曲率テンソルについて_2020.03.31(火)
新型コロナウイルスが猛威をふるっていますが、皆様には
いかがお暮しでしょうか?お互い、しっかりと注意しながら
罹患しないよう、過ごして行きましょう。
さて、このblogの内容ですが、暫くの間は,
Yahoo知恵袋!で回答したけれども削除されたものなどを編集して、
まとめて行きたいと思います。
まず最初は [曲率テンソル]の質問に答えます。
[質問]
MをC^∞多様体、C^∞(M)をM上のC^∞関数の全体、
Χ(M)[Χはギリシャ文字χ(カイ)の大文字]を M上の C^∞ベクトル場の全体とする。
今 写像 R:Χ(M)×Χ(M)×Χ(M)→Χ(M) を任意のX,Y,Z∊Χ(M)に 対して、
R(X,Y,Z)=(▽_X)(▽_Y)(Z)-(▽_Y)(▽_X)(Z)-(▽_[X,Y])(Z) ・・・(☆)
と定義するとき、任意のf,g,h∊X(M)に対して、
R(fX,gY,hZ)=(fgh)R(X,Y,Z)が成り立つことを示してください。
ここに、▽_XはXによる共変微分を表し、[X,Y]はベクトル場のリー括弧積
を表す。
(注意:このRを「曲率テンソル」という: [(1,3)型のテンソルです ]
普通は R(X,Y)Z=(▽_X)(▽_Y)(Z)-(▽_Y)(▽_X)(Z)-(▽_[X,Y])(Z)
とすることが多い。)
◎以下が[回答」です。
[回答」
[注意1]
(ア)
∀X∈Χ(M)と∀h∈C^∞(M)に対し、Xh∈C^∞(M)である。
[∀p∈Mにおける関数Xhの値は(Xh)(p)=(X_p)hと定義する。
ここに、X_pは接ベクトル]
(イ)
f∈C^∞(M),X∈Χ(M)に対して、fX∈Χ(M)。
[fXのh∈C^∞(M)への作用は (fX)(h)=f・(Xh)である。(ア)のXh∈C^∞(M)に注意。
ここに、[・]は関数同士の積を表す。以後[・]は省略する。]
(ウ)
ベクトル場はある種の微分であるから、関数への作用について積の微分法が
成り立つ。
即ちg,h∈C^∞(M)とX∈Χ(M)に対して、X(gh)=(Xg)h+g(Xh)…(#)が成り立つ。
また以後、C^∞(M)=Fと略記する。
[注意2]
(ア)
ベクトル場X,Yに対して
「X=Y⇔∀h∈Fに対しXh=Yh 」 よってX=Yを示すには、
∀h∈Fに対しXh=Yhを示せばよい…①。この①はよく用いる。
(イ)
リー括弧積について[Y,X]=-[X,Y]が成り立つ。
[証明]
∀h∈Fをとる。定義は [X,Y]h=X(Yh)ーY(Xh)…②である。ゆえに
[Y,X]h
=Y(Xh)-X(Yh)
=-{X(Yh)-Y(Xh)}
=-[X,Y]h
即ち [Y,X]=-[X,Y] [∵①]
[命題1]
f∈Fとベクトル場X,Yに対して[fX,Y]=f[X,Y]ー(Yf)X …③
[証明]
∀h∈Fに対し②から、
[fX,Y]h
=(fX)(Yh)-Y((fX)h)
=f(X(Yh))-Y(f(Xh))
=f(X(Yh))-{(Yf)(Xh)+f(Y(Xh))} [∵(♯)より]
=f{X(Yh)-Y(Xh)}-(Yf)(Xh)
=f([X,Y]h)-((Yf)X)h
=(f[X,Y])(h)-((Yf)X)(h)
=(f[X,Y]-(Yf)X)(h)
即ち、
[fX,Y]=f[X,Y]-(Yf)X
(証明終わり)
[注意3]
ベクトル場 X,Wとh∈Fに対し共変微分▽_Xを考えると
(1)
h∈F ⇒(▽_X)h∈F 。つまり、hが関数 ⇒(▽_X )hも関数。
Z∈Χ(M) ⇒(▽_X)Z∈Χ(M)。
つまり、Zがベクトル場 ⇒(▽_X)Zもベクトル場
(2)
(▽_X)h=Xh …④
(3)
共変微分は一種の微分だから、積の微分法が成立する。
(▽_X)(hW)=((▽_X)(h))W+h((▽_X)(W)) …⑤
(2)により、これは
