美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

広背筋短縮と腱板断裂の関係

2016-03-12 12:39:48 | 肩痛の原因


肩の痛みは、広背筋の短縮から起こることが多いです。
広背筋は上腕骨についているので、短縮すると上腕骨を下(足の方向)に引きます。
すると、肩甲骨もつられて下に引かれます。
このとき僧帽筋が引き伸ばされることになります。
僧帽筋が引き伸ばされるのも少量・短時間なら大丈夫ですが、大量・長時間になると筋肉が断裂→瘢痕となったり、防衛反応↑となったりします(注1)。
つまり、伸びるにも限界があるのです(注2)。

よって、広背筋の短縮がひどい場合は、「肩甲骨がついていけないほど、上腕骨が下に引かれる」(a)ことがあります。
すると、「腕が抜けそうに痛む」ことが多いです。
このときレントゲンを見ると、上腕骨頭が通常位置より下がり、肩甲骨と上腕骨頭が離れすぎていることがあります。

そうして、肩甲骨と上腕骨頭が離れすぎてしまうと、肩甲骨と上腕骨をつないでいる三角筋が収縮することで、両者を引き寄せようとする場合があります(注3)。
しかし、これもやはり大量・長時間になると「三角筋が過労→短縮したり、強く収縮し引き寄せすぎてしまったりする」(b)ことがあります(注4)。
すると、今度は「肩が詰まったように痛む」ことが多いです。
このときレントゲンを見ると、上腕骨頭が通常位置より上がり、肩甲骨と上腕骨が近づきすぎていたり、互いがぶつかり合って軟骨がすり減り肩関節が変形していたりします。

なお、肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋肉には、三角筋だけでなく棘上筋もあります。
aの状態になると、棘上筋も引き伸ばされて傷む場合があります(注5)。
bの状態になると、棘上筋は肩峰と上腕骨にはさまれて傷みます(注6)。
ひどいと、つぶれて切れてしまう場合もあります(=腱板断裂)(注7)。

abいずれにしても、棘上筋の機能不全を起こしやすくなります。
棘上筋が機能不全になると、肩を屈曲した際、途中までは上がっても高くまでは上がらなくなります。
それでも無理に上げようとすると、三角筋が強く収縮するため、棘上筋がさらに肩峰と上腕骨にはさまれて傷むことになりやすいです(注8)。

「それでは、大元の原因である広背筋をストレッチしなくては」と思う方も多いと思います。
が、ストレッチよりもまずは「腕の力を抜く練習」を行うことが大切です。
そしてその上で、「骨盤や背骨近くの太い部分」のみをストレッチするとよいです。

今回は、セラピストが「骨盤近くの太い部分」をストレッチする方法を紹介します。
本人は両脚をそろえ軽く膝を曲げた側臥位となり、セラピストは背面に座ります。
セラピストの片手は骨盤に、もう片手はそれよりも10㎝くらい上方(頭部方向)に置きます(注9)。
そして、骨盤に置いた手は骨盤を押さえながら、もう片手は上方(頭部方向)に1~2㎝位動かすことで、広背筋を伸ばします(注10)。



(注1)僧帽筋の下を通る神経や血管も引き伸ばされるため、傷んだり血行不良になったりしやすいです。
僧帽筋が防衛反応↑となり、過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となると、乳酸がたまるため、肩こりになったりもします。

(注2)僧帽筋がやわらかい人もしくはBに近い人はなで肩、僧帽筋の短縮が強くAに近い人はいかり肩になりやすい傾向があります。

(注3)肩甲骨と上腕骨をつないでいる棘上筋が収縮することで両者を引き寄せようとする場合もありますが、やはり棘上筋よりは三角筋の方が大きくて強いので、広背筋に対抗するには三角筋まで収縮せざるをえない場合が多いです。

(注4)このとき、三角筋は「広背筋に打ち勝つ強さ」で収縮しなくてはなりません。
すると、筋肉が頑張るため、収縮しすぎたり、力加減の調節が難しくなったりしやすくなります。

「それでは、三角筋や棘上筋を鍛えればよいのでは?」と思う人もいると思いますが、三角筋や棘上筋は広背筋に比べて小さい筋肉なので、広背筋に勝ちながら適切に収縮できるほどに鍛えるのは難しいです。
それに、広背筋もそうですが、そもそも三角筋も棘上筋も本来は持続的に強く収縮する筋肉ではないので、たとえうまく鍛えられたとしても、持続的に収縮すれば過労になり、A~Bとなりやすいです。

(注5)三角筋も引き伸ばされて傷む場合があります。

(注6)肩峰とは肩甲骨にある突起です。三角筋は棘上筋と異なり肩峰の外側を通っているため、はさまれることはありません。

(注7)五十肩や肩関節周囲炎になる場合もあります。

(注8)棘上筋は、肩を屈曲する(腕を高くまで上げる)際、上腕骨頭を下にすべらせることによって上腕骨頭が肩峰にぶつからないようにする働きがあります。
そうすると、スムーズに腕を高くまで上げることができます。

