21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

43.ナイト・ミュージアム

2007-03-22 | 映画
 アメリカでヒットした映画「ナイト・ミュージアム」は,一山あてようとして失敗ばかりの主人公が,一人息子の信頼を得ようと自然史博物館の夜警の仕事を得たのですが,博物館に展示されている人形や剥製や化石が,エジプトのファラオの黄金の板のおかげで命を与えられ,夜中になると動き出すという荒唐無稽な物語です。
  先任の3人の警備員がその秘密を知り,黄金の板を盗み出そうとするのを,博物館の住人たちが団結して阻止するのですが,そんなストーリーより細部のエピソードがお楽しみの映画です。
 予告編では主人公を襲うかに見えて,実は骨を投げて遊んでもらいたがるティラノザウルス,イタズラ好きでカギを盗むノドジロオマキザル,そのほかマンモス,ライオン,ダチョウ,シロナガスクジラなどの動物が出てきます。また,モアイ像までしゃべり出し,ガムをねだります。
 歴史上の人物では,セオドア=ローズヴェルト大統領,フン人とその王アッティラ,コロンブスなどが登場します。それにネアンデルタール人は火が好きで,なぜか消化器の泡が大好物です。
 また,ピラミッドを建設し,毒矢を吹くマヤ人,大陸横断鉄道を建設しているアメリカ人のカウボーイ,オクタヴィアヌスとローマ軍は,ミニチュアのジオラマの住人たちで,とくにカウボーイたちとローマ軍はジオラマの壁をはさんで領土争いをしています。大陸横断鉄道建設のジオラマには事実が反映されていて,弁髪の苦力(クーリー)と呼ばれた中国人労働者が姿を見せます。しかし,ローマのジオラマに巨大なコロッセウムがありましたが,コロッセウムは完成したのはオクタヴィアヌスの死後です。
 アカデミー俳優のロビン=ウィリアムズが演ずる蝋人形のセオドア=ローズヴェルトは,ネイティヴ=アメリカンの女性に恋をしています。この女性はサカジャウィアといい,ルイス・クラーク探検隊の道案内をしたことでアメリカでは有名なのだそうです。アメリカはジェファソン大統領時代に,フランスからミシシッピ川以西のルイジアナを買収しました。そこで,この広大な土地の探検を大統領に命じられた陸軍大尉のメリウェザー=ルイスがウィリアム=クラークとともに探検隊を組織し,1804年から06年にかけてミシシッピ川から太平洋にいたる北アメリカ大陸横断に成功しました。その途中で,フランス系カナダ人が奴隷として買い取って自分の妻にしていたサカジャウィアと出会い,彼女がガイドを務めることになったのです。彼女は赤ん坊を背負って探検に参加し,ネイティヴ=アメリカンの知恵でたびたび探検隊を救いました。彼女は1812年になくなったそうですから,実際にはセオドア=ローズヴェルト大統領より70歳年上です。
 日本でも最近は何でもかんでもランキングをつけるようですが,アメリカでは大統領のランキングが学者によって行われています。セオドア=ローズヴェルトは,1948年,1962年のランキングでは「偉大」の次の「ほぼ偉大」にランクされていましたが,1986年にはリンカン・ワシントン・フランクリン=ローズヴェルト・ジェファソンに続いて第5位につけています。
 ちなみに,アメリカで主要な大統領を人形として売り出していた会社がありました。胸のとことを押すと,スピーチまで聞ける人形で,早速私はリンカン・ワシントン・ケネディ・ニクソン・ブッシュを注文しました。すると,どうやって送ってきたのか,注文して3日で届きました。しかし,残念ながら倒産したみたいで,現在はHPもなくなってしまいました。
ナイトミュージアム (字幕版)
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42.ラストキング・オブ・スコットランド

