21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

14.ダ・ヴィンチ・コード

2006-05-22 | 映画

 ダン=ブラウンの世界的ベストセラー,「ダ・ヴィンチ・コード」が書店にならんだときは,「あら,無視するの」と表紙のモナ・リザに呼び止められた気がしました。さらに文庫本になって書店の店先にずらっとならんだときは,サイズが小さくなって数が増えたため,少し早口になったモナ・リザが甲高い声で「チョット,チョット,チョット…」と,また呼びかけてきたような気がしました。その「ダ・ヴィンチ・コード」が,ついに映画になり,全世界でいっせいに公開されました。

http://www.sonypictures.jp/movies/thedavincicode/

 バチカンがこの映画を見ないように声明を出したり,カンヌで最初プレス向きに公開されたときは冷淡な反応だったけれど,一般公開すると好評だったとか,話題に事欠きません。実は,私が見た劇場では,始まって1時間ほどで急に上映が止まりました。これは上映反対派の妨害かと思ったのですが,単なる映写機の故障だったようです。

 小説があまりに有名になってしまったので,映画はほぼそのまま再現しています。トム=ハンクス扮するラングドン教授が,「アメリ」で有名になったオドレイ=トトゥの暗号解読官ソフィーとともに,ルーヴル博物館での殺人事件に始まるさまざまな謎を解いていきます。そして,教会が隠し続けてきたイエスの秘密,すなわちイエスはマグダラのマリアと結婚していて,その子孫が今も生きていることを知る物語です。

 キリスト教会ではすでにローマ帝国の時代に,イエスが神なのか人なのかをめぐって論争が起こりました。325年のニケーア公会議で正統とされたアタナシウスの説では,イエスは神であり同時に人です。キリスト教でも,ユダヤ教と同じく神はヤハウェです。それがキリスト教ではイエスに対する信仰に置き換えられるのは,まさにイエスが神であるからです。そのイエスが結婚し,子供もいたということであれば,話はだいぶん変わってきます。日本では,イエスが結婚してその子孫が今も生きているといわれても,へーえと思うだけかもしれませんが,2000年にわたるキリスト教信仰の歴史をもつヨーロッパでは,大変なことなのです。

 ところでモナ・リザは,この映画では数秒しか出てきませんし,ストーリーのなかでもさほど重要な位置は与えられていません。まあ,看板娘みたいな役割です。ルーヴルでも,「モナ・リザ」はほかの作品とちがって,ガラスケースに入れられて展示されています。ルーヴルの「箱入り娘」なんですね。 

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13.グッドナイト&グッドラック

2006-05-13 | 映画

 「グッドナイト&グッドラック」は,1950年代に活躍したジャーナリスト,エドワード=マローの物語で,題名はかれが放送の終わりに必ず言った言葉から来ています。キャスターを務めたテレビ番組「シー・イット・ナウ」で,空軍を不当な理由で解雇されそうになった人物を取り上げたことから,マローは20世紀アメリカ最大のデマゴーグ,ジョセフ=マッカーシーと対決することになります。そして,マッカーシーが失脚するきっかけをつくったものの,自らの番組改編を余儀なくされるという物語です。ジョージ=クルーニーが,マローの相棒でこの作品の元ネタになった「やむを得ぬ事情により…」を著わしたフレッド=フレンドリーを演じ,監督と共同脚本を兼ねています。

http://www.goodnight-movie.jp/

 ジョセフ=マッカーシーは,ウィスコンシン州選出の上院議員で,1950年のある集会で国務省には205名の共産主義者が潜り込んでいると爆弾発言をし,そのリストをちらつかせました。実際はリストなどなく,かれはただ2年後の選挙に当選するための売名行為をやっただけでした。しかし,前年の1949年に19世紀末以来アメリカが市場として期待してきた中国が共産主義陣営に加わり,またソ連が核実験に成功してアメリカの核独占が崩れたというような情勢を背景として,一躍時の人になってしまったのです。
 
 アメリカでは第二次世界大戦後,冷戦の開始とともに反共ムードは高まっていました。1947年には,下院非米活動委員会がドルトン=トランボなどハリウッド・テンと呼ばれる10人の映画関係者の共産党との関係を追求しました。かれらが憲法に基づく権利として証言を拒否すると,議会侮辱罪で告発され,1950年には最高裁判所で有罪が確定して投獄されました。以後,業界を追われ,偽名でしか仕事ができなくなってしまったのです。

 「シー・イット・ナウ」が終わろうとする1958年のマローの演説が,この映画の最初と最後に取り上げられています。そこでマローはテレビが娯楽と逃避のためだけになっていくことを警告しています。テレビなどのメディアは,人々に娯楽を提供することによって,本当に重要なことから目をそらす役割を果たします。ただし,重要な問題を取り上げるようになっても,今度は政治権力が自分に都合の良い世論を作るために利用する危険性もあります。

 ところで,マローやそのスタッフがさかんにたばこを吸うのを見て,眉をひそめる方もいらっしゃるでしょう。マローは実際に肺ガンを患って57歳でなくなっています。ただし,一方で「シー・イット・ナウ」は,たばこと肺ガンの関係を取り上げて,たばこ会社と対立した事実もあります。それでは,グッドナイト,アンドグッドラック。

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