【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ9-205 「パーティ」(2)

2007-05-19 | 佐々木×キョン×ハルヒ

209 :パーティ 5/12:2007/05/24(木) 04:04:01 ID:Zr/Vl4CQ
 そんな、こんなでスーパーマーケットに到着である。とりあえず、カートを繰り出す。
向かうはもちろん精肉売り場だ。こちとら、万年欠食少年少女だぜ。
「佐々木さんは、何か食べられないものってあるの」
 ハルヒは佐々木の食の好みを聞いていた。なんとまぁ、殊勝なこともあるもんだ。
「特に、これといって食べられないもの、苦手な物はないわ、いえ、これから出会う苦手な
食材もあるかもしれないから、断言はできないのだけれど」
 まあ、佐々木が何かの食物アレルギーがあるとは聞いていないしな。給食の時はなんでも
よく食ってたしな。
「あんたには聞いてないわよ」
 牙をむき出しにして、ハルヒは噛みつくように言った。ったく、なんなんだ。
 まぁ、俺の意見が自動的に却下されるのにはこの一年でとうに慣れたがね。
「それじゃ、何にしようかしらね」
 そう言って、ハルヒは辺りを見回した。焼いて料理する物なら、何でもいいだろう。とりあ
えず、牛肉だな。目に付いたパックをひとつ取り上げる。
「バッカね、何やってんのよ」
 肉を見てるんだが?
 答える俺を無視して、ハルヒはその牛肉パックを俺の手から奪い取って元あった場所に置いた。
「そんなの、見りゃわかるわよ、このスカポンタン」
 なんなんだ、一体。
「キョン、どうやら、涼宮さんはタイムサービスを狙っているようだね。周囲の奥様たちを見
てみるといい」
 たしかに、買い物カゴやら、エコバックやらを提げた奥様、おばさまたちが手持ちぶたさに
辺りをうろついている。時刻は直に19:00を回る、このスーパーマーケットの閉店時間が確か
20:00だから、そろそろということなのか。
 しばらくすると、店員がやって来て、値段を打ち直していく。あ、さっきのパックが100円下
がった。その瞬間、ハルヒが動いた。即座に先ほどのパックと、焼き肉用の大盛りパック、
牛カルビ、豚ロース、Pトロ、焼き肉用の加工肉辺りをかき集めてきた。奥様たちも、ハルヒ
の動きを契機にショーケースに群がりだした。
「大漁、大漁。見なさい、キョン。これだけ買って、あんたが最初に取った牛肉パック分以上
は出てるわよ」
 え~と、こっちが100円引き、あっちが150円引き、こっちが200円引き、こっちが……
なるほど。これが奥様お買い物術か。
「すごい、涼宮さんは買い物上手なのね」
 佐々木が感心したようにそう言った。
「私だと、逆にタイムサービスは避けちゃうかもしれない、あんな風に殺気立っている場所に
なんか、踏み込めない」
 褒められてるんだか、どうなんだか、ハルヒはいつものように仁王立ちになって胸を張った。
「あたしは、勝負事に負けるのが、大嫌いなの。どれを買うかはさっき、ざっと見て決めてた
しね。目当てのヤツが全部買えてよかったわ」
 とはいっても、肉だけじゃ味気ない。次は野菜か、魚か、それともソーセージとかの加工品
に行くか?
「そうね、魚なら、ホイル焼きにするのがいいかもね。タラの切り身か鮭の切り身でいいのが
あったら、買いましょ」
 ふむふむ、長門はなんか欲しい物あるのか?
「…………………」
 特に意見はないようだな、じゃあ任させてもらうぞ。
「…………………」
 ん、了解だ。なら、肉はもういいな。
「キョン、キミは今ので、コミュニケーションが取れたのか」
 驚いたように、佐々木が俺に声をかけてきた。
 こう見えても、俺は長門の表情を読むことにかけては、北高一を自負してるんだ。
「ほう、何であれそれだけの自信がもてるのなら、大したものだ。ところで、キョン。
その長門さんだが、彼女もかなりストレインジな感触を受けるのだが……」
 まぁ、あんまり大きな声じゃいえないが、宇宙産だよ、九曜とは別口だがな。



