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読書のよもやま(2023.04.10)

2023-04-10 | 雑文
「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」
河野啓(集英社文庫)

数多出版される書籍の中で、ノンフィクショ
ンというジャンルは、決して出版数が多いジ
ャンルではない。

しかし、そのノンフィクションというカテゴ
リーの中では、登山系、山岳系は恐らくマイ
ナーなジャンルではない。

ノンフィクションを探すことはやや大変でも、
ノンフィクションからそれらを探すことは、
比較的容易だと感じている。

山を登るという明確性と、登り始めれば山し
かないという閉鎖性と、常に命に関わるとい
う危険性と。

山岳系は翻訳モノの名作も多いが、何より山
岳国家である日本は、登る登らないによらず、
山に興味を持つ者も多いのだろう。

して、この本は山岳系ノンフィクションだろ
うかとなれば、一般的な山岳系ノンフィクシ
ョンにはカテゴライズされないように思う。

この本は、山岳を主な舞台に生きた栗城史多
という人物を追った人物系ノンフィクション
なのだろう。

主テーマは人物にあり、山岳にはなく、山岳
は対象の人物が強い関りを持つ舞台に過ぎな
い。

沢木耕太郎の「凍」も登山家である山野井夫
妻を追ったノンフィクションであるが、この
2作は明確にジャンルを異にするものである。

山野井夫妻は登山家でなければならなかった
が、栗城史多はたまたま登山だったのだろう。

つまり、山野井夫妻のノンフィクションは、
夫妻が登山家でなければ生まれないが、栗城
史多はそうではない。

この人物は、どのような人生を歩んだとして
も、それぞれの人生でノンフィクションが生
まれる可能性がある。

だから、この本は、純粋な人物系ノンフィク
ションというのが、読後の感想である。

ノンフィクションは、著者が取材した事実を
書くもので、善悪や否定肯定を判断するもの
ではない。

それは書き手も読み手も同じであり、そこに
は著者からの事実があればよく、絶対的な真
実性が求められるわけではない。

だから、栗城史多という様々な意見や評価の
ある人物であっても、個人的にこの本をもっ
てどうこうという感想はない。

その他の大勢の読者と同じように、自分は読
書として、単純にノンフィクションとしてし
か評価しない。

その点でいえば、この本は、この著者にしか
書けない書籍である。

それはノンフィクションにおいて最も重要な、
対象との距離が、抜群にほど良いからである。

山岳を人生の主舞台とし、多くの人に知られ、
賞賛も批判もされたとある人物を追うノンフ
ィクションとして、これは十分に面白い。

ただし、一般的な山岳系のような、明確性や
閉鎖性や危険性を求めると肩透かしを食らう
という、ただ、それだけ。


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