【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ7-527 「フラクラ返上」(1)

2007-05-15 | 佐々木×キョン×ハルヒ

527 :フラクラ返上 :2007/05/12(土) 23:36:04 ID:3JUbXOPm
先日の日曜日に、佐々木はともかくとして、その他の同席しているだけでも怒気を抑え切
れなくなりそうな連中と会談を持ってから早数日が経過していた。
その日は、あと5時間も経過すれば再び休日となる週末の夜であり、運動部という強制休
日出勤団体には幸い入っていない俺としては、休みの前の優雅なひとときを過ごせる最良
の状況でもあった。

それにSOS団のトンデモ市内探検も翌月まではないだろうし、脳内を検索しても俺の検索
エンジンからは一件も出てこないほどに憂慮すべきことがなかった。何を言っているのか
わからないだろうが、そのときの俺はそれほど上機嫌だったってわけだ。
だが、そんな気持ちよく自分のベッドに寝っ転がっていたとき、マイ携帯が予告もせずに
鳴り響いた。やむなく俺がベッドから起き上がり、卓上ホルダに差し込まれている携帯の
ディスプレイを確認すると、日曜日に会ったばかりの佐々木だった。

電話に出たところ、佐々木から会って話がしたいという事だ。だが、俺は再び橘を始めと
して、あのいけ好かない未来人に会うことを望まないと答えたところ、佐々木一人だけだ
ということでその誘いを承諾したわけだ。
それでも俺は、穏やかな休日が蒸気カタパルトで射出される航空機のように遙か彼方へ飛
びさっていくことを頭の片隅で感じ取っていた。
そして俺は、自分の熱を帯びて温くなった携帯を無意識に弄びながら、しばらくの間だら
しなく仰向けで伸びきっているシャミセンを見つめていた。



その翌日、そして現在、俺は北口駅前にある公園に向かっている。なんと約束の20分前
だぜ。いつもこうしてりゃ、毎回ハルヒたちに気前よく茶店代を上納することもなかった
ろうにな。
それから間もなく公園にたどり着いた俺は、見回すほど広さもないのですぐに人待ち顔の
佐々木を視界に補足し、右手を挙げて到着の合図をした。
「やあ、キョン。よく来てくれたね。5分前行動というのは運命共同体である軍艦の中で
欠くべからざる船乗りの習慣だったらしいが、キミは20分前に来てくれた。船乗りの鑑
だね。もっとも僕が早く来すぎたのがいけないのだが、それでも待ちぼうけになることが
なくてホッとしたよ」

佐々木は口調自体は普段とは変わらないが、表情には何処か余裕がなさそうに見えた。こ
れから持たれる話というのは、おそらく深刻なのではないだろうか。佐々木の表情がそれ
を物語っているようでもあった。
しかし、佐々木よ。俺はいつから船乗りになったんだ? それに、佐々木は俺がこれほど
早く来たことに意外そうな面持ちであったのは実に失礼なことだ。
だが否定できんのは、日頃の行いかね。遺憾ながら俺の行動パターンは、佐々木とつるん
でいた頃からあまり変わってはいないことだしな。

「ではキョン、件の喫茶店へ赴くとしようか。先週と同じ休日であるから、キミの先輩に
再び相まみえる可能性も否定できないことではあるがね」
そうだな、だが喜緑さんなら俺たちの姿を見たところで誰彼かまわず吹聴して回ったりは
しないだろう。
知られて困るやつなど別にいない、と言いたいところだが、残念ながら約一名にこの秘密
会合のことを知られると、俺の体から脂汗が落ちてくることになるだろう。いや、これ以
上考えるのはよそう。わけもなく頭痛がしそうだ。
そんな考えを振り払うように俺は首肯し、春の日差しが穏やかに降り注ぐなか、2人連れ
だって行きつけの喫茶店へと足を進めた。


528 :フラクラ返上 :2007/05/12(土) 23:36:41 ID:3JUbXOPm
俺たちがその喫茶店に立ち入ると、チリンと来客を知らせる鈴が鳴り、それに気づいたウ
ェイトレスが接客のためにカウンターあたりから近づいてきた。
「いらっしゃいませ!」
笑顔を浮かばせながら接客を行うその女性店員は、予想通り私服にエプロンの出で立ちの
喜緑さんだった。
彼女は俺の顔を見ると、にこやかに会釈し、
「こんにちは」
学校での事務的な微笑みよりも20%ほどは親しげなのがうれしい。
ただし俺の主観にすぎない。それに彼女は有機アンドロイドであるし、そう演技している
だけとも言えるが。

