江口昇次 名大名誉教授Shoji Eguchi, Nagoya Univ., Prof.em., Today!

思うままに<日記、化学学術誌H.C.紹介、科学トピックスなど>

生物発光物質ホタルルシフェリンの簡便生成法発見のニュース

2016-05-14 | ニュース
 未だに余震が続く熊本地震発生から今日で1ヶ月になり被害地は大変厳しい状況との報道の中、明るい話題として今回のホタルルシフェリンの話題を取り上げた。
2016/05/07の中日新聞社会面にホタルの発光物質「ルシフェリン」がベンゾキノンとアミノ酸システインを中性緩衝液水中でかき混ぜるだけで生成できることを大場裕一らの日本チームが発見と報道された(日刊スポーツ、東京新聞、日経などにも掲載;大場裕一中部大准教授・名大客員准教授HP http://obayuichi.sakura.ne.jp/firefly/参照)。
 私SEはウミホタルルシフェリンの研究に名大平田義正研で下村脩先生(現名大特別教授・2008ノーベル化学賞受賞)、(故)後藤俊夫教授、岸義人博士(現ハーバード大名誉教授)と共に従事した経験から生物発光物質ルシフェリンの話題に興味を持って閲欄しました。ホタルルシフェリンは昨年アメリカ化学会誌でもMolecule of the week(今週の分子)に選ばれて注目されている生物発光分子である(1)。この分子は1957年、米国ジョンホプキンス大のF.McCapraらによって日本ホタル(Luciola cruciataゲンジホタル) ~15,000匹から9mgが初めて単離され、1960年同大E.H.White(SE博士研究員1964~1966時代の指導教授)らによって構造決定・化学合成が達成されている(2,3)。今回のホタルルシフェリンのp-ベンゾキノンとアミノ酸L-システインから中性緩衝液水中でのホタルルシフェリンの生成は上記の反応式で示される(4)。天然のL-システインから非天然型L-ルシフェリン(R-2-型)が立体特異的に生成する。L-ルシフェリンは生体内で天然型で発光活性のD-型((S)-2-(6′-hydroxy-2′-benzothiazolyl)-2-thiazoline-4-carboxylic acid)に変換することが証明されているが大場らの日本チーム(名大・中部大)はD-システインからはD-ルシフェリンが生成することも証明している。この簡便ワンポット合成では収率が最大1%と低いので改良が望まれるがホタルルシフェリンの生合成ルート解明のヒントになるとも期待される。

兵庫県の蛍スポット・ホタルの写真より(フリー素材)

参照文献
1) (Firefly luciferin– C&En.,10/26/15)2) Emil H. White, Frank. McCapra, George F. Field, J. Am. Chem. Soc., 1963, 85 (3), pp 337–343
3) 下村 脩「光る生物の話」朝日選書917、朝日新聞出版、2014年4月25日第1刷発行
4)Kanie S,Nishikawa T,Ojika M,Oba Y(2016): One-pot non-enzymatic formation of firefly luciferin in a neutral buffer fromp-benzoquinone and cysteine. Nature Scientific Reports 6, article number:24794,
http://www.nature.com/articles/srep24794

4 コメント

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論文を取り上げていただきありがとうございます (名古屋大学 蟹江)
2016-05-21 00:16:47
はじめまして、名古屋大学生命農学研究科の博士課程2年の蟹江と申します。ブログを拝見させていただきました。先生は平田先生、下村先生、後藤先生、岸先生、そしてWhite先生と一緒に研究をされていたとのことですが、当時のことを知る先生に論文を取り上げていただけたことは大変光栄に思います。今後も生物発光に関する研究を頑張っていきたいと思っております。今回は論文を取り上げていただきありがとうございました。
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研究者のたましい (SE)
2016-05-21 10:03:44
名大生命農学研究科蟹江さまへ:
小生の一般向きには堅過ぎるブログを見つけて頂きうれしく思います。新聞報道では言葉だけで説明されますが元有機化学者にとってはすぐ化学構造式・反応式で表したくなってしまいます。蟹江さんはこの論文natureの筆頭著者ですから最も苦労されたこともよく理解できます。研究の発展をお祈りします。se
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NHKTVでの紹介を喜ぶ (se)
2016-06-02 20:34:56
この研究に関連してホタルの発光の謎が
6月2日NHK総合TVホットイーブニングで放映されて視聴を楽しみました。
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テレビもご覧いただきありがとうございます (名古屋大学 蟹江)
2016-06-14 20:34:04
江口先生、
テレビ放送もご覧いただいたようで、大変光栄です。偶然、NHKの方が今回の研究に興味をもち、取り上げていただけることになりました。自分がテレビに映るのは恥ずかしくもありましたが、テレビを通して研究を知ってもらえる機会をいただけたことは嬉しく思いました。
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