想風亭日記

人里離れた「想風亭」にて、旧事(ふるごと)を読み、黒犬を友とする日々

水に流して

2008-04-21 07:42:16 | ヨムヨム
Non,Je ne regrette 水に流して

エディット・ピアフ、晩年のヒットソング。
ノーンと低く通る声で始まる歌を耳にしたことが
ある人は多いだろう。
昨年からピアフの人生を描いた映画
「エディット・ピアフ愛の讃歌」もヒットしているし、
その際に聴いた人もいるだろう。

友人のストーン女史は、会社帰りにふらっと
寄った映画館で観たそうである。
それからしばらくシャンソンばかり聴いているのよ、
と言っていたが、話を聞いてずいぶん経ってしまった。
で、うさこも遅ればせながらDVDで観ましたよ。

ノーン、ジュ ヌ ~ 低い歌声は耳に覚えがあって
若い頃、さんざん聴いていたことを思い出す。
フランスかぶれの20代の日々、ちょっと切ないような、
苦しいような感じ‥‥。

わたしはじゅうぶんに愛し、尽くし、
いろんなことがあったけど、それはもう過ぎて
しまったこと。後悔してないわ。
もう忘れてしまおう。
わたしは、新しく生きる。
わたしは、これからまた自分の人生を生きる。
というような意味の歌詞。
若いわたくしには無理なのだった。
無理な恋をしていたし。

若くない今、ピアフの声が身に沁みてくる。

映画では、恋多き人ピアフを貧しい天才少女の立身出世話に
仕立てているのが、ちょっと今風かなという印象。
病床のピアフが「父さんのために祈るわ」と言う。
秘密を告白する場面、父のために祈るという台詞は
ピアフのそれまでの人生から考えると意外だった。
でもそれがとても救い、そう思えた場面だ。
一番、胸にきた箇所である。

ピアフの恋は、「永遠のマリア・カラス」くらいには
もっと描いてもいいんじゃな~い、とも思う。
「じゅうぶん切ないわ!ピアフ、かわいそう」
ストーン女史がそう言うので、じゅうぶんではある。
水に流して、オランピア劇場に立っているところでラスト
だから、カラスより立派?
いや、でも、カラスは永遠だし。

もう一つ、映画の感想。

「幸せのちから」主演ウィル・スミスの映画
クリス・ガードナー原作、実話がもとになっている
これも貧しさから立身出世した感動的なおはなし。
こういうのは避けて観ないようにしている。
が、週末の森は大荒れ、突風で外に出れないし、
資料読みにも限度があるので(という言い訳をする)
うさこはしかたなく、観たのである。

貧乏な人がチャンスをつかみ、成功する話なのだが、
貧乏度がピアフとほぼ同じであるね。
ピアフは芸術畑だから実業家のガードナー氏とは
ちょっとそこが違う。

けれども、貧乏で出世するより犯罪者になる人のほうが
だんぜん多いアメリカでは稀にみる話。
ガードナー氏が一般人でもヒーローとして映画化したくも
なるというもの。これこそアメリカ的。
でも、アメリカの本当に貧乏な人は映画館へも
行けないだろう。
貧困大国アメリカなのだから、たぶん観たのは
中間層から上ばかりだったりして‥
本当に余裕のない人には届いていないかも‥ンだな。
(映画公開がサブプライムローンの破綻前と
いうことも意味深な感じ)

ヒット作だけど、ガードナー・リッチ&カンパニーを世に広く
知らしめる役割と、貧しい人に力を与えるのとどっちがどっち?
ややこしな~ ややこしな~ と踊るか?

貧乏→出世=成功! という図式のお話は淡々と観るね。
そういううさこは、貧乏に育ちましたよん。
小学生の頃、生活保護受けてたようですよん。
今、うさこの僅かな仕送りで暮らしてる母は、
これまたすずめの涙の老齢年金にそれを足して
「生活保護」だけは受けたくない、これで充分と
言い張ります。
受けなくていいのですが、そう思いたくなる過去が
あったということなのですねえ。
差別とか気兼ねとかですね。
うさこは小さくとも、よ~くわかってました。
母は長生きし、娘は母親が気兼ねしながら暮らしてた歳に届いてしまったね。

水に流して と歌うノ~ン、というピアフの声
身に沁みます。
お母さん、もう終わったんだよーーー