働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

新しい時代の働き方に関する研究会 水町勇一郎構成員発言は重要だから議事録から抜粋

2023年10月28日 | 働き方改革
「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書への批判が強まる
「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を厚生労働省が(2023年)10月20日に公表し、連合(日本労働組合総連合会)は、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告に対する(事務局長)談話の中で「労働基準法制による労働者を『守る役割』は、今後も不変かつ重要であることが強調された点は評価できるが、労働組合の組織化をはじめとする集団的労使関係の一層の構築や強化の観点が不十分であり、『労使対等の原則』を確実なものとする取り組みこそが重要である」とした。

また、全労連(全国労働組合総連合)は「本報告書(新しい時代の働き方に関する研究会報告書)は、労働基準法と労働基準行政の在り方について、『守る』と『支える』という2つのキーワードをもとに、経済環境や働き方の変化をふまえた課題の整理と見直しの方向性を示したものである。報告書は、ただちに法改正作業の着手につながるものではないとされている。しかし、その提言にそった法制度の見直しが進めば、労働基準法と労働基準行政に重大な悪影響、深刻な打撃がもたらされることになるものである。全労連は、報告書の撤回と全面的な修正を求める」との事務局長・黒澤幸一氏の談話を公表した。

日本労働弁護団は「これからの労働関係法令の在り方に関する幹事長声明―『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を受けて―」を公表。幹事長声明では「『新しい時代』になっても是正されない諸問題については、何ら触れられないまま労働基準法制に関して、新たに、しかも、特に労働時間法制や健康確保の在り方に関しては規制緩和の方向性から議論を始めるのは、これまでの労働基準法制に関する議論の積み重ねを無視するものであると言わざるをえない」と報告書を批判し、「当弁護団は、『新しい時代』においても、現在の労働基準法制の強行法規制を維持することを前提としつつ、労働者の権利がより保護されるような議論がなされることを強く望むものである」と訴えている。

今後の労働法制に関する議論の予定は?
濱口桂一郎氏のブログ記事には「WEB労政時報に『新しい時代の働き方と労働法制の未来』を寄稿しました」とあり、『新しい時代の働き方と労働法制の未来』の一部記載されている。それには「厚生労働省によると、今後この報告書に基づいて労働法研究者を中心とする新たな研究会を立ち上げ、やがて具体的な労働立法につなげていく予定だ」と。

そうだとすれば、「労働法研究者を中心とする新たな研究会」の立ち上げを待ち、その研究会での議論を注視しなければならない。(追記:新しい研究会の名称は「労働基準関係法制研究会」に)

第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」議事録
第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」は2023年9月23日に開催され、議題は「報告書に向けた議論」で重要。とくに第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」構成員の中で唯一人の労働法学者・水町勇一郎構成員の発言は重要だから厚生労働省サイトに公開されている議事録から抜粋。

<第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」議事録抜粋>
水町(勇一郎)構成員
全体としての感想と、1つ今後の議論に期待することだけ。文章については、これで特に異論はありません。この研究会では、委員全員の御報告を踏まえて、ヒアリングをたくさん行って、最後の詰めのところでは、原案を早めにつくっていただいて、委員の意見を2回、3回と盛り込んでいただいたので、今日何回かお話がありましたように、いろいろな意見を盛り込んで、全体として非常にまとまりのいい、分かりやすい、読みやすいものに仕上がったかなと思っております。

それで、1つだけ今後の議論に期待するところで、16ページから「新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)」というところの、次の17ページの18行目からポツが2つあるところで、こういう形で書いていただいて、これを今後どうするかというところについてのコメントなのですが、少し大きな話でいうと、日本だと、今、守り方という労働基準法制が罰則つきであって、そこについて、原則としての労働基準法制の例外を認めるときに、労使の過半数組合とか過半数代表者の労使協定があれば、その限りで罰則も含めて労働基準法制が外れますよというところは、ここは結構明確なので、そこをちゃんとしようと。

ただ、そこで個人の過半数代表者になったときに、うまく機能しているかというと、実質的にはあまり機能していないというところで、そこは考えなくてはいけないということは、1つあるのですが、では、労働基準法制に関わっていないところがどうかというと、日本では、ほとんどが就業規則に書かれていて、かつ人事権の発動でやっていて、厚生労働省としては、罰則つきでの監督ができない。