(▽_X)(hW)=(Xh)W+h((▽_X)(W)) …⑥ となる。
(4)
(▽_fX)(h)=f((▽_X)(h))と(▽_(X+Y))(Z)=(▽_X)(Z)+(▽_Y)(Z)
が成り立つ。
☆
曲率テンソルRの質問については、
その定義から、R(X,Y,Z)∈Χ(M) つまり、R(X,Y,Z)はベクトル場である。
また、次の[命題2]が成り立つ。
[命題2]
R(fX,Y,Z)=fR(X,Y,Z) かつ、R(X,gY,Z)=gR(X,Y,Z) かつ
R(X,Y,hZ)=hR(X,Y,Z) が成り立つ
⇒ R(fX,gY,hZ)=fghR(X,Y,Z)が成り立つ。
[証明]
R(fX,gY,hZ)
=fR(X,gY,hZ)
=f{gR(X,Y,hZ)}=(fg)R(X,Y,hZ)={(fg)h}R(X,Y,Z)
=fghR(X,Y,Z)
(証明終わり)
[命題3]
R(Y,X,Z)=-R(X,Y,Z)
[証明]
[Y,X]=ー[X,Y]と、
(▽_(fX))(Z)=f((▽_X)(Z))を使う。
Rの定義(☆)から、
R(Y,X,Z)
=(▽_Y)((▽_X)(Z))ー(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_[Y,X])(Z)
=-{(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_X)(Z))}-(▽_(-1)[X,Y])(Z)
=-{(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_X)(Z))}+(▽_[X,Y])(Z) [[注意3]の④]
=-{(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_X)(Z))-(▽_[X,Y])(Z)}
=-R(X,Y,Z)
即ち
R(Y,X,Z)=-R(X,Y,Z)
(証明終わり)
☆☆
それでは、質問に答えよう。
まず、
R(fX,Y,Z)=fR(X,Y,Z)を示す。]
[注意3]の(4)より
(▽_(fX))((▽_Y)(Z))=f(▽_X)((▽_Y)(Z))…⑦ また
(▽_Y)(▽_(fX))(Z)
=(▽_Y)(f(▽_X(Z)))
=(Yf)((▽_X)(Z))+f(▽_Y)((▽_X(Z)) [∵[注意3]の⑥]…⑧
そして、[命題1]と[注意3]の(4)より
(▽_[fX,Y])(Z)
=(▽_(f[X,Y]-(Yf)X))(Z)
=(▽_(f[X,Y]))(Z))-(▽_(Yf)X)(Z)
=(f(▽_([X,Y])))(Z)-(Yf)(▽_X)(Z)…⑨
⑦⑧⑨から、
R(fX,Y,Z)
=(▽_(fX))((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_(fX))(Z))-(▽_[fX,Y])(Z)
=f(▽_X)((▽_Y)(Z))
-{(Yf)((▽_X)(Z))+f(▽_Y)((▽_X))(Z))}
-{f(▽_[X,Y](Z)ー(Yf)((▽_X)(Z))}
=f{(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_X)(Z))-(▽_[X,Y])(Z)}
-(Yf)((▽_X)(Z)) +(Yf)((▽_X)(Z))
=f{(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_X)(Z))-(▽_[X,Y])(Z)}
=fR(X,Y,Z)
つまり
R(fX,Y,Z)=fR(X,Y,Z)…⑩が示された。
次に
R(Y,X,Z)=-R(X,Y,Z)
により、⑩を用いて
R(X,gY,Z)=-R(gY,X,Z)=-gR(Y,X,Z)=-g{ーR(X,Y,Z)}=gR(X,Y,Z)
