働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書 批判

2023年10月26日 | 働き方改革
厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書公表
厚生労働省が2023年10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を公表。

報告書の「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」(報告書20頁)には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されている。

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(参考資料)(PDF)

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書に関する報道
朝日新聞デジタルは、厚生労働省が報告書を公表する前の10月13日に「報告書では、労基法が対象とする『労働者』の考え方を検討する必要があるとした。労基法では企業に雇われて働く人を対象としてきたが、フリーランスで働く人にも『業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者も見受けられる』と指摘した」と報じている。

テレワークなど多様化する働き方、労基法改正求める 厚労省の研究会(朝日新聞デジタル)

医療介護CBnewsは「報告書では、『新しい時代に即した労働基準法制の方向性』を示している。例えば、働く人の健康に関しては、『働き方や働く場所が多様化し、健康管理の仕組みが複雑化している』と指摘。労働時間の長短の把握・管理や長時間労働の抑制、医師の面接指導、健康診断、ストレスチェックなどの対策が取られてきたが、今後は、個々の労働者の状況に応じた健康管理について、『医学や診断技術の進歩も考慮しつつ、継続的に検討していくことが必要である』との見解を示している」「また、労働者の心身の健康への影響を防ぐ観点から、勤務時間外や休日の業務上の連絡の在り方についても、引き続き検討する必要性を挙げている」と報じ、Yahooニュースが取り上げた。

労働者健康管理、医学の進歩考慮し継続的に検討を - 厚労省が研究会報告書を公表(医療介護CBnews)(Yahooニュース)

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書への使用者側反応
厚生労働省が「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を公表する前日(2023年10月19日)に週刊経団連タイムスは経団連は9月19日に経団連会館で経団連・労働法規委員会労働法企画部会と経団連・労働時間制度等検討ワーキング・グループの合同会合を開催し、厚生労働省労働基準局労働条件政策課の澁谷秀行課長から「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の中間取りまとめに関する説明を聴いたことを報じ、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書中間取りまとめ概要のみを記事にし、報告書に対する経団連側の反応や意見については述べられていない。

なお、経団連は2013年9月12日に公表した2023年度規制改革要望では副業・兼業の推進に向けた割増賃金規制の見直しを要望し、「割増賃金規制は、法定労働時間制または週休制の原則を確保するとともに、長時間労働に対して労働者に補償する趣旨であるが、本人が自発的に行う副業・兼業について適用することはそもそもなじまない。そこで、真に自発的な本人同意があり、かつ管理モデル等を用いた時間外労働の上限規制内の労働時間の設定や一定の労働時間を超えた場合の面接指導、その他健康確保措置等を適切に行っている場合においては、副業・兼業を行う労働者の割増賃金を計算するにあたって、本業と副業・兼業それぞれの事業場での労働時間を通算しないこととすべきである」としている。

新しい時代の働き方(週刊経団連タイムス)

「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書への労働者側反応
連合(日本労働組合総連合会)は、厚生労働省が報告書を公表した10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会」報告に対する(事務局長)談話の中で「労働基準法制による労働者を『守る役割』は、今後も不変かつ重要であることが強調された点は評価できるが、労働組合の組織化をはじめとする集団的労使関係の一層の構築や強化の観点が不十分であり、『労使対等の原則』を確実なものとする取り組みこそが重要である」とした。

厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会」報告に対する談話(連合)

全労連(全国労働組合総連合)は「本報告書(新しい時代の働き方に関する研究会報告書)は、労働基準法と労働基準行政の在り方について、『守る』と『支える』という2つのキーワードをもとに、経済環境や働き方の変化をふまえた課題の整理と見直しの方向性を示したものである。報告書は、ただちに法改正作業の着手につながるものではないとされている。しかし、その提言にそった法制度の見直しが進めば、労働基準法と労働基準行政に重大な悪影響、深刻な打撃がもたらされることになるものである。全労連は、報告書の撤回と全面的な修正を求める」との事務局長・黒澤幸一氏の談話を公表した。

【談話】「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書について(全労連)

また、日本労働弁護団は「これからの労働関係法令の在り方に関する幹事長声明―『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を受けて―」を公表。

幹事長声明では「『新しい時代』になっても是正されない諸問題については、何ら触れられないまま労働基準法制に関して、新たに、しかも、特に労働時間法制や健康確保の在り方に関しては規制緩和の方向性から議論を始めるのは、これまでの労働基準法制に関する議論の積み重ねを無視するものであると言わざるをえない」と報告書を批判し、「当弁護団は、『新しい時代』においても、現在の労働基準法制の強行法規制を維持することを前提としつつ、労働者の権利がより保護されるような議論がなされることを強く望むものである」と訴えている。

これからの労働関係法令の在り方に関する幹事長声明(日本労働弁護団)

「新しい時代の働き方に関する研究会」以後の議論予定
厚生労働省が2023年10月20日に公表した「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書20頁「労働基準法制における基本的概念が実情に合っているかの確認」には、 労働基準法は「事業または事務所に使用され、賃金の支払いを受ける労働者を対象とし」「労働者が働く場である事業場を単位として規制を適用することで、労働者を保護する法的効果を発揮してきた」が、「一方で、変化する経済社会の中で、フリーランスなどの個人事業主の中には、業務に関する指示や働き方が労働者として働く人と類似している者もみられること、リモートワークが急速に広がるとともに、オフィスによらない事業を行う事業者が出現してきていることなどから、事業場単位で捉えきれない労働者が増加していることなどを考慮すると、『労働者』『事業』『事業場』等の労働基準法制における基本的概念についても、経済社会の変化に応じて在り方を考えていくことが必要である」と記載されている。

この報告書提言は、「新しい時代の働き方に関する研究会」委員(構成員)の中で唯一人の労働法学者・水町勇一郎教授の意見を反映していると思うが、今後の労働政策審議会などでの議論を注視したい。

なお、濱口桂一郎氏のブログ記事には「WEB労政時報に『新しい時代の働き方と労働法制の未来』を寄稿しました」とあり、『新しい時代の働き方と労働法制の未来』の一部記載されている。

それには「厚生労働省によると、今後この報告書に基づいて労働法研究者を中心とする新たな研究会を立ち上げ、やがて具体的な労働立法につなげていく予定だと」とあったので、「新しい時代の働き方に関する研究会」からすぐ労働政策審議会で審議されるのでなく、新たに開設される研究会(有識者会議)で議論された後、労働政策審議会で審議される予定だと思う。

新しい時代の働き方と労働法制の未来@WEB労政時報(hmachanブログ)

<関連記事>

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書|佐伯博正

前回(第12回)「新しい時代の働き方に関する研究会」資料1にはテレワークと記載された個所があったが、今回(第13回)資料1(新しい時代の働き方に関する研究会 報告...

note(ノート)

 


最新の画像もっと見る