goo blog サービス終了のお知らせ 

美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

咀しゃくと腹筋の短縮

2016-01-30 11:09:42 | Q&A

「嚥下」(飲み込み)は、のど仏(甲状軟骨など)が「ゴクン」と持ち上がることで成立します。
「咀しゃく」(噛むこと)は、咬筋の収縮によって、下顎が持ち上がり上顎にぶつかることによって成立します。

しかし「腹筋の短縮などによって胸郭が下がる」と、のど仏や下顎も下に引かれ、持ち上がりにくくなってしまいます。
よって、「嚥下」や「咀しゃく」に悪影響となるのです。

「それでは、硬いものをよく噛んで、咬筋を鍛えればよいのでは?」とも思えます。
しかし、実際はそううまくはいかないことも多いのです。

下顎が下に引かれている(=強い負荷がかかっている)状態でよく噛むと、咬筋が過労になるので、A「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となりやすくなります。

咬筋がAに近い状態になると「咬筋がしっかり弛緩しないので、口が大きく開かない」となります。
咬筋がBに近い状態になると「咬筋がしっかり収縮しないので、硬いものが噛めない」となります。

しかし、多くの方はA~Bの中間「口が大きく開かず、硬いものも噛めない」となります。
でも、咬筋というのは、「噛むときはしっかり収縮し、口を開くときはしっかり弛緩する」のでないと困ります。

それに「咬筋がしっかり弛緩しない」と、単に「口が大きく開かない」だけでは終わりません。
顎関節には、関節円板(クッションの役目をするもの)がはさまれています。
咬筋が短縮すると、「関節円板が長時間つぶれたままになったり、居場所がなくなってずれたり、口を開くたびにこすれたりする」ので、顎関節症になってしまいます(注1)。

ですから、やはり大元の原因である「腹筋の短縮などによって胸郭が下がる」事態を改善することが大切です。
そのためには、下記①~②を行うとよいです。
①「呼吸エクササイズ」などを行い、短縮した腹筋や皮膚を緩める。
②「腹横筋下部を50%位収縮」させ、内臓を持ち上げる。
内臓が持ち上がると、それに押されて胸郭も持ち上がりやすくなります。

それができたら、③最初のうちは咬筋を休ませる。疲労が回復したら「咬筋を50%位収縮させるトレーニング」を短時間行う のもよいです。

咬筋がA~Bの状態になってしまったら、トレーニングよりもまずは「血行をよくし休ませる」ことが大切です。
また、トレーニングの種類は、「咬筋を持続的に収縮させ、かみしめる」のではなく「リズミカルに収縮・弛緩を繰り返す」運動がよいです。
そして、終了時には「顎関節の表面をさすり、咬筋が弛緩しているのを確認する」とよいです。
なぜなら、本来、咬筋は骨盤底筋と違い、持続的に収縮させる筋肉ではないからです。
「かみしめる」(咬筋を持続的に収縮させる)習慣がついてしまわないようにすることが大切です。

ちなみに、「口が大きく開かないなら、しばらく口を開けたままにして、咬筋をストレッチすればよい」と考える方もいると思います。
が、筋肉はストレッチしすぎると「断裂や防衛反応が起こり、かえって短縮してしまう」場合がありますし、「顎関節を壊してしまう」場合もあるので、注意が必要です(「セルフストレッチで筋肉を緩める」「筋肉は強く伸ばさない方がいいのか?」の項を参照)。


(注1)咬筋が短縮していなくても、咬筋が収縮すれば、関節円板はつぶれます。
しかし、正常なら、咬筋が収縮するのは「噛むとき」だけです。
それならば、関節円板がつぶれるのも短時間なので、大丈夫です。

なお、咬筋が過労すると、短縮するだけでなく「歯ぎしり」も起こしやすくなります。
筋肉は、過労したり血行不良だったりすると、「筋けいれん」(筋肉が強く収縮し、制御不能になること)を起こすことがあるからです。
「筋けいれん」は、夜間に起こることが多いです。
ふくらはぎだと「脚がつる」(こむら返り)、脊柱起立筋群だと「突然の腰痛」(腰椎がすべり症など)、咬筋だと「歯ぎしり」となります。
ひどいと「歯が割れたり、顎関節が壊れてしまう」こともあります。

骨盤底筋を鍛えれば尿もれはなおるか?