最終的に、そこをどこが決めるかというと、裁判所で就業規則が合理的だったのかとか、人事権の行使が濫用に当たらないかどうか、最終的に判決が出るまで分からないのですよ。そういう司法に任せられているけれども、司法の利用率が日本はすごく低いので、要は現場で力関係の強い人たちの言いなりになってきて、労使コミュニケーションがあまり栄えてきていないのではないかというところが1つあります。

そこで、今、厚生労働省が何もしていないかというと、そういうところに今までやってきたのが、ガイドラインをつくったり、留意事項といって、労基法には直接関わっていないから監督権限があるかどうかは分からないけれども、こうしたほうがいいねというガイドラインとか留意事項がたくさんあります。

あるのだけれども、現場でそれを守らなければいけないかどうか、守らなければいけないと思うところは、大企業の一部で守られたりするけれども、これは裁判所に言っても微妙だし、みんな裁判を起こさないから、これは守らなくていいよ、努力義務だから、まあいいねとスルーしているようなところが、重要なところで、特にテレワーク関係とか、兼業・副業とかでもいっぱいあるのですよ。

諸外国を見てみると、複雑になってきて、労働基準行政みたいに罰則でがちがちに決めるところと、労働契約法制のルールメイキングのところで、労使の話し合いを重視してというところの境目がなくなってきて、重要な問題になっているときにどうするかというと、日本でも労働基準法制については、労使コミュニケーションを重視する形で少し柔軟化していこうというところは、ここでかなり中心に書かれているのですが、労働契約法制で、労働基準法制には関わっていないけれども、もう少し労使で話し合ってルールを決めたほうがいいのではないかというところが、この18行目と21行目のポツのところです。

これは、つながらない権利、どこまで私生活で、企業が手を伸ばしてはいけないかというところとか、さらには、健康情報についても、やはり労使コミュニケーションで決めてくれと、でも、このままで行くと、例えばガイドラインで定めて、守られるかどうか、最終的には裁判所で公序良俗違反とか不法行為になったか、ならないかというレベルの話になってしまう中で、今回、労働基準法制の定義の中に、労働契約法も入りますよと、ただ、労働契約法については、出所が少し違うので違う議論が必要ですよと書かれています。

要は何を言いたいかというと、労働基準法制とその修正で対応できるところと、労働契約法制が基になって、そこで例えば就業規則の合理性とか、ガイドラインに書かれていることは、実は裁判に任せられているところを、政策として法制としてどうするかというときに、例えばデフォルトルール、原則的にはこうしなくてはいけないということを、例えば労働契約法制の中で定めて、ただし、労使コミュニケーションで具体的に議論して別のように決めたら、別のようにしていいですよということを、労働基準法制とまた別の法制の中でルールメイキングしていくと、それを基に労使コミュニケーションが実質化していったり、ちゃんと労使で話し合わないと原則どおりに硬直的なものになってしまうよという議論の中でどうするかという議論。

これは、ヨーロッパの議論とかで、そういうものが増えているというのは、ドイツとかフランスの議論の中で言わせていただいたところで、それにつながり得るところが、17ページのポツのところなので、これから具体的に制度設計の議論をしていく中では、労働基準法制の例外としての労使コミュニケーションと併せて、労使の中で大切なことはもっといっぱいあるので、その労使のルールの決め方として、場合によっては労働契約法制におけるルールメイキングの在り方も視野に入れて、そこで労使コミュニケーションをどうするかという連続的な問題なので、そういうことを意識しながら議論をしてほしいということが、この2段落に込められているということで、次の政策的な議論のステップにつなげていただければなというのが、私からの意見、希望です。(第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」議事録より抜粋)

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(PDF)

第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」議事録(厚生労働省サイト)

<関連記事>

つながらない権利と水町勇一郎「労働基準関係法制研究会」構成員 - 働き方改革関連法ノート

厚労省「労働基準関係法制研究会」第5回資料3「これまでの論点とご意見について」(10頁)には「諸外国におけるつながらない権利については、義務化するのではなく、労...

goo blog

 

つながらない権利を日本でも法制化? - 働き方改革関連法ノート

つながらない権利を労働基準法ではなく労働契約法に厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第5回研究会は先月(2024年3月)26日に開催されましたが、その資料「こ...

goo blog

 


最新の画像もっと見る