内分泌代謝内科 備忘録

世界における高齢者に対する不適切な処方の頻度

世界における高齢者に対する不適切な処方の頻度についてのメタ分析
JAMA Netw Open 2023; 6: e2326910. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.26910

背景
平均寿命の延伸と少子化の進行に伴い、人口の高齢化は避けられない結果となっている。65 歳以上の人口は、2020 年には 7 億 2,700 万人に達し、2050 年には 15 億人に達すると推定されている。

人口の高齢化は社会的に注目されているだけでなく、この時代が直面している大きな健康問題でもある。体が徐々に老化するにつれ、体力低下は避けられず、高齢者は多疾患、特に慢性疾患にかかりやすくなる。

現在、高齢者の慢性疾患の治療は、単一の疾患に集中する傾向がある。複合的な慢性疾患の増加に伴い、高齢の患者は同時に複数の薬を使用しなければならないことが多い。患者が同時に 5 種類以上の薬を使用することをポリファーマシーと呼ぶ。

高齢者が使用する様々な薬剤の中には、潜在的な有害リスクが期待されるベネフィットを上回る場合がある。このような薬剤は、潜在的に不適切な薬剤(potentially inappropriate medication: PIM)と呼ばれる。

Beers 基準は、老年人口における PIM に関する最初の専門家のコンセンサスだった。米国老年医学会は、米国を拠点とする専門家委員会を通じて、Beers 基準の定期的な見直しと更新を引き受けており、現在 6 回目の改訂が行われている。

Beer criteria 2019
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30693946/

ユニバーシティ・カレッジ・コークは、多くの分野の専門家を組織し、デルファイ法を用いて高齢者に対する処方のスクリーニングツール(Screening Tool of Older People's Prescriptions: STOPP/Screening Tool to Alert to Right Treatment: START)基準を策定し、2014 年に第 2 版が公表された (2023 年に第 3 版が公表されている)。これら 2 つの基準は、世界中で広く使用されている。

STOPP/START criteria ver.3
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10447584/

これまでの研究結果によると、高齢患者における PIM は、薬物有害事象の発生率および救急外来受診率の増加と密接に関連しており、PIM がない患者と比較して、健康関連 QOL は悪化する。

現在、プライマリケアにおける PIM のメタ分析が行われているが、外来における PIM については不明確な点が残っている。ある研究では、PIM使用の有病率の減少が報告されている。しかし、別の研究では、外来診療における PIM の頻度は 2016 年の 31.94%から 2018 年には 42.67%に増加したことが示された。

本研究では、外来サービスにおける高齢患者のPIM の全体的な有病率を推定するために、メタ解析を伴う系統的レビューを実施した。


方法
外来における高齢患者に対する PIM の頻度を調べた観察研究を対象にメタ分析を行い、PIM の地域差と時間的な傾向を推定した。

対象となる研究は PubMed、Embase、および Web of Science で 1990 年 1 月 1 日から 2022 年 11 月 21 日までに発表されたものとした。


結果
17 ヵ国の約 3 億 7,120 万人の高齢参加者を含む、94 本の論文を解析対象とした。

全体として、PIM の頻度は 36.7%(95%信頼区間: 33.4-40.0%)だった。

PIM の頻度はアフリカで最も高く(47.0%, 95%信頼区間: 34.7-59.4%)、次いで南米(46.9%, 95%信頼区間: 35.1-58.9%)、アジア(37.2%, 95%信頼区間: 32.4-42.2%)、ヨーロッパ(35.0%, 95%信頼区間: 28.5-41.8%)、北米(29.0%, 95%信頼区間: 22.1-36.3%)、オセアニア(23.6%, 95%信頼区間: 18.8-28.8%)であった。

図1: 世界における PIM 頻度の地理的パターン
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PIM の頻度は低所得地域で最も高く、過去 20 年間で増加傾向にあった (図2)。

図2: PIM の推移
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議論
最も多い PIM はベンゾジアゼピン系だった。ベンゾジアゼピン系薬剤が多く処方されるのは、高齢者では不眠症の有病率が高いからだろう。ベンゾジアゼピン系薬剤は認知障害、転倒、骨折のリスク上昇に関連すると考えられているが、依然として高齢者に対して広く処方されている。

本研究では、PIM の頻度はアフリカが最も高く、次いで南米であった。アフリカの医療状況は比較的劣悪であり、他のほとんどの地域にある高齢者の PIM 基準がアフリカではほとんど見られないことが、この地域で PIM の頻度が高い原因のひとつとなっている可能性がある。

PIM の頻度は国の経済水準とほぼ正反対である。経済状況の悪い国では PIM の頻度が高く、経済状況の良い国ではその逆である。経済状況がよければ、医療環境もよく、医療保険も完備しているのが普通であり、そのために医薬品の合理的な使用がより厳しく管理されることになる。さらに、老年医学の確立は、高齢患者における PIM の蔓延を減少させる効果がある。

最も使用された基準は Beers 基準、次いで STOPP/START 基準だった。2019 年の Beers 基準は最も感度が高く、Beers 基準の更新に伴い、PIM の頻度は増加した。これは主に、Beers 基準にいくつかの PIM 項目が追加されたことによる。

80 歳以上の高齢患者とポリファーマシー患者では、PIM のリスクが高かった。高齢患者におけるポリファーマシーと PIM の頻度との関連を調べたメタ分析では、ポリファーマシーは PIM の独立した危険因子であることが明らかになった。

本研究では、PIM の頻度は過去 20 年間で増加傾向だった。このことは、PIM の世界的な負担の増加を意味する。過去 10 年間、高齢の外来患者におけるPIM使用の世界的有病率は 40%を超えており、PIM の負担が長年にわたって高いことを示している。例えば、抗うつ薬は多くの基準で PIM としてリストアップされているにも関わらず、外来での処方は、2002 年の 5.2%から 2012 年には 10.1%と 2 倍近く増加している。PIM を減らすことで、高齢患者の ADE、特に短期入院の原因となるレベル3の ADE を減らすことができる。


所感
欧米の中でも差はあり、ドイツとオーストラリアが PIM 頻度が比較的低いよう。

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2807922
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