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美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

書字の極意2

2016-03-02 11:43:36 | Q&A


なお、「姿勢保持のために広背筋が収縮している場合」も、よい姿勢のときに比べ「微細な作業を行う際の、肩甲骨のわずかな動き」が出にくくなります(詳しくは「広背筋短縮と腱板断裂の関係」の項を参照)。

軽作業の際、肘や手で体を支えると「姿勢保持のために広背筋が収縮する」ことになりやすいです(図20-2 ×4を参照)。
そのためか、書道や食事のマナーでは「背すじをのばし(短背筋群を収縮させ)、机に肘や手をつかない(ついたとしても肘や手に体重をかけない)」よう指導されることが多いです。

しかし、一旦「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」がついてしまうと、肘や手をつこうがつくまいが、作業をしようがしまいが、広背筋が収縮してしまいやすくなります。
ですから、子供のうちから「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」をつけないようにすることが肝心です。
そのためには「鍛えたい筋肉が未発達な子供のうちから、座位を長時間とったり、書字など難しい作業をしすぎたりしないこと」が大切です。
「書字の極意1」の①~③を行うのも有効です。

しかし、それでも「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」がついてしまった場合は、「腕の力を抜く練習」を行うとよいです(詳しくは「腕の力を抜く練習」の項を参照)。

ちなみに、「書字など、主に利き手のみが動く作業」が多い人の場合、広背筋や腹斜筋の収縮(短縮)は左右非対称に起こりやすいです。
たとえば右利きの場合は、「左大殿筋や左短背筋群を収縮させ、左半身のみを安定させることによって、右肩甲骨~右手の動きを自在にする」という体の使い方をする人がいます(注1)。
つまり、本来は「中枢(体幹中心部)の安定&末梢の自在」とすべきところを「左半身の安定&右半身の自在」としてしまうのです。

しかし、大殿筋や短背筋群は左右ともに収縮した方が安定するので、左大殿筋+左短背筋群だけでは不足なことが多いです(注2)。
そのため、結局は、左広背筋や左腹斜筋まで収縮してしまうのです。
すると、左肩甲骨~左手は動きにくくなってしまうので、ピアノなど、両手を繊細に動かす作業のとき困ります。
それに、左肩や左腰を傷めやすくなります(「鍛えたい筋肉と緩めたい筋肉」の項を参照)。

ですから、やはり「中枢(体幹中心部)の安定&末梢の自在」とした方がよいです。
そのためには、座位の際は「左右の坐骨に均等に体重をかけ、背すじを伸ばし、左右大殿筋・短背筋群を収縮させる」よう意識します(注3)。

ただし、ここで急きょ左右の坐骨に均等に体重をかけようとすると、思わぬ落とし穴があります。
大殿筋や短背筋群は抗重力筋なので、体重が多くかかると発達する傾向があります(注4)。
ですから、体の使い方が「左半身の安定&右半身の自在」となっていた人は、大殿筋の厚みも左>右となっている場合が多いのです(注5)。
大殿筋の厚みが左>右となっている人が、座位で左右の坐骨に均等に体重をかけようとすると、骨盤が右に傾き右に転がりそうになるため、余計体を左に傾けざるをえなくなってしまう場合があるのです(図32-2 ×2を参照)。

しかし、だからといって右坐骨に体重をかけることをやめてしまうと、ますます左大殿筋は発達し、右大殿筋は退化してしまうことになります。
ですから、大殿筋の厚みが左>右となってしまった場合は、「座位で右坐骨の下に折りたたんだタオルなどを入れ、大殿筋の厚さ不足を補った上で、左右の坐骨に均等に体重をかける」とよいです。
そうしていると、しだいに右大殿筋も発達してくるので、そうなってきたらタオルを薄くしたり取り除いたりします。

