「そなたを信じぬわけでない。そんな国体をも変えることまでは我は望んではおらぬ。」と草壁は不比等に言った。
「幼き時父鎌足に聞いたことがあります。大津皇子さまとあなた様草壁皇子は同母兄弟と。」
「何と。」草壁は驚愕していた。
「私は皇太子が天皇になれば斎王さまを解任させ大津さま…天皇の妃として斎王さまを入内させ天皇家を揺るぎない高貴な存在としてこの国を統治していくでしょう。それが皇太弟となられる、同母弟であらせるあなた様がして何の遜色がありましょう。」
「なぜ父上も母上も大津と我は異母兄弟と言うのだ。」
「後継者争いが起きることを望まれなかったのでは。天智天皇と今上天皇である天武天皇のあいだに起こったことを繰り返させないためかと。皇后さまの姉上大田皇女さまの第一男子であらせられる大津さまを皇太子にすれば同母弟もいず、もう国を二分とする戦もないと思われたのでは。」不比等は草壁から視線を外すことなく答えた。
「そうか、そうか。あはは。愉快…こんな愉快な話は久しぶりじゃ。大津に何の遠慮がいろう。あー愉快じゃ。不比等飲もうぞ。」と草壁は下がらせていた仕いの者を呼び不比等に酌をさせた。
「そなたは、楽しい酒の飲ませ方を知っておるのう。」
「皇子さま、父鎌足から聞いた話をしただけでございます。きたる時が来るまで酒は嗜み程度になさいませ。両陛下の覚えもありますから。」
「わかった、わかった。今後も頼んだぞ」草壁は上機嫌で言った。
仕える者には何が起こったか理解出来ないでいたが、とりあえず主人である草壁皇子が機嫌よくしてくれているだけで胸を撫で下ろしていた。
不比等は心の中で愚かな人間ほどすぐ信じがたると草壁の喜ぶ様をみてほくそ笑んでいた。とともに、再び藤原を中央に戻し、天武の好きなようにはさせませぬとも亡き父鎌足に誓っていた。
またどんな悲劇が起こるのかこの皇子はなんとも思わぬのか。敵を斃す痛みを斃された者以上に勝者は痛みを被らなければならいというのに。全くわかっておらぬ。まぁその方が都合良いが。
その数日後皇后から不比等に「礼を申す。そなたには今後草壁の力になってもらいたい。」と仕えの者から伝言を預かった。
不比等は皇后への覚えが良くなったことが嬉しかったが言伝というかたちで天武天皇には疎んじられていることがはよくわかった。
大極殿に向かう廊下を大津が歩いていると草壁が「そなたにはやられっぱなしだなぁ」と声をかけてきた。「はて、我がそなたに何かしたであろうか。」と大津は惚けて見せた。「わからぬのならそれでも良いわ。今のままでやっていけると思うなよ。私が言いたいのはそのことじゃ。」
「幼き時父鎌足に聞いたことがあります。大津皇子さまとあなた様草壁皇子は同母兄弟と。」
「何と。」草壁は驚愕していた。
「私は皇太子が天皇になれば斎王さまを解任させ大津さま…天皇の妃として斎王さまを入内させ天皇家を揺るぎない高貴な存在としてこの国を統治していくでしょう。それが皇太弟となられる、同母弟であらせるあなた様がして何の遜色がありましょう。」
「なぜ父上も母上も大津と我は異母兄弟と言うのだ。」
「後継者争いが起きることを望まれなかったのでは。天智天皇と今上天皇である天武天皇のあいだに起こったことを繰り返させないためかと。皇后さまの姉上大田皇女さまの第一男子であらせられる大津さまを皇太子にすれば同母弟もいず、もう国を二分とする戦もないと思われたのでは。」不比等は草壁から視線を外すことなく答えた。
「そうか、そうか。あはは。愉快…こんな愉快な話は久しぶりじゃ。大津に何の遠慮がいろう。あー愉快じゃ。不比等飲もうぞ。」と草壁は下がらせていた仕いの者を呼び不比等に酌をさせた。
「そなたは、楽しい酒の飲ませ方を知っておるのう。」
「皇子さま、父鎌足から聞いた話をしただけでございます。きたる時が来るまで酒は嗜み程度になさいませ。両陛下の覚えもありますから。」
「わかった、わかった。今後も頼んだぞ」草壁は上機嫌で言った。
仕える者には何が起こったか理解出来ないでいたが、とりあえず主人である草壁皇子が機嫌よくしてくれているだけで胸を撫で下ろしていた。
不比等は心の中で愚かな人間ほどすぐ信じがたると草壁の喜ぶ様をみてほくそ笑んでいた。とともに、再び藤原を中央に戻し、天武の好きなようにはさせませぬとも亡き父鎌足に誓っていた。
またどんな悲劇が起こるのかこの皇子はなんとも思わぬのか。敵を斃す痛みを斃された者以上に勝者は痛みを被らなければならいというのに。全くわかっておらぬ。まぁその方が都合良いが。
その数日後皇后から不比等に「礼を申す。そなたには今後草壁の力になってもらいたい。」と仕えの者から伝言を預かった。
不比等は皇后への覚えが良くなったことが嬉しかったが言伝というかたちで天武天皇には疎んじられていることがはよくわかった。
大極殿に向かう廊下を大津が歩いていると草壁が「そなたにはやられっぱなしだなぁ」と声をかけてきた。「はて、我がそなたに何かしたであろうか。」と大津は惚けて見せた。「わからぬのならそれでも良いわ。今のままでやっていけると思うなよ。私が言いたいのはそのことじゃ。」