【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ9-650 「ワン・セグメント・ホワイトリボン」(1)

2007-06-18 | クリスマスss

650 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/27(日) 08:19:31 ID:QM0CoX+/
ここのスレ住人サン達を神SSを読んで不肖ながら初めて書いたSSを
投下させて戴きます。一応7レスの予定。


651 :ワン・セグメント・ホワイトリボン:2007/05/27(日) 08:20:52 ID:QM0CoX+/
~1~
期末テストの結果を下から数えた方が、明らかに時間短縮を図れることに業を煮やしたお袋が
下した決断によって、学習塾の冬期講習スペシャルコースに叩き込まれた俺は中学生活最後の
冬休みにもかかわらず、学校の授業時間よりも塾の講義で机に突っ伏す時間が長くなってしまった。

冬季休暇プランとしては、蜜柑の皺でも数えながら年末特別企画番組を炬燵で見つつ、
友人から借りた某大作ゲームの一つでもこなして、午睡を日課とする老猫の様に過ごし、
それでも一応受験生らしくその合間にしばしば机に向かう予定ではあったのだが
どうやらクリスマスどころか大晦日の日ですら、除夜の鐘を聞く頃まで机に齧りつかにゃならんらしい。
反抗すれば年に一度しかない、貴重な臨時収入の機会を失うという図式をちらつかされて渋々…というわけだ。

ともあれこの受験生という存在は、四季ごとのささやかなイベントですら
大いに端折らせる事も辞さない進学邁進集団となってしてしまうらしい。
思えば、この前の夏休みも夏期講習のせいで殆ど遊んだ記憶は無かったし、
いったい何がそこまで駆り立てさせるのだろうかね、勉学意識ゼロのこの俺を除いた受験生連中は。
おかげでこの椅子獲りゲームに厭でも参加せざるを得なくなっちまうじゃねえか。

「しかしキョン、この時期にもなって四の五の言う輩はキミくらいだよ。諦めたまえ」
前の席から振り返って、少し呆れ気味に俺の愚痴に下した佐々木の評価は社会通念上、完璧に正しい。
それ位は俺にだってわかるさ。だがこのやるせない気持ちをどう整理すればいいんだ、佐々木よ。

「まあ、言わんとすることは判らないでもないよ。この受験戦争はキミがさっき
椅子獲りゲームと比喩したような、言い換えれば競争社会の縮図であるにもかかわらず、
実力が結果に反映されないことを嘆いているのだろう?違うかい、キョン」 

まあな、自分の価値は所詮他人には判らないものだしな、しかしお前は今、競争社会といったが、
それがイコール実力社会とは限らないぜ、何故ならば…

「何故ならば実力が発揮される機会が『完全な』均等では無いではないからかい、キョン。
端的に言えばそうだ。少なくとも現代社会は不平等な競争を強いられている。でもいいかい、そもそも…」

いかんな、この手の話題に佐々木は滅法強い。このままでは佐々木が〆の言葉を出すまで
適当な合いの手を出すくらいしかできないだろう。旗色が悪い時はさっさと話題を変えることにする。
とりあえずその辺りの思考実験は御偉い学者先生方に任せるとしようじゃないか。
そう今はこの冬期講習を完うするのみだ。さもなければ…

「さもなければ小遣いを減らすとでもキミの御母堂は仰っているのかね、くっくっくっ」
ええい佐々木よ、俺の思考をトレースして先読みするのは止めてもらいたい。
ことごとく当たるのはさすがに背中が薄ら寒く感じるじゃないか…。




652 :ワン・セグメント・ホワイトリボン:2007/05/27(日) 08:22:04 ID:QM0CoX+/
~2~
佐々木と話し込んでいるうちに、最後の講義も終わった教室の中は閑散としてきたが
今更どうにか成りそうな代物ではないという事を、痛感させる講義内容にホトホト疲れ果てた俺は
佐々木との会話をもう少し続ける事にする。
特に今日の数学の講義は、初めはただの人参やらジャガイモだったのが、いきなり何の前振りも無く
作ってあった具材を画面の端から取り出して、いつの間にかシチューか何かに仕上がっている
そんな3分間料理番組を見ているようで全くチンプンカンプンだったぜ。

「あれはキョンが悪い訳ではないよ。どうやらあの講師は風邪で倒れてしまった本来の方の臨時らしい。
僕から見てもテキストを音読するだけの、あの講義内容では果たして理解できたかどうか不安に陥るよ。
数学というのは計算の過程を知って初めて理解し、センスを磨けるというのに。あれでは数学の醍醐味が
薄れてしまう。という訳でだ、キョン」

不意に立ち上がった佐々木は、座ったままの俺の前に自分の掌を重ねて俺を促すように一言

「復習を兼ねて僕の家で勉強会をやらないかい?」
俺はこの佐々木の提案について少し確認をしなければならないようだ。
今や非常に純度の高い砂金に置き換わった、俺のもう残り少ない砂時計には
実に魅力的な提案であることは間違いない。だがしかし佐々木、本当にいいのかよお前は?