2016-01-27 10:52:29 | Q&A
内臓が骨盤底筋にのしかかったとしても、骨盤底筋を鍛えれば「骨盤臓器脱」や「尿もれ」を防げるようにも思えます。
しかし、実際はそううまくはいかないことも多いです。

内臓が骨盤底筋にのしかかり、強い負荷をかけると、骨盤底筋は引き伸ばされるため収縮が大変になります。
しかも、内臓が骨盤底筋にのしかかると、付近を通る血管もつぶれるので、骨盤底筋が血行不良になります(注1)。

筋肉は「血行不良で、なおかつ強い負荷がかかった状態で、長時間収縮する」と、A「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」になってしまいます。

しかし、「骨盤底筋が完全にAになる」ということは「尿道や肛門はしまったまま開かない」ということです。
が、尿や便が全く出ないのは困りますし、危険です(注2)。

よって、そのような事態を回避するためか、B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」という場合もあります。
しかし、「骨盤底筋が完全にBになる」ということは「尿や便が垂れ流し」ということなので、それも困ります。

そこで、多くの方はA~Bの中間「完全に収縮しないわけではないが、かといって強く収縮するわけではない」というメリハリのない状態になります。
筋肉は酸素不足の状況で過労したりすると、メリハリのない状態になりやすいのです。
でも、骨盤底筋というのは、「ふだんはしっかり収縮し尿もれ・便もれを防ぎ、排泄時はしっかり弛緩し完全に排泄する」のでないと困ります。

骨盤底筋がAに近い状態になると、尿閉(尿が出ない)や便秘になります。
しかし、尿閉とはいっても「尿が完全に出ない」と危険なためか、「排尿をはじめたつもりなのにすぐ出ない」「排尿時の勢いが弱い」「残尿(排尿直後に膀胱に残った尿)の量が増える」「常にぽたぽたもれる」などの症状になることが多いようです(注3)。
また、この場合の便秘は「たとえ便が肛門付近にまで降りてきても、肛門が開かないために排便できない」というタイプの便秘になります(注4)。

骨盤底筋がBに近い状態になると、「少し尿がたまっただけ、もしくはくしゃみなどで少し腹圧がかかっただけで、尿道が開き、大量にもれてしまう」といった症状になることが多いようです。

「きつく尿道をしめて出さないようにしよう」という思いが強いとAに近くなり、逆に「尿が出なくなってしまうのも危険」という思いが強いとBに近くなると考えられます(注5)。

A~Bを改善するには、下記①~③を行うとよいです。
①「呼吸エクササイズ」などを行い、短縮した腹筋や皮膚を緩め、内臓が入るスペースを確保する(注6)。
(胸郭が持ち上がるようになり、上腹部に内臓が入るスペースができるとなおよいです)
②腹横筋下部を50%位収縮させ、内臓を持ち上げる(注7)。
③最初のうちは骨盤底筋を休ませる。疲労が回復したら「骨盤底筋を50%位収縮させるトレーニング」を短時間行う。

骨盤底筋がA~Bの状態になってしまった場合は、トレーニングよりもまずは「血行をよくし休ませる」ことが大切です。
骨盤底筋の場合は、その性質上、完全に休ませるのは難しいですが、なるべく休ませることです。
ここで「強く収縮させるトレーニング」を行うと、さらに疲労し、A~Bの症状が悪化してしまいやすくなります。

なお、「緊張で腹筋の収縮を強めてしまう人」の場合は、さらに「メンタルトレーニング」なども行うとよいと思います。


(注1)肛門付近が血行不良になると、痔などになってしまう場合もあります。

(注2)ちなみに、胃がつぶれた場合も、「噴門を完全に閉じることで、胃酸がなるべく逆流しないようにする」という方法があります。
マヨネーズの容器のふたを閉じると、つぶれても中身が飛び出しにくくなるのと同じ要領です。
しかし、食事時であっても、胃酸の逆流を防ぎたかったら、噴門を開くわけにはいきません。
すると、「食事や水がのどを通らない」病気になってしまう場合があります(=食道アカラシア)。

