川嶋皇子が「大津、聞いたか。草壁が伊勢に行って斎王さまに懸想していると。」と声をかけてきた。
「らしいな。川嶋、斎王を見たことがあるか。」大津はまんざらでもない気持ちで聞いた。
「斎王としてみたのは伊勢に行かれた日だったな。綺麗じゃった。我の妃として迎え入れられぬものかと少し自分の身分を呪った。なにしろ御主の同母姉じゃしな。近江にいる頃大伯皇女は可憐で、でも気丈な不思議な雰囲気をもちいつも憧れていた。まぁ、草壁なら普通に好意を持つだろうな。」川嶋皇子は遠い目をして言った。
大津は「なにがあったのじゃ。」と少し余裕をもち聞いた。大津はその大伯と心を通わせ姉の言う奇跡を信じ、生きているのだから。
「まぁ、それだけなら誰しもわかる話だが、天皇皇后両陛下に斎王の任が解かれた暁には草壁の第一妃に迎えたいと談判したそうじゃ。斎宮の任が解かれるのは斎王としての行動、資質がなかった時、また天皇が薨御された時と決まっておると両陛下の逆鱗に触れたそうじゃ。それでも草壁は我と斎王は異母姉、なんの不思議もないはずです、と喰い下ったそうじゃが。」と川嶋は面白そうに言った。
「当たり前じゃ。では件の大名児は諦めたのか。」
「大名児はそなたが袖にしているだろう。大津に袖にされた女なんぞ、魅力もない、大名児が大津のものであれば奪いがいがあるものとも言っているそうだぞ。」
「それは大名児をなんとかしろと言う妖言か。馬鹿らしい。」
大津は呆れた。怒りを通り越し呆れた。
あの不可侵の女神にそんな不埒なことを公言する気持ちが理解出来ない。
それとともに大名児がそんな辱めを受けているのが申し訳なかった。
華のような美しい容姿を持ち、どこか強さを秘めている。そんな大名児が草壁と我のせいで、あることないことを言われ枯れていく姿はいたたまれない。
参内すると、少しやつれた大名児が大津の装束、靴など整え仕えてくれた。
大津は「大名児、息災か。」と自分でも残酷なことを聞くと思った。
大名児は、美しい顔立ちをやや悲しそうに見せ「酷いことをお聞きになりますのね。」と顔を伏せた。
そんなにも我を待ってくれていたのかと思うと愛おしさが急に大津を包み始めた。
「山辺皇女にも聞かなくてはならないが、我の元に来るか。存じておると思うが我のとこには行き場のない児の世話を山辺がしておる。そなたも手伝ってもらえぬか。草壁に求められているそなたに我が言うのもおかしな話だが。」といつものお人好しが出てしまった…と少し慌てた。
「それは大津さまのそばにいてもよろしいのですか。」と華が咲いたような驚きを見せた。
「女人として私を見てくださいますのね。」と大名児は嬉しそうに聞いた。
「人間としてもじゃ。」と大津は言った。
「らしいな。川嶋、斎王を見たことがあるか。」大津はまんざらでもない気持ちで聞いた。
「斎王としてみたのは伊勢に行かれた日だったな。綺麗じゃった。我の妃として迎え入れられぬものかと少し自分の身分を呪った。なにしろ御主の同母姉じゃしな。近江にいる頃大伯皇女は可憐で、でも気丈な不思議な雰囲気をもちいつも憧れていた。まぁ、草壁なら普通に好意を持つだろうな。」川嶋皇子は遠い目をして言った。
大津は「なにがあったのじゃ。」と少し余裕をもち聞いた。大津はその大伯と心を通わせ姉の言う奇跡を信じ、生きているのだから。
「まぁ、それだけなら誰しもわかる話だが、天皇皇后両陛下に斎王の任が解かれた暁には草壁の第一妃に迎えたいと談判したそうじゃ。斎宮の任が解かれるのは斎王としての行動、資質がなかった時、また天皇が薨御された時と決まっておると両陛下の逆鱗に触れたそうじゃ。それでも草壁は我と斎王は異母姉、なんの不思議もないはずです、と喰い下ったそうじゃが。」と川嶋は面白そうに言った。
「当たり前じゃ。では件の大名児は諦めたのか。」
「大名児はそなたが袖にしているだろう。大津に袖にされた女なんぞ、魅力もない、大名児が大津のものであれば奪いがいがあるものとも言っているそうだぞ。」
「それは大名児をなんとかしろと言う妖言か。馬鹿らしい。」
大津は呆れた。怒りを通り越し呆れた。
あの不可侵の女神にそんな不埒なことを公言する気持ちが理解出来ない。
それとともに大名児がそんな辱めを受けているのが申し訳なかった。
華のような美しい容姿を持ち、どこか強さを秘めている。そんな大名児が草壁と我のせいで、あることないことを言われ枯れていく姿はいたたまれない。
参内すると、少しやつれた大名児が大津の装束、靴など整え仕えてくれた。
大津は「大名児、息災か。」と自分でも残酷なことを聞くと思った。
大名児は、美しい顔立ちをやや悲しそうに見せ「酷いことをお聞きになりますのね。」と顔を伏せた。
そんなにも我を待ってくれていたのかと思うと愛おしさが急に大津を包み始めた。
「山辺皇女にも聞かなくてはならないが、我の元に来るか。存じておると思うが我のとこには行き場のない児の世話を山辺がしておる。そなたも手伝ってもらえぬか。草壁に求められているそなたに我が言うのもおかしな話だが。」といつものお人好しが出てしまった…と少し慌てた。
「それは大津さまのそばにいてもよろしいのですか。」と華が咲いたような驚きを見せた。
「女人として私を見てくださいますのね。」と大名児は嬉しそうに聞いた。
「人間としてもじゃ。」と大津は言った。