210 :パーティ 6/12:2007/05/24(木) 04:06:12 ID:Zr/Vl4CQ
「なるほど、ね。これが宇宙人的感覚か、覚えておくとしよう。なるほど、やはりSOS団は
僕にとって、とても有為な集団であることがわかった」
「キョン、何やってんの!!」ハルヒが、目を三角形にして俺を呼ぶ。その両手には、魚の切り
身やら、野菜やらが満載だ。がらがらとカートを押して、ハルヒの所へ向かう。
 そんなに野菜を買い込んで、カレーでも作るつもりなのか?
「それも悪くはないけれど、バーベキューとカレーじゃちょっとヘヴィじゃないかな」
 佐々木が俺の気持ちを代弁した。
「なに、あんたカレー食べたかったの? 鉄板焼きならニンジン、キャベツ、タマネギ、
ジャガイモってとこでしょ。串焼きならピーマンにパプリカもほしいわね」
 佐々木が得心したかのように肯く。心なしか瞳に尊敬の色が浮かんでいるように見えた。
「なるほど、カレー粉を入れればカレーになってしまいそうだ」
 ここで反応したのはハルヒだ。
「佐々木さんの家ってカレーにパプリカ入れるの?」
 パプリカと赤ピーマンってよく似てるな。何が違うんだろう。
「手元にある時は使ったりするみたいね。必須というわけじゃないみたい。甘くて、ちょっと
面白い触感だったけど、カレーには合わないように思うわね。やっぱり、ピクルスにして付け
合わせがいいんじゃないかしら。あ、串焼きにして焼くのは賛成」
 そのまま、佐々木は、野菜コーナーに置かれている大きな赤ピーマンを指さした。
「ちなみにキョン、パプリカというのはアレのことだ」
 知ってるよ。そのくらいは。
「ピーマンとパプリカはどちらもナス科、トウガラシ属の植物で、キミの考えていた赤ピーマ
ンは、青ピーマン、いわゆるピーマンをよく熟成させたもので、本質的には同じものだ。パプ
リカもピーマンの仲間だがより大型で肉厚だ。加熱調理すると色鮮やかになること、酢に合
わせても退色しにくい事から、サラダや炒め物の色合いとして、あるいはピクルスにもよく使
用される」
 なるほど、赤ピーマンとパプリカの違いについてはよくわかった。ところで、なんで、俺が
そんなことを考えているとわかった?
「そりゃあ、キミがきょとんとした顔をしていたからさ。まったく、キミは変わらないな。覚えて
いないか、それとも理解していなかったのかな。数学の例題を前にして、キミはさっきのよう
な顔をしていたのだ。そんな顔の後にキミの言う“うん、わかった”は大概、“よくわからん、
聞いてなかった”という意味だった。そこで、僕は考えた。キミはおそらくパプリカという野菜
が何であるのかは知っているだろう。だとすると、パプリカについて考えた時に連想したこと
を取りとめもなく考えているのだろう、そう僕は結論した。そこで、赤ピーマンとパプリカの違
いについて話してみたということさ。どうやら、当たっていたようだね。一年のブランクがあっ
たが、僕のキョン観察技能はそれほど衰えてはいないようだ」
 そういって、佐々木は悪戯小僧が種明かしをするような、得意げな顔でくっくっと笑った。
「キミが長門さんのエキスパートであるように、キミの表情を読むことにかけては、僕もエキ
スパートである自負があるのだよ。ああ、もっともプロフェッショナルであるキミのお母様に
は敵わないだろうけどね」
 くそ、なんか恥ずかしいぜ。
「ちょっと、早く来なさいよ!」
 ハルヒがまた、俺を呼んだ。今度は調味料売り場に行くらしい。追いつく途中で、ハルヒが
ハタと気が付いたというように、ぽんと両手を打ち鳴らして振り向いた。
「今日は有希んトコで、みんなで夕食食べましょう。野菜や肉の下ごしらえもしたいし、その
ついでに夕食も作っちゃいましょ」
 ほう、ハルヒにしちゃ悪くないアイデアだ。佐々木、どうだ?
「親交を深めるのは明日だと思っていたけど、予定の前倒しというのも悪くはないね」
 長門? 大丈夫か?
「…………いい」
 よし、決まりだ。ハルヒ、メニューどうするんだ?