三角筋の収縮のみで肩を高くまで上げようとすると、上腕骨頭が肩峰にぶつかってしまいます。
よって、棘上筋がさらに肩峰と上腕骨にはさまれることになります。

(注9)置いた手を強く押しつけると、体がつぶれたりストレッチが強くなりすぎたりしやすくなりますが、弱すぎると手がすべります。
手のひら全体を体に密着させるようにするとすべりにくいです。

介助者も背すじを伸ばし、広背筋や腕に余計な力が入らない状態で行うとよいです。
余計な力が入ると、力加減の調節が難しくなるため、強く押しつけたり強くストレッチしてしまいやすくなります。

(注10)強く伸ばしすぎると筋肉が断裂したり防衛反応↑となってしまうので、物足りない程度の強さにとどめてください。

広背筋と大胸筋の関係

2016-03-12 12:28:42 | 肩痛の原因


筋肉は、短縮すると対立する筋肉も短縮しやすくなります。
たとえば、伸筋が短縮すると伸筋に対立する筋肉である屈筋も短縮しやすくなるといった具合です(「腕の力を抜く練習」の注4を参照)。
広背筋は腕・肘・手首を伸ばすとき、大胸筋は腕・肘・手首を曲げるときに収縮しやすいので、両者は対立する関係にあります。
よって、広背筋が短縮すると大胸筋も短縮しやすくなります。

広背筋・大胸筋双方が短縮すると、肩甲骨が肋骨側に押しつけられることになるため、かなり動きにくくなります(図33-1を参照)。
また、短縮した広背筋・大胸筋によって、胸郭もしめつけられつぶれることになります。
そのため、肺がつぶれ呼吸が浅くなったり、心臓がつぶれたりします。
それに、大胸筋の下には腕に行く太い血管も通っているため、それもつぶれることになります(注1)。
よって、肩~手が血行不良(=酸素不足)になります。
すると、手指の筋肉が短縮→こわばりもしくは長時間作業できない、むくみ、腱鞘炎(ばね指など)、しびれ、手荒れなどの症状が出ます(注2)。

このとき「肩~手の関節を曲げ伸ばししなくては」と思う方も多いですが、そうするとこれらの症状が悪化してしまう場合があります(注3)。
また「肩~手を鍛えなくては」と思う方も多いですが、広背筋・大胸筋が短縮し呼吸が浅くなっているのに筋トレ(全身運動を含む)や手作業等をすると、酸素不足のため広背筋・大胸筋がさらに短縮します。
すると、さらに呼吸が浅くなるため広背筋・大胸筋がさらに短縮する悪循環となります。

「それでは、やはり大元の原因である広背筋をストレッチしなくては」とも思えます。
確かに、まずは広背筋を何とかすることが大切です。
しかしながら、ストレッチよりもまずは「腕の力を抜く練習」を行い、広背筋が余計な持続的収縮をしないよう習慣づけることが大切です。
「呼吸エクササイズ」などを行い、肩~手の血流をよくすることも有効です。

広背筋をストレッチする場合、「肩関節を屈曲し腕を上げたり、体幹を側屈したりする」ことで伸ばす人も多いです。
しかし、それだと強すぎるストレッチになりやすいため、断裂→瘢痕となったり防衛反応↑となったりしやすくなります(「セルフストレッチで筋肉を緩める」の項を参照)。
また、すでに肩や腰を傷めている場合は、肩や腰を動かすことで症状を悪化させてしまう場合もあります。

それに、広背筋は「上腕骨近くの細い部分」よりも「骨盤や背骨近くの太い部分」を伸ばした方が傷めにくいです。
ところが、肩関節を屈曲したりすることで広背筋をストレッチすると、「上腕骨近くの細い部分」をストレッチしてしまいやすくなります。
ですから、セルフストレッチを行う場合は、「緩めるエクササイズ(重りストレッチ)」の「④脊柱起立筋群・広背筋・腸腰筋のストレッチ」を行うとよいです。
セラピストによるストレッチなら、「骨盤や背骨近くの太い部分」のみをストレッチすることができます。

今回は、セラピストが「背骨近くの太い部分」をストレッチする方法を紹介します。
本人は両脚をそろえ軽く膝を曲げた側臥位となり、セラピストは背面に座るか片膝立ちになります(注4)。
セラピストの片手は本人の脇の下を通って前身ごろ(乳房の上外側あたり)、もう片手は後ろ身ごろ(肩甲骨の下外側あたり)を押さえます。
つまり、肩の根本を前後からはさむようにします(注5)。

