(加賀屋北投分館が職員を募集。接客の要である客室係には厳しい訓練が施される。記者会見での写真なので草履でたたみの上に立っているが、旅館内ではありえない)
日本の有名な温泉旅館・加賀屋が、台湾の台湾日勝生集団と提携して台北における古くからの温泉街、北投に分館を出すことはすでに知られている。11月にオープンの予定で、すでに10人を石川県の加賀屋に送り込んで接客修業をさせている。そして、29日には台北で職員募集の面接を行った。客室係(40人)、カウンター、レストランのフロア係、調理師など合計170人を雇うのだという。
加賀屋のサービスは日本一とも言われ、直接お客さんの世話をする客室係は高い能力が要求される。それでも台北での面接試験に応募した500人近くのうち、100人はこの客室係志望だった。男性も4人いて、大学で日本語学科を卒業して今は労働保険局で働く陳信元さんは、「新しいことにチャレンジしたい。加賀屋の客室係はほとんど女性だと知っているが、観光業にはずっと興味があった」とやってきた。
(29日の面接の写真。左の男性が面接を受けている?右の男性は宿泊客の役を演じているようだ)
日勝生加賀屋(台北の加賀屋)の劉東春・副総経理(副支配人)は、客室係には「すすんで働こうとする、学ぼうとする」特質が必要で、若さよりも「お母さん」気質の女性がお客さんに可愛がってもらえると話し、面接に来た47歳の女性を喜ばせた。日本には76歳の客室係もいるという。男性はやはり少ないようだ。
今回募集する客室係の初任給は台湾元2万8000元(日本円8万円強)。顧客の評価によってボーナスが出ることになっており、最高では4万6000元にもなる。仕事は1日12時間に及ぶなど楽ではないが、一度に受け持つのは二部屋、お客は4人以下で、一ヶ月の出勤日数は12日前後だという。
(石川県の本店で客室係の修業をする台湾からの研修生。左から二人目と三人目。女将の小田真弓さんを挟んで右の二人)
先ごろ台湾の大手求人サイト「yes123求人網」が企業190社あまりを対象に行った調査では、今年大学を卒業する人たちの初任給は平均で2万2624元。これは2年前に行政院労働者委員会が行った調査の実績金額2万4334元より1710元も少ない。減っているのだ。政府は景気が回復しつつあると強調するが、若者の将来に対する夢は見えてこない。初任給2万8000元の加賀屋における客室係の職を大勢が狙うのも十分理解できる。
(石川県と言えば漆器の「輪島塗り」。美しい伝統工芸は台湾の観光客をひきつける)
加賀屋と台湾は縁がある。加賀屋のある石川県は、戦前台湾南部に烏山頭ダムを作り、嘉南平原の灌漑工事で大きく貢献した故・八田与一さんの故郷。中華民国台湾に友好的な森喜朗元首相の出身地でもある。
また、加賀屋は2004年には李登輝・元総統が滞在して台湾における知名度が大きく上昇した。2007年3月に能登半島で大地震が起きた際には、中華民国台湾の許世楷・駐日代表(当時)がただちに石川県に駆けつけて見舞金500万円を届けた。加賀屋もこの地震で休業を余儀なくされたが、4月末に営業再開するまで、かつて加賀屋に宿泊した台湾の顧客から激励の手紙が相次いだという。そして営業再開の日には台湾からさっそく100人以上がやってきて加賀屋を感激させた。また、昨年、石川県を訪れた台湾の人は延べ9万人で、外国人旅行者のうち約半分を占めるという。
その石川県の加賀屋が初めて海外に進出する北投分館。台湾のスタッフは収入ばかり気にしていては加賀屋の接客の真髄は学べない。しかし、「もてなしの心」では本来、台湾の人も負けてはいないはず。しっかりと学び、さらには本店以上のサービスを提供することで、台湾と石川県の友好的な関係をより深めてほしいと願う。(U)
(李登輝・元総統が2004年12月に滞在した洋間。台湾からの宿泊客は興味しんしんだそうだ)
日本から台湾-台湾から世界へ!