信州・佐久で、ものづくり

信州・佐久在住の「ものづくり」の裏方である生産技術一筋二十数年。一芸より多芸を求められる人間から見た「ものづくり」論。

歯科用イオン導入装置 開発苦労話 その9

2016年05月31日 20時43分00秒 | 日記

今回は医療機器のリスクマネジメントについて書きます。JIS T 14971 医療機器−リスクマネジメントの医療機器への適用という規格に基づいて実施するのですが、医療機器メーカー百社あれば百パターンあるような類のものです。セミナーも結構、行われていますが、実際の申請には「アナタの会社の製品なのですからアナタの責任で考えて下さい」というオチがつくようです。

そりゃ~そうでしょう!下手をすると自社製品の弱み・脅威、ノウハウをオープンにしてしまうようなもの。

また、「教科書にこう書いてあったので、その通り書きました」って「今まで事故がないので、今後もありません」に通じる無責任さの象徴ではないでしょうか?行政の専門家は百種類の医療機器があれば、百掛ける百の1万個の潜在リスクがあるんじゃない?真剣にリスク評価しましたか?それこそ科学的に検証しましたか?と追求してきます。

教科書を書いたのは誰だ!リスクマネジメントをしたのは誰だ!開発者がアホやから・・と誰かのせいにしたい、では進歩のない人です。(いますよね!いましたよ!)

さすがに歯科用イオン導入装置のリスクマネジメントは掲載できないので、ACアダプターについて”条件付き程々に”考えてみましょうか。

今後のリスクマネジメントを進めるにあたり言葉の定義

  • ACアダプター:商用電源(AC100V,AC200V)からSELV(安全超低電圧)である直流電源を得る装置(直流のみ限定にさせて戴きます)
  • DCプラグ:ACアダプターから医療機器に直流電源を供給する凸型形状の2極の電極
  • DCジャック:医療機器表面に設置され、ACアダプターから直流電源を受ける凹型形状の2極電極

次回から数回にわたり、ACアダプターについて”条件付き程々に”リスクマネジメントしてみましょう!但し実用に耐えないとか、脆弱とか部品の欠陥、そもそも能力や性能不足はスペースのムダなので省きますよ!


歯科用イオン導入装置 開発苦労話 その8

2016年05月29日 19時11分34秒 | 日記

6月の「歯と口の健康週間」を前に、虫歯を予防する歯科用イオン導入装置のお話をしております。

歯科用イオン導入装置なのですが、患者様には?%のフッ化ナトリウム溶液を脱脂綿に染ました歯列型の電極を噛んでもらい、手に電極棒を持ってもらうことで回路を形成します。この構成で大体、数キロから数十キロオームの人体抵抗となります。

歯科用イオン導入装置の回路を簡単に原理説明すると、歯科用イオン導入装置は水の入った「タンク」と、その取り出し用の「蛇口」に例えることができます。歯科用イオン導入装置のパネルにはダイヤルつまみがありますが、それが「蛇口」。見たことのある人なら分かりやすい、と言いたいところですが、見たこともない、という反応もありそう。

歯科用イオン導入装置で電流値の所定値まで上がらない人がいます。それは、形成されている人体抵抗が高いから。手を濡らしてもらったり、接続を見直してもらうことで解決するのですが、歯科用イオン導入装置のパネルにはダイヤルつまみを右一杯に回す操作をされる方もいます。社員ですらやっちゃう、この行為・・・ムダな行為です。場合によっては危ない、とも言えます。何故でしょう?

人体抵抗とは蛇口につなぐホースとみなして、ホースがストローのように細い状態=人体抵抗高い、と考えてください。蛇口も締め切った状態からストローから水の出るところまでは、蛇口の開け閉めで出る量を調整できますね。でも一定量以上は蛇口を全開にしてもストローを通る水の量しか出てきません。

反対にホースが蛇口と同じ太さになったら、どうでしょうか?これは手を濡らして人体抵抗を下げた時と同じです。この時、さっき蛇口全開にしたままホース(患者)をつないだらズブ濡れ、つまり危害を発生してしまいます。

もう少し科学的に説明すると中学校で習うオームの法則で説明できます。固定である電圧を人体抵抗で割るとMAX電流値が求められます。ダイヤルつまみを右一杯に回してもMAX電流値以上は絶対に流れません。

これまでの説明だと、ズブ濡れ以上の水没の危害の可能性が潜んでいることに気づきますよね!蛇口の開け閉めだけでは危ない!と。

安心して下さい!歯科用イオン導入装置にはタンクと蛇口の間に、流れ過ぎを防止する細い管を入れてあります。

ここから、神から授かった装置という工場長、と科学的根拠の筆者との衝突問題!