(注3)しかしながら「少しでも出るなら安心」というわけではありません。
中には「尿が膀胱から腎臓の方へ逆流し、腎臓を傷めてしまう」場合もあります。
本来、膀胱から腎臓へは逆流しないようになっていますが、圧力が強すぎるとそれが壊れてしまうのです。

なお、排泄異常は、脊髄の圧迫など、神経の異常が原因の場合もあります。
神経の異常が合併すると、症状がより深刻になりやすいです。

(注4)最近このようなタイプの便秘に対し、「肛門括約筋を緩める訓練」が行われる場合もあるようです。
それもよいですが、「肛門括約筋が強く収縮してしまう原因」(直腸下垂など)を取り除くことも大切です。
そのためには、本文①~②も行うとよいです。

多くの方は、便秘になると「腹筋すべてを強く収縮させ、いきむ」ことが増えます。
トイレに入ったときだけならまだしも、ふだんから「いきむくせ」がついてしまう人もいます。
しかし、「いきむくせ」がつくと、腹筋が短縮しやすくなります。
そして、便秘の原因=「つぶれて居場所を失った大腸が下方に引き伸ばされてゆがむ」「直腸下垂→肛門を強くしめる」「大腸の血流が悪くなる」なども悪化してしまいます。
よって、余計便秘になるため余計強くいきんでしまう悪循環となりがちです。
ただし、腹筋が過労でA~Bになっていると、いきむのも難しくなっています。
ここで強くいきむと、さらに疲労しA~Bが悪化してしまいやすくなります。

ですから、便秘の場合も、本文①~②を行い、「大腸の位置を正常にする」ことが大切となります。
腹筋は、ふだんは「腹横筋下部を50%位収縮させ、内臓を持ち上げる」、排便のときだけ「腹筋すべてを収縮させ、いきむ」という具合に、使い分けることが重要となります。

(注5)体の思い(くせ)なので、顕在意識の考えとは異なる場合があります。

(注6)「呼吸エクササイズ」を行うと「呼吸ポンプ」も活発になり、血流(酸素供給)も改善します。

(注7)①ができていないうちに腹横筋下部を収縮させると、余計に内臓がつぶれてしまう場合があります。
また、腹横筋であっても、上から下まですべてを収縮させてしまうと、内臓の逃げ場がなくなるので、内臓がつぶれてしまいます(「100%でなく50%で」の項を参照)。

逆流性食道炎と腹圧

2016-01-23 11:48:04 | Q&A


病気の原因は様々ありますが、今回は「腹筋の短縮による腹圧の上昇も、病気の一因になりうる」という話をしたいと思います。

「よいスタイルの基本」の項では「腹直筋は行き場のなくなった内臓に負けてしまうことも多い」と述べましたが、中には「腹斜筋だけでなく、腹直筋や腹横筋なども短縮し、内臓をつぶしてしまう」ケースもあります。

胃がつぶれると「胃の中身や胃酸が食道に逆流してしまう」場合があります。
ちょうどマヨネーズの容器をつぶすと中身が飛び出してしまうのと同じ要領です。
これを繰り返すと、胃酸のせいで食道が荒れ、「逆流性食道炎」になってしまうこともあります。

つぶれて居場所を失った胃が、上方にはみだすと「横隔膜にある食道裂孔(食道が通るためにあいている穴)から肺の方へ飛び出してしまう」場合もあります(=食道裂孔ヘルニア)。

つぶれて居場所を失った胃が、下方に引き伸ばされると「胃下垂」になります(注1)。
また、つぶれて居場所を失った大腸が、下方に引き伸ばされると「大腸がゆがんだりねじれたりする」ことになります。
大腸は便の通り道なので、大腸がゆがむと便の通りも悪くなり、便秘になりやすくなります。

なお、つぶれて居場所を失った直腸・膀胱・子宮などが、下方に引き伸ばされると「骨盤底筋(注2)に重くのしかかる」場合があります。
骨盤底筋がそれに負け、緩んでしまうと「骨盤臓器脱」や「尿もれ」になってしまいます。
膀胱が下がると尿道も曲がるので、それも「骨盤臓器脱」・「尿もれ」もしくは「排尿困難」の原因となります(図29-3を参照)。
また、膀胱がつぶれると尿をためるスペースが確保できなくなるため、それも「尿もれ」や「頻尿」の原因となります。