211 :パーティ 7/12:2007/05/24(木) 04:08:57 ID:Zr/Vl4CQ
「そうね、さっきの春キャベツがいい感じだから、もう半球買って、ポトフ風野菜煮込み
スープを作って、メインは……そうねぇ。肉は明日食べるから今日はお魚かしら。さっきは
エビとイカのいいのがあったからスルーしたけど、タラで、ホイル包み焼きがいいかもしれ
ないわね。そうなると、エノキとエリンギも買っておきましょう。ううっ話してたらお腹減ってき
たわ」
 一体、どんな物を買うとそれができるのか、さっぱりだ。お前さんに任すよ。
「見栄えがして、格好つけられるわりに、簡単な料理だから、この機会に覚えておくといいわよ」
 ハルヒは燃えすぎた蝋燭の炎のように瞳を輝かせていた。きっと、すばらしい出来映えの
料理を幻視して舌なめずりをしているに違いない。
「油と調味料も買うけど、どうせ使い切れないんだから、少し使っておきましょ。明日使って
さらに余った分は有希んトコに置いておけばいいし。あんたは知らないだろうけど、この娘
の台所って包丁とまな板くらいしかないんだから」
 まぁ確かに、カレー皿と鍋、レトルトのカレーと米くらいしかなかったな。あ、そうかキャベツ
の千切りしてたから、包丁とまな板はあるのか。
「ひとつ、聞いてもいいかな、キョン。会話の流れを見るに、長門さんはひとり暮らしのようだ。
うむ、それはまぁいい。問題はだね、ひとり暮らしの女性の台所のことをキミはどうして、そん
なにくわしく知っているのかな? これは大いに疑問だよ、そうは思わないか、キョン」
 ちょ、佐々木さん、目が怖いんスけど。
「そりゃ、何度か長門の部屋にはお邪魔しているからな、この一年」
 一年どころか四年前から去年の七月まで、俺は長門宅で三年寝太郎だったわけだが、それ
は朝比奈さんと俺、そして長門だけの秘密だ。
「ほう。まぁそれはそうだろうね」
 佐々木は未だに怖い目をしたままだった。なるほど、これが信用されてない目というヤツか。
「有希、ご飯ある? じゃあ、パンとかは買わなくてもいいわね」
 ハルヒは長門と会話しながら、夕食のメニューのための買い物に移ったようだ。
「ブラックペッパーと、オリーブオイルとサラダ油、塩はあったっけ? ないの? あとは、
コンソメと焼き肉のタレも買わないとね。あ、そうだ脂身も買わないと、有希、バターは?
ないのね」
 ぽいぽいぽいと、調味料の類がカートに投げ入れられる。その後、精肉売り場にとって返し
て、脂身をいくつか、加工品売り場で、ソーセージ、チーズをいくつか、バターなどを迷いなく
カゴに投入する。明日って鶴屋さん来るんだっけ?
「とりあえず食材は、こんなもんね、ソフトドリンクとかも買っておきましょうか」
 そう言って、ハルヒはドリンク売り場に直行する。さすがに制服でビールは買えないので、
酒類売り場は……って白ワインなんか、どうするんだ。
「料理の味付けに使うのよ」(※未成年の飲酒は法律で禁止されています)
 買えるかな? 多分大丈夫でしょ。なんて言いながら、一瓶忍ばせる。
「ウーロン茶に、ミネラルウォーターと、佐々木さん、飲み物の好みある?」
「そうね、100%果汁のオレンジか、アップルをお願い」
 ハルヒは我が意を得たりとばかりに、アップルジュースとオレンジジュースをカゴに入れる。
おい、ハルヒ。そ、そろそろ限界だぞ。カートがえらく重くなってきた。これを俺ひとりで運ぶの
かと思うと気が遠くなるぜ。
「情っさけないことをいってんじゃないわよ、キリキリ運ぶ!」
 発破を掛けるハルヒとは対照的に、佐々木は気を利かせて、カートを一緒に押してくれる。
「飲み物とかは僕が持つよ」
 助かるぜ、やはり持つべき物は頼りになる友人だな。
「ほら、まだお菓子とか乾き物も買うんだからね」
 まぁパーティには乾き物も必要だしな、適当にスナック菓子もカゴに乗せる。
「あ、そうだ。ゴミ袋とビニール袋も買わないと」
 言い捨てて、ハルヒはぴゅーと尻に帆を掛けてどっかに行った。いつもの事ながら、
超小型の台風みたいなヤツだな。
「涼宮さんはまさに嵐のようなという比喩表現を用いる的確な対象だね」
 佐々木がこれまた的確な相づちを打った。ハルヒがいなくなったことにより、周囲の空気
がまったりするのがわかる。ちなみに長門は俺たちの後方1.5m~2mの位置を的確に
キープしており、店内を流れる音楽に耳を傾けているように見えた。


