21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

50.海底軍艦

2007-11-28 | 映画

 ニンテンドーDSのソフトに「DS文学全集」というのがあります。日本の名作文学作品100冊が収められていて2800円,1冊あたり28円です。その安さにひかれたのと,題名だけ知っていて読んだことのない作品や一度読んだけど忘れてしまった作品を読み直そうと買いました。すると夏目漱石の「吾輩は猫である」や太宰治の「人間失格」などと並んで,押川春浪「海底軍艦」というのを見つけました。ほかの作品とちょっと題名のイメージが違います。私は知らなかったのですが,1900年ちょうどに発表された日本のSFの草分けとなる作品なのだそうです。
 海底軍艦,すなわち潜水艦ではジュール=ベルヌが「海底2万里」に登場させたノーチラス号が有名ですね。「海底2万里」は「海底軍艦」の30年前,1870年に発表されています。また,実際の潜水艦そのものは,すでに人力を動力とするものが,早くもアメリカ独立戦争に登場しています。そして,蒸気船を実用化したフルトンは潜水艦も設計しており,ラテン語でオオムガイを意味するノーチラス号の名はフルトンの設計した潜水艦の名に由来します。本格的な潜水艦が登場したのは,「海底軍艦」が発表された同じ年1900年です。
 「海底軍艦」の主人公は,イタリアから日本に帰る途中,インド洋で海賊船に襲われて乗っていた船を沈められ,ある島に漂着します。そこでは日本海軍の大佐が部下とともに海底戦闘艇「電光艇」を建造していたのでした。3年後,電光艇は完成しましたが,動力となる12種類の薬剤がたまたま起こった津波によって失われてしまったのです。気球でコロンボまで必要な薬剤を調達に行こうとしますが,気流に流されてしまいます。しかし,イギリスから日本へ航行中であった軍艦「日の出」に助けられ,電光艇と日の出は電光艇を奪おうと再び現れた海賊船団を撃破するのです。
 1963年には東宝映画「海底軍艦」として映画化されていますが,ストーリーはだいぶん違います。1万2000年前に海中に沈んだムウ帝国が,突如世界の植民地化を進めようと世界各地で攻撃を開始します。一方,太平洋戦争敗戦のときに反乱を起こして消息を絶った日本海軍の大佐が,密かに南海の孤島で海底軍艦「轟天号」を建造していました。大佐は大日本帝国の復興のために轟天号をつくったのですが,世界の危機に国連の要請を受け,説得されてムウ帝国と戦い,その動力源を破壊して世界を救うのです。
 映画の中で,ムウ帝国の攻撃で,パナマ運河やヴェネツィア,それに香港が破壊されたという新聞記事が出てきます。その記事の横には「ジョンソン新大統領の横顔」という記事が載っています。1963年の11月22日にケネディ大統領が暗殺され,ジョンソンが大統領に昇格しています。この映画はそれからちょうど1ヵ月後に公開されています。
 また,小説「海底軍艦」では少年向けの読み物ということもあって,当時の素朴なナショナリズムがちりばめられていますが,映画「海底軍艦」では愛国心なんて「今の若い者には理解できんだろう」というセリフが出てきたり,轟天号は大日本帝国復興のためと,世界のためにムウ帝国と戦うのを拒む大佐は,愛国心という「錆び付いた鎧」をまとっていると真っ向から批判されます。まさに時代の差といえるでしょう。おもしろいですね。

海底軍艦
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コメント
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