ただし、「膀胱がつぶれたり、骨盤底筋にのしかかったりして尿もれするなら、きつく尿道をしめなくては」と考えるのか、骨盤底筋が強く収縮する人もいます。しかし、それで問題がすべて解決するとは限りません。
なぜなら、今度は、排尿のときも骨盤底筋が緩みにくくなり「排尿困難」になってしまう場合があるからです(詳しくは「骨盤底筋を鍛えれば尿もれはなおるか?」の項を参照)。

また、内臓だけでなく、腹腔内を通る血管がつぶれたり、下方に引き伸ばされたりしてしまう場合もあります。
すると、血行が悪くなったり、内臓がうっ血して機能が低下したりしてしまいます。

このとき、「血管がつぶれてしまうなら、血管内の水分を増やしてふくらませればよい」と考えるのか、「水分過多による高血圧」になってしまう方もいます。

ちなみに、胃がつぶれた場合も、「胃がつぶれてしまうなら、胃に空気を入れてふくらませればよい」と考えるのか、「呑気症」(空気を飲んで胃などにためてしまう病気)になる方もいます。
しかし、胃に空気を入れていると食べ物が入りませんから、ためた空気はげっぷやおならで吐き出してしまうことが多いです(注3)。

「腹筋が短縮し、内臓をつぶしてしまう」現象は、「さらに吐くトレーニング」(「吹奏楽と肺活量」の項を参照)や「重いものを持つ仕事」などで腹筋を酷使した人に起こりやすいです。
しかし、それだけではなく、「ストレスの多い人」「緊張しやすい人」にも起こりやすいです。
なぜなら、人間は緊張すると「腹筋を強く収縮させ硬くすることで、内臓を守ろうとする」傾向があるからです(注4)。

余談ですが、腹筋の短縮などによって胸郭や内臓がつぶれると、体幹の厚さは薄くなります。
しかし、その分脂肪がつけば厚くなります。
ですから、体幹の厚さと逆流性食道炎などの有無は、あまり関係ないようです。


(注1)「胃下垂」は、「単に内臓を持ち上げる筋肉(腹横筋下部)の収縮が弱いせいで、胃が垂れ下がっている」だけの場合もあります。
しかし、「腹筋の短縮によって居場所を失ったために、下方に引き伸ばされて下がっている」場合もあるのです。
その場合は、より多くの圧力がかかっているので、症状が深刻になりやすいです。
胃だけでなく、直腸・膀胱・子宮などにも同じことがいえます。

(注2)骨盤底筋とは、尿道括約筋・肛門括約筋などの総称です。
これらは、ふだんは収縮し、尿道や肛門をしめることで、尿もれや便もれを防いでいます。
しかしながら、排泄時は弛緩し、尿道や肛門を開きます。

(注3)中には、「空気を手放せないため、胃に食べ物が入らない」という方もいます。
胃ろう(胃に穴をあけ、そこに管を挿し込み栄養剤を注入する)の場合は、注入してもなかなか入っていかなかったり、栄養剤や胃酸が管の方に逆流してしまったりする場合もあります。
ただし、胃がつぶれていると、呑気症ではなくても「胃に食べ物が入らない」という方は多いです。

「呑気症」や「胃がつぶれたために胃に食べ物が入らない症状」は、「呼吸エクササイズ」などを行い、腹筋の長さや胸郭まわりの皮膚が確保されれば、すぐげっぷが出たりして解消する場合もあります。
しかし、腹腔スペースの縮小に合わせて胃自体までもが縮小してしまっている場合は、改善に時間がかかります。

ちなみに「呑気症はかみしめと関連がある」という説もありますが、「かみしめ」は腹筋が短縮すると起こりやすくなります(詳しくは「かみしめと腹筋短縮の関係」で説明します)。

(注4)腹筋の収縮は、一時的なものであれば大丈夫なことが多いです。
しかし、強い収縮(短縮)が長時間持続したりすると、「内臓をつぶしてしまうことによる病気」になりやすいです。

