x)=x⁴-8x²+36 …⑮ となる。ここで ⑨の式の右辺の√5を-√5に替えた,
a=-√5+i …⑯ を平方しても、(a-i)²=(-√5)² ⇔ a²-2ai-1=5 即ち
⇔ a²-6=2ai …⑩ となるから、i=(a²-6)/(2a) となり、やはり
a⁴-8a²+36=0 …⑬ となる。ゆえに -√5+i も x⁴-8x²+36=0の解になる。
同様に ⑪のiを-iに替えた a=√5-iについても、
a=√5-i ⇔a+i=√5 …⑨ ⇒ (a+i)²=(√5)² ⇔ a²+2ai-1=5
⇔ a²-6=-2ai …⑯ a=√5+i≠0 だから、⑯から -i=(a²-6)/(2a) …⑰
両辺平方すれば、やはり -1=(a²-6)²/(4a²) となり
⇔-4a²=(a²-6)²⇔-4a²=a⁴-12a²+36 ⇔ a⁴-8a²+36=0 …⑬ が出てくる。
こうして f(x)=x⁴-8x²+36=0 の4つの解は √5+i,-√5+i,√5-i,-√5-i
であると分かった。
([命題3]の証明終わり)
[Ⅱ]
f(x)=x⁴-8x²+36の ℚ上の ガロア群を求める。[Ⅰ]から、f(x)=x⁴-8x²+36=0
の4つの解は √5+i,-√5+i,√5-i,-√5-i…(2.1) だった。よって f(x)はℚ上既約
と思われる。(実際には証明が必要→また考えることにする。)
Lをf(x)の最小分解体とすると、(2.1)から、 L=ℚ(√5+i,-√5+i,√5-i,-√5-i)…(2.2)
-√5+i=-(√5-i),-√5-i=-(√5+i) だから
L=ℚ(√5+i,-√5+i,√5-i,-√5-i)=ℚ(√5+i,√5-i) は明らか。ここで
[命題4]
ℚ(√5+i,√5-i)=ℚ(√5+i)…(2.3) が成り立つ。すなわち単純拡大になる。
[証明]
ℚ(√5+i,√5-i)⊇ℚ(√5+i) は明らかであるから、逆の
ℚ(√5+i,√5-i)⊆ℚ(√5+i) …(2.4)を示そう。√5-i∈ℚ(√5+i) を示せば良い。
ここで、1/(√5+i)∈ℚ(√5+i) …(2.5) (∵ℚ(√5+i)は体。 )
そして 1/(√5+i)=(√5-i)/[(√5+i)(√5-i)]=(√5-i)/{(√5)²-i²]
=(√5-i)/6 であるから、(2.5)から (√5-i)/6∈ℚ(√5+i) ゆえに
√5-i=6×[(√5-i)/6]∈ℚ(√5+i) (∵ 6∈ℚ⊂ℚ(√5+i),ℚ(√5+i)は体 )
よってℚ(√5+i)は ℚと √5+iと √5-iを含む 。ℚ(√5+i,√5-i)は、
√5+i,√5-iを含む ℚ上の最小の拡大体であるから、
ℚ(√5+i,√5-i)⊆ℚ(√5+i) …(2.4) となる。
ゆえに ℚ(√5+i,√5-i)=ℚ(√5+i) となって題意は示された。
([命題4]の証明終わり)
[命題4]により、f(x)=x⁴-8x²+36 の最小分解体Lは、
L=ℚ(√5+i,-√5+i,√5-i,-√5-i)=ℚ(√5+i,√5-i)=ℚ(√5+i) となる。
それでは ℚ(√5+i)のℚ上のガロア群を求める。[Ⅰ]から
ℚ(√5,i)のℚ上のガロア群 Gal(ℚ(√5,i)/ℚ)=<σ,τ|σ²=id,τ²=id、στ=τσ>は、
σとτによって生成されていた。ポイントは、μ(5)=5,μ(-1)=-1 であった。
これより μ(√5)=±√5…①となる。
また、i²=-1より、μ(i²)=μ(-1)=-1。つまり、μ(i²)=-1。
μは体の準同型だから、μ(i²)=μ(i×i)=μ(i)×μ(i)=(μ(i))²=-1
⇒μ(i)=±i…② となる。
σ(√5)=√5,かつσ(i)=-i …(2.6) で τ(√5)=-√5かつ τ(i)=i …(2.7)であった。
この σによりσ(√5+i)=σ(√5) +σ(i)=√5-i, 即ち σ(√5+i)=√5-i …(2.8)
よって
σ²(√5+i)=σ(σ(√5+i))=σ(√5-i)=σ(√5)-σ(i)
=√5-(-i)=√5+i ⇔σ²(√5+i)=√5+i ゆえに σ²=id on ℚ(√5+i)
また τ(√5+i)=τ(√5)+τ(i)=-√5+i 即ち τ(√5+i)=-√5+i …(2.9)
よって τ²(√5+i)=τ(τ(√5+i))=τ(-√5+i)=-τ(√5)+τ(i)
=-(-(√5)+i=√5+i ゆえに σ²=id on ℚ(√5+i)
στ(√5+i)=σ(-√5+i)=-σ(√5)+σ(i)=-√5-i
即ち στ(√5+i)=-√5-i …(2.10)
また 、στ=τσ だから、στ(√5+i)=τσ(√5+i)=-√5-i よって
(2.8)(2.9)(2.10)から、id,σ,τ,στは f(x)=x⁴-8x²+36=0の
4つの解の置換を起こす。ガロア群 Gal(ℚ(√5+i)/ℚ)はS₄の部分群である。