「キョン、キミが懸念しているのは今日の日付のことかい?」
「ああ、その通りだ。」


今日12月24日という日はクリスマス特有の派手なイルミネーションが、歓楽街のネオンサインよりも
明るく街中を照らし、赤い服を着た白髭の太っちょ爺さんが世界中の子供達の願いを叶える為に、
宇宙人よりもハイスペックに地球を飛び回る日。
余談だが、オランダの子供達は12月5日と12月24日にプレゼントを貰うチャンスが2度あるらしい。
全く以って羨ましい限りだ。そしてクリスマスであろうが、全然問題は無いと言う佐々木の誘いを断りきれず
佐々木とともにあいつの家に向かう途中の俺がいる訳だが、いやさてどうしたものかね。

「一応遅くなるかもしれないから家に電話をしておいた方がいいね」
という佐々木に促されるように公衆電話から自宅へ電話を掛けることにする。
暫くして電話に出た妹に事情を説明し、晩飯を前にお預けを食わせるのは兄としては忍びないので、
先に喰っておけというと
「…キョン君てば、あたしを置いてあの人のところへいくのね、くすんっ」
小学生の妹は芝居じみた声でぐずり始めやがった。最近のお子様が見るテレビの時間帯には
昼下がりの爛れた不倫恋愛ドラマなんか流すようになったのかよ。
電話口でたどたどしく語る妹が言うには、折角のクリスマスなんだから家族そろって一家団欒
てやつを希望しているらしいのだが、さりとてこちらも人生の岐路に差し掛かっている訳でな。
許せ妹よ、なんか買って来てやるからさ。
「!!!じゃ~あ~、ク~マさんのぬいぐるみぃ~」
といきなり素に戻って言う妹にガシャンと受話器を置かれ、呆然と立ち尽くす俺が
テレビドラマに感化され易い妹に不安を感じるのは、兄として全く不自然ではないはずだと思うがどうなんだろうか。
もう少し俺に…いや普通に素直だったら、こっちも良い兄貴振りを発揮できると思うのだがね。



653 :ワン・セグメント・ホワイトリボン:2007/05/27(日) 08:23:40 ID:QM0CoX+/
~3~
「なかなか交渉上手な妹さんじゃないか。将来が楽しみだねキョン」
電話を済ませた俺にニマリと口元を緩ませながら佐々木は近づいてきた。
その瞬間、成長した妹が言い寄る男共に甘言を弄して手玉に取る様が浮かぶが
そのありえない仮想映像を首から上だけのラジオ体操で脳内から全力で排除する事にする。

「くっくっくっ、買い物ならちょうどいい。この先に新しく出来たショッピングモールがあるらしいんだ。
僕も少し買い物がしたいから、僕の家に寄る前に見に行こうじゃないか」
塾から歩いて向かったそのショッピングモールの中は、辣腕経営者が街往く人々の財布が緩むこの時期に
オープニングセールを合わせる事に成功したせいか、想像以上の人だかりでかなりの熱気に溢れ返っていた。
その息苦しくなるような人ごみを掻き分ける様にして進むうちに、はぐれない為の配慮が俺と佐々木のどちらかから
出たものなのか定かではないが、ふと気がつくといつの間にか俺の左手は佐々木の右手を繋ぎ合わせていた。
尤もお互いがそのことに気がついたのはかなり経ってからのことなんだがな。
気付いた時の佐々木の表情は、少し俯き加減で微かに頬と耳たぶが赤く色づいていた様な
気がしたのだが、恐らくショッピングモール内の熱気のせいなのだろう。

「…ああ、済まないキョン。でも、もし…差し支えなければ是非このままでいてもらいたい。
僕の体格ではこの人ごみのなかでは埋没してしまう恐れがあるからね」

気にするなよ佐々木。お前にはこっちの都合でこんなところでの買い物に
わざわざ付き合わせているだけなのにな。いいからさっさと済ましちまおうぜ。
佐々木は俺の言葉に硬直したような表情をした後、首から上は徐々に自己解凍しつつも
声帯はフリーズしたままなのか恐ろしくトーンの低い声で

「…………何というインセンシティブと言うべきか…フーリッシュ…いやシリーもしくはステューピッドかな、
一体どの言葉を今の状況に当てはめればいいのか悩むところだね」

今度は上目遣いで睨み付ける様に俺の顔を凝視した後、プイと横を向く。
こちらとしては気を利かせたつもりだったのに、非難された様な気がするのはなぜだ判らん。
少し気まずい雰囲気のなか、どうにかファンシーショップのブースに辿り着いた俺たちは
クリスマス一色に飾られた店内を物色することにする。様々な商品が並ぶ中で、ちょうど手頃な
大きさと値段の吊り合いの取れたクマのぬいぐるみを見つけるとレジに向かう行列に並ぶ事にする。
すると佐々木は
「キョン、僕の買い物はすぐ済むからさっきの広場で待ち合わせることにしよう、じゃあ後で」
といって人ごみに消えてしまった。
あれから怒っている様子は見られなかったが、一瞬とはいえ俺の行動の何かが、
佐々木を不快にさせてしまったのはどうやら間違いなさそうだ。
ならば為すべきことは只一つであり、ましてやこれから佐々木の家に行って色々と
御教示願わなければならない立場であるからして、機嫌を取っておいても損は無いはずだからな。

そう決断すると、店内を見渡してすぐ傍の陳列棚に目的の品物を見つけると、買い物カゴにそれを放り込んだ。



                                「ワン・セグメント・ホワイトリボン」(2)に続く