
「モデル姿勢」(図20-1 ○2・○3)はC7が後ろに突出していますが、「ふつうの座位」(図20-1 ○1)は突出していないので、その分「体幹を前にもってくるために腸腰筋や腹斜筋・腹直筋を収縮させる」必要性は少なくなります(注1)。
よって、「ふつうの座位」の場合は、「図20-1 ○3の姿勢」のように「正常なシステムを作動させるために、体全体を前に傾けおしりを浮かせる」まではしなくてもよいです(注2)。
しかしながら、「ふつうの座位」であっても、「腸腰筋をなるべく収縮させない」「大殿筋を収縮させ骨盤後傾の力を発生させる」「正常なシステムを作動させる」ことが重要です。
現代人は座位の時間が長いので、座位の際に「正常なシステムが働く」か「その逆に腸腰筋↑となる」かは、将来に大きな影響を与えます。
ところが、これが(習慣にできてしまえばよいのですが)慣れない人には難しいのです。
「座位をとる」とは「股関節を屈曲する」ということなので、「ふつうの座位」は「股関節屈曲を維持するために腸腰筋が収縮しやすい」姿勢です。
だからといって、本書の推奨通り、腸腰筋を収縮させず骨盤後傾の力を発生させれば、すぐ図20-2 ○4・○5になってしまいます(注3)。
つまり、「ふつうの座位」(図20-1 ○1のように、骨盤中間位で背すじが伸びた座位)は、長時間続くものではないのです。
ところが、それを知らなかったりすると、①「腸腰筋>大殿筋」(図20-2 ×3) ②「腸腰筋<大殿筋→両方↓」(図20-2 ○4・○5)のどちらかになってしまいやすいです。
①「腸腰筋>大殿筋」は、「②からふつうの座位に戻る際に腸腰筋↑としてしまう」人や「②の姿勢を嫌う」人がなりやすいです。
骨盤後傾の力を発生させることで②の姿勢になった場合、それを続けすぎると「大殿筋+短背筋群」が弱りやすいです(「よい姿勢の誤解」を参照)。
そこで、多くの人は②からふつうの座位に戻ります。
が、そのとき単に股関節を屈曲するのみで大殿筋の収縮を意識しないと、ふつうの座位に戻ったつもりでも①になってしまっているのです(注4)。
「②の姿勢を嫌う」人とは、「骨盤後傾したり背もたれによりかかったりすると背すじを伸ばす筋肉が弱るためNGと思い込んでいる」人や「股関節を屈曲し身を乗り出して作業する(しかも、疲れても途中で休まず続けてしまう)くせがある」人(注5)です。
このような方は、「骨盤後傾したり背もたれによりかかったりしないために、股関節屈曲を維持する」ことになるので、①となりやすいです。
それに、「大殿筋+短背筋群」が疲れてもふつうの座位をとると、脊椎カーブ↑(腰椎前弯↑)ともなりやすいです(図9-3を参照)。
問題が大きいのは、「ふつうの座位をとり大殿筋を収縮させているつもりであったとしても、いつの間にか①となってしまっている」点です。
それと、たとえ知識があっても「ふつうの座位」と腰椎前弯↑(図20-2 ×3)は区別しにくいため、腰痛↑となるまで気づきにくい点です。
②「腸腰筋<大殿筋→両方↓」は、本書が推奨した通り「ふつうの座位をとり、大殿筋を収縮させ骨盤後傾の力を発生させる」となりやすいです(注6)。
「両方↓」とはどういう意味なのかというと、「腸腰筋<大殿筋となり骨盤後傾した結果、図20-2 ○4・○5の姿勢になると、大殿筋+短背筋群は収縮しなくても姿勢を保っていられるため、収縮をやめてしまいやすい」という意味です。
人間の体には、座位でも「大殿筋を収縮させすぎるほど骨盤後傾しすぎるため、かえって大殿筋が収縮しなくなる」という罠があるのです(注7)。