喜緑さんの挨拶を受けて俺が「喜緑さん、今日もアルバイトですか?」と尋ねると、
「はい」とたおやかな笑みを返してくれた。
実は喜緑さん、隠れファンがけっこういるんじゃないだろうか。そう思える笑顔だ。
その後喜緑さんの案内に従い、俺たちは窓際の席へと腰を下ろした。
席に座ると、メニューを手に取ることもなく、すぐさま俺たちはお冷やを置きつつある喜
緑さんに注文を伝えた。
俺は前回と同じく、ホットコーヒーを注文した。だが、佐々木はこれから持たれる話のこ
とに気を取られていて無意識によるものなのか、意外なものを注文した。
いや、今は指摘しないでおこう。

「キョン、今日キミにわざわざ来てもらったのは他でもない。先週の日曜日、キミや橘さ
んとの会合を持って以来、ずっとあのことを僕は考えてたのさ。何度も何度もね。という
のも僕にはそもそも、キミのように神秘との遭遇といった経験の積み重ねがないわけだか
ら悩みもするさ。でもね、僕はようやく決断したのさ。今日はそれをキミに報告したくて
わざわざお呼び立てしたわけなのさ。それでだね……おや、注文の品がやってきたよう
だ」
と、佐々木の話が核心に入ったところで喜緑さんが注文の品をトレイに乗せてやってテー
ブルにやって来た。

喜緑さんは俺の前にコーヒー、そして佐々木の前になんと、チョコレートパフェを静かに
置いた。そして恭しくお辞儀をしカウンターに戻りゆく。
俺には意外だった。佐々木がこういったような、いかにも女の子が食するものを注文する
とは思いも寄らなかったからな。まあ、新鮮な発見ではあるが。
「キョン、キミは何を不思議そうな顔をしているんだい? ああ、これかい? こ……こ
れは誰が注文したのかな?」

どう考えても、お前しかいないだろう。
「そ……そうかい。僕としたことが不覚だ。いや、何でもないないんだ。……キョン、キ
ミはこのことを忘れてくれたまえ。未来永劫にだ。もしできることなら、キミの脳から修
正液で記憶を真っ白に塗りつぶして忘れさせたいぐらいだよ」
佐々木は傍目にもわかりそうなほどに動揺していた。
なにもそれほど焦ることもないだろう。むしろ佐々木が年頃の女らしい嗜好を持っている
ことを知ることができて、俺にはほほえましく思えたほどだ。

「忘れろと言っても、今現在俺の前で展開されている光景から目をそらすことは出来んぜ。
それにお前がそう言ったものを注文することは、おかしなことじゃないだろう。佐々木、
お前は気にすることはない」
俺の気休めが功を奏したのか、1分ほど沈黙したのちようやく気持ちを落ち着かせた佐々
木は、俺の顔色を窺いながらおそるおそるアイスクリームをスプーンで口に運んだ。
まあ、なんだ。こうして見ていると、佐々木も普通の女なんだよな。


529 :フラクラ返上 :2007/05/12(土) 23:37:17 ID:3JUbXOPm
だが、俺がぼんやりと見つめていたことにややうろたえた佐々木は、
「キョン、キミには見苦しいものを見せてしまったな。お恥ずかしい限りだよ。それにど
うも話が途方もなくそれてしまったようだね。その上なにやら気を削がれてしまった気分
だが、……ここは強引にでも話を元に戻そう。」
佐々木は次に生クリームを口に運びながら、いくぶん真剣な眼差しでそう述べた。
少し緊迫感に欠けるがな。
しかし、佐々木はその様子に反比例して再び重々しく口を開いた。


「キョン、僕はね橘さんの提案を受け入れようと思う」

最初佐々木が何を言ったのか、俺にはまるで理解できなかった。
なんて言ったんだ? 今。
「わからなかったかい? ならもう一度言おう」
佐々木は俺の顔をじっと見据えて、おもむろに口を開いた。

「僕は橘さんの提案を受け入れるよ。そして、キョン。ひいてはキミに協力を願いたい」

その瞬間、俺があの日佐々木を残して一人で帰ってしまったことをひどく後悔した。
佐々木なら、奴らに言いくるめられることもないと考えたのだが、それは甘かったのかも
しれない。やつらは佐々木に何を言ったんだ? 
それに冷静かつ自分が担がれることを好まない佐々木をそう決断させたのはいったい何
だ?
「佐々木、なぜそんなことを言い出すんだ。お前だってあの時、ハルヒのようなトンデモ
能力なんていらないと言ったじゃないか。それに、そんな能力を持ってしまったら精神を
病むなんて事もな。……お前いったい、あの連中に何を吹き込まれたんだ?」