ちなみに、体の使い方が「左半身の安定&右半身の自在」となっている人は、脳が「左に傾けている姿勢」を正中位だと勘違いしてしまうためか、視野も左にずれてしまうことがあります。
すると「細長いフランスパンを横に置き、中央を真二つに切ったつもりなのに、右の方が1㎝位長く切れてしまう」などということが起こりやすくなります(注6)。

また、「メガネの右上角を壁や柱にぶつけてしまう」といったことが起こる場合もあります。
「左に傾けている姿勢」だと、頭も左側が突出することになるため、左側をぶつけやすくなりそうにも思えますが、視野も左に偏っているので、不注意になっている右側をぶつけやすくなるようです。
それに、図32-1 ×1を見ても分かりますが、「左に傾けている姿勢」だと、目の位置も左より右の方が高くなります。
その目の位置から水平線を見ると、視線はいつもやや右下へいくことになるためか、右上への注意が向きにくくなってしまうようです。

ですから、そのような場合は、ときどき「背すじを伸ばし、あごを引き、顔は正面を向いたまま、右斜め上を見る」とよいです(必要であればタオルを入れ、左右の坐骨に均等に体重をかけながら行ってください)。
そうすると、脳からスイッチが入るようで、「右大殿筋や右短背筋群が収縮しやすくなる」という利点もあります(注7)。

ただし、これはやや混乱する話なのですが、体の使い方が「左半身の安定&右半身の自在」だからといって、必ずしも広背筋や腹斜筋の収縮(短縮)が左>右となるとは限りません。
なぜなら、体重を左坐骨に多くかけている人は、その分大殿筋や短背筋群の発達も左>右となっているからです。
右坐骨は荷重が少ないものの、その分右大殿筋や右短背筋群(鍛えたい筋肉)も退化しているので、右広背筋や右腹斜筋(緩めたい筋肉)が手伝いすぎて過労→短縮しやすいといえます。
よって、広背筋や腹斜筋の短縮は左<右となっている場合も多いのです(注8)。

腹斜筋の短縮に左右差があるか否かは、鏡を見ながら口を大きく開けてみると予測がつきます。
口を大きく開けると、下顎は、より短縮の強い方に引かれます。
よって、左よりも右腹斜筋の短縮が強い場合、下顎は右に引かれることになります(注9)。
すると、上前歯の中央線に比べ下前歯の中央線の位置が、右にずれてしまうことになります(注10)。


(注1)全員がこのようなゆがみ方になるわけではありませんが、このようなゆがみ方になる人が多いです。
現代人は、受験など書字の機会(つまり利き手ばかり使用する機会)が多いためか、左右のゆがみがある人はとても多いです。
(注2)本来は左右の大殿筋+短背筋群が収縮すべきところを主に左だけが収縮することになるので、エネルギー消費↓となり太りやすいという欠点もあります。
(注3)「左半身の安定&右半身の自在」としている人は、体重を左坐骨に多くかけたり、体を左に傾けたりしている場合が多いです。
(注4)ただし、血行が悪かったりする場合は、体重が多くかかったからといって大殿筋や短背筋群(鍛えたい筋肉)が発達するとは限りません。
それらの代わりに腹斜筋・広背筋・脊柱起立筋群・腰方形筋など(緩めたい筋肉)が過労→短縮してしまう場合もあります。
(注5)大殿筋の大きさに左右差があるかどうかは、うつぶせになり、左右の大殿筋を同じくらい収縮させながら触ってみると分かります。
(注6)脳血管障害の後遺症(半側空間無視)でも似たような症状が出ますが、その場合は1㎝よりも大きくずれることが多いようです。
(注7)左右の脊柱筋を触りながら右斜め上を見ると、休んでいた右脊柱筋が収縮するようになるのが分かります(ただし、右脊柱筋がひどく退化している場合は分かりにくいです)。
(注8)「左広背筋や左腹斜筋は短縮していない」という意味ではなく、「左より右の短縮の方がひどい」という意味です。
(注9)右腹斜筋だけでなく、右首の筋の短縮が強い場合も、下顎は右に引かれることになります。
(注10)上前歯の中央線と下前歯の中央線の位置を比べてみると、下顎が右(もしくは左)にずれているか否かを判別しやすいです。
ひどくずれている人は、口を開く前からずれている場合もあります。

