シラサギは「翌朝、皇居からの兵に取り囲まれ大津さまを勝手に捕縛しようとした兵に斬りかかってしまいました。そのことの責任を取らされました。大津さまは逆賊の誹りを受けても皇族として堂々とせねばあらぬ、なんのやましいこともないのだ。なおさら堂々とすべきであると仰言せになられ…大津さまの師であった僧行心殿が草壁皇子さまを激しい口調でお諌めいたしましたことに面白くなく飛騨の寺に忍びないが移すと決められたそうにございます。
大伯さま、大津さまの名誉回復とともに道作殿、行心殿の名誉も回復なさってください。」と言い伏せた。
大伯は「皇太后に参内致します。」と答えた。
邸の門辺りが騒がしくなった。
大津を慕う民が駆けつけてきたらしい。
大伯は横たわる大津に「そなたは民に慕われていたのじゃな。そなたが民を慈しんだように。」と声をかけた。なんの反応もないことが大津はもうこの世にいないとあらためて知らされたように思ったと途端に
伊勢から戻る際何度か聞こえてきた大津の声がした。
ー愛おしい大伯。私の元を訪ねてくださりありがとう。私なりに悩みました。私が愛したのは大伯だけです。しかし天皇であるために気持ちを確かめぬまま妻を娶らばならぬことは正直不本意でした。山辺もかわいそうです。私の皇位継承のため誰も咎められることがないようよろしくお願いいたします。ただ争乱にならず皇太后に譲位出来たことお褒めの言葉を頂きたく存じます。また、謀反人の不名誉を着せられても民は褥を用意してくれました。姉上からもお礼を申し上げて下るよう切にお願い申し上げます。ー
「大津…」と再び声をかけると聞いたことのない女人の声で
ー大津さまはあなたさまだけを愛しておられたのは存じております。それでも私は大津さまの妃になれたことは幸せなことでございました。和子は私だけが感じる命であり、結果大津さまを追い詰めたと思うと申し訳なく思います。川嶋の兄上は、和子と大津さまを思ったための行動でございます。私は大津さまを追い、磐余の池で自死した身。大津さまのそばで葬ってはいただけないでしょうが…大津さまの名誉をお守りください。あと哀れに思った民らが私を引き揚げ大津さまのそばに置いてくれました。私からの感謝を伝えてくだされば幸せに思います。ー
山辺皇女…そなたが大津を愛してくれありがとう。そして子まで成してくれた。その命も大切に弔うから安心されよ。
門の前が一層騒がしくなった。
皇太后…持統天皇が参られたのである。
民にとっては一生に一度お見かけできるかどうかの御方である。
しかし、大津を処刑したと民は思い込んでいるため冷ややかな視線を持統天皇に送った。
持統も民の心がわかり、邸に入る手前で踵を返し、民に頭を垂れた。
頭を挙げた時涙が溢れてしまった。
それを見た民たちは皇太后の仕業でないことを悟り全てのものが膝まついだ。
大伯さま、大津さまの名誉回復とともに道作殿、行心殿の名誉も回復なさってください。」と言い伏せた。
大伯は「皇太后に参内致します。」と答えた。
邸の門辺りが騒がしくなった。
大津を慕う民が駆けつけてきたらしい。
大伯は横たわる大津に「そなたは民に慕われていたのじゃな。そなたが民を慈しんだように。」と声をかけた。なんの反応もないことが大津はもうこの世にいないとあらためて知らされたように思ったと途端に
伊勢から戻る際何度か聞こえてきた大津の声がした。
ー愛おしい大伯。私の元を訪ねてくださりありがとう。私なりに悩みました。私が愛したのは大伯だけです。しかし天皇であるために気持ちを確かめぬまま妻を娶らばならぬことは正直不本意でした。山辺もかわいそうです。私の皇位継承のため誰も咎められることがないようよろしくお願いいたします。ただ争乱にならず皇太后に譲位出来たことお褒めの言葉を頂きたく存じます。また、謀反人の不名誉を着せられても民は褥を用意してくれました。姉上からもお礼を申し上げて下るよう切にお願い申し上げます。ー
「大津…」と再び声をかけると聞いたことのない女人の声で
ー大津さまはあなたさまだけを愛しておられたのは存じております。それでも私は大津さまの妃になれたことは幸せなことでございました。和子は私だけが感じる命であり、結果大津さまを追い詰めたと思うと申し訳なく思います。川嶋の兄上は、和子と大津さまを思ったための行動でございます。私は大津さまを追い、磐余の池で自死した身。大津さまのそばで葬ってはいただけないでしょうが…大津さまの名誉をお守りください。あと哀れに思った民らが私を引き揚げ大津さまのそばに置いてくれました。私からの感謝を伝えてくだされば幸せに思います。ー
山辺皇女…そなたが大津を愛してくれありがとう。そして子まで成してくれた。その命も大切に弔うから安心されよ。
門の前が一層騒がしくなった。
皇太后…持統天皇が参られたのである。
民にとっては一生に一度お見かけできるかどうかの御方である。
しかし、大津を処刑したと民は思い込んでいるため冷ややかな視線を持統天皇に送った。
持統も民の心がわかり、邸に入る手前で踵を返し、民に頭を垂れた。
頭を挙げた時涙が溢れてしまった。
それを見た民たちは皇太后の仕業でないことを悟り全てのものが膝まついだ。