しかし、いくら「大殿筋+短背筋群」が強い人であっても筋肉は疲労するので、ときどきは②の姿勢をとることで休む必要もあります。
それに、①は「短時間でもNG」なのに対し、②は「長時間とりすぎなければとってもよい姿勢」です(「よい姿勢の誤解」の項を参照)。
したがって、「ふつうの座位をとり、骨盤後傾↑となってきたり疲れてきたりしたら、②をとる」「しかし②の姿勢も長時間とりすぎると大殿筋+短背筋群が弱りやすいので、またふつうの座位に戻る」(つまり、1~10分おきにふつうの座位と②を交互に繰り返す)とよいです(注8)。
ただし、まだ「大殿筋+短背筋群」が弱い場合は、時間を「ふつうの座位<②」としてください。
なお、「大殿筋+短背筋群」を休ませる目的で②を短時間とる場合は、「少しでも大殿筋や腰椎の短背筋群を収縮させる」よう工夫しなくてよいです(背もたれによりかかった方がより休息できます)(注9)。

しかしながら、「座位だと大殿筋が座面につぶされているため、あまり収縮させられない」という人もいます。
「股関節を伸展させ大腿裏でいす前方のヘリを押す」方法は、いすの形状や座り方によっては使えない場合もあります。
よって、その場合は「左右の大腿骨(大転子)で座面をはさむ」としながら「肛門をしめ引き上げるように力を入れる」とよいです(注10)。
すると、ちょうど吸盤で座面を吸い上げるような感じとなります(図20-3を参照)(注11)。
こうすると、骨盤もしまります。
骨盤がしまる(骨盤の周径↓となる)と、骨盤の上に位置するウエスト(腹横筋)や骨盤の中に位置する骨盤底筋も周径↓としやすくなります。
つまり、「ウエスト(腹横筋)や骨盤底筋を収縮させやすくなる」わけです(注12)。
すると、中枢が安定し、体の中心軸も分かりやすくなります(「書字の極意」の項を参照)。
なお、「脚を閉じた姿勢で大殿筋とともに内転筋を収縮させる」と、さらに骨盤がしまります(「立位で内転筋を収縮させる方法」を参照)(注13)。
骨盤が開く(骨盤の周径↑となる)と、腹横筋や骨盤底筋も引き伸ばされるため、過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となったりしやすいです。
しかも、骨盤が開くと骨盤がゆがみやすいので、骨盤内の関節(仙腸関節や恥骨結合など)が痛む場合があります(注14)。
それに、骨盤がしまると仙骨は左右の腸骨にはさまれ押し上げられることにより固定されるのに対し、骨盤が開くと、仙骨は不安定になり落ちやすくなるので、その上にのる脊椎も不安定になりやすいです。
ちなみに、図20-1 ○1や図20-2 ○5、図21-1 ○1の腰部に緑矢印(上級者)とありますが、これは何かというと、「正しいあごの引き方」ならぬ「正しい腰の力の入れ方」を示したものです。
仙骨を胸椎上部、L1を頭に見立てると、「L1下方を後上方に引き上げる」ようにすれば、正しく腰の力を入れることができます。
このとき、腰を触ると、脊柱筋(背骨にそって隆起している筋肉。短背筋群+脊柱起立筋群)が収縮するのが分かります。
しかし、「正しく腰の力を入れると、脊柱起立筋群よりも短背筋群が収縮する」ので、「正常な(ゆるやかな)腰椎カーブ」となります。
ですから、「モデル姿勢」の際も、こうすれば腰椎が胸椎の動きにつられないようにしやすいです(「よい姿勢の誤解」注5を参照)。
ただし、「正しくあごを引く際は、なるべく胸椎伸展する方向に力を入れる」ように、「正しく腰の力を入れる際も、なるべく(大殿筋を収縮させ)骨盤後傾する方向に力を入れる」ことは重要です(注15)。
