買物を終えて、アパートの敷地内に入ると、さっきの男の子とすれ違った。入口の方に目をやると、お隣のお母さんが、見送っていた。隣同士だというのに、初めて、姿を見たような気がする。細い人だな。肩のラインが、あまりにも、弱々しく感じた。白のフワフワのカーディガンが優しそうな笑顔を引き立てていた。直射日光をさけるように左手で髪をかき上げる仕草。シャランと音が聴こえるような、動きを見せた、黒くて、とても長い真っ直ぐな髪。男の子に、笑顔で手を振っていた。僕にも、会釈したような気がしたけど、違うと思う。振り返り、階段を登っていった。僕は、自分の場所に車を停めた。買物袋から、ボジョレヌーボが顔を出していた。買ってしまった。
今日のメニューは、アサリと大葉のパスタ。エリンギのグリル。カキフライ(20%オフのお惣菜)。こんなところでしょうか。千円以内のワインの目標が、いとも簡単に誘惑に負けてしまった。調理に取り掛かる前に、パソコンのメールをチェックをしようと思った。マミコのメールがとにかく、気にかかり、毎日、今日こそはと、開いていた。立ち上がりの合間に、35缶のビールを開けて、5口流し込んだ。
「来た。マミコからだ」
クリック。
ケンジへ。
ゴメン。本当に、ゴメンナサイ。心配させてしまいました。ちょっと、混乱しています。どうしたらいんだろう。
病状、かなり悪いかも。旦那の気の使いようからも、それを感じます。
自分で、そう感じます。色々なものが、又、見えるようになってきて。感じるようになってきて、おかしくなりそうです。息子も悲しませてしまっている。
どうしよう。
ケンジとの再会も、ある意味、残り少ない私へのプレゼントだったのかな。
どうしよう。
こんな、状態だからって、ケンジに会うなんて事も、出来ない。旦那と、息子。家族が何よりも、大切だから。
だから、こんな状態だからって、ケンジも会いになんて、絶対、来ないでね。
でも、辛いな。
治療に専念します。可能性を信じます。
いい報告が出来る様に、治療に専念します。
ケンジ。
ケンジ。
このメールをひと区切りにします。
必ず、必ず、いい報告のメールをします。
再び、メールが届く事を信じて、祈っていて下さい。
「サンタさん。ケンジと会えます様に」
ケンジ。
ケンジ。
一つ、黙っていた事があります。あの頃住んでいた、公宅って、まだあるかな。
ケンジが毎日遊んでいた、土管公園まだ、あるかな。
25年振りの告白。
引越しのトラックに乗り込む、少し前に、私、土管公園に行って、土管に潜り込んだ。マジック持って。何色の土管だったかな。大き目のやつだった。何て書いたと思う。
ケンジ 今日のこの日まで大好きでした。今も。マミコ
そう書いて、公園を出ようとした。私の視線に、ケンジの後姿を見つけたの。
空っぽになった、私の部屋を見上げるケンジを見つけたの。
私、心の中で、ゴメンナサイって言ってた。
土管に戻って、書いた言葉を、塗りつぶしたの。
私の、思い出。私だけの思い出。初公開。
ケンジ。これは、時のいたずらなの?教えてよ。
何で、今頃出会うのよ。
みんな、大切すぎる
25年振りの再会なのに
25年の時の壁をどう払えるっていうのかしら。
会うべきではないと思う。
例え、元気な自分だとしても、会うべきではないと思う。
許して。
こんな、メールを許して。
どうか、気持ちだけ、どうか、この言葉だけ。ただ、一方的に言わせて下さい。
心の中は、土管にいる私に、戻ってしまった。
大好きです。
大好きです。
ケンジ。ケンジ。ケンジ。ケンジ。ケンジ。kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk
僕は、怒りに似た、やり場の無い、感情で、マミコのメールをただただ、眺めていた。マミコのやり場のない、感情も、最後の文字から響いてきた。僕は、ボジョレーをあけ、そのままラッパ飲みした。
時の壁の厚さに 手を伸ばしても
届かない 届かない
君の声は届いた気がしたのに
この腕で抱きしめたい
この腕で抱きしめたい
この腕で抱きしめたい
