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『蜜のあわれ』 揺らめく哀しみ

2016-04-01 | 洋画(ま行)


監督: 石井岳龍
原作: 室生犀星
出演: 二階堂ふみ 、大杉漣 、真木よう子 、高良健吾 、永瀬正敏 、韓英恵

『蜜のあわれ』公式サイトはこちら。

自分のことを「あたい」と呼ぶ愛くるしい赤子と、赤子から「おじさま」と呼ばれる老作家。親子以上に年の離れた二人だが、とめどない会話を交わし、夜になると体を寄せ合って寝るなど、仲睦まじく暮らしていた。赤子はある時は女(ひと)、ある時は真っ赤な金魚と姿を変えるが、普通の人間には彼女の正体はまったくわからない。そんな中、老作家の過去の女が幽霊となって現れた。(映画.comより)


室生犀星と言えば「ふるさとは遠きにありて思ふもの」くらいしか知らなくて不勉強で申し訳ないが、この映画を観て非常に作者に興味を持った。この原作もぜひ読んでみたいと思う。晩年に差し掛かり死期をも見据えた作者が描いた、金魚と人間の間を行き来する若い女と、老作家の会話とはどんなものなのか。映像としての本作はとても工夫されていてまとまっていたが、それ以上に原作がどうなっているのかを期待してしまうくらい、想像を掻き立てられる作品になっている。

冒頭少し気になったのが効果音の使い方。結構POPな感じだったので、昭和30年代くらいの設定とはちょっと違和感もあったが、観ていくうちにそれも計算されたものとわかってくる。老作家に買われている変幻自在の女は「金魚の世界」を生きている。金魚なのに人間に変身できる目線からの素直な発信を音に載せている。尾ひれ、背びれをなびかせる如くにドレスをゆらゆらと揺らしながら、大きな目をぱちぱちしばたいて瞬きをして、口を半開きにしながらぽってりとした赤い唇を突き出す・・・ どれも若い女が、雄を釣るときに無意識にする行動だ。古今東西変わらないその女の仕草に男はいつも惑わされる。惑わしながら女は、男がどれだけ本気か探る。この駆け引きを、あくまでも金魚という設定の中から飛び出さないように、ふわふわとしたタッチで赤子は伝えてくる。

「赤」で強烈に攻めてくる金魚の赤子と対照的に、ひっそりと老作家を見つめている「白」い幽霊のゆり子は、そのイメージカラーと合わせたように客観的な目線から入ってくる。一見穏やかそうに見えるこの2人のやり取りも、次第に本質をさらけ出させようとするものに変わっていく。この世に未練があるうちの大半の原因は、心残りだった色恋沙汰に起因しているだろうだけに、うわべは礼儀正しい女たちの交流の中で、封印された願望が噴出していく過程は面白い。その導火線となるのが丸子の存在で、そこから一気に赤子の本音が明らかになる場面、庭から居間にかけての赤子と老作家の長回しのシーンは秀逸。最初はひらひらとエロティックで大人しかっただけの金魚が、恐ろしいまでの執念を見せつける瞬間をたっぷりと見せてくれる。所詮人とは業の生き物に過ぎないということを。

生への執着は、性への執着に裏打ちされるもの、赤子の無理難題なお願いはそれを意味している。次第にエスカレートする赤子を扱いあぐねている老作家も、赤子の主張が実は自身の行動への反動であることに気が付いている。それを仕掛けたゆり子は、赤子の身体を借りて自身の未練を表現させたかったのだろうか。当の本人たちが想いをむき出しにするのを俯瞰しているゆり子も、やっと成仏できるのかもしれない。こんな騒動を起こしても、赤子やゆり子や老作家が求めているだけの物は完全には手に入らない哀しみや苦しみが人間界には多すぎるし、そこに深く苛まれ過ぎてしまう。それでも人は恋愛に執着することを止めることはないだろう。

二階堂ふみさんは実に赤がよく似合う。『ほとりの朔子』でも鮮烈なワンピースだったし、今回も忘れられない印象を与えてくれる。素材がオーガンジーだったりそうじゃなかったり、ドレスの丈が長かったり短かったり、デザインが少しづつ違う所で、赤子の心境の変化を表しているそうで、そのデザインの変化を楽しむのが面白い。同様に老作家の着物にもメッセージが込められているとのこと。これだけのモチーフを凝縮した作品、いろいろな場面を細かく見ながら深く味わいたいものである。


★★★★☆ 4.4/5点





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6 Comments

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こんばんは (ノラネコ)
2016-04-04 23:33:10
わたしも室生犀星は詩しか読んだことなかったので、こんな狂った小説を書いてたのに驚きました。
二階堂ふみのお尻がとにかく愛おしくて、愛おしくて。
ある意味ネコ飼いにも共通する老作家の生と性の妄想炸裂にかなり共感w
原作読みたいです (ノルウェーまだ~む)
2016-04-07 13:25:38
roseさん☆お久しぶりです~
原作読んでみたくなる映画ですよね。
赤子のドレスの実物を渋谷で見ましたが、ざっくりとしたつくりなのに驚きました。
映画の金魚も衣装も、二階堂ふみちゃんの血が通った演技で見事に花咲くのだなぁと感心しちゃいました。
ノラネコさん (rose_chocolat)
2016-04-16 13:53:51
そうですよね。室生犀星ってこんな妄想書いてたのかと今更思った。
でも作家なんて案外そんなもんでしょうね。
金魚ちゃんみたいな女性って妄想掻き立てられちゃいそうじゃないですか・・・。
ノルウェーまだ~むさん (rose_chocolat)
2016-04-16 13:54:45
実物のドレス見たかったですねー。
あれ、いくつもパターンあるんだそうです。
少しずつ型が違うと、その時の赤子の気持ちも違うんでしょうね。
こんばんは ()
2016-04-16 20:58:02
設定は昭和30年代前半、音楽はポップ、しゃべる言葉は戦前の中・上流階級のもの。もちろん計算してのことでしょうけど、その違和が不思議な世界をつくっていましたね。もちろん老作家の妄想の世界だからいいんですが。

真木よう子がこわかった。
雄さん (rose_chocolat)
2016-05-03 19:49:23
真木さん、怖いんですが、意外と赤子に寄り添ってたような気がしますね。
完全に敵対はしてなかったように思う。
若さには適わないって悟ってたからでしょうか。

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