書字の極意1

2016-03-02 11:37:06 | Q&A
人間の体は、軽作業をする場合であっても「腹筋を収縮させ、中枢(体幹)を安定させる」ことが必要です。
中枢(体幹)が安定すると、末梢(腕や脚)を自在に動かしやすくなります。
よって、中枢の安定は、書字・手芸・ピアノなど、繊細な作業になるほど重要です。

ところが、慣れない作業・難しい作業だと「力が入りすぎて、腹斜筋や腹直筋まで収縮してしまう」ことが多いです。
それに、「腹横筋下部のみを50%位収縮させる感覚がよく分かっていないとき」や「まだ腹横筋が弱いとき」に繊細な作業を行った場合も、腹斜筋や腹直筋が収縮してしまいやすいです。
そして、それが長時間になると、体がこのような体の使い方を覚えてしまったり、腹斜筋や腹直筋が過労→短縮してしまったりします。

腹斜筋や腹直筋が短縮すると、胸郭が下がり呼吸が浅くなってしまう(=酸素の供給が悪くなる)ので、筋肉の短縮はますます進行します。
すると、脊椎カーブ↑となったり椎間板をつぶしたり、「内臓をつぶしてしまう病気」にかかったりすることになります。

それに、短縮するのは腹斜筋や腹直筋だけではありません。
手指の筋肉が短縮してしまう場合もあります。
すると、手指が固まって動かなくなるため、結局は不器用になってしまいます(注1)。
そうなることをさけるため、手指の筋肉が収縮しなくなってしまう場合もあります。
すると、長時間の作業ができなくなったりします(注2)。

ですから、やはり軽作業・繊細な作業の際も、腹横筋下部のみを50%位収縮させることが大切となります(注3)。
しかし、すでに腹斜筋や腹横筋の短縮が起こっている状態で腹横筋下部のみを収縮させようとしても、それは難しいです。
なぜなら、胴体が短くなっているために腹横筋上部・下部の区別がつけにくくなっているからです。
それに、胴体が短くなっているために内臓の居場所が少なくなっているからです。
このとき、下部のみであっても腹横筋を収縮させてしまうと、さらに内臓の居場所がなくなってしまいます。
よって、内臓をつぶしてしまわないよう、腹横筋下部の収縮をストップしてしまうわけです。

ですから、そのような場合は、座位や立位で繊細な作業を行うよりも、まず先に下記①~③を行うとよいです。
①「呼吸エクササイズ」などを行い、短縮した腹斜筋や腹直筋を緩め、内臓が入るスペースを確保する
②「腹横筋エクササイズ」を行い、腹横筋下部を50%位収縮させる感覚を覚える
③「おじぎエクササイズ」などを行い、短背筋群を鍛えることで、腹斜筋・腹直筋・広背筋などが姿勢保持を手伝わなくてもすむようにする

遠回りに見えるかもしれませんが、①~③を先に行うことで「繊細な作業の際でも、腹横筋下部のみを50%位収縮させられるようになる」方が、ただひたすら練習するよりも書字や手芸の上達が早かったり、高齢になっても上手なままでいられたりします。

なお、繊細な作業をうまく行うには、肘~手の動きだけでなく、肩甲骨のわずかな動きが重要です。
軽作業・繊細な作業は、一見手先しか動いていないように見えますが、実は肩甲骨もわずかに動いているのです。
肩甲骨が動かなくなると、その分肘~手の関節が余分に動かなくてはならなくなるため、関節を傷めたり、過労で筋短縮したりしやすくなります。