ひとつめ:人体抵抗を理由に施術に必要な電流値に上げられないのは開発者として怠慢!と来た。

MAX電流はオームの法則に従うしかない。単純に電流値を上げるには前述のタンクの高さを上げる(つまり電圧を上げる)方法はあるが、ジュール熱による火傷や組織壊死のリスクも増大する。つまり下手に工場長の挑発に乗ったらリスクを抱えてしまうというトラップでもありました。

ふたつめ、みっつめ・・・と、人をオトシめるネタは尽きないのですが、開発サイドとしても大学の研究においては所定の電流を発生できる装置が必要でした。そこでトランジスタの規格表で耐電圧をみて部品を探して(国内で部品入手困難になりつつありました)、72ボルトや100ボルトの装置を作って提供しました。さすがに人間を含め生体には使えません。歯科用イオン導入装置が何ボルトなのかは企業秘密です・・・実際にテスタで測れば分かります。

歯の実験には牛の歯を利用するのですが・・・狂牛病(危険部位ですよ!)があって代替の豚でも地元の屠場から入手する許可を得るのは困難を極めましたね。屠場の人から現地で歯を抜くのはアナタですよ!と言われたり・・・!


歯科用イオン導入装置 開発苦労話 その7

2016年05月27日 19時37分03秒 | 日記

6月の「歯と口の健康週間」を前に、虫歯を予防する歯科用イオン導入装置のお話をしております。

商用電源、例えば100Vのコンセントにつないで使う医療機器において、基板にも金属ケースにも他の配線にも端子にも操作者・患者どちらにも絶対触れない構造でない限り、100Vの電気を通す電線は皮一枚(!)の被覆つまり基礎絶縁ではダメと言われます。人体に危害のある電気を流す電線やモーター等の構成物は・・・二重絶縁!電気ドリルなど工事現場の電気工具では当たり前に見られますね。

筆者が初めてJIS試験(AC100V機器)を受けた時にバッチリ指摘された内容です。対策は簡単で電源の被覆単線2本に電気絶縁材のチューブをかぶせただけ。筐体も樹脂でしたので、そこは楽にクリア。その他に二重絶縁によるものと同等以上の感電に対する保護を与える単一の絶縁のことを強化絶縁と言います。

医療機器から話が外れますが、水に沈んだり、水を掛けたり、電線をネズミにかじられたでもない限り漏電なんか考えられない、と思うでしょ!

発熱する機器、ヒータやトランス、モーターは冷えた状態で絶縁抵抗OKなのに電気を通すと・・・絶縁抵抗が下がって漏電することがあります。また電線を挟んでネジ締めちゃった!で、漏電。古い建物での漏電箇所探索は嫌ですね。電線引き直しちゃう方が早いって場合もあります。漏電ブレーカーの劣化で、というパターンも・・・自分の家で食らいました。

安全な電圧っていくつなの・・・安全超低電圧:SELV:一般的な電気機器であるクラスI機器の場合には、使用者が触れることのできる部分と安全アースとの電位差が、危険電圧とならない構造で保護してある構造で、線間電圧またはアースとの電位差が尖頭値42.4V、直流60V以下の回路となっています。

電気屋(電気工事する人ね!)では42Vを「死に(しに)ボルト」と言って、これ以上の電圧だと感電して死ぬことがある、と言います。これは身体の表面で乾燥状態の話です。歯科用イオン導入装置では、こんな電圧は恐ろしくて設定できません。次回は歯科用イオン導入装置の電流について、お話ししましょう。全員、中学校からやり直し!って内容ですが、筆者は出力100Vのイオン導入実験機も試作していました・・・生体には使えません!

前回の絶縁話・・・被害妄想?思い込みだろ!と言われそうですが、被害者は他にも数人います!


歯科用イオン導入装置 開発苦労話 その6

2016年05月26日 19時25分38秒 | 日記

6月の「歯と口の健康週間」を前に、虫歯を予防する歯科用イオン導入装置のお話をしております。

医用電気機器-第1部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項 JIS T 0601-1(以下、第1部)を前回の投稿で御紹介しましたが、さすがに医療機器を対象としているだけあって「絶縁」については細かく規定しています。使用する絶縁材の耐電圧、耐熱、沿面距離、空間距離などなど。その中で一番厳しい試験を受けるのがトランス(変圧器)です。

トランスは電気的に一次側と二次側の絶縁ができているはず・・・という「できているはず」を細かくチェックされ試験費用も高くなります。またトランス単体、ニスを塗っていないトランス、ボビン単体等々も試験用に提出するのです・・・とは言いながら筆者自身はトランスが試験対象になる製品の経験はないので、トランスの話は終了。

筆者の開発した歯科用イオン導入装置も電池駆動またはACアダプター駆動なのに・・・絶縁には気を遣っています。基本的に電池駆動なら感電することはありません。詳細は企業秘密にさせて戴きますが、とにかく歯科用イオン導入装置は大丈夫!