「そのことは聞かないで欲しい。とにかく僕はそう決断したんだ。それに涼宮さんから能
力がなくなれば、キミも苦労することはないし、秋に桜が咲くこともないんだ。だからキ
ョン、協力してもらえないだろうか?」
佐々木の真剣そのものの表情からは意気込みといおうか、断固とした決意が伝わってくる。
しかし、考えてもみろ。ハルヒの変態的能力はあいつの力に対する自覚のなさと、ある意
味いい加減な性格があってこそまともでいられるんだ。
佐々木がその力を認識しつつそれを手にしてみろ、その力の大きさとプレッシャーに耐え
られるか? いや、佐々木自身も懸念を示したとおり、押しつぶされてしまう可能性が高
いだろう。

それともあの胡乱な未来人と、長門とは別個の宇宙人である周防たちに良いように利用さ
れちまうだけだ。どっちだって良い事じゃない。
……躊躇することはない。俺は全力で佐々木を説得し、そして思いとどまらせるだけだ。
俺は佐々木に居直り、
「佐々木、お前には悪いが、その提案を受け入れることは出来ん。もう少し頭を冷やした
らどうだ? あの力をお前が持ってしまったら、佐々木、お前はどうする。 その力を持
つ重さに耐えられるのか? 悪いことは言わん、あんな力はハルヒに任せておけばいい。
俺だって目の届く範囲にあいつがいれば、俺があいつの暴走を止めることだって出来るん
だ」


530 :フラクラ返上 :2007/05/12(土) 23:38:11 ID:3JUbXOPm

ひとしきりしり話し終えると、俺はすでに冷めてしまったコーヒーを口にし、喉を潤した。
だが、佐々木はどことなく寂しそうな表情をしつつ、
「そうか、キミは涼宮さんが大切なんだね。 ……いや、なんでもない。僕にはその説得
を受け入れることは出来ない。それと、返事は改めて聞かせて欲しい。そうだね、2日後
にでもまた駅前で会おう。キミにだって考える時間は必要だろうからね。……でも、出来
れば前向きに考えてもらえると有り難い」
俺はハルヒのことについて、そう語ったつもりはないのだが、佐々木はなぜかそう捉えた
ようだ。なんだろうな、このもやっとする気分は。

佐々木のまっすぐすぎるその言葉に、俺にはこれ以上佐々木を思いとどまらせる上手い言
葉が出なかった。情けないことにな。
その後佐々木とは喫茶店を出て、そこで別れることになった。
しばらくの間立ちすくんでいた俺は、呆然とした心持ちでおずおずと帰路についた。
そんな俺の心境を表してか、店に入る前に感じた心地よい風が、今はむしろ俺の心を逆な
でしているようにさえ感じた。



その夜、俺は部屋のベッドに仰向けになり、自分への憤りで歯噛みする思いだった。
なぜあの時、佐々木を橘たちの手に委ねて帰ってしまったのかと。
返す返すも俺のうかつさが悔やまれる。
だが、そんな俺の懊悩を遮るかのように1階から階段を上りつつある音とともに、妹の声
が耳に届いた。
「キョンくーん、でんわー。女の人からー」
部屋の扉をノックもなしで開け放った妹が、幼稚園児のような脳天気さで語尾を伸ばしな
がら電話の子機を手渡しに来た。
俺はそれを受け取ると、電話の内容に興味津々の妹を追いやって電話に出た。

ひょっとして佐々木か? 思いとどまってくれればいいのだがな。
しかし、あいにくと今現在において最悪と言っていいだろうと思える女の声を聞くことに
なった。
「こんばんは。先週の日曜日以来ね。お元気でした?」
この声は、朝比奈さんの誘拐未遂犯にして、佐々木をたぶらかした張本人。橘京子だ。
よりによって、今俺にとって最も怒りをぶつけたい人間から電話が来るとはな。
もう少しで怒鳴りつけてしまうところだったぜ。
だが、佐々木についての情報を何か得られるかも知れない。怒りにまかせた軽率な言動は
控えたほうがいいだろう。
そう考え、俺は極力感情を抑え気味に話しかけた。

「何の用だ?」
「そんな怖い言い方をしなくても良いじゃない。あなたは佐々木さんから話を聞いたんで
しょ? だったら、あたしたちは志を同じくする仲間のはずです」
こいつ、何か勘違いしているな。そもそも俺は、ハルヒの能力を佐々木に移すなんて事を
承諾しちゃいない。佐々木に対してもな。
しかし、橘はそんなことはお構いなしに話を続けた。

「では、あなたに協力してもらう方法について今簡単に説明します。準備の都合もあるの
で、決行は3日後としますね。……あなたには藤原さんについてもらって4年前の7月7
日に遡行してもらいます。そしてもう一人のあなたが涼宮さんに会う前に、あなたには
佐々木さんに会って、本来彼女に備わるはずだった力を芽生えさせるきっかけを作っても
らいます。あなたにはそれだけを協力してもらえればいいの。どう、簡単でしょ? それ
だけで、もうあなたは涼宮さんに振り回されることはないのです」