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読書のよもやま(2023.11.13)

2023-11-13 | 雑文
「旅のつばくろ」沢木耕太郎(新潮文庫)

一つのテーマによらず、著者の過去に繋がる
国内の場所を時を経て再訪したり、はじめて
訪れたりというもの。

あとがきによると、新幹線車内サービス誌に
掲載のようで、一つ一つを短めに、連続もの
もあるが、一つでも読めるようにされている。

沢木耕太郎さんのノンフィクションやエッセ
イ系は割とたくさん読んでいる、いわゆるフ
ァンである。

それを免罪符に偉そうに言うと、こういう一
般的な、一貫したテーマのない、普通の旅エ
ッセイは珍しいのでは。

本書では、これまであまり語られてはいない
(と思う)、著者の16歳の東北の旅の記憶
がよく出てくる。

そもそも、沢木耕太郎さんはテーマを明確に、
ブレなく一貫してノンフィクションの姿勢を
貫く作家である。

そう言うと、何を馬鹿な、深夜特急が著者の
旅そのものではないかと言われるかもしれな
い。

しかし、深夜特急は確かに沢木さんの旅を軸
にはしているが、決して自分をテーマにした、
自分語りをしたい(した)作品ではない。

深夜特急のジャンルは、旅エッセイではなく、
あくまでもノンフィクションである。

もう少し補足すれば、エッセイの軸は内側
(自分)にあり、ノンフィクションの軸は外
側にある。

ノンフィクションは、自己を、経験を含めた
り絡めることはあっても、それは装飾であり
本体ではない。

だから本作のような、「普通」の旅エッセイ
のような内容となっていることに、不思議な
感覚を覚えながら読み終えた。

だから詰まらないということはなく、沢木耕
太郎さんの確立された文体と内容に引き込ま
れるし、十分に面白い。

ただ、やはりここには、成熟した人間の、こ
れまでにはない自己の振り返りがある。

そう感じて調べてみれば、沢木耕太郎さんは
75歳になっていた。

自分の頭にある沢木さんは、体格のいいナイ
スガイのミドルエイジの姿のままだったので、
今のナイスな渋さにあらためて驚く。

そして同時に、著者が自己の振り返りでエッ
セイをまとめたことに、妙に納得もしてしま
った。


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