2007-03-14 | 映画
 前回の「ルワンダの涙」はルワンダが舞台でしたが,「ラストキング・オブ・スコットランド」はスコットランドではなくウガンダが舞台です。はじめてこの題名を聞いたとき,ウガンダのアミン大統領の映画だとは思いませんでした。原作は1998年発表の小説「スコットランドの黒い王様」で,アミンがあるとき,自分のことをそう呼んだらしいのです。イギリスから独立したウガンダですから,イギリスすなわちイングランド人と対立するスコットランド人への共感を示したのでしょう。
 ウガンダはルワンダの北隣に位置するアフリカ内陸部の国で,1962年にイギリスから独立しました。1971年独裁化したオボテ大統領に対するクーデタに成功して,軍人のイディ=アミンが大統領になりました。かれはボクシングのヘビー級チャンピオンだったこともある巨漢で,最初は国の内外から支持を受けました。しかし,やがて思いつきに近い政策を行って失敗を繰り返し,政敵に対する弾圧などで最終的には約30万人が殺されたとも言われています。一時は人肉を食べたとまで噂されたアミンですが,本当は菜食主義者だったという話もあります。アミン役のフォレスト=ウィティカーは,この映画でアカデミー賞主演男優賞をとりました。
 物語は,スコットランドから来た青年医師ニコラスを中心に展開します。かれは実在の人物ではありませんが,小説とも設定が少し変えられています。医学校を卒業し,地球儀を廻して偶然指さしたウガンダにやってきます。日本の青年が「地球の歩き方」を手に貧乏旅行に出かけるのと大して変わりありません。出会った現地の女の子とはすぐに寝てしまいますし,同僚の医師の妻にも迫ります。たまたま,アミンが事故にあったときに応急処置をしたことがきっかけで,主治医に取り立てられ,政治的な顧問のような役割も与えられるようになりました。アミンは,最初ニコラスの目にも,男らしくていいやつに見えます。実際アミンはユーモアにあふれた男で,1974年のOAU(アフリカ統一機構)の会議では場内を爆笑させ,対立するタンザニア大統領まで握手してしまったそうです。
 しかし,独裁化したアミンは暗殺におびえ,疑いのかかった人々は次々と処刑されていきます。ニコラスはアミンの第2夫人とも関係を持ち,そのため第2夫人は手足を切り落とされて殺されました。帰国も許されず,身の危険を感じたニコラスはアミンを毒殺しようとしましたが,失敗します。ニコラスを捕らえたアミンは,お前は現実に向き合ったことがない。黒人とゲームしにきたのか,といいます。これは,アフリカ人の死体を見ても涙が出なかったという「ルワンダの涙」と同じような,白人に対する批判ですね。
 パレスチナ人によってハイジャックされたエア・フランスの飛行機がエンテベ空港に着陸し,アミンが仲介に入ってイスラエル人とユダヤ系の人々以外が解放されます。ニコラスは,解放された人質に紛れ込んで国外脱出に成功したところで映画は終わります。
 これも1976年に実際にあった事件で,このあと意外な展開を見せます。突然,イスラエル軍の輸送機が3機やって来て,特殊部隊がハイジャック犯を撃ち殺し,乗客を救出して飛び去ったのです。
 アミンは,結局1979年反対派を支援するタンザニア軍に追われて国外に逃亡し,2003年サウジアラビアで死にました。蛇足になりますが,失脚しなければ,アントニオ猪木との異種格闘技戦まで計画されていたといいます。

ラストキング・オブ・スコットランド (吹替版)
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41.ルワンダの涙