ガロア群 Gal(ℚ(√5+i)/ℚ)≅Z/2Z×Z/2Z≅V₄
[Ⅲ]
ℚ(√5+i)/ℚの拡大次数 [ℚ(√5+i):ℚ]=4について-------
J.ロットマン著・関口次郎訳 [改訂新版 ガロア理論] Springer フェアラーク東京
をみる。P71の[定理45] によると
[定理45]
Fを体とし、p(x)∈F[x]をd次既約多項式とする。このとき
E=F[x]/(p(x))は、d次のFの拡大体になる。
実際 Eは p(x)の根αを含み、F上のEの基底は、 {1,α,α².…,α^(d-1)}である。
また、P73の[定理47]によると
[定理47]
E/Fは体拡大で、α∈Eは F上代数的とする。
(ⅰ) αを根にもつ既約なモニック多項式 p(x)∈F[x]が存在する。
(ⅱ) F[x]/(p(x))≅F(α)が成り立つ。 実際,同型 Φ:F[x]/(p(x))→F(α)
でFを点ごとに固定し、Φ(x+(p))=αとなるものが存在する。
(ⅲ) p(x)はαを根にもつF[x]の最低次数のモニック多項式である。しかも
αを根にもつ最低次数のモニック多項式はp(x)以外にない。
(ⅳ) [F(α):F]=p(x)の多項式としての次数。
この (ⅱ)と(ⅳ)から ℚ(√5+i)≅ℚ[x]/(x⁴-8x²+36)かつ
[ℚ(√5+i):ℚ]=4 となることが分かり、私が計算した結果とあっている。
[定理45]により、その基底の1つは、{1,√5+i,(√5+i)²,(√5+i)³} となる。
A,B、C,D∈ℚ とするとき、
A×1+B(√5+i)+C(√5+i)²+D(√5+i)³に対して、
A×1+B(√5+i)+C(√5+i)²+D(√5+i)³= H×1+I×√5+J ×i+K×√5i となる
ような H,I,J,K∈ℚの存在が一意的に示され、逆も言える。 …(3.1)
[今は逆が大事であることになる] これを示しておこう。
まず、(√5+i)²=4+2√5i,
(√5+i)³=(4+2√5i)(√5+i)=4√5+10i+4i-2√5=2√5+14i。
そこで
A×1+B(√5+i)+C(√5+i)²+D(√5+i)³を計算すると、
A+B√5+Bi+C(4+2√5i)+D(2√5+14i)=(A+4C)+(B+2D)√5+(B+14D)i+2C√5i …(*)
これが H×1+I×√5+J ×i+K×√5iに等しいとして [命題1.5]を使うと
A+4C=H …(1), B+2D=I …(2), B+14D=J …(3) ,2C=K …(4) これを A,B,C,Dの
連立方程式として解く。(1)(4)から A=H-2K …(5) ,C=K/2 …(6) ,(3)-(2)として
14D=J-I⇒ D=(J-I)/12 …(7) ,B=I-2D=(7I-J)/6 …(8) と求まった。
これより
逆に
(5)~(8)のとき
A×1+B(√5+i)+C(√5+i)²+D(√5+i)³
=(H-2K)+(7I-J)/6(√5+i)+(K/2)(√5+i)²+[(J-I)/12](√5+i)³
=(H-2K)+[(7I-J)/6](√5+i)+(K/2)(4+2√5i)+[(J-I)/12](2√5+14i)
=[(H-2K)+(K/2)×4]+[(7I-J)/6+(J-I)/6]√5
+[(7I-J)/6+7(J-I)/6]i+K√5i
=H+I√5+Ji+K√5i となって合っている。つまり、
A×1+B(√5+i)+C(√5+i)²+D(√5+i)³=(A+4C)+(B+2D)√5+(B+14D)i+2C√5i …(*)
H×1+I×√5+J ×i+K×√5i =
(H-2K)+[(7I-J)/6](√5+i)+(K/2)(√5+i)²+[(J-I)/12](√5+i)³ …(**)
これから
{1,√5+i,(√5+i)²,(√5+i)³}がQ上一次独立が次のように示される。
[命題5]
{1,√5+i,(√5+i)²,(√5+i)³}はQ上一次独立
「証明」
A,B,C,D∈ℚ で
A×1+B(√5+i)+C(√5+i)²+D(√5+i)³=0 としよう。すると(*)が成立。
[命題1.5]により {1,√5,i,√5i}はℚ上1次独立であるから、
A+4C=0,B+2D=0,B+14D=0,2C=0 …(9) そこで、A+4C=H …(1),
B+2D=I …(2), B+14D=J …(3) ,2C=K …(4) と置けば(9)はH=I=J=K=0…(10)
となる。
ところが、上に説明したように、A=H-2K …(5) ,B=(7I-J)/6 …(8),
C=K/2 …(6),D=(J-I)/12 …(7) となる。そして H=I=J=K=0 …(10) だから
(5)~(8)から A=B=C=D=0。 よって {1,√5+i,(√5+i)²,(√5+i)³}はQ上一次独立