リンムーの眼 rinmu's eye

リンムーの眼、私の視点。

通天閣

2009-12-14 | book
西加奈子著『通天閣』(ちくま文庫)読む。

坦々と町工場で働く日々を「こなす」中年男の生活と、去った恋人に未練を残しつつスナックで働く若い女性の生活が、並行して進むストーリー。

通天閣の真下、大阪の人いきれが濃厚な町ミナミが舞台だ。
二人の主人公以外にも、登場人物はみな、おかしくも悲しい人生を背負い、日々をやり過ごして生活する人々ばかりである。

「私が泣いていることなんて、誰も知らない。皆自分のことに夢中で、夢中になっていることは本当につまらないことで、そしてまた明日を待っている。」

だが、これは悲観的な物語ではない。むしろ、不器用な人生を肯定する物語だ。
中年男と女性二人のストーリーは、徐々に並走し、終盤で見事に重なる。
クライマックスはとても感動的で、ストーリーテリングが巧みだ。

二人のストーリの間に、寓話とも夢の断片ともつかない小文が挿入されている。
メイントーリーの生活感あふれるリアリズムに対して、非現実的な要素を配するバランスが絶妙だ。

「ポケットに手を入れると、見覚えのない鍵が入っていた。それを雪に投げ捨てると、そのまま雪の上で溶けてしまった。ははは、やった! そんな風に大声を出し、空を見上げた。すると通天閣が立っている。」

文章がいきいきしており、シーンも鮮やか。
悲哀を感じさせつつ、滑稽な愛すべき登場人物たち。
とてもよい小説だと思う。
多くの人に読まれてほしい小説だ。

最近の若い作家はピリッとしないなと思う方にも是非、オススメしたい。

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