腹横筋下部のみが50%位収縮すると背すじが伸びます(図25-1 ①を参照)が、肩甲骨は背面をすべるように動くので、背すじが伸びることで背面が平らになると動きやすいです。
一方、腹斜筋や腹直筋まで収縮すると、脊椎カーブ↑や胸椎後弯↑(猫背・円背)となります(図25-1 ④を参照)が、胸椎後弯↑になると肩甲骨も背中の丸みにそって前や外側に傾くので、よい姿勢(腹横筋下部のみが50%位収縮したとき)よりも動きにくくなります。


(注1)高齢の方は「手指の筋肉が短縮したために、手指が固まって動かなくなっている」ことが多いです。
すると、「強く曲げ伸ばしして関節をほぐそう」と考える方も多いのですが、そうすると手指の関節を壊してしまうこともあるので注意が必要です(「緩めたい筋肉は強く伸ばさない方がいいの?」の項を参照)。

(注2)このとき、繊細な作業の練習や筋トレが足りなかったのだと考え、さらに行ってしまう人がいます。
しかし、そうすると今度は手指の筋短縮↑となるか、長時間の作業が余計できなくなってしまうことになりやすいです。

(注3)重いものを持つときなどは、腹筋全体を収縮させた方が安定します。

100%でなく50%で

2016-02-20 11:20:04 | Q&A
筋肉を収縮させるときは、なるべく100%ではなく50%の位の力で収縮させるとよいです。
なぜなら、100%の力で収縮させると、筋肉や組織を傷めやすいからです。
それに、筋肉が過労となり、A「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となってしまいやすいからです(「骨盤底筋を鍛えれば尿もれはなおるか?」の項を参照)。

個人差はありますが、「緩めたい筋肉」はAに近い状態、「鍛えたい筋肉」はBに近い状態になりやすい傾向があります。
「緩めたい筋肉」がAになると、脊椎カーブ↑となったり、椎間板がつぶれてしまったりします。
「鍛えたい筋肉」がBになると、短背筋群の場合は脊柱起立筋群、大殿筋の場合は梨状筋、腹横筋の場合は腹斜筋などが手伝いすぎてしまったりします。

血行不良・強い負荷がかかった状態での収縮・長時間の持続的収縮なども、A~Bになりやすいです。
ですから、長時間座位をとる場合などは、休憩の時間をつくることも重要です(「ONとOFFを交互に」の項を参照)。

とはいっても、スポーツなどでは筋肉を100%に近い状態で長時間収縮させざるをえないこともあると思います。
それでも、血行や体調がよければ大丈夫な場合もあります。

特に体を壊しやすいのは「ふだんは運動をしていなかったのに、完璧主義でまじめなために、ある日から急に全力で運動しはじめる人」です。
「後頭部が痛くなるかみ方」の項では「硬いものをよく噛めば噛めるようになるわけではなく、その人の筋力に合わせて上手に鍛える(「50%位収縮させるトレーニング」を短時間行う)と噛めるようになる」と述べました。
ところが、完璧主義の人は、最初から固いものを噛んでしまいやすいのです。
つまり、100%に近い力で収縮させてしまいやすいのです(注1)。
それでも血行や体調がよければ大丈夫なのですが、完璧主義の人は完璧であろうとするあまり、緊張しすぎていることも多いのです。
人間は緊張しすぎると「腹筋を収縮させ硬くすることで、内臓を守ろうとする」傾向があるため、腹腔内を通る血管がつぶれたり、胸郭が下がり呼吸が浅くなるために呼吸ポンプが機能低下したりして、血行不良になります。


