「太陽」は昭和天皇を描いた映画です。もちろん,太陽は天皇をあらわし,おそらくは日の丸ともイメージが重ねられたタイトルです。でも日本映画ではなく,ロシア・イタリア・フランス・スイス合作映画です。ロシア人のソクーロフ監督は,個としての昭和天皇に絞って描くため,ドラマティックな演出は排除し,徹底的に抑制のきいた映画に仕上げています。ポツダム宣言受諾の経緯や玉音放送(エンドロールには使われているようです)は描かれていません。マッカーサーとの会談は2度に凝縮され,有名な2ショットの写真も使われていません。カラーですが白黒と見間違うような映像です。
だからといって,昭和天皇個人にべったり寄って,その内面を描くというようなものではなく,距離をおいており,そのため時にはユーモラスともいえるシーンが出てきます。また,アメリカ人のカメラマンたちが,天皇がチャップリンに似ていると言い出して,「チャーリー」と呼びかけるシーンや,最後に登場する皇后の右肩から胸にかけて天皇が顔をうずめ,皇后がその頭をなでるシーン。これらは日本人の監督だったら,おそらく撮らなかったろうと思います。また,イッセー尾形が演ずる天皇は終始独り言をいっているような,あるいはなにか反芻しているように口を動かしています。そのくせは相当後年になってからのもので,当時40歳代であった天皇がそのような行動を取ったとは思えません。しかし,それは天皇の現実とのギャップ,居心地の悪さのようなものを表現していると思います。わたしは1953年生まれですから,生まれたときから天皇は「象徴」でした。1988年9月その天皇が倒れたというニュースが流れました。テレビ局各社は終日,容態を伝えるようになりました。わたしは天皇に対して特別の感情をもってはいませんでしたが,歴史の節目を見逃すまいと,毎日テレビをつけたまま寝ることにしました。翌年1月7日のその日の朝,わたしは名古屋のホテルに泊まっていました。いつものように,テレビはつけっぱなしにしていました。朝6時頃テレビから「ホウギョ…」という言葉が聞こえてきたのですが,最初「ホウギョ」が何を意味するのか頭が働きません。そのうち,「ホウギョ…ほうぎょ…崩御」と徐々にカメラのレンズのピントを合わせるように,意味を理解しました。テレビは一斉にそのニュースを伝え,特別番組に切り替わりました。わたしは職場で仕事を済ませ,帰宅するためにタクシーに乗りました。タクシーのウィンドウから見た町は,日頃に比べると静かでした。わたしは,そのようすを見て,ほっとしたのを覚えています。ソクーロフ監督は,ヒトラーを「モレク神」,レーニンを「牡牛座」という作品で描いています。ぜひそちらも見てみたいですね。
だからといって,昭和天皇個人にべったり寄って,その内面を描くというようなものではなく,距離をおいており,そのため時にはユーモラスともいえるシーンが出てきます。また,アメリカ人のカメラマンたちが,天皇がチャップリンに似ていると言い出して,「チャーリー」と呼びかけるシーンや,最後に登場する皇后の右肩から胸にかけて天皇が顔をうずめ,皇后がその頭をなでるシーン。これらは日本人の監督だったら,おそらく撮らなかったろうと思います。また,イッセー尾形が演ずる天皇は終始独り言をいっているような,あるいはなにか反芻しているように口を動かしています。そのくせは相当後年になってからのもので,当時40歳代であった天皇がそのような行動を取ったとは思えません。しかし,それは天皇の現実とのギャップ,居心地の悪さのようなものを表現していると思います。わたしは1953年生まれですから,生まれたときから天皇は「象徴」でした。1988年9月その天皇が倒れたというニュースが流れました。テレビ局各社は終日,容態を伝えるようになりました。わたしは天皇に対して特別の感情をもってはいませんでしたが,歴史の節目を見逃すまいと,毎日テレビをつけたまま寝ることにしました。翌年1月7日のその日の朝,わたしは名古屋のホテルに泊まっていました。いつものように,テレビはつけっぱなしにしていました。朝6時頃テレビから「ホウギョ…」という言葉が聞こえてきたのですが,最初「ホウギョ」が何を意味するのか頭が働きません。そのうち,「ホウギョ…ほうぎょ…崩御」と徐々にカメラのレンズのピントを合わせるように,意味を理解しました。テレビは一斉にそのニュースを伝え,特別番組に切り替わりました。わたしは職場で仕事を済ませ,帰宅するためにタクシーに乗りました。タクシーのウィンドウから見た町は,日頃に比べると静かでした。わたしは,そのようすを見て,ほっとしたのを覚えています。ソクーロフ監督は,ヒトラーを「モレク神」,レーニンを「牡牛座」という作品で描いています。ぜひそちらも見てみたいですね。
太陽 (字幕版) | |
クリエーター情報なし | |
メーカー情報なし |
見損ねていたので、DVDが出るのがわかって一安心しました。
その時思ったのは「そうか、崩御というのか」という事と「次の元号は何なのだろう」という事でした。
1945年8月14日のポツダム宣言受諾から、8月15日正午の玉音放送までの24時間を描いた故岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」を観たのですが、一週間程船酔いした感じでした。
当然、昭和天皇も登場人物なのですが、シルエットやハンカチを握る手などのアップ多用で声は聞こえども、顔は映っていません。 先代松本幸四郎が演じていました。