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「極夜行」角幡唯介(文春文庫)

2022-02-27 | 雑文
「極夜行」角幡唯介(文春文庫)(2021)

探検家である角幡さんの人生で最も充実した
時期の、重要な位置付けとなる「極夜」長期
探検のルポ。

角幡さんのファンは無論、太陽も月もない暗
黒世界である「極夜」に興味惹かれる方も楽
しめる本作。

間違いなく楽しめるし、おススメもできるの
だけれど、読み終わり直後のちょっと正直な
感想を少し。

角幡ファンであるが故に、だからってそんな
こと言われてもというものだが、本作のハー
ドルは実は相当に高かった。

というのも、この極夜の旅が、探検としても
表現としての作品としても、かなり重要であ
ることは発売前から度々発言されていた。

角幡さんにハードルを上げる意図はなかった
のだろうが、ファンとしてそうした発言に触
れる度に、期待度は高まりに高まった。

結果として、そのめちゃくちゃ高いハードル
を超えたかとなれば、どこか満たされていな
いというのが素直な感想になる。

文体にも内容にも不満があるわけではないが、
最上級のノンフィクションにある、本当に読
むのが止められないというまではなく。

文庫版あとがきにある、カオスを表現する過
剰感は、本当に個人の好みの問題でしかない
のだが、自分を満たしきってはくれなかった。

これは、「極夜」の一人旅という対象の特殊
性と、著者自身のノンフィクションの難しい
ところなのかもしれない。

視覚情報を最大に、五感に変化が多いとはい
えない極夜となれば、自然、その他の文量が
多くなる。

同じく角幡さんの著書である「アグルーカの
行方」では、自らの旅と過去の他者の旅を混
ぜる手法を取った。

今回はその他者の旅が、角幡さんのモノロー
グとなるのだが、ノンフィクションに重きを
置く読み手にはどうだったか。

それが、過去の角幡さんと沢木耕太郎さんの
対談であったとおり、表現者の意図と読み手
の目的の差であることは理解しているが。

それともう一つ、これも完全に個人の好みの
問題で、角幡さんの文体について。

「漂流」から「探検家とペネロペちゃん」と
経て、目的を持って角幡さんは文体を変えて
いるのだろう。

それまでの作品が記者経験をベースとしたも
のであるとすれば、そこらへんからは表現者
としての色を強くしているように思う。

本人もどこかで言及していたが、特にギャグ
において町田康の影響があるというか、町田
節の垣間見える文体。

ペネロペのような題材であればまだ、極夜行
では消化し切れていないようにも。

少なくとも主題ではない、それ以外の部分の
文体において、高野秀行レベルの完成度はま
だなかったか。

ただ、そうしたファンならではの弊害という
か難癖はさておき、十分面白かったし、おス
スメもする作品。


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