たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子34

2019-02-07 10:10:07 | 日記
大津が自邸に戻ると川嶋皇子がしばらくして訪れた。

大津が草壁と不比等との関係の見解を川嶋に伝えた。

川嶋も感じていたようで「不比等に草壁のことを皇后が指南してやって欲しいとは聞いた。」

「そうか。皇后は我より草壁の立太子を期待しているのか。」大津は唸った。

「なるほど。大津、それは早計ではないかと思うがな。大津、早く子どもを作れ。そうすれば長子で皇統は繋げる。草壁の出る幕はない。」

「こればかりは、天のみ知ること。草壁は阿部との間に最近皇子が生まれた。賢い皇后はそこに目をつけられたのではないか。我はそれならそれで譲る。血生臭い争いは沢山じゃ。誰かの犠牲で賄われる立場ならもう未練はない。」大津は本気で思っていた。なんとでも生きていく方法ならある。

「いくら、皇后に権力があろうとも最高権力は天皇じゃ。そこを間違える方ではないと思うがの。」
川嶋は再び権力争いにこの天皇家がまみれるのはたくさんだと考えていた。

大津の自邸の仕い人が「高市皇子さまがお訪ねに参られました。お会いになられますか。」と大津にたずねた。

大津は快く高市を招いた。

「川嶋皇子もおられたか。大津、ちょっとそなたに愚痴りたくなってな。川嶋も付き合ってもらおうか。」と高市は大きな軀で床に座った。

「今まで草壁の補佐を天皇から任されていたが藤原の鎌足の息子…不比等が任せろというのだ。別に構わぬが天皇より託されたもの、勝手に譲れないと言うと皇后から許可を得ていると譲らぬ。
皇后に直接お目にかかり話すと順序を間違え申し訳ない。先にそなたにいうべきであった。天皇、大津とともに律令の完成に力を尽くして欲しいと言われるのだ。」と高市は語った。

「高市の義母兄とされたら、せめて天皇からと。」と大津は言った。

「それもあるが、急にあの不比等がな現れたことに動揺はしているのう。」と高市はあご髭をさすりながら言った。