2007-03-08 | 映画
 以前に「ホテル・ルワンダ」という作品をとりあげましたが,この「ルワンダの涙」も同じ1994年に起こった,ルワンダにおけるフツによるツチの大虐殺を扱っています。
 「ホテル・ルワンダ」はフツのホテル支配人が主人公でしたが,「ルワンダの涙」は白人の海外協力隊の青年とカトリック神父の視点から事件を描いています。監督はその理由について,自分たちは白人であり黒人の視点から描く権利はないと考えたと言っています。どちらの映画も,実際の事件を元にしています。「ホテル・ルワンダ」ではホテルの支配人がさまざまな手を使って多くのツチの人々を逃がしました。「ルワンダの涙」では逃げてきた大勢のツチの人々を置き去りにして国連軍は撤退し,それまでツチの人々を勇気づけてきた白人青年も,最後には何もできずに立ち去ります。また,子供たちだけでも逃がそうとした神父は,フツの知り合いに殺されてしまいます。わずかに助かった少女が5年後,イギリスの青年の所に訪ねてきて問います。「あのとき,どうして逃げたの」
 題名の「ルワンダの涙」は,BBCの女性ジャーナリストの言葉に由来します。彼女はボスニアで白人女性の遺体を見たとき,涙が止まらなかったといいます。それは,もしその女性が自分の母親だったらと考えたからです。でも,ルワンダで同じように遺体を見ても,涙が出なかった。それはただのアフリカ人の死体でしかなかった,と告白したことから来ています。
 原題は「Shooting Dogs」です。国連から派遣されたベルギー軍の大尉が,神父が武器を使って虐殺を止めてくれと懇願したのに,自分たちは監視に来ているだけで,相手が撃ってこなければ攻撃できないと断りました。ところが,虐殺されたツチの人々の遺体を食い散らかす犬を撃ち殺そうとしたのです。神父は犬が攻撃してきたのかと抗議します。邦題の方は,白人の内面的な自己批判を意味することになりますが,原題はもっと具体的に国連軍や自分たち白人の無力さに対する批判になっています。
 この映画で描かれるフツの人々は,虐殺者でしかありません。でも,「ホテル・ルワンダ」のホテル支配人はフツでした。「ホテル・ルワンダ」の時に書きましたが,フツは農耕民で先住民でした。そこに遊牧民のツチがやってきて,少数のツチが多数のフツを支配することになったのです。さらにヨーロッパ人がやってきて,この民族対立を利用して植民地化を進めます。人々にフツかツチかを明らかにするカードをもたせたのはベルギーです。虐殺事件が起こったとき,そのベルギーが監視のための国連軍として来ていたのです。このような歴史的な事情を知らなければ,フツは残酷でツチはかわいそう,助けなかった白人はひどいという単純な感想をもってしまうことになります。
 主人公の青年といっしょに働いていたフツの青年も,ナタをもって虐殺に加わり,神父の知り合いだったフツの青年は神父を殺してしまいました。なぜ,それまではいいやつだったフツの青年が同じように虐殺に加わるのか,ここがわからなければ光は見えてこないと思います。

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40.蒼き狼

2007-03-06 | 映画
 昨年2006年は,チンギス=ハーンが1206年にモンゴル帝国を建国して800周年にあたる年でした。これを記念して製作されたのが映画「蒼き狼 地果て海尽きるまで」です。製作は角川春樹とエイベックスの千葉龍平で,原作は,角川春樹に頼まれて書いたという森村誠一の「地果て海尽きるまで 小説チンギス汗」です。チンギス=ハーン役は反町隆史,妻ボルテは菊川怜,そのほかほとんどの出演者は日本人です。一方,騎馬戦ではモンゴル軍の兵士が,群衆として一般の人々が登場します。要するにエキストラはモンゴル人なのです。
 この映画を見た人の多くはおそらく,チンギス=ハーンの映画をオール・モンゴルロケで撮ったのに,どうして主要出演者は日本人で日本語でしゃべるの,と思うでしょう。
 ただ,よく知られているチンギス=ハーンの肖像は中国化された容姿で,本当はどんなだったかわからないのです。西洋人のようだったという記録もあるそうですから,日本人としては彫りの深い反町みたいだった可能性はあります。また,欧米人から見たら,モンゴル人と日本人の違いなんて,ほとんどわからないことでしょう。過去には,ジョン=ウェインやオマー=シャリフがチンギス=ハーンを演じた映画もありました。
 それでも,日本でのみ公開する映画なら,無理にモンゴル語でやる必要はないと思いますが,世界中で公開し,しかもモンゴル建国800周年を記念するのならば,敬意を表してすくなくともチンギス=ハーンなど主役級はモンゴル人俳優を使い,やはりモンゴル語で字幕をつけるのが自然でしょうね。
 その日本語も,チンギス=ハーンの自称は「余」ですし,ほかにも「族長」と呼びかけたり,「閣下」といってみたり,時代が日本の戦国時代から明治時代くらいまで感じさせて,落ち着きません。
 モンゴルの自然は美しいだけで,その厳しさは出てこないし,「肉のハナマサ」が撮影協力になっているのに,モンゴルの食生活は出てこないのです。
 最後に金への遠征に出かけるのですが,モンゴル軍の前に立ちはだかるのが,石造りの万里の長城です。でも,それは100年ほどあとの明の時代に建設されたものです。
 チンギス=ハンが,自分と息子ジュチの出生の事情を重ね合わせて苦悩する話が出てきますが,その話を盛り上げるためか,ジュチが若くして死んでしまいます。でも,ジュチの子バトゥが有名なヨーロッパ遠征を行って,1241年にヨーロッパ連合軍をワールシュタットの戦いで撃破し,ヨーロッパ中を震撼させるのです。
 モンゴルを統一したあとも,金への侵略を進めようとするチンギス=ハーンに女戦士クラン(また,「女戦士」です)が理由を尋ねます。すると,チンギス=ハーンは答えます。
「余が征服すると国境がなくなり,交易がさかんになって豊かになる」
「でも,戦さをすると血が流れます」
「それは仕方がない血なのだ」
 まったく現代日本人そのものの俳優が,大勢のエキストラのモンゴル人を率いて言うと,ちょっと危険な感じがしますね。
 ちなみに,私の同僚にはみんなから「モンゴル人」と呼ばれている講師がいて,モンゴルに対する悪口を聞くと,「モンゴル人の立場から,それは許せない」と抗議します。モンゴル関係について書くときは,必ずかれの意見を聞くようにしています。もちろん今回もです。かれがこの映画見たら,どんな感想をもつか楽しみです。

