「まあまあ。そういうのが好みの人だっているんだしさ」
岩白がこっちを向くと、眼鏡の奥でいやらしい目が光る。
「日永君とか」
「そうなんですか?」
きょとんとした目もこっちを向く。
「なばっ、馬鹿、俺はそんなんじゃ……って言うかな、そういう話は女子だけの時にしろ」
「あら、それは無理よ。だっていつだって日永君がべったりだしね。ねー、セン?」
「ねー」
センの腰に手をまわしたまま至近距離で笑い合う。
岩白が笑顔なのは解るけどお前までにこにこするなよ。……俺が悪いんだけどさ。
「昨日約束したからな。ずっと一緒に居てやるって。俺はいいやつだから約束は守るんだよ」
「それ以前はー?」
「ほっとけ」
言い訳したところで悪いのはやっぱり俺か。残念でした。
だから解ったから岩白さん、こっち向いてにやにやするのやめてくれませんかね?
と思ったらホントににやけを収めて、
「……じゃ、これからもずっと一緒に居てあげてね」
そしてセンのほうを向いて頭を撫で、
「そろそろ行かないとね。あんまり日永君に迷惑掛けちゃ駄目よ?
どんなに文句があってもずっと一緒に居てくれるそうだから、
胃に穴が開くようなことがないようにね」
「春菜さん……」
センに若干不安の色が差すが岩白は笑顔のままで、
「一回だけ『お姉ちゃん』って呼んでもらっていい?」
急に何を言い出すんだ?
と思ったら言われたセンは何やらちょっと考えるような仕草をした後、
「春菜お姉ちゃん、大好き」
どうやら「春菜」部分は削れないらしい。それとも以前そう呼んでた時期があったとか?
「私も大好きよ。セン」
「じゃあまた明日ね」
「……はい。また明日」
玄関口まで見送ると、明日という単語に多少途惑いつつも背中の上からセンが挨拶を返す。
それが終わると岩白は無言で俺に視線をよこした。でも俺は視線以外何も返さない。
そして岩白は、ゆっくりとドアを開けて出て行った。
また後でな、岩白。その「後」がいつになるかはまだ解らないけど。
部屋に戻ってベッドの上にセンを降ろすと、
「いつになるかはっきり解るわけじゃないですけど、多分明日はもう来ないんでしょうね」
ちょっだけ弱気な声。その横に腰掛けると、こちらに寄りかかって来た。
「ねえ明さん、お願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「その時が来るまで、ずっと抱きしめてもらっててもいいですか?」
「……お安い御用」
もう明日まではあと十時間くらいしかないしな。実際はそんなにも時間ないだろうけど。
「なんだかわたし、昨日からずっと抱かれてますよね。さっきは春菜さんにもでしたし」
相変わらず好きな音を聞きながら恥ずかしそうな声でセンがそう言うと、
久しぶりにちょっかいを出してみたくなった。
「おかげでその間、寂しかったんだぞ?」
「えっ、あの」
驚いてセンが胸から離れるが、
「なんてな」
「も、もう……こんな時までそんないじわるしなくてもいいじゃないですか」
「お前だって岩白に『ねー』とか嬉しそうに返してただろ。お互い様だって」
みつめ合う。まるで睨めっこでもしているかのようにみつめ合う。そして、
「……ぷっ」
センがたまらず噴き出す。でも笑ったのは俺の顔じゃなくて……
そりゃ変な顔してるわけでもないのに笑われたら泣けるからな。
「本当、お互い様ですよね。二人揃ってこんな時に何やってるんでしょう?」
勝負は決したので、勝ちが確定した俺も続けて笑う。
「まあ悪いことじゃないけど、確かに変だよな。この状況じゃ」
そのまま二人でクスクス笑い合う。
腹を抱えて大爆笑ってわけでもなかったけど、この上なく幸せだと思えた。
ややあってそれが収まると、
「…………ね、明さん」
「……ん」
再び睨めっこ。
そこからどうするかはお互い何も言わなかったけど、言わなくても解る。
目を閉じて。
顔を近づけて。
…………お前に会えて、ホントに良かった。
岩白がこっちを向くと、眼鏡の奥でいやらしい目が光る。
「日永君とか」
「そうなんですか?」
きょとんとした目もこっちを向く。
「なばっ、馬鹿、俺はそんなんじゃ……って言うかな、そういう話は女子だけの時にしろ」
「あら、それは無理よ。だっていつだって日永君がべったりだしね。ねー、セン?」
「ねー」
センの腰に手をまわしたまま至近距離で笑い合う。
岩白が笑顔なのは解るけどお前までにこにこするなよ。……俺が悪いんだけどさ。
「昨日約束したからな。ずっと一緒に居てやるって。俺はいいやつだから約束は守るんだよ」
「それ以前はー?」
「ほっとけ」
言い訳したところで悪いのはやっぱり俺か。残念でした。
だから解ったから岩白さん、こっち向いてにやにやするのやめてくれませんかね?