しかしながら、「胸椎伸展しすぎると、図41-1 ×1のようになってしまう」ように「骨盤後傾しすぎると、正しく腰の力を入れるのが難しくなってしまう」というのはあります。
でも、骨盤後傾↑となった結果、背もたれによりかかってしまった場合であっても、背もたれの腰の部分にクッションを置き「クッションをL1下方で後上方に軽く押す」とすれば、「正しく腰の力を入れる」ことができます(図20-2 ○5 緑矢印)。
このとき、「正しくあごを引く際は、円背の程度に合わせる」ように「正しく腰の力を入れる際は、骨盤後傾の程度に合わせる」とよいです。
ちなみに、「骨盤後傾する力を発生させているにもかかわらず、(腸腰筋短縮などがあるために)骨盤前傾↑になっている」という人もいます。
その場合、「骨盤中間位になっているとき」と同じ方向に引き上げてしまうと、腰椎前弯↑となってしまいやすいのでNGです(注16)。
しかし、だからといって「正しく腰の力を入れる際は、骨盤前傾の程度に合わせる」とするのは、NGの人が多いです。
なぜなら、そうすると前かがみとなるため、脊柱起立筋群↑となってしまいやすいからです。
「正しくあごを引く」場合は「胸椎より上にのっている部分(頚椎~頭)」の長さは短いため「円背になっている(胸椎上部が前傾している)状態であごを引く」のでも問題ありませんが、「正しく腰の力を入れる」場合は「骨盤より上にのっている部分(腰椎~頭)」の長さが長いため「骨盤前傾↑になっている状態で腰の力を入れる」と脊柱起立筋群↑となってしまいやすいのです。
ですから、腸腰筋短縮などがあり骨盤前傾してしまう場合は、それらを改善してから「正しく腰の力を入れる」練習をしてください(注17)。
余談ですが、「モデル姿勢」の際「胸椎伸展↑とした上でC7のみ屈曲させる」ように、「骨盤後傾↑とした上でL5のみ屈曲させる」とした上で「腰椎(ここではL5より上にのっているL4~L1のことを指しています)をL5屈曲の程度に合わせてまっすぐ伸ばしたときの方向よりも約30度後上方に引き上げることで、正しく腰の力を入れる」(以下「L5屈曲」と省略)とすることもできなくはないです。
しかし、そうすると腰を曲げた姿勢になってしまうため、「L5屈曲」を行う現代人は少ないです(注18)。
しかしながら、シルバーカーを使用する人の場合は、「L5屈曲」を行うとうまくいくことがあります(「動作の注意点-⑧カートを押して歩く2」)。
シルバーカーを使用する人は、短縮した大腿裏の筋が骨盤を後下方に引き骨盤を起こすため、骨盤後傾↑となりやすいですし、シルバーカーによりかかることでちょうどL5あたりが屈曲しやすいです。
そこで、「L5屈曲」を行うと、「腰痛を悪化させずに少し体を起こす」ことができます。
すると、シルバーカーを使用しても、「手すりによりかかりすぎ、下を向きすぎることになり苦しい」状況になりにくいのです(注19)。
(注1)ただし、多くの方は体前面の皮膚や腹斜筋・腹直筋の短縮があるため、胸椎を大きく反らすことはできません。
よって、自分では「しっかりと胸を張り胸椎のみ前に押し出したので、モデル姿勢(もしくは図41-1 ×1)になった」と思っていても、実際は「そこまで胸椎は反っておらず、ふつうの座位(図20-1 ○1)にしかなっていない」という場合も多いです。
しかし、かなり少数ではありますが、胸椎を大きく反らせる人もいます(子供は、少し力を入れただけで大きく反らせることも多いです)。
ですから、「横から見た姿勢」を鏡に映し、「自分は胸椎をどの程度反らすと図41-1 ×1になってしまうのか」を把握しておくとよいです。
