Four Season Colors

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読書のよもやま(2024.05.14)

2024-05-13 | 雑文
「死に山 世界一不気味な遭難事故≪ディア
トロフ峠事件≫の真相」ドニー・アイカー
(河出文庫)

1959年2月、ソビエト連邦のとある雪山
で、大学生を中心とする9名の遺体が、テン
トから離れた場所で凄惨な姿で発見された。

9人はバラバラに、靴も履かず、衣服も乱れ、
一部は重傷を負い、衣服からは放射能も検出
される。

半世紀を超える後にも、原因不明の未解決事
件として残り続けた遭難事件を、アメリカの
著者が追ったノンフィクション。

海外ノンフィクションは、翻訳される価値が
あるという時点で、ハズレである可能性が相
当に低い。

本書もノンフィクションとしてとても面白く、
300ページを超えるが、最初から最後まで
心地よい緊張感が続く。

残された物証、記録、関係者へのインタビュ
ーから、著者は自ら現場に赴き、彼らに何が
起きたかを考察する。

事件の特異性と時間をかけた丹念な調査、安
易な主観にならない客観性と冷静な文章によ
り、読者を満足させる。

しかし、本書の最大の魅力は、解説にもある
通り、彼ら一人一人とトレッキングを、記録
からリアルに描写しているところにある。

彼らは最初から悲劇の結末に向かったのでは
なく、成功と帰還を信じていたし、残された
記録にも悲劇などない。

トレッキングの経験を積んでいること以外は、
すべての若者と変わらない彼らは、何故、凄
惨な結末を迎えざるを得なかったのか。

読者は、(原因以外の)結末を知っているか
らこそ、未来を疑わない若者がそこに近づく
過程に、複雑な感情を覚え読み進める。

ノンフィクションモノの面白さ、醍醐味を存
分に味わうことができる、おススメの一冊。


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