訳も、わからず、感情を歌にしていた。弦を切ってしまいたかった。指が切れてもいいと思った。おかしいくらいに涙が溢れ出していた。今すぐこの腕で抱きしめたかった。
どうして 抱きしめて上げられないの
どうして ここにいないの
綾子とお母さんは、何も話さず、ギターの音に反応して、壁に近づいた。いつもと感じが違った。
「泣いているの」
「私も、涙が出てきちゃう」
今日のメニューは、アサリと大葉のパスタ。エリンギのグリル。カキフライ(20%オフのお惣菜)。こんなところでしょうか。千円以内のワインの目標が、いとも簡単に誘惑に負けてしまった。調理に取り掛かる前に、パソコンのメールをチェックをしようと思った。マミコのメールがとにかく、気にかかり、毎日、今日こそはと、開いていた。立ち上がりの合間に、35缶のビールを開けて、5口流し込んだ。
「来た。マミコからだ」
クリック。
ケンジへ。
ゴメン。本当に、ゴメンナサイ。心配させてしまいました。ちょっと、混乱しています。どうしたらいんだろう。
病状、かなり悪いかも。旦那の気の使いようからも、それを感じます。
自分で、そう感じます。色々なものが、又、見えるようになってきて。感じるようになってきて、おかしくなりそうです。息子も悲しませてしまっている。
どうしよう。
ケンジとの再会も、ある意味、残り少ない私へのプレゼントだったのかな。
どうしよう。
こんな、状態だからって、ケンジに会うなんて事も、出来ない。旦那と、息子。家族が何よりも、大切だから。
だから、こんな状態だからって、ケンジも会いになんて、絶対、来ないでね。
でも、辛いな。
治療に専念します。可能性を信じます。
いい報告が出来る様に、治療に専念します。
ケンジ。
ケンジ。
このメールをひと区切りにします。
必ず、必ず、いい報告のメールをします。
再び、メールが届く事を信じて、祈っていて下さい。
「サンタさん。ケンジと会えます様に」
ケンジ。
ケンジ。
一つ、黙っていた事があります。あの頃住んでいた、公宅って、まだあるかな。
ケンジが毎日遊んでいた、土管公園まだ、あるかな。
25年振りの告白。
引越しのトラックに乗り込む、少し前に、私、土管公園に行って、土管に潜り込んだ。マジック持って。何色の土管だったかな。大き目のやつだった。何て書いたと思う。
ケンジ 今日のこの日まで大好きでした。今も。マミコ
そう書いて、公園を出ようとした。私の視線に、ケンジの後姿を見つけたの。
空っぽになった、私の部屋を見上げるケンジを見つけたの。
私、心の中で、ゴメンナサイって言ってた。
土管に戻って、書いた言葉を、塗りつぶしたの。
私の、思い出。私だけの思い出。初公開。
ケンジ。これは、時のいたずらなの?教えてよ。
何で、今頃出会うのよ。
みんな、大切すぎる
25年振りの再会なのに
25年の時の壁をどう払えるっていうのかしら。
会うべきではないと思う。
例え、元気な自分だとしても、会うべきではないと思う。
許して。
こんな、メールを許して。
どうか、気持ちだけ、どうか、この言葉だけ。ただ、一方的に言わせて下さい。
心の中は、土管にいる私に、戻ってしまった。
大好きです。
大好きです。
ケンジ。ケンジ。ケンジ。ケンジ。ケンジ。kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk
僕は、怒りに似た、やり場の無い、感情で、マミコのメールをただただ、眺めていた。マミコのやり場のない、感情も、最後の文字から響いてきた。僕は、ボジョレーをあけ、そのままラッパ飲みした。
時の壁の厚さに 手を伸ばしても
届かない 届かない
君の声は届いた気がしたのに
この腕で抱きしめたい
この腕で抱きしめたい
この腕で抱きしめたい
訳も、わからず、感情を歌にしていた。弦を切ってしまいたかった。指が切れてもいいと思った。おかしいくらいに涙が溢れ出していた。今すぐこの腕で抱きしめたかった。
どうして 抱きしめて上げられないの
どうして ここにいないの
綾子とお母さんは、何も話さず、ギターの音に反応して、壁に近づいた。いつもと感じが違った。
「泣いているの」
「私も、涙が出てきちゃう」