吹奏楽と肺活量

2016-01-20 10:41:41 | Q&A

「吹奏楽をしていると、肺活量が増える」ことはよく知られています。
ところが、意外なことに「吹奏楽をやっている(た)」という人の胸郭が、下がっていて上がりにくいことがあります。

それは、「強く長く息を吐くために、呼気筋である腹斜筋を酷使した結果、腹斜筋に乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したままになってしまったため」であることが多いです(注1)。
吹奏楽は、音を出すために強く長く息を吐かなくてはならないため、つい吐く方ばかりに集中し、吸う方をおろそかにしてしまいやすいのです。
すると、過労・酸素不足で腹斜筋が短縮し、胸郭が上がりにくくなります。

「それでも、肺っていうのは吸わなければ吐けない構造なのだから、息を吐いて音を出すためには吸う方(胸郭を上げる方)も省略できなくなるはず」とも思えます。
しかし実は、腹斜筋が短縮した結果、胸郭が十分上がらなくなっても、たくさん息を吐く方法があります。
それは、「ふつうに息を吐いたところから、さらに吐くトレーニング」をすることです。

通常の呼吸では、「肺胞の空気を吐き切ると、そこからは息を吸いはじめる」ことになります。
しかし「さらに吐くトレーニング」では、「肺胞の空気を吐き切ったところから、さらに残っていた気管支などの空気まで吐く」ということをします。

①ただし、通常の肋骨は、「肺胞の空気を吐き切ったところ」よりもさらに下げようとすると、やや動きにくくなります。
よって、さらに下げるためには、腹斜筋を強く収縮させなくてはなりません。

それでも、「さらに吐くトレーニング」を繰り返せば、スムーズに下がるように変えることはできます。
「吹奏楽をやっている(た)にもかかわらず、胸郭が下がっている人」の中には、このトレーニングによって「肺胞の空気を吐き切ったところ」よりも、さらにスムーズに下がるようになっている人がいます。

たとえば、「肋骨の角度が90-50度のとき肺胞の換気が行われるため、正常だと可動範囲が90-50度の人」がいたとします。
ところが、腹斜筋を酷使したら腹斜筋が短縮し、吸える量(肋骨が上がる角度)が90→70度に減ってしまいました。
そこで、「さらに吐くトレーニング」を行い、吸える量が減ってしまった分吐く量(肋骨が下がる角度)を50→30度に増やしました。
その結果、可動範囲が70-30度になりました。
・・といった具合です(図29-1を参照)。

②しかし、問題は他にもあります。
「50-30度の部分の空気」は、「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気」なので、「酸素摂取に関係ない部分の空気」になります(注2)。
よって、いくら出し入れさせても、酸素摂取はできません。
ですから、頑張って吐いても腹斜筋が疲れるだけで、酸素供給はできないのです。

③なお、「肺胞の空気を吐き切ったところ」よりもさらに吐くのが大変な理由は、①「肋骨自体が動きにくくなるから」というだけではありません。
「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気を吐く際は、大きな抵抗が発生するから」というのもあります。
なぜ「大きな抵抗が発生する」のかというと、「肺胞は少しの圧力で簡単にしぼむ」のに対し、「気管支などの部分は強くつぶさないとつぶれない」ようにできているからです。

上記①~③の理由により、「さらに吐くトレーニング」を行うと、腹斜筋は過労と酸素不足で、短縮しやすくなります。
ですから、「さらに吐くトレーニング」によって、90-50度の人が70-30度になると、将来的にはさらに腹斜筋が短縮し、肋骨の上がる角度が70度→60度・・と、減っていってしまいやすくなります。

「肋骨の上がる角度が70→60度に減ってしまったのなら、その分肋骨が下がる角度を30→20度に増やせばよい」とも思えますが、気管支の空気を吐いてしまった後の肺には、もう吐ける空気は残っていません。
よって、結局は肺活量が低下してしまうことになるのです。
ですから、「90-50度でも、70-30度でも、肺活量が同じで楽器の音も出るならOK」というわけではないのです。

