21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

68.猿の惑星

2011-10-18 | 映画

  「猿の惑星:創世記」は,「猿の惑星」シリーズでどうして猿が人間のような知能をもつようになったのかの謎解きです。1968年の映画「猿の惑星」は,砂に埋もれた自由の女神を見つけて,猿の惑星が地球であったことがわかるラストシーンが衝撃的でした。原作者のピエール=ブーンはフランス人で,第二次世界大戦中,日本軍の捕虜になった体験をもち,日本人に支配された白人の寓意として,猿が人間を支配する惑星を描いたのでした。黄色人種とくに日本人に対する蔑称に,yellow monkeyという言葉がありますね。ブーンは,1957年の映画「戦場に架ける橋」の原作者でもあります。
 映画化された「猿の惑星」では,1960年代のアメリカ合衆国における黒人と白人の人種問題を投影したストーリーに,置き換えられています。その後,1970年の「続・猿の惑星」でも,コバルト爆弾を神格化する地底に住むミュータントが出てくるなど,当時の「核の抑止力」理論などを風刺しています。さらに「新・猿の惑星」「猿の惑星・征服」「最後の猿の惑星」と続編が次々と作られました。BATHING APEの有名な「APE SHALL NEVER KILL APE」は,この「猿の惑星」シリーズにおける猿社会のルールからとったものです。
  原作は,地球とは別の惑星が猿に支配されており,やっとのことで地球に戻ってみると,地球もまた猿に支配されていたという設定です。1968年の「猿の惑星」では,ある惑星に不時着したら猿に支配されていて,実はそれが地球だったと単純化されています。原作の設定に忠実なのは,2001年のティム=バートン監督作品の「猿の惑星」で,自由の女神に代えて,原作にはないチンパンジーの将軍がリンカン像に入れ変わっているシーンを登場させました。。
  どちらの設定でも,宇宙空間を光速に近い速度で航行したことで,地球では数百年から数千年が過ぎてしまったという設定になっています。しかし,わずか数百年や数千年で猿が人間のように進化するにはなにか理由があるはずです。世界史で勉強する最初の人類の一つとされるアウストラロピテクスから,現在まで400万年ほどかかっています。
 1968年からの一連のシリーズは,次々と続編が作られたための結果ですが,回帰する構造になっています。すなわち,「続・猿の惑星」のコバルト爆弾で地球は破壊され,その直前に地球を離れた猿の学者夫妻が,時間をさかのぼって過去の地球に現れるのです。そして2人の子シーザー(今回のチンパンジーの主人公も名はシーザーです)が猿の反乱を指導し,猿を解放します。その後,核戦争で人間社会が崩壊し,猿と人間の共存社会が成立したのですが,なぜか人間は退化するという最初の設定に戻ります。
 未来から来たものが過去を変更すると,歴史が変わってしまうというタイムパラドックスの問題もありますが,とにかくこういう構造になっています。
  今回公開された「猿の惑星:創世記」では,これもまた現代を反映して,アルツハイマーの特効薬をチンパンジーに投与したことがすべてのきっかけになっています。
 とすると,原作に近いバートン版の「創世記」と考えることも出来ますが,バートン版では別の惑星の猿の将軍がリンカンに入れ変わっていることもあり,今回の作品の設定と合わないように思えます。やはり新しい「猿の惑星」シリーズが始まる,つまり,また続編が作られるのでしょうか。
 「猿の惑星」が制作された1968年には有名なSF映画の代表作「2001年宇宙の旅」が公開されました。私にとって2001年は未来の代名詞でした。それが,現実にはすでに過去になりました。バートン版までの特殊メイクが,今回の作品ではパフォーマンス・キャプチャーという特殊技術になり,これも一つの歴史です。主人公チンパンジーのシーザーは2言しかしゃべらないのですが,その表情は豊かで,この表情がこの映画の命でしょう。

猿の惑星:創世記(ジェネシス) (字幕版)
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コメント (1)
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