21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

25.キンキーブーツ

2006-09-22 | 映画
 ロンドンの北にあるノーザンプトンといえば,エドワード=グリーン・ジョン=ロブ・チャーチなどそうそうたるブランドのファクトリーがあり,英国靴を愛する男たちにとっては聖地です。この地は,畜産がさかんで革が手に入りやすく,また革のなめしに必要な樫の木や水が豊富だったという好条件に恵まれて,靴が生産されるようになりました。ピューリタン革命を指導したクロムウェルは,靴の歴史にも大きな革新を起こしました。かれは自分の軍隊のために,それまでなかったサイズの概念をもちこみ,個人の足の大きさに合わせた靴を作らせ,さらに革を張り合わせてヒールを作らせたそうです。産業革命の時代にはノーザンプトンは靴産業の中心となり,第一次世界大戦前後には繁栄を極めました。しかし,最近は東欧などで作られた安価な靴に市場を奪われ,靴を愛する男たちの憧れとはうらはらに,実は斜陽なのです。そんなノーザンプトンの靴メーカー,ブルックスは,男性用(つまりサイズが大きい)のハイヒールブーツを作って会社を再興しました。この実話をもとにしたのが映画「キンキーブーツ」です。この映画の字幕では,「ノーザンプトン」を「田舎」と訳しています。つぶれそうな靴ファクトリー「プライスアンドサンズ」を受け継いだチャーリーは,偶然ドラッグクイーン(ゲイクラブの花形)のローラと知り合い,身長180cmの彼女(?)にあったサイズのキンキーブーツ(直訳では変態ブーツ)がないことを知り,それまでの伝統的な紳士靴作りをやめ,キンキーブーツに社運をかけるのです。ところが,従業員のなかにも,そんな変態ブーツを作ることに反対する者も現われ,ローラにも偏見の目を向けます。ローラもまた,ドレスに身を包んでいるときは堂々としているのに,男性の姿になると勇気を出せません。それでも,偏見を乗り越え,ミラノのドゥーモの近くで開かれたショウで成功を収める,そんなお話しです。
 一つ偏見を乗り越えても,また新たな偏見にとらわれるものですが,それでも偏見を乗り越えたときの一体感は人を感動させます。となりの席のおじいさんは涙していました(もちろん,私も)。私はローラとは逆に男性としては足が小さくて,長年自分に合う革靴がありませんでした。しかし,多少高価でも自分に合う靴を作ってもらうことにしました。この映画には,神戸でスピーゴラという工房を開いているコージ=スズキ氏につくってもらったお気に入りのダブルモンクを履いて見にいきました。なお,この映画のロケはトリッカーズのファクトリーで行われたそうです。
キンキー・ブーツ (字幕版)
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「偏見」は些細な事からその人の存在を否定する事... (kiku)
2007-01-17 01:45:45
「偏見」は些細な事からその人の存在を否定する事まであらゆる場面で、無知、無理解、無関心、先入観など個人の価値観の違いや好き嫌いなど個人の感情から起こるものだと思います。
「知った」から「理解した」からというより「受け入れる事」からなくなっていくものだと思います。
多分「偏見」は誰しもが少なからず持っているもので、100人いれば100通りの「偏見」があるのではないでしょうか。正直に言えば、私もいくつかは持っています。
そして、人が生きている限り、完全にはなくならないものではないかとも思っています。
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