その際、「胸椎の代わりに腰椎が反ったりしていないか」も確認しておくとよいです。
(注2)「正常なシステムは前かがみになるほど作動しやすい」のですが、現代人の場合は「大殿筋+短背筋群が弱っていることが多いため、前かがみになりすぎれば過労となり脊柱起立筋群が手伝いすぎる」というジレンマを抱えています(「腸腰筋よりも大殿筋を先に鍛えよう」注1)。
ですから、「ふつうの座位」でも、「立位の注意点」で推奨した方法(「体をまっすぐにし、なおかつ地面と垂直にする」とし、なおかつ「大殿筋+短背筋群の収縮を意識する」という方法によって、正常なシステムを作動させる)を採用するとよいです。
(「ふつうの座位」は図21-1 ○1を座位にした姿勢なので、注意点は「立位の注意点」1~7を参照ください。)
「少しであれば前かがみになっても脊柱起立筋群↑とならない程度に大殿筋+短背筋群が鍛えられている」(「よい姿勢の誤解」a~dのようにはならない)という人であれば、「モデル姿勢」(図20-1 ○3)のように「体全体を前に傾けおしりを浮かせる」としてもよいです。
ただし、「おしりを座面につけたまま、股関節を屈曲させ体幹のみ前傾する」のは、股関節屈曲を維持するために①となったり、脊柱起立筋群↑→腰椎前弯↑となったりしやすいのでNGです。
(注3)「腸腰筋・大殿筋の両方とも収縮させなければ、骨盤中間位を保てるのでは?」とも思えます。
しかし、そうできたとしても、骨盤中間位は不安定なので、骨盤前傾もしくは後傾とぐらぐら動きやすいです。
それに、大殿筋↓だと短背筋群もスイッチが入らないので(「おじぎエクササイズの方法」の項を参照)、骨盤前傾ならバランスをとるため腰椎前弯↑(脊椎カーブ↑)、骨盤後傾ならバランスをとるため腰椎後弯という具合に、ぐらぐら動きやすいです。
ただし、大殿筋↓→骨盤が開くと、やや骨盤後傾位で安定する場合もあります。
しかし、だからといって油断していると、腸腰筋↑→骨盤前傾↑→腰椎前弯↑(脊椎カーブ↑)となってしまう場合もあります。
それでも、「腸腰筋が収縮することも腰椎前弯↑(脊椎カーブ↑)となることもあまりなく、ふつうの座位を保てる」という人もいます。
よって、そのような人の場合は、短時間であれば問題ありません。
ちなみに、腸腰筋と大殿筋の両方が弱ると、腸腰筋の筋力低下の方が目立つため、腸腰筋ばかりを鍛え短縮する(→①となる)人が多いです(「V字のポーズ」の項を参照)。
「大殿筋が弱っても、大腿裏の筋が手伝ったり、股関節屈曲した分脊柱起立筋群↑→腰椎前弯↑となったりすれば目立たない」ですが、「腸腰筋が弱ると、脚が上がらないため目立つ」のです。
「腸腰筋・大殿筋の両方とも収縮させておけば、骨盤中間位を保てるのでは?」と思う方もいると思います。
確かに、腸腰筋・大殿筋両方が収縮すれば股関節は安定します。
よって、「車いすで運動する場合」などは、そのようにしていることが多いです。
しかし、「腸腰筋が仙骨を前に傾けようとすれば大殿筋は後ろに傾けようとする」力比べのような状態を長時間続けるのは大変です。
そのため、長時間続けすぎれば、腸腰筋・大殿筋が過労でA~Bとなるため、やはりバランスをくずし、①・②のどちらかになりやすいです。
(注4)②の姿勢からふつうの座位に戻る際は、股関節を屈曲するだけではなく、大殿筋に力を入れるのを忘れないでください。
また、ふつうの座位の間は、ずっと「腸腰筋をなるべく収縮させない」「大殿筋を収縮させ骨盤後傾の力を発生させる」ようにしてください。
