原題： 覇王別姫
監督： チェン・カイコー
出演： レスリー・チャン 、チャン・フォンイー 、コン・リー 、フェイ・カン 、チー・イートン
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遊女である母に捨てられ、京劇の養成所に入れられた小豆。淫売の子といじめられる彼を弟のようにかばい、辛い修行の中で常に強い助けとなる段小楼。やがて成長した二人は京劇界の大スターとなっていた……。（映画.comより）
公開当時の1993年って、実は映画からは全然離れていた生活をしてまして、従ってこの頃はほとんど映画自体を観てなかったと思うし、「もともと興味のないジャンルだけど挑戦してみよう」という今みたいな鑑賞の仕方もしてなかったもので、当然のことながら未鑑賞。今回の朝10で貴重な上映かもと思い行ってきました。京劇ものなのかと思いきや、そこから遡った一大ヒューマンスペクタクルとでも言えばいいのか、大河ドラマの様相も呈していましたね。上映時間172分という大長編、集中できるかなと思ってたんですけど迫力に引き込まれちゃいました。
観ていて「蒼穹の昴」などを思い出しました。とにかく人口が多い中国のことなので、そこから這い上がってのし上がり、栄光をつかむことのどれほど困難なことか。幼少の頃から京劇に入れられてしまう子どもたちはみんな貧困を背負ってるんですね。親もいない、何も守ってくれるものがない中、ひたすら自分だけを信じて芸を磨いても、一人前になれるのはほんの一握り。それがわかっていたとしてもそこしか生きる道がない子どもたちの辛すぎる胸中。しんどい日々の中でも頼れる仲間を見つけられればそれは幸運なのかもしれません。
蝶衣は段小楼のことを頼れる存在と認識しているけど、同時に自分の京劇人生においてもかけがえのない人となっていく。京劇のパートナーとしてだけではなく、それ以上に愛を感じる存在。しかしながら段小楼は蝶衣のことを愛の対象としては見ていない。蝶衣はあくまでも芸術を極めるために生きており、その延長線上に段小楼との愛を描いているが、段小楼は蝶衣が思うよりはずっとずっと俗世界に生きる人間なので京劇に対しての情熱も蝶衣ほどは持っていない。段小楼にとっては幼少期から自らを養ってくれ、生きるために必須だったはずの京劇だが、菊仙との出会いによって京劇に対するスタンスも変わってきてしまう。
京劇を捨て、蝶衣との愛には応えることなく菊仙との生活のために生きることになる段小楼に対し失望した蝶衣は生き甲斐を失い、堕落していくばかり。それでも彼らの芸は卓越していたため、呼び戻されると再び舞台に立ち・・・という中で起こる文化大革命。全ての文化を批判していく文革の前に、京劇への想いなど吹き飛ばされてしまう酷さがある。加えて菊仙と蝶衣の目を背けたくなるような応酬。政情絡みで生き残るためには必要だったとはいえ、あまりにもあっけない愛の最期ではなかったか。
芸術なんて、人命なんて、中国3000年の歴史の前には意味のないものかということは昨今も思うことではありますが、
命を賭けて、精魂込めたものを簡単にひねり潰す時代の流れ。運命に逆らわなかった人々は、それでも幸せと言えたのか。その時代、その場所に生まれたのも運命と言えば、これほど虚しいものもない。
盧溝橋から1990年代まで、特に文革を生きた芸術人にとっては、政治とは何かを自問自答せざるを得なかったに違いない。
そして男に生まれたが故の苦しみ、女に生まれたが故の慟哭。愛が叶わない悲しみを生涯抱え続ける地獄。名声では埋められない心の穴。人の怨念の歴史は終わることはなく。
「覇王別姫」とは、劇中に登場する四面楚歌で有名な項羽と虞美人を描いた京劇作品。これをベースに作られた本作だが、これだけのスケールで、京劇にまつわる様々な裏話も含めて、きちんと体制批判もできてて恋愛もあって。これだけのボリュームでも全くブレてない所もさすがでした。
★★★★☆ 4.5/5点
roseさんが見てくれて嬉しいですね。
私のトニー・レオンベストは、誰が何と言ってもこれ！
迫力でしたわ。
スクリーンで観れてよかった。