肺活量を測定する際は、「(たくさん吸ってから)強く勢いよく吐いて!!」と指示されることが多いです。
これは、1秒率も同時に測定しているからです。
人間の肺は正常だと、最初の1秒で全肺活量の70%以上を吐けます。
よって、正常だと、1秒率は「70%以上」となります。
これが、ぜんそくで気道が狭くなると、速く吐けなくなるため、1秒率は下がってしまいます。

しかし実は、「正常だと90-50度の人が70-30度になった場合」も、1秒率は下がってしまうのです。
なぜなら、「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気」(50-30度の部分)は、強く吐いても、肺胞の空気のように勢いよく出ていくことは難しいからです。

一方で、「90-50度の人」(正常な人)は、そんなに頑張らなくても、勢いよく息を吐けます。
なぜなら「90度まで上がる胸郭」は、多くの肺胞をふくらませることができ、ふくらんだ肺胞は少しの圧力で簡単にしぼむからです。

ところが、「70-30度の人」は、「自分の1秒率が低いのは、強く勢いよく吐く練習が足りないから」だと考えてしまいがちです。
しかし、この上さらに「強く勢いよく吐く練習」(さらに吐くトレーニング)を重ねてしまうと、先ほど述べた①~③の理由により、さらに腹斜筋が疲労→短縮し、肋骨の上がる角度が減り、結局は肺活量が低下してしまうことになります。
それに、腹筋の短縮がひどくなると、逆流性食道炎などになってしまう場合もあります(詳しくは「逆流性食道炎と腹圧」の項で述べます)。

ですから、やはり、肺活量や1秒率を増やすには、「さらに吐くトレーニング」によって「胸郭がさらに下がるようになる」よりも、「呼吸エクササイズ」などによって「胸郭が上がるようになる」ことが大切なのです(注3)。

「酸素摂取の効率がよい肋骨角度の範囲」は個人差がありますが、いずれの胸郭であっても「息を吐いていき、苦しいゾーンに達した場合」は、「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気」を吐く肋骨角度に入ってしまっている可能性が高いです。
ちなみに、この現象は吹奏楽に限らず、歌手やアナウンサーなど「強く長く息を吐く仕事」全般で起こりやすいです。


(注1)強く息を吐く際は、腹斜筋だけでなく腹直筋や腹横筋まで収縮するので、それらも短縮してしまいやすいです。
しかし長くなるので、本文では省略し、腹斜筋と記載しています。

(注2)気管支では酸素摂取(ガス交換)を行うことはできません。酸素摂取(ガス交換)に関係するのは「肺胞の部分の空気」です。

(注3)まだ胸郭が十分上がらない状態なのに、たくさん吸ってしまうと、ふくらみすぎた肺胞が横隔膜などに押しつけられ傷んでしまう場合があります(図24-2 ×を参照)。
ですから、単にたくさん吸うのではなく、「呼吸エクササイズ」を行い、胸郭が十分上がるようにしていくことが大切です。

座位での呼吸エクササイズ

2016-01-16 10:04:19 | 呼吸ex
ここでは「呼吸エクササイズ」の応用編である「座位での呼吸エクササイズ」を紹介します。
「座位での呼吸エクササイズ」なら、「呼吸エクササイズ」と「おじぎエクササイズ」両方を一度にできます。
「おじぎエクササイズ」は酸素消費量がとても多いので、仰向けのときに比べ深呼吸を長く行いやすくなります。

ただし、座位だからといって、必ずしも深呼吸を長く続けられるわけではありません。
なぜなら、筋肉への毛細血管の量が少なければ、すぐに酸素は飽和状態になってしまうからです。

それに、「座位での呼吸エクササイズ」は、呼吸のたびにおじぎをするので、おじぎの回数がとても多くなります。
まだ「鍛えたい筋肉」が弱っているのに、座位を続けたりおじぎをたくさん行ったりすると、「鍛えたい筋肉」の代わりに「緩めたい筋肉」(腹斜筋など)が多く収縮してしまうことになります。
すると、腰痛になったり、胸郭が上がるはずのところで逆に胸郭が下がってしまったりするので、深呼吸になりません。
ですから、そのような場合は「座位での呼吸エクササイズ」は中止し、仰向けでの「呼吸エクササイズ」や「鍛えたい筋肉を鍛えるエクササイズ」などを先に行ってください。