(注5)②の姿勢は、胸椎後弯↑となり背中が丸くなるため、肩甲骨が動きにくくなるので作業がしにくくなります(「書字の極意」の項を参照)。
一方で、①の姿勢は、「骨盤前傾↑となった分前かがみになる」のであれば、目先は肩甲骨が動きやすいです。
しかし、前かがみになれば脊柱起立筋群↑となるため、結局は腰椎前弯↑となってしまいやすいです。
腰椎前弯↑となればバランスをとるために胸椎後弯↑ともなるので、やはり肩甲骨は動きにくくなります。
(注6)中には「背すじの筋肉が弱いため、すぐに疲れ、骨盤後傾したり背もたれによりかかったりする」という人もいます。
しかし、「疲れても背もたれによりかからず、ふつうの座位をとり続ける」と、短背筋群↓→脊椎カーブ↑(腰椎前弯↑)となりやすいです。
疲れた短背筋群を脊柱起立筋群が手伝うため、脊柱起立筋群↑→腰椎前弯↑となってしまう場合もあります。
よって、背すじの筋肉が弱い場合は、「疲れたら背もたれによりかかる」「背すじの筋肉はおじぎエクササイズなどで鍛える」とした方が安全です。
ただ、「背すじの筋肉が弱いため背もたれによりかかる」場合は、「腸腰筋<大殿筋」とはならず、直に「両方↓」となってしまう場合があります。
しかし、背もたれによりかかる際は、ただ骨盤後傾するのではなく「大殿筋を収縮させることによって骨盤後傾する」と意識することが大切です。
筋肉が弱い人であっても、意識した方が収縮しやすいですし、発達もしやすいです。
(注7)「大殿筋を収縮させすぎなければ、骨盤中間位を保てるのでは?」と思う方もいるかもしれません。
が、正常であれば大殿筋は強い筋肉なので、収縮しすぎるのではなく、50%位収縮させただけでも骨盤後傾してしまいやすいです。
(注8)「1~10分」としたのは「頻回に②をとれば頻回に休憩でき、頻回にふつうの座位に戻れば頻回に大殿筋を収縮させられる」からです(ただし、「②の際は大殿筋+短背筋群を休ませる」とし、「ふつうの座位に戻る際やふつうの座位の間は、大殿筋を収縮させる」とする人の場合)。
ふつうの座位の時間を長くしてしまうと、股関節屈曲を維持するために腸腰筋↑となったり、「大殿筋+短背筋群」↓→脊椎カーブ↑(腰椎前弯↑)となったり、疲れた短背筋群を脊柱起立筋群が手伝うため脊柱起立筋群↑となったりしやすいです(注9を参照)。
(注9)ふつうの座位の時間を長くした結果、すでに腸腰筋や脊柱起立筋群が過労→短縮している(注8を参照)と、「本人は②になった(いすに浅めに座り背もたれによりかかることで骨盤後傾し、図20-2 ○4・○5の姿勢になった)つもりでも、腰椎後弯せず腰椎前弯↑となってしまっている」場合があります(図14-1 ×1)。
その結果、腰痛↑となる場合は、座位や立位をとり続けると危険なので、すぐ横になり腰椎に体重がかからないようにした方がよいです。
そして、「呼吸エクササイズ」などを行い、脊柱起立筋群にたまった乳酸・カルシウムを分解・分離することで筋肉を緩め、腰椎前弯↓とします。
「筋肉をストレッチすればよいのでは?」と思うかもしれませんが、筋肉に乳酸・カルシウムがたまった状態でのストレッチは難しいです。
それに、ストレッチをしても、乳酸・カルシウムが分解・分離しなければ筋肉は緩みません(「セルフストレッチで筋肉を緩める」の項を参照)。
それよりも、筋肉がたるむ姿勢をとれば、その下の血管もふくらみやすくなりますから、血流がよくなり酸素が供給されやすくなります。
なお、横になった際、両脚を曲げれば、短縮した腸腰筋をたるませることができます。
しかし、短縮した脊柱起立筋群をたるませるには腰椎前弯↑とするしかありませんが、腰椎前弯↑は腰痛↑となりやすいのでNGです。