と思ったらホントににやけを収めて、
「……じゃ、これからもずっと一緒に居てあげてね」
そしてセンのほうを向いて頭を撫で、
「そろそろ行かないとね。あんまり日永君に迷惑掛けちゃ駄目よ?
どんなに文句があってもずっと一緒に居てくれるそうだから、
胃に穴が開くようなことがないようにね」
「春菜さん……」
センに若干不安の色が差すが岩白は笑顔のままで、
「一回だけ『お姉ちゃん』って呼んでもらっていい?」
急に何を言い出すんだ?
と思ったら言われたセンは何やらちょっと考えるような仕草をした後、
「春菜お姉ちゃん、大好き」
どうやら「春菜」部分は削れないらしい。それとも以前そう呼んでた時期があったとか?
「私も大好きよ。セン」
「じゃあまた明日ね」
「……はい。また明日」
玄関口まで見送ると、明日という単語に多少途惑いつつも背中の上からセンが挨拶を返す。
それが終わると岩白は無言で俺に視線をよこした。でも俺は視線以外何も返さない。
そして岩白は、ゆっくりとドアを開けて出て行った。
また後でな、岩白。その「後」がいつになるかはまだ解らないけど。
部屋に戻ってベッドの上にセンを降ろすと、
「いつになるかはっきり解るわけじゃないですけど、多分明日はもう来ないんでしょうね」
ちょっだけ弱気な声。その横に腰掛けると、こちらに寄りかかって来た。
「ねえ明さん、お願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「その時が来るまで、ずっと抱きしめてもらっててもいいですか?」
「……お安い御用」
もう明日まではあと十時間くらいしかないしな。実際はそんなにも時間ないだろうけど。
「なんだかわたし、昨日からずっと抱かれてますよね。さっきは春菜さんにもでしたし」
相変わらず好きな音を聞きながら恥ずかしそうな声でセンがそう言うと、
久しぶりにちょっかいを出してみたくなった。
「おかげでその間、寂しかったんだぞ?」
「えっ、あの」
驚いてセンが胸から離れるが、
「なんてな」
「も、もう……こんな時までそんないじわるしなくてもいいじゃないですか」
「お前だって岩白に『ねー』とか嬉しそうに返してただろ。お互い様だって」
みつめ合う。まるで睨めっこでもしているかのようにみつめ合う。そして、
「……ぷっ」
センがたまらず噴き出す。でも笑ったのは俺の顔じゃなくて……
そりゃ変な顔してるわけでもないのに笑われたら泣けるからな。
「本当、お互い様ですよね。二人揃ってこんな時に何やってるんでしょう?」
勝負は決したので、勝ちが確定した俺も続けて笑う。
「まあ悪いことじゃないけど、確かに変だよな。この状況じゃ」
そのまま二人でクスクス笑い合う。
腹を抱えて大爆笑ってわけでもなかったけど、この上なく幸せだと思えた。
ややあってそれが収まると、
「…………ね、明さん」
「……ん」
再び睨めっこ。
そこからどうするかはお互い何も言わなかったけど、言わなくても解る。
目を閉じて。
顔を近づけて。
…………お前に会えて、ホントに良かった。
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