原題: A Hijacking [ Kapringen ]
監督: トビアス・リンホルム
出演: ヨハン・フィリップ・アスベック 、ソーレン・マリン 、ダール・サリム
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<作品解説>
インド洋沖でデンマークの商船がアフリカ系の海賊にジャックされる。本社は、遠く離れた海賊の心理を探りながら困難な交渉を始めるが、船員は徐々に疲弊していく…。多発する海賊事件を息の詰まるリアリズムで再現した、交渉術と人間心理を巡るサスペンスドラマ。
海賊に所有船が乗っ取られても慌てて要求に応じてはいけない。相手に簡単に屈することなく、企業の出費を最小限にしつつも全員帰還させるために、あくまでもどこまで譲歩させるかがポイント。
人の命と商売術を同等に考えている企業の論理を、当事者のハイジャックされている人たちが知ったら一体どう思うだろう。命を助けるから海賊との交渉は必要不可欠だけど、妥協点を見出して企業の損失を最小限にさせたいが故に生々しく行われる値切り話。そのために無駄な時間が経って行くのを知ったら、結局企業にとって社員などというものはただのコマに過ぎないことを痛感させられてしまう。
船上の人質たちは一刻も早く救出してほしいのに、交渉のために時間ばかりが経っていったら精神的に不安定にもなる。当然ながら犯人は人質たちを脅したり追い詰めたりするため、次第にストックホルム症候群の様子を呈してくる。誰もが生き残るためには必死に決まっているのにそれをあざ笑うかのような突然の脅迫や命令。船上で物資もない中精神的に極限まで追い込まれていく人質たちの様子をカメラは捉えていく。
そしてようやくこの話の結末が見えてきた所に訪れる悲劇。それは良心がちっぽけな欲望に踏みにじられた瞬間だった。最も優先すべきことが水泡に帰して、愕然とするのは人質達だけではなく、会社本部もそうであってほしい。うやむやに引き延ばした結果がこの悲劇ではなかったのか。
そう考えると、交渉の途中から命よりも企業論理や達成感を優先させてきた重役たちの罪は重い。彼らも彼らなりに追い詰められてはいたが、人質たちのそれを思えば無きに等しかったはず。彼らには家があっていつでもベッドで眠れたのだから。机上の討論の虚しさを感じる。
上映後にプロデューサーが登壇、Q&Aを行う。
「監督は常にリアリティを追求する主義で、この船室のシーンは本物の船室。実際にインド洋で撮っている。
たまたま借りた船は実際に海賊に遭った船だった。海賊に遭った経験を持つ人も撮影に参加した。
海賊はケニアのソマリア人コミュニティの人に演じてもらったので、本物の海賊ではないが演技が上手かった。
あと会社の本部にいた交渉人も、本職が同じ。演技が美味かったので参加してもらっている」とのこと。
とてもアマチュアには思えない緊迫感を出していて皆さん上手かった。これは割と評判良さそうでした。
★★★☆ 3.5/5点
私も実は同じ日に見てたようです。
ほんの一時とはいえ、海賊たちと一緒に釣りをしたり、そこで一番大きな魚が釣れたり、海賊と一緒になって船男たちの歌う歌のシーン、あれ面白かったですね。
同じでしたか!
ストックホルム症候群みたいに悲惨な部分もあったけど、打ち解けてしまう部分も必ずあるはずだもんね。