したがって、姿勢を工夫することで脊柱起立筋群をたるませるというのは、あきらめた方がよいです。
(注10)大殿筋は股関節を伸展するのみではなく、股関節を外旋させる働きや骨盤をしめる働きもあります。
ただし、「股関節を外旋させたのなら骨盤後傾しなくてよい」というわけではないので、必ず骨盤後傾の力も発生させてください。
(注11)ただし、座位だと上半身の重みによって骨盤が開きやすくなるので、大殿筋が弱っていると難しいです(図20-3 ×を参照)。
よって、座位で行うのが難しい場合は、「大殿筋エクササイズ」「立位でおしりの割れ目にスポンジをはさみ落とさない練習」から行ってください。
なお、吸盤で座面を吸い上げるようにすることで大殿筋を収縮させる方法は、ソファ座位・正座・あぐらでも行えます。
が、「すでに骨盤後傾位となっている座位」の場合は、「大殿筋を収縮させることによって股関節を外旋させることはできても、骨盤後傾の力を発生させるのは難しい」です。
しかし、それでも「腰にクッションを置き、それを軽く押す」などすることで、骨盤後傾の力も発生させてください。
(注12)筋肉を収縮させる(鍛える)ときには、(ア)「その筋肉をある程度伸ばした姿勢にする」方法と(イ)「その筋肉をある程度収縮した姿勢にする」方法があります(「大殿筋エクササイズ2」注10を参照)。
骨盤底筋の場合は、内臓がのしかかったり骨盤が開いたりすることによって(ア)になると、過労でA~Bとなったりしやすいです(「骨盤底筋を鍛えれば尿もれはなおるか?」の項を参照)。
それに、現代人は、腹横筋・大殿筋・内転筋なども弱っていることが多いので、それらを収縮させる場合も(イ)を採用した方が安全です。
「私の筋肉は強い」という人であっても、姿勢保持のため長時間収縮させる場合は(イ)を採用した方が無難です。
ただし、腹横筋がかなり緩んでいる場合は、骨盤をしめると腹横筋がもっと緩むことになるため、かえって収縮しにくいと感じることもあります。
しかし、骨盤が開き腹横筋が緩んだままだと、内臓下垂→機能↓・筋ポンプ作用(下半身にたまった血液を押し上げる作用)↓・脊柱を起立させる作用↓となるので、やはり大変でも「骨盤をしめ、腹横筋を本来の状態に戻す」よう努力した方がよいです。
(注13)大殿筋や内転筋を(イ)に近づけるには、「骨盤が広がったまま座ってから大殿筋や内転筋を収縮させ骨盤をしめる」のではなく、「骨盤をしめた形として座ってから、大殿筋や内転筋を収縮させることで骨盤をしめた状態を維持する」ようにします。
(ただし、骨盤をしめた形として座ったからといって、大殿筋や内転筋の収縮を怠らないよう気をつけてください)
骨盤をしめた形とするには、おしりを座面から浮かせた上で「股関節外旋し骨盤がしまる方向に大殿筋を収縮させる」か「左右の手で骨盤をはさみ、骨盤の横幅が狭くなる方向に押す」とよいです。
それでも、「座っている間にだんだん(上半身の重みによって骨盤が開き)脚が開いてきてしまう」という場合は、「脚が開いてきてしまうのに気づくたび、おしりを座面から浮かせ骨盤をしめた形とし、脚も閉じた形としてから座りなおす」とよいです。
座りなおさずに脚を閉じようとすると大変ですが、座りなおしてから脚を閉じた状態を維持するのであれば、そんなに大変ではないと思います。
それはなぜかというと、「前者を採用すると(ア)になるが、後者を採用すると(イ)に近くなる」からです。
ちなみに、骨盤矯正器具を使用したりゴムバンドを骨盤に巻いたりすることで骨盤をしめる方法もありますが、そうすると「大殿筋や内転筋を収縮させなくても骨盤をしめた状態を維持できるため、収縮を怠りやすくなる」ので気をつけてください(筋肉がついたら使用をやめてください)。
