114 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/17(火) 02:33:52 ID:qDgOpWlo
中学最後の水泳の授業というのは、俗な言い方をするならば、中学最後の目の保養
とでも言うべき物なのである。自由時間となり、水と戯れるクラスメイトたちを余所に、俺
と佐々木は、プールサイドでなんとなく並んで立っていた。
さて、白魚のような、というのはこういう時に使う形容詞だろう。そのくらい、初めて見る
佐々木の肌は白く、そしてそんな姿に改めて佐々木は女の子なのであると、認識してい
て当然であるはずのことを、俺はさらに認識していた。
だからなのだろう。いつしか、会話はとぎれていた。
だが、別段、沈黙が息苦しくなるような関係ではなかったから、並んで、夏を感じさせ始
めた風に吹かれていた。プールサイドの金網に背を預けたまま、佐々木は、どこかを見つ
めるような、どこも見ていないような、そんな眠たい瞳をしていた。
見つめていたのに気がついたのか、瞳の焦点が戻る。
「すまない、何か言っただろうか?」
んにゃ、お前があんまりにもぼーっとしてるようだったから、ちょっとな。
「そうかい。僕はそんなにぼうっとしていたかい。すこし、考え事をしていてね。
ねぇキョン、キミは一期一会という言葉をどう思う?」
なんだ、藪から棒に。そんなの時間を大切にってことだろう。まぁわかっちゃいるけど、
なかなかこれが、な。
「さすがはキョンだな。実に適切な返答をしてくれる。僕は一期一会という言葉をチャンスは
一度きりという風に捉えているんだ」
ほう、それはなかなか野心的な表現だな。確かに、出会いが一度しかないって考えるの
なら、そういう風に捉えることもできるだろうな。
「キョン、キミの場合、出会いは一度じゃない、ということかな」
生きていれば、チャンスはあるさ。生きているんだからな。うまくいくこともあるだろう。
もちろん、失敗することもあるだろうな。だけど、出会うことはいつだってある。同じ出会いが
ないだけさ。同じ時間を繰り返すことはないのだから。そうだろ。
「そうだな、確かにそうだ。僕は失敗できないと捉えていたということか」
ん? ああ、そういう考え方もあるのか。そりゃ、佐々木、お前が何だってこなせすぎる
所為だな。俺を見てみろよ、何やったってうまくなんかいかない。凡人中の凡人だぜ。
そんな人間が14年も人生やってると、一度や二度の失敗で後がないなんていちいち
思ってはいられないのだ。
たとえば、お前は知らないだろうが、夏休みの宿題は夏休み中にやらなくてもいいのだよ。
「ほう、それは面白い意見だね、拝聴させてくれるかい?」
俺は休み明けの時間割から、宿題の提出に最大一週間くらいの猶予があることを解説した。
それを聞いた佐々木は、いつものように真似できない笑い声をたて、皮肉めいた瞳で俺を見た。
そこにはさっきまでの佐々木にはなかった輝きがあった。まるで、夏の海のような輝きが。
「ありがとうキョン。僕は夏休みの宿題は七月中に終えて、後顧の憂いなく八月を楽しむ派
だったのだが、キミのようなやり方に転向するのも悪くはないな」
そうなのか? じゃあ、夏期講習の時にでも宿題を写させろ。300円あげるから、マクドか
吉牛くらいならおごってやるから。
116 :プールサイドのふたり2/2:2007/04/17(火) 02:37:56 ID:qDgOpWlo
「キョン」
そう言って、佐々木は俺を冬の日本海のような瞳でじっと見つめた。
くっ普段饒舌なヤツが沈黙で責めると迫力が違うな。
わかってるよ、自分の力でやらなければ身に付かないってんだろ。
お前は俺のお母さんか。
「まったく、その減らず口をどうにかしたまえよ。ご母堂が愚痴をこぼすわけだ」
おいおい、佐々木よ。お前はいつの間にお袋の茶飲み友達になっているんだ。
お前だけは俺の味方だと思っていたのに。
「くくく、僕はいつだってキミの味方さ。ご母堂へのフォローの言葉を考えるだけで、
作文能力が大分上がったような気がするけど、ね」
そういえば、最近折りに触れては
「そんなんじゃ、佐々木さんと同じ学校に行けないわよ」
なんて言うのだが。アレはお前の仕業だな。大体、佐々木がどうして俺なんぞと
進路を同じくしなければならないのか、まったくもって理解に苦しむ。
「そ、そうかい。まだ、夏休み前だし、キミにだって進路ぐらい考えているんだろ」
まぁ、どっか公立に引っかかればいいさ。そうだな、家からの距離でいうなら、
市立とか北高くらいか。もっとも市立じゃ全然ひっかからないか。
「試験なんてテクニックと勉強の仕方でカバーできる部分が大きいんだ。ちゃんと
研鑽すれば、大丈夫さ」
本当にお前は俺の母親か。
「いや、失礼。僕としたことが、出過ぎた真似をしてしまったようだ。許してくれたまえ。
高校受験だってキミの人生の選択だ。僕のような人間が口を出すべきじゃあなかった」
おいおい、そんな風にマジに言うような話題か、これが。
いつもみたいにいじめっ子ぽく、笑っていろよ。
「いやだな、キミはそんな風に僕をみているのかい?」
イヤ何、ごく稀に、ですよ、佐々木さん。
「さて、泳ぐかな。自由時間が終わってしまう。どうだい、一勝負といかないか」
佐々木はそういって、金網に預けていた体重を両の足に移して、水泳帽を被り直した。
その姿を見ながら、俺は片手を振って断わった。
勝てない勝負をやる趣味はない。
「そうかい。チャンスはいくつもあるんだろ、もしかしたら勝てるかもしれないぞ。
勝負には不思議の勝ちあり、不思議の負けなしというらしいじゃないか」
勘弁してくれ、過大評価されるのには慣れてないんだ。
その気になってしまうじゃないか。
佐々木は苦笑を浮かべて飛び込み台へと向かっていった。
佐々木はスムーズに両手両足を回転させる、理想的なクロールってヤツだ。
水泳部に入っておくべきだったな。水泳で推薦を得ていたかもしらんぜ。
俺はこんな風に見ているだけでいいよ。
美しい物は鑑賞するためにあるのだよ、うん。
涼宮ハルヒシリーズで出たりしてますか?
あまりせめて憂鬱ではでてませんよね
それってここのブログの管理者とかが作ったやつなんですか?まぁいいですね^^