(注1)完璧主義だと「トレーニングは軽い疲労にとどめた方がよい」と分かっていても、つい完全に疲労するまで行ってしまう傾向もあります。

「今の自分の50%を正確に知りたい」という方もいると思いますが、それを正確に知るにはその人の100%を測る必要が出てきます。
ところが、これが難しいのです。
なぜなら、一般人の場合は、100%の力を出すと、筋肉や組織が壊れやすいからです。
そのためか、トレーニングをしていない一般人は、すべての筋細胞を同じタイミングで収縮させにくい人が多いです。
よって、なるべく100%に近い力を出して、それを機械(もしくは徒手)で測定するのですが、たいがいの人は「壊れそうだからこれくらいでやめておこう」と思うところを、完璧主義の人はそれ以上出してしまいやすいのです。
徒手の場合は、測定者の主観も入ってきてしまいます。
ですから、「50%を正確に知る」よりも「50%と思われる筋力でトレーニングした後、痛みや過大な疲労感がなければ、それが50%と推測する」ことをお勧めします。

ちなみに、トレーナーが完璧主義の場合も、トレーニング量を増やしすぎてしまう傾向があります。
なお、ストレッチなども、完璧主義の人が行うと、しっかり伸ばしてしまうため、断裂→瘢痕組織が増えたり、「防衛反応VSストレッチ」の終わりなき戦いとなってしまいやすくなります(「筋肉は強く伸ばさない方がいいのか?」の項を参照)。

深呼吸で肺炎予防

2016-02-17 10:08:59 | Q&A

肺はブドウの房に似た構造になっています。
肺胞はブドウの実、気管支は枝にたとえられます。

息を吸うと、空気は気管支を通って肺胞まで入ります。
しかしながら、肺胞近くの気管支はとても細いので、たんがつまりやすいです。
本書では、「たんがつまったりしたために空気が入らなくなった肺胞」を無気肺と呼びます。
無気肺は肺炎の原因なので、なんとかしなくてはなりません。

「たんがつまったのなら、せきをすれば出るのでは?」とも思えます。
しかし、実は「たんが末梢の細い気管支(肺の深いところ)につまっている場合」は、せき(強い呼気)では出ないのです(注1)。

それでは「たんが末梢の細い気管支につまっている場合」は、どうすれば出るのでしょうか?
それは「息を深く(たくさん)吸うこと」です。
息を深く吸うと、浅く吸った時よりも空気が勢いよく入るため、空気がたんをつきやぶり肺胞に入ります。
そうすれば無気肺はなおります(注2)。

「それでも、せきをするときは息を深く吸うから、たんをつきやぶることができるはず」とも思えます。
確かにその通りです。
ただし、せきは「エネルギーの消費量が多い」ので、体力を消耗します。
それに、せきは「腹筋を強く収縮させる」ので、腹筋が短縮しやすくなります。
腹筋が短縮すると、胸郭が上がらなくなるので、息を深く吸えなくなってしまいます。
ですから、結局は、たんをつきやぶれなくなってしまいやすいのです(注3)。

ですから「息を深く吸う」のが目的なら、「せき」よりもただの「深呼吸」にしておいた方が、「体力の消耗」も「腹筋の短縮」も起こりにくいです。
「たんが比較的中枢の太い気管支に到達している場合」はせきでも出ますが、「せきをしないと出ない」というわけではありません。
せきをせず静かに呼吸しているだけでも、粘液線毛エスカレーターにのって自然に排痰されます(注4)。

なお、腹斜筋の短縮などにより「胸郭が下がっていて上がらない人」は、息を深く吸っても、すべての肺胞がふくらむスペースがありません。
よって、「一部の肺胞はふくらめない」ことになります(注5)。
すると、その部分は無気肺になってしまうので、肺炎の原因となります。

それでも無気肺になる場所が、上葉(肺の上方)-下葉(肺の下方)という具合に、呼吸のたびに交代すれば、肺炎には発展しにくいです。
しかしながら、無気肺の場所が長時間同じだと、肺炎に発展してしまいやすくなります。

多くの人は、姿勢や体の使い方のくせが決まっているため、無気肺の場所が長時間同じになってしまいがちです。
たとえば、ねたきりで仰向けの時間が長い人は、背面の肺胞がつぶれている時間が長いので、背面が肺炎になることが多いです。
また、腹斜筋の短縮具合が左右で異なっている場合、短縮が強い側の肺胞の方がふくらみにくくなるので、そちら側が肺炎になりやすくなります。
たとえば、右腹斜筋の短縮が強い場合は、右肺が肺炎になりやすいです。