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39.パフューム

2007-03-04 | 映画
 「パフューム-ある人殺しの物語-」の原作は,1985年に発表されて世界的なベストセラーとなった同名の小説です。考えてみれば,小説も映画もにおいは直接伝えることはできないですね。18世紀,悪臭漂うパリの魚市場で生まれたジャン=バティスト=グルネイユは,生まれつき人並みはずれた,絶対音感ならぬ絶対臭覚みたいな能力をもっていました。かれは,ある日街角で一人の少女と出会い,そのにおいを嗅ぎたいがために,殺してしまいます。香水を調合する調香師の弟子となると,さまざまな技術を学び,次々と女性を殺して,そのにおいを集めます。ついに究極の香水ができあがり,捕らえられて死刑になる直前,その香水ビンから一滴垂らすと,死刑を見物に来て,かれを罵倒していた人々が,一転,陶酔の表情とともにかれを賛美します。最愛の娘を殺された父親までがかれに許しを請い,群衆は衣服を脱ぎ捨てて愛し合い始めます。
 主人公役は,「ブライアン=ジョーンズ/ストーンズから消えた男」でキース=リチャーズを演じたベン=ウィショーです。キース役ではさほど目立ってはいませんでしたが,この映画の主人公役は,痩せたからだ,ちょっと首を傾けたポーズ,いっちゃっている目など彼以外には考えられないほどです。
 当時パリが臭かったのは本当で,19世紀になると人口増加のため,それはいっそうひどくなりました。ゴミは窓から通りに投げ出され,それを馬や人々が踏みつぶし,辺り一面泥まみれになります。下水は泥で詰まって汚水があふれ出し,トイレもいっぱいになって,5階の便器から逆流して流れ出すこともあったそうです。地下の樽に溜まった糞尿は馬車で運び出すのですが,業者が樽の栓を開けて走るので,町中に撒かれることになり,それが乾いて粉状になって風で飛ぶ,そんな有様だったのです。そこで,パリの美化に乗りだしたのが,1852年に皇帝に即位したナポレオン3世でした。
 香水をフランスに広めたのは,16世紀ルネサンスの保護者として知られるメディチ家からフランス王家に嫁入りしたカトリーヌ=ド=メディシスで,映画に出てくる南フランスのグラースで作られるようになりました。このカトリーヌは,フォークなどももってきてフランスに伝えました。いかにもフランスのイメージがある香水やフランス料理のマナーなどは,イタリア起源なのです。
 ところで,臭覚は味覚や聴覚に比べると,軽視されていますね。新幹線でちょっとイヤホンから音が漏れていると注意されるのに,隣で弁当を食べ始めても誰も文句を言いません。わたしは,新幹線の3人がけの真ん中のB席で,平気で弁当を食べる人の気が知れません。
 また,動物と同じように,人間も異性に引かれるのはにおいが関係するという説があります。運命の人は特別なにおいがするのかもしれませんね。

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