つまり R(X,gY,Z)=gR(X,Y,Z)が示された。
最後に、
R(X,Y,hZ)=hR(X,Y,Z)を示そう。まず、
(▽_X)((▽_Y)(hZ))
=(▽_X){(Yh)Z+h((▽_Y)(Z))} [∵ [注意3]の⑥]
=(X(Yh))Z+(Yh)(▽_X)(Z)+(Xh)((▽_Y)(Z))+h(▽_X)((▽_Y)(Z))
…(11) [再び [注意3]の⑥]
同様にして、
(▽_Y)((▽_X)(hZ))
=(Y(Xh))Z+(Xh)(▽_Y)(Z)+(Yh)((▽_X)(Z))+h((▽_Y)((▽_X)(Z))
…(12)
また、
(▽_[X,Y])(hZ)
=([X,Y]h)Z+h((▽_[X,Y])(Z)) …(13) [∵ [注意3]の⑥]
ゆえに(11)(12)(13)から、
R(X,Y,hZ)
=(X(Yh))Z+(Yh)((▽_X)(Z))+(Xh)((▽_Y)(Z))+h(▽_X)(((▽_Y)(Z))
-{(Y(Xh))Z+(Xh)(▽_Y)(Z)+(Yh)((▽_X)(Z))+h((▽_Y)((▽_X)(Z))}
-([X,Y]h)Z-h((▽_[X,Y])(Z))
=(X(Yh))Z-(Y(Xh))Z-([X,Y]h)Z
+(Xh)((▽_Y)(Z))+(Yh)((▽_X)(Z))
-(Xh)((▽_Y)(Z))-(Yh)((▽_X)(Z))
+h{(▽_X)((▽_Y)(Z))-(▽_Y)((▽_X)(Z))-(▽_[X,Y])(Z)}
={X(Yh)ーY(Xh)-[X,Y]h}Z+hR(X,Y,Z)
=hR(X,Y,Z) [∵[X,Y]h=X(Yh)-Y(Xh)]
即ち
R(X,Y,hZ)=hR(X,Y,Z)…(14)。
ゆえに[命題2]から、
R(fX,gY,hZ)=(fgh)R(X,Y,Z)が成り立つ。以上です。
[回答」終わり
◎ 曲率テンソルの「テンソル解析」との関係をみておこう。
X=∂/∂x^i,Y=∂/∂x^j,Z=∂/∂x^k,∂/∂x^mに対して
R(X,Y)Z=(▽_X)(▽_Y)(Z)-(▽_Y)(▽_X)(Z)-(▽_[X,Y])(Z)は局所表示では、
R(∂/∂x^i,∂/∂x^j)(∂/∂x^k)=∑^(m)[Rijk^(m)](∂/∂x^m)
と書かれる。 但し、mは上付きの文字、i,j,kは下付きの文字とする。
Rijk^(m)は[線形接続]の曲率テンソルの成分である。
Rijk^(m)をR^(m)kij とする流儀もあるので注意したい。したがって
回答で述べた、R(Y,X,Z)=-R(X,Y,Z)は、Rjik^(m)=-Rijk^(m) …(b)
と同値である。またBianchi(ビアンキ)の第1恒等式は、以下の捩率 T=0のとき
R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y=0 ⇔ Rijk^(m)+Rjki^(m)+Rkij^(m)=0 …(♯1)
となる。[野水克己 現代微分幾何入門 P80の[定理1] 参照]
☆ さらに、線形接続がMのRiemann(リーマン)計量gから決まるリーマン接続
[即ち 捩率(れいりつ) T について、T(X,Y)=(▽_X)Y-(▽_Y)X-[X,Y] が
T=0 ⇔ [Γj^(i)k=Γk^(i)j] を満たし、 かつ (▽_X)g=0 for ∀X∈X(M)]
であるならば、(ここにΓはギリシャ文字の大文字ガンマです)
g(R(X,Y)Z,W)+g(Z,R(X,Y)W)=0 かつ g(R(X,Y)Z,W)-g(R(Z,W)X,Y)=0…(♯2)
が成り立つそうだ。[村上信吾著 多様体第2版 P176演習問題4の2番]
(♯2)は私にはわからない。
(♯1)の右側の式は、例えば「立花俊一 リーマン幾何学」PP77~79に載っている。
但しリーマン接続のときである。