①広背筋・大胸筋両方を伸ばしたい場合は、両手をゆっくりと上(肩幅を広げる方向)に引っ張ります(注6)。
②主に広背筋を伸ばしたい場合は、両手をゆっくりと斜め前上方に引っ張ります。
このとき、本人の骨盤が動いてしまう場合は、骨盤を片膝で押さえます。
③主に大胸筋を伸ばしたい場合は、両手をゆっくりと斜め後上方に引っ張ります。
このとき、本人の胸椎が動いてしまう場合は、胸椎(肩甲骨の間あたり)を片膝で押さえ、猫背を矯正するようにしながら行います(注7)。

ストレッチの前に、ストレッチする部分を軽くさすると、血行がよくなり余計な力が抜けるので、伸びやすくなります。
しかし、余計な力が抜けずあまり伸びない場合でも、無理せずそこで終了します。
そして、次の日が同じ状態であったとしても、やはり無理せずそこで終了します。
繰り返していると、しだいに体が「このセラピストは危険なことはしないので、防衛反応↑とする必要はない」と認識するため、緩んできます。

余談ですが、最近私が肩痛や腱鞘炎の人に行うのは、主に上記①~③と「腕のつけ根を動かすエクササイズ」(「肩~手の血流をよくする方法」の項を参照)と「呼吸エクササイズ」のみであることが多いです。
肩や手指の関節可動域訓練(関節の曲げ伸ばし)や筋トレは逆効果になることもあるので行いませんが、それでも数週間~数か月で改善します。
肩や手指は腰や膝に比べ体重がかからないので変形が少ないためか、エクササイズの効果が表れやすいです。
ただし、腱板が完全に切れていたり、炎症による癒着がひどい場合、完治は難しいです。


(注1)ちなみに、首の筋が短縮した場合も、腕に行く太い血管がつぶれます。

(注2)腕が血行不良になると、阻血やうっ血になります。
うっ血になると、血液中の水分が細胞にしみ出すため、炎症を起こしてしまう場合があります。
手指にある腱鞘(筋肉の腱が通るストローのようなもの)が炎症を起こすと、腱鞘炎となります。
手指は屈伸するたびに、腱が腱鞘の中を動きます。
しかし、腱鞘炎になると、腱が動くたびに炎症で腫れた腱鞘に引っかかります。
そのため、手指の屈伸がぎこちなくなったり、困難になったりしてしまいます(=ばね指)。

ちなみに本書では、動脈の血が不足し局所が貧血になることを阻血、静脈の血がうまく心臓に帰らずよどんで滞ることをうっ血と呼びます。
人間の体は、腹筋↑によって腹腔内の血管がつぶれ血流が悪くなると、「血管内の水分を増やしてふくらませればよい」と考えるのか、「水分過多による高血圧」になってしまう場合があります。
しかし、いくら水分を増やしても、肝心の「心臓や呼吸や筋肉のポンプ作用」が不十分であれば、血は滞りうっ血となってしまいます。

(注3)「関節が動きにくいのであれば、関節可動域訓練をしなくてはならない」と考える人は多いです。
確かに、大きな関節を動かすと、血行がよくなるなどの効果があります。
しかしながら、「硬い関節」や「炎症で腫れた腱鞘や荒れた軟骨などがひっかかる関節」を無理に動かすと、かえって炎症や軟骨破壊を悪化させてしまう場合があります。筋肉が防衛反応↑となったり、断裂→瘢痕となったりもしやすくなります。
特に、肩関節はデリケートなので、要注意です。

それでも肩関節を動かしたい場合は、コッドマン体操がよいと思います。
コッドマン体操とは、前かがみになり腕を垂らし、手に重りをもって振り子のようにゆらゆらとゆらす体操です(重りはなくてもよいです)。
これなら重力の影響で上腕骨頭が下がるので、肩甲骨と上腕骨頭の軟骨がぶつかって傷つくことも起こりにくくなります。
ただし、重りが重すぎたり、大きく振りすぎて遠心力がかかると、三角筋などを伸ばしすぎてしまうことになるのでNGです。

(注4)側臥位になると体が横に倒れやすくなりますが、両足をそろえ軽く膝を曲げると、安定して倒れにくくなります。
ただし、側臥位になったとき、広背筋や大胸筋がやわらかい人は肩が前に逃げますが、短縮している人は逃げられないので上腕骨頭が床にあたって痛む場合があります。その場合は「半分仰向けになりかけた側臥位」(半側臥位)にするなど、工夫します。

(注5)はさむ力が強すぎると体がつぶれてしまいますが、弱すぎると手がすべり上腕骨近くの細い部分を伸ばしてしまいやすくなります。
手のひら全体を体に密着させるようにすると、すべりにくいです。

(注6)強く伸ばしすぎると筋肉が断裂したり防衛反応↑となってしまうので、物足りない程度の強さにとどめてください。

(注7)痛い場合は、胸椎とセラピストの膝の間に折りたたんだタオルなどを入れクッションにします。