絶縁ついでに会社と絶縁することになった劇場型絶縁話があります。

社員Aの設計した医療機器ではないが、医療関係者向け製品。この製品で使われている部品の電気的故障がチョコチョコ発生。筆者は部品を1週間休みなしに断続的にON-OFFしたり、数千ボルトのスパークを飛ばしても壊れないことを確認していました。ところが社員Bが、この製品を耐電圧試験機にかけたら壊れた!

そうしたら、総括になりたいけどなれない人と社員Bが、たいそう大喜びで、筆者に対して壊れる原因を見つけられなかった&ネガキャンを展開・・・(総括=総括製造販売責任者)

科学的に説明しますと原因は、今回の「キーワード」+「不良」です。そういう設計になっており、原因を見つけられなかった事実はありますが、何もしない人間が行動する人間を批判・侮辱する(科学的に問題解決しない)体質が許せないので・・・絶縁しました。

ちなみに現在、法改正により総括は経験年数だけで誰でもなれます。(当時、なりたくてもなれない人が多かったようですが、製造販売業のステータスだったのでしょうね。)

「絶縁」の恐ろしさを知らない人達と「絶縁」した、こぼれ話でした。歯科用イオン導入装置の話は続きます。


歯科用イオン導入装置 開発苦労話 その5

2016年05月25日 19時34分41秒 | 日記

6月の「歯と口の健康週間」を前に、虫歯を予防する歯科用イオン導入装置のお話をしております。

医用電気機器-第1部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項 JIS T 0601-1(以下、第1部)というものがあります。参考程度でしょ、と考える方もおられるかと思いますが、電気を使う医療機器は、この規格をクリアする必要があります。しないと、製造販売することができません。

この第1部より医用電気機器-第1-2部:安全に関する一般的要求事項-電磁両立性-要求事項及び試験 JIS T 0601-1-2(以下、第1-2部)をクリアするのが難しい、と「知った顔」の人が多いのです。でも筆者は第1部を先にじっくり読んで設計に生かすべきと考えています。

何故かっ!

実は、この規格ですが、IEC規格から来たもので電線の色分け等、日本の電気屋さんの常識とは違います。日本で直流だとプラスは赤、マイナスは黒って常識じゃん!と思いますが、ヨーロッパでは?日本ってガラパゴスなのかも知れません。ちなみにアース線は緑1色ではなく、グリーンイエローを使って下さい。

筆者も悩んだこと!UL規格の電線はPSE違反?ってこと。少なくともAC電源や高電圧ラインはPSEマーク付を使った方が無難な気がします。筆者は電気工事士免状持ちなのでPSEマーク品の使用をお勧めしておきますね。

ちなみに中国から安い電気製品を仕入れて日本で売ろう!と思ったらPSEマーキングは確認して下さいね。中国製品にはCEやULマーキングがあってもPSEマーキングのないものがあり、日本国内での使用はアウト!ってこともあります。事故ったら大変なことになりますよ!

医療機器について専門の試験機関よりJIS T 0601の一連の規格に適合と認められたらPSEは免除!中国の安い医療機器を仕入れるチャンス?もちろん事故を起こさないこと!クラス1の届出医療機器であってもPSEの耐圧試験位はやって下さいね!


本日も本ブログを御覧戴き、誠に有難うございます

筆者略歴
  • 食品、住宅設備、医療機器、スマホ・カーナビ部品メーカー経験(生産技術を中心に製品開発・購買・外注・品質保証・施設管理)
  • ISO9001,14001,13485管理責任者(事務局)
  • 食品衛生管理製造過程(HACCP)の承認取得(事務局)
  • 第二種医療機器製造販売業 総括製造販売責任者,安全管理責任者
  • 機械工具商許可(長野県公安委員会)
  • 第二種電気工事士
  • 第三級アマチュア無線技士
  • 技能講習修了:ガス溶接、フォークリフト、プレス機械作業主任者 (特別教育:アーク溶接、産業ロボット教示・検査、低電圧作業)
  • 特許・実用新案 30件以上


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