また、長時間使用すると、おしりが血行不良(阻血やうっ血)となり、筋肉がやせてしまったりすることもあるので気をつけてください。
(注14)ただし、骨盤が開いたままだった人が急にしめると、「骨盤を急にしめたことによる痛み」が出る場合もあるので、骨盤をしめる場合は少しずつしめるようにしてください。
また、「左半身の安定&右半身の自在」等だと、骨盤が左右にねじれたりしている場合があるので、そのまましめると痛む場合もあります。
その場合は、まずは「左右のゆがみ」を改善してください(「書字の極意2」を参照)。
(注15)腰痛↓とするには、「骨盤後傾する力」≧「L1下方を後上方に引き上げる力」とすることが重要となります。
これはどういう意味かというと、「骨盤後傾する力=L1下方を後上方に引き上げる力とするのが一番よいが、=とするのは難しいという場合は、骨盤後傾する力>L1下方を後上方に引き上げる力とする」という意味です。
「骨盤後傾する力」<「L1下方を後上方に引き上げる力」としてしまうと、腰椎前弯↑となってしまう場合があるのでNGです。
しかし、「それでは、すぐ骨盤後傾↑→すぐ背もたれによりかかる となってしまう」ようにも思えます。
が、大殿筋や短背筋群の力の入れ具合をうまく調節できれば、「すぐ骨盤後傾↑→すぐ背もたれによりかかる」とはなりません。
ただし、うまく調節できない場合は、「大殿筋や短背筋群の収縮をやめてしまう」よりは「大殿筋↑→すぐ骨盤後傾↑→すぐ背もたれによりかかる」とした方が安全です。
(注16)「腰椎前弯↑となってしまいやすい」のはなぜかというと、「円背になっている(胸椎上部が前傾している)にもかかわらず、頭部を胸椎中間位のときと同方向に引き上げると図41-1 ×2となる」ように「骨盤前傾↑になっているにもかかわらず、L1下方を骨盤中間位のときと同方向に引き上げると、腰部が図41-1 ×2のようになる」からです。
(注17)「大殿筋+短背筋群」が強い人であれば、前かがみの姿勢でも「骨盤前傾の程度に合わせ正しく腰の力を入れる」とすることもできます。
しかし、「大殿筋+短背筋群」が強い人は、「日常生活でも大殿筋を収縮させているので、腸腰筋の短縮はない」ことが多いです。
ちなみに、「大殿筋+短背筋群が強く、前かがみでも正しく腰の力を入れることができる」人であれば、四つ這い位やファンクショナルリーチ(立位でなるべく前方遠くに両手を伸ばす)など、「体幹が地面とほぼ平行になった姿勢」でも脊柱起立筋群↑とならず、姿勢を維持できます。
(注18)「くわを前方に振りおろし畑をたがやす」場合などは、体の使い方によっては「L5屈曲」となることがあります。
しかし、「大腿裏の筋短縮が強い人」や「大殿筋+短背筋群が強い人」でないと、くわを使用しても「L5屈曲」とはなりにくいです。
「L5屈曲」を行う人でも酷使すれば変形性脊椎症などにはなりますが、腰椎すべり症など深刻な腰痛となることは少ないです。
(注19)シルバーカーを使用する人は、「手すりによりかかりすぎると苦しい」でも「体を大きく起こすと脊柱起立筋群↑→腰椎前弯↑→腰痛↑となる」というジレンマを抱えていることが多いです。
すると、多くの方は、2つの間をとって「少し体を起こす」とするため、無意識に「L5屈曲」を行っているというわけです。
ただし、「L5屈曲」をうまく行えない人は、「体を大きく起こす」よりは「手すりによりかかる」を選択した方が腰痛↓とできます。