無気肺の場所を変えるには、「介助者(呼吸リハビリのセラピスト)が、吸気に合わせ、胸郭を手で細かくゆらす」と有効です。
細かくゆらすと、肺の中の空気がかき回されるため、長時間空気が入っていなかった部分に入るのです。
大きく強くゆらしたり、手に力が入りすぎたりすると、肺をつぶしてしまうのでNGです。
うまく行うと、胸郭の血行もよくなります。
すると、比較的短期間で、胸~みぞおちの皮膚が増設され、胸郭がふくらむようになります。


(注1)ちなみに「たんの吸引」(医療行為)は、「せきでも出るくらい、太い気管支に到達しているたん」でないと吸えません。
深いところのたんを吸引しようとすると、気管を傷つけたり肺の空気を吸ってしまったりするので危険です。

(注2)たんは、やぶれると、呼気や粘液線毛エスカレーターにのって自然に排痰されます。
しかし、やぶれない場合は、そこにとどまります。
そして、やぶれるかマクロファージに貪食されるときがくるのを待つのです。

(注3)ちなみに、息を深く吸えなくなると、強く勢いよく吐くこともできなくなってきます(「吹奏楽と肺活量」の項を参照)。
すると、強く勢いのあるせきも出せなくなります。
それでは、太い気管支に到達しているたんであっても排痰できません。
つまり、「役に立たないせき」になってしまうのです。

ここで、無理に強いせきをしようとすると、「強く勢いよく吐く練習」(さらに吐くトレーニング)をしたときと同様、さらに腹筋が短縮してしまうことになります(「吹奏楽と肺活量」の項を参照)。
ですから、せきをする人はなるべく「呼吸エクササイズ」も行いましょう。

(注4)ただし、「せき止め薬などを服用し、せきをとめてしまえばよい」のかというと、そう単純な話でもありません。

(注5)「まだ胸郭が十分上がらない人」が、「すべての肺胞をふくらませよう」とか「空気を勢いよく入れよう」などと考えて息を吸いすぎると、「ふくらんだけれども居場所のない肺胞」が横隔膜などに押しつけられるため、傷んでしまいやすいです(図24-2 ×を参照)。
ですから、息を吸いすぎないことは大切です。
あせらずに「呼吸エクササイズ」を行っていると、胸郭が上がりやすくふくらみやすくなってくるので、すべての肺胞がふくらむスペースができてきます。

深呼吸でのどを潤す

2016-02-13 10:41:26 | Q&A
冬になると、乾燥を防ぐために「部屋の加湿」をする方も多いと思います。

のど(特に声帯)が乾燥すると、発声に悪影響です。
声帯は2枚ペアになっており、互いにぶつかったりふるえたりすることで発声します。
ところが、声帯が乾燥すると、ぶつかる際に傷ついたり、うまくふるえなかったりするのです。

また、のどや気管支が乾燥すると、風邪や気管支炎にかかりやすくなります。
気管支の内側は線毛と粘液で覆われています。
線毛や粘液は、肺に入ってきた異物・細菌などをたんとして排出する働きがあります(=粘液線毛エスカレーター)。
しかし、粘液が乾燥すると、線毛が動きにくくなるので、細菌に感染しやすくなってしまうのです。

ところが、「部屋の加湿」には1つ問題点があります。
それは、「加湿した部屋から出て乾いた外気に触れると、かえって乾燥してしまう」場合があることです。
細胞は、高湿度に慣れてしまうと、乾燥しやすくなります。
たとえば「入浴前より入浴後の方が、肌が乾燥する」「低湿度になってから何か月も経った真冬よりも、急に低湿度になった秋口の方が、肌やのどが乾燥し風邪をひいたりしやすい」という方も多いと思います。
これらは、細胞が高湿度に慣れてしまったために起こることです。
よって、ずっと加湿していられないのであれば、加湿器などには頼らない方がいいです(注1)。