212 :パーティ 8/12:2007/05/24(木) 04:12:58 ID:Zr/Vl4CQ
「今の内に言っておく……我々はあなたおよびあなたの友人に害意を持っていない。あなたの
友人は我々にとっても、重要な観測対象であり、不測の事態の発生はこれを歓迎しない。
……この決定は情報統合思念体においての現在の共通認識であり、わたしはその認識に従う」
 うお、長門がこんな長ゼリフを。
「キョン。これは、僕が長門さんに仲間として容認された、ということかな? 観測対象という
表現に多少引っかかりを感じるが、大意は伝わったし、その意志を僕は歓迎するよ」
 まぁ、そういうことなんだろう、多分、きっと。その上で、そのセリフは長門に言ってやれ、
その方がいい。
「そうだね、長門さん、ありがとう」
 そう言って、佐々木は長門を軽くハグした、って何してんだ?
「いや、言葉では伝えきれないだろうと思って、肉体的接触を併用してみた」
 そういや、言葉による情報の伝達には齟齬が発生するって言ったのは長門だったか。一年前
のこと、長門が初めて俺に対して一行以上の言葉を伝えた日のことを思い出しながら、そう言った。
 そんな俺の言葉を聞き、振り向いた佐々木の眉はハルヒもかくやというようにつり上がっていた。
 な、なんで怒っているんだ?
「ちょっと、待ちたまえ。この会話の流れで、キミがそう言ったということはアレか、キミが夢中に
なっているのは涼宮さんだとばかりに思っていたが、それは僕の早合点だったということかな?」
 な、なんでそうなる?
「そうだね……女のカンさ、とりあえずはそう言っておこう。ちなみに僕は怒ってなどいない。
どちらかと言えば悲しんでいるのだ。それでは、キョン。キミの誠意ある返答を期待したい」
 まず、言っておくが、俺とハルヒは別に付き合ってなどいない。それは中学三年時の我らが
クラスメイトたち並みに的はずれであると指摘しておこう。続いて、長門と俺は……仲間だ。
少なくとも、お前がいま邪推しているような関係ではない。……一瞬、口ごもってしまった。
 それだけ俺が長門との間に抱えてしまった秘密は大きく、そして多かった。だが、佐々木に
詰め寄られている時に、この沈黙は致命的だ。
「……残念だ、キョン。残念だ……本当に残念だ」
 悔しそうに、心底悔しそうに、佐々木はつぶやいた。
「はいはい、お待たっせ、どしたの?」
 ハルヒがゴミ袋とビニール袋、アルミホイルなどを抱えてやって来た。
 いや、何でもないんだ、別に、な。
 無事に会計を済ませ、俺たちは長門のマンションを目指した。つうか、マジ重いぞ、これ。
俺の両手は完全に買い物袋に占領され、その一部は佐々木の手にあった。ちなみに、俺の
名誉のために言っておくが、一番軽い袋だからな。俺の荷物であった学校指定のバッグは、
長門が抱えるようにして持っている。ん、ハルヒか? 自分の鞄だけ持って、先頭でのっしのっ
しと歩いているよ。
 スーパーマーケットを出てから、俺と佐々木の間に荷物の受け渡しに関する物以外に会話は
なかった。今も俺の、後方1mほどを佐々木は歩いている。
 トホホ、なんでこんなことに。だが佐々木にだって話せないことはある。そして、俺は俺の不思
議ライフを佐々木にすべて打ち明けられるほどには、佐々木を未だに信用してはいないのだ。
……仕方ないだろ、俺たちは去年一年間を共有していないんだから。佐々木も俺の気持ちは理
解しているだろう。あいつは賢いヤツだ。それを認められないほどじゃあないはずだ。
 そんな風に、気分をブルーにしながら、俺たちは長門のマンションについた。

 さて、久しぶりの長門邸訪問である。とは言っても、前回と別に何も変わっていない。殺風
景は、この部屋の不変の属性らしく、その感想はいささかも揺らいでいなかった。荷物を玄関
に降ろす。即座に、ハルヒの叱咤が飛んだ。
「ほら、キョン。そんな所に店広げてどうするのよ。こっち、持ってきなさい」
 ひいこらいいながら、荷物を台所に持ち込む。
 ハルヒは俺の置いた荷物から、手際よく、肉やら何やらを取り出し、それぞれ所定の場所に
詰めていく。野菜はいいのか?
「野菜はこれから洗って切るからいいのよ。佐々木さん、飲み物持ってきて……うん、ありがとう」
 なんで、お前は佐々木にはちゃんと礼が言えて、俺には命令と叱責しか与えられんのだ。
「そりゃあんたがグズでのろまな亀だからよ」
 教官、俺は別にCAを目指すつもりはないんだがな。
「うっさいわね、さっさと残りの荷物も持ってきなさい! 二秒で!!」
 はいはいっと、佐々木、何を笑っているんだ。何か面白いものでも在ったのか?


                                       「パーティ」(3)に続く