1 いすに座ります。最初から最後まで、膝~足には力を入れないでください(注1)。

2 エクササイズ中は「下腹部を軽くへこませ、腹横筋下部のみを50%くらい収縮させておく」とよいです。
ただし、力が入りすぎると腹斜筋まで収縮し、胸郭の動きを妨げてしまうので、気をつけましょう。

3 体幹の力を抜き、仙骨後傾・腰椎後弯します(図12-2 3を参照)(注2)。

4 「胸郭が上がりながらふくらむ状態」をイメージしながら、ゆっくりと息を吸います。
ストローから水を吸い上げるような要領で、空気を少しずつ吸います(注3)。
鼻にはフィルターがあるので、吸うときはできれば鼻から吸います。

5 息を吸いながら、仙骨を中間位にします(注4)。
その際、①「肛門をしめ引き上げながら」②「左右のおしりを中央に寄せるように力を入れ」大殿筋を収縮させます(図20-3を参照)。

6 腰椎の一番下(L5)から順番に、頚椎まで起こしていきます。最後はあごを引きます。

7 8割くらい(まだもう少し吸えそうに感じるくらい)吸ったところでとめます(注5)。

8 ゆっくりと息を吐きます。
今度は逆に、ストローから水を吐くような要領で、空気を少しずつ吐きます(注6)。
つい一気に吐いてしまいやすいので、口をすぼめストローをくわえるような形にすると、うまく吐けます。

9 息を吐きながら体幹の力を抜きます。そのまま仙骨後傾・腰椎後弯し、3と同じ姿勢に戻ります。

10 8割くらい(まだもう少し吐けそうに感じるくらい)吐いたところでとめます(注7)。

11 3~10を繰り返します。

※1回1~30分程度、1日1~2回を目安に行います。朝・晩など間隔をあけてください。
続けられる時間は、呼吸の深さや筋肉への毛細血管量、乳酸のたまり具合などにより、個人差があります。

最初は1分からはじめ、5分、10分、15分・・と徐々に伸ばしていくと、30分くらいは楽に呼吸できるようになります。
ただし、座位になると腹斜筋などが多く収縮してしまう場合は「座位での呼吸エクササイズ」は中止し、「呼吸エクササイズ」や第5章などを先に行ってください。


(注1)足先で床を押しながら膝を曲げる方向に力を入れ踏ん張る方がいます。
が、そうすると大殿筋の代わりに大腿裏の筋肉などが収縮してしまうため、将来膝の痛みなどが起こります。

(注2)両腕を机にのせ、浅い前かがみになってもよいです。ただし腕には力を入れないでください。

(注3)胸郭を上げようと意識・努力しすぎると、首の筋(胸郭を上げる筋肉)に力が入りすぎてしまうので、イメージするだけにします。

(注4)「大殿筋の収縮」は、「短背筋群の収縮」につながるスイッチとなるため、重要です。
このとき、腸腰筋のみを収縮させ股関節を曲げることで仙骨中間位にしてしまいやすいですが、それだとスイッチが入らないので、大殿筋に力を入れ忘れないようにしましょう。

(注5)吸いすぎると、ふくらみすぎた肺胞が横隔膜などに押しつけられ傷む(図24-2 ×の状態になってしまう)ため苦しくなります。
その場合はそこで終了し、次の日は吸いすぎないよう気をつけましょう。
腹がふくらむ場合も(図24-2 ×と)同じ状態であるサインなので、吸う量を抑えてください。

(注6)胸郭が下がったまま固まっていたわけなので、努力して吐こうとしなくても自然に胸郭は下がるので息は吐けます。
それに肺胞は簡単にしぼむので、吐こうとする必要はほとんどありません。
息を吐こうと意識・努力しすぎると、腹斜筋に力が入りすぎ短縮しやすくなるので、息が吐かれるのを感じるだけでOKです。
ただ脱力するような感覚になるのがコツです。

(注7)吐きすぎると腹斜筋が収縮するため、疲弊し苦しくなります。
その場合はそこで終了し、次の日は吐きすぎないよう気をつけましょう。