乾燥を防ぐためには「水を少量ずつこまめに飲む」という方法もあります。
水をこまめに飲むと、飲むたびに、飲んだ水分が直接のどを潤します。
が、この方法もやはり「長時間水を飲めないとき」(睡眠時など)には乾燥してしまう場合があります(注2)。

そこで、本書がお勧めするのが「呼吸エクササイズ」(深呼吸)です。
「呼吸エクササイズ」を行うことで「呼吸ポンプ」がよく働くようになると、血流がよくなります(「運動せずに血流をよくする方法」の項を参照)。
そして、血流がよくなると、粘液の量も増えるのです。
なぜなら、粘液は「血しょう」がしみ出たものだからです。

ちなみに、血流がよくなると、ドライノーズ(鼻腔内の乾燥)・ドライマウス(口腔内の乾燥)・ドライアイ(目の乾燥)・ドライスキン(皮膚の乾燥)なども改善します。
ドライノーズは鼻水、ドライマウスは唾液、ドライアイは涙の不足が原因ですが、鼻水も唾液も涙も「血しょう」からつくられるからです。

「呼吸エクササイズ」を正しく行うと、睡眠時まで、常時呼吸が深くなるので、常時血流もよくなります。
ですから、「部屋の加湿」や「水をこまめに飲む」という方法に比べ、「常時潤す」ことができるのです(注3)。

冬に体が乾燥するのは、「空気が乾燥するから」だけではなく「寒さで血行が悪くなるから」でもあったのです。
なお、「入浴」「体を温める」などの方法でも血流をよくすることはできます。
しかし、これらもやはり一時的なものです。
それに、「肺の深いところに入ってしまったたん」は、血流をよくするだけでは排痰できないので、「呼吸エクササイズ」(深呼吸)が必要です(詳しくは「深呼吸で肺炎予防」の項を参照)。

しかし、そうはいっても、「乾いた空気を深呼吸で吸い込むと、かえって乾燥してしまいそう」にも思えます。
が、呼吸器は乾燥した空気を吸っても加湿するしくみになっているので、大丈夫です(注4)。
呼吸を浅くすると、血行が悪くなるため、気管支が乾燥します。
すると、余計「乾いた空気を吸い込みたくない」と感じるので、呼吸を浅くしてしまう・・という悪循環に陥ってしまいやすくなります。

また、「冷たい空気を深呼吸で多く吸い込むと、かえって血行を悪くしてしまいそう」にも思えます。
確かに、冷たいからといって血管が収縮すると、血行は悪くなります。
しかし、だからといって呼吸を浅くしても、血行は悪くなります。
それに、「肺の深いところに入ってしまったたん」を排出する(=肺炎を予防する)ためにも、深呼吸は必要です。


(注1)「風邪をひいたとき、なおるまで加湿器を使う」などという使い方ならよいと思います。

(注2)「水をこまめに飲む」ことは重要です。
水を飲むと、血液にも水分が供給されます。
「呼吸エクササイズ」を行い、血流をよくしても、水分が少なくドロドロした血液では、粘液は増えません。

血液は、水分をため込み、粘液などに供給する場所でもあります。
粘液が多いときは血液が水分をため込み、粘液が乾燥したときは血液が水分を供給して潤すのです。
しかし、この調整作用は、血流がよくないとできません。

よって、「水をこまめに飲む」だけで、「呼吸エクササイズ」(常時血流をよくする努力)を行わないと、「長時間水を飲めないとき」(睡眠時など)に、すぐ乾燥してしまう(場合がある)ということです。

(注3)呼吸が深くなり血流がよくなると、マクロファージ(免疫細胞)なども供給されやすくなるので、それも感染予防に有効です。

(注4)息を吸う際は、口からではなく鼻から吸った方が加湿できます。