あの大学時代の、馬鹿なオレ。その6 【 はっけん 】

2023-08-14 04:11:03 | 馬鹿なオレ

食事が終わると、反省会。

暗いんだ、重いんだ、

背負うザック以上に、この反省会の儀式が、

下級生から、ひとりづつ。

 

当然、1年坊主、奴隷から始まる、

この儀式は、

懺悔、懺悔、懺悔、懺悔、

4年生の神様からの、お言葉は、なにもなく、無言…。

で、ある。

 

そこには、預言者も、牧師も、現れない。

当然、救世主なんて、どこを探しても、見当たらない。

宗教性のない、救いのない、神様たちだからね。

 

平民、貴族、から、ボコボコに、

鋭利な言葉で、厳しく責められる。

 

笑い声を出す機会なんて、

一切、与えてもらえず、だ。

どこを探しても、福音の、笑い声、というものは、

奴隷には見当たらない。

 

だ、か、ら、

宗教性のない、救いのない、神様たち、なんだって。

あれッ、一神教じゃないのが、問題なんですか ?

馬鹿が、こびり付いて来ている。

 

それから、

食後の片付け、食器「 バイル 」の洗い物となる。

 

基本的には、汚れ物には、お茶を注ぎ、

お茶を、バイルの中で、回して、

すすぎながら、飲むことで、

キレイにする。

これは、合理的だ。

合理的という言葉を、発見。

他のバイルは、

トイレットペーパー( ローペ )で、拭い、

火を焚くときに燃やす。

合理的 !

 

不合理な世界では、

「合理的」という言葉が、

発見しやすい事を

発見する。

 

生ゴミは、埋める。

山では、本来、いけないことだが、

こちら側からしたら、

発見しづらい合理的を優先するのだ。

北海道では、クマ対策で、

当然、生ゴミは、全部、お持ち帰り。

お腹に入れた分は減るけれど、

ザックが、なかなか軽くならない訳だ。

 

朝、奴隷は、先輩たちより1時間早く起きて、

暗い中、ヘッ電を装着。

火を起こし、朝食と、昼食の準備。

朝の決められた出発「 でっぱつ 」の時間に、

出掛ける準備が、間に合わないと、

靴ひもが、結ばれていない状態であろうが、

荷づくり「 パッキング 」が、出来ていなかろうが、

散らかっている荷物は、ゴミ袋にすべて放り込み、

両手に持って、10数分間、

全員で、無言の移動、行進をする。

 

この両手に、荷物( ゴミ袋 )を持って、

靴ひもを引きずった

重い哀しい沈黙の行進の儀式を、

専門用語で、「 両手に花 」という。

 

また、排泄は、基本的に、休憩時にする。

大に関しては、専門用語で、

男子は、「 雉( きじ )を撃ちに 」、

女子は、「 花を摘みに 」。

 

オレは、合宿中は、便秘が続く。

ザックも重いが、身も心も重さが、溜まり続ける。

 

簡単に言うと、合宿が終わるまで、

2泊3日だったり、3泊4日だったり、

車中泊の4泊5日だったり。

長い時で、1週間っというのもあった、

正部員の合宿だ。

 

合宿期間は、基本的に、

登り(縦走)、テントの設営、食事作り、食べ、

懺悔、食事の片付け、寝て、起き、食事を作り、食べ、

テントの撤収、出発(でっぱつ)、

両手に花があったりなかったり、縦走、

その間に、休憩、排便、唄、罵声、掛け声、叱責、

沈黙、黙祷、滑落があったりなかったり、便秘、

くだり(縦走)、帰途、

だいたい、この繰り返し。

 

山里の人家が、みえた瞬間に、

ザックを投げ出し、逃亡を企て、

奴隷から英雄を目指した逸材もいたという。

 

先輩に、

捕縛された奴隷も、逃げ切った英雄も、いたと聞く。

伝説なのか、事実なのか、

オレには、定かではないのだが。

 

終盤は、食糧も減り、奴隷から解放されて、

帰宅後の自分の部屋での安眠を思い浮かべ、

頬が、ほんの少しだけ、ほんの小さく緩む。

 

完璧に、飼い慣らされた、馬鹿である。

人間( ひと )は、一度、逃れることが出来ない、

その環境を受け入れてしまうと、

その状況に、疑問を持たないことで、平衡を保ち、

不可思議な、不条理な世界を、従順に受け入れ、

日々を過ごす事になる。

 

オレは、社会人になっても、

この習性から逃れられないコトになる。

 

あの社会人時代の、馬鹿なオレ。もうひとつのクリエイティブのほう、の。(そのもうひとつの5)

 

1年から2年の秋までに、

東京近郊、北海道、青森、四国、に行ったが、

景色の記憶がない。

なぜなら、オレの山での風景は、

通常モード、バテて、下を向き、目に入るのは、

足元の山道と藪だけだから。

 

ただ、ひとつ、青森で、

暴風雨の中、八甲田山に行ったのは、記憶にある。

あの死の彷徨の山だ。

 

この山には、ピストンをした。

 

ピストンとは、

山の下に重いザックを置いて、軽装で、

目的地の八甲田山に、向かい、

ザックのある出発地に戻って来ること、を云う。

 

昼食用の炊き込み入り飯盒と、

ポリタンの水、果物、包丁、

汁物を作る為に、EPIガス 、

バイルに、武器( 箸 )だけを持って、

合羽を着て、パーティは、山頂へ向かった。

 

この時だけは、オレは、身も軽く、心も軽かった。

頂上では、暴風雨に向かって、全身の体重を預けても、

合羽がその強い風を受け、倒れない。

少しだけ、足が宙に浮く、アメイジング !!

景色は、暴風雨で、ガスっていて、真っ白だったが、

オレには、初めての貴重な体験だった。

奴隷に、解放あれ。

思えば、

八甲田山は、暢気に楽しむような場所ではなく、

不謹慎な行為だったけど。

 

若気の至りってもんでしょう、

馬鹿は、どんどん、こじれて行く。

 

 

 

そして、

この道のりは、つづく、

 

 

初出 17/09/07 05:41 再掲載 一部改訂



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