肩の痛みは、広背筋の短縮から起こることが多いです。
広背筋は上腕骨についているので、短縮すると上腕骨を下(足の方向)に引きます。
すると、肩甲骨もつられて下に引かれます。
このとき僧帽筋が引き伸ばされることになります。
僧帽筋が引き伸ばされるのも少量・短時間なら大丈夫ですが、大量・長時間になると筋肉が断裂→瘢痕となったり、防衛反応↑となったりします(注1)。
つまり、伸びるにも限界があるのです(注2)。
よって、広背筋の短縮がひどい場合は、「肩甲骨がついていけないほど、上腕骨が下に引かれる」(a)ことがあります。
すると、「腕が抜けそうに痛む」ことが多いです。
このときレントゲンを見ると、上腕骨頭が通常位置より下がり、肩甲骨と上腕骨頭が離れすぎていることがあります。
そうして、肩甲骨と上腕骨頭が離れすぎてしまうと、肩甲骨と上腕骨をつないでいる三角筋が収縮することで、両者を引き寄せようとする場合があります(注3)。
しかし、これもやはり大量・長時間になると「三角筋が過労→短縮したり、強く収縮し引き寄せすぎてしまったりする」(b)ことがあります(注4)。
すると、今度は「肩が詰まったように痛む」ことが多いです。
このときレントゲンを見ると、上腕骨頭が通常位置より上がり、肩甲骨と上腕骨が近づきすぎていたり、互いがぶつかり合って軟骨がすり減り肩関節が変形していたりします。
なお、肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋肉には、三角筋だけでなく棘上筋もあります。
aの状態になると、棘上筋も引き伸ばされて傷む場合があります(注5)。
bの状態になると、棘上筋は肩峰と上腕骨にはさまれて傷みます(注6)。
ひどいと、つぶれて切れてしまう場合もあります(=腱板断裂)(注7)。
abいずれにしても、棘上筋の機能不全を起こしやすくなります。
棘上筋が機能不全になると、肩を屈曲した際、途中までは上がっても高くまでは上がらなくなります。
それでも無理に上げようとすると、三角筋が強く収縮するため、棘上筋がさらに肩峰と上腕骨にはさまれて傷むことになりやすいです(注8)。
「それでは、大元の原因である広背筋をストレッチしなくては」と思う方も多いと思います。
が、ストレッチよりもまずは「腕の力を抜く練習」を行うことが大切です。
そしてその上で、「骨盤や背骨近くの太い部分」のみをストレッチするとよいです。
今回は、セラピストが「骨盤近くの太い部分」をストレッチする方法を紹介します。
本人は両脚をそろえ軽く膝を曲げた側臥位となり、セラピストは背面に座ります。
セラピストの片手は骨盤に、もう片手はそれよりも10㎝くらい上方(頭部方向)に置きます(注9)。
そして、骨盤に置いた手は骨盤を押さえながら、もう片手は上方(頭部方向)に1~2㎝位動かすことで、広背筋を伸ばします(注10)。
(注1)僧帽筋の下を通る神経や血管も引き伸ばされるため、傷んだり血行不良になったりしやすいです。
僧帽筋が防衛反応↑となり、過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となると、乳酸がたまるため、肩こりになったりもします。
(注2)僧帽筋がやわらかい人もしくはBに近い人はなで肩、僧帽筋の短縮が強くAに近い人はいかり肩になりやすい傾向があります。
(注3)肩甲骨と上腕骨をつないでいる棘上筋が収縮することで両者を引き寄せようとする場合もありますが、やはり棘上筋よりは三角筋の方が大きくて強いので、広背筋に対抗するには三角筋まで収縮せざるをえない場合が多いです。
(注4)このとき、三角筋は「広背筋に打ち勝つ強さ」で収縮しなくてはなりません。
すると、筋肉が頑張るため、収縮しすぎたり、力加減の調節が難しくなったりしやすくなります。
「それでは、三角筋や棘上筋を鍛えればよいのでは?」と思う人もいると思いますが、三角筋や棘上筋は広背筋に比べて小さい筋肉なので、広背筋に勝ちながら適切に収縮できるほどに鍛えるのは難しいです。
それに、広背筋もそうですが、そもそも三角筋も棘上筋も本来は持続的に強く収縮する筋肉ではないので、たとえうまく鍛えられたとしても、持続的に収縮すれば過労になり、A~Bとなりやすいです。
(注5)三角筋も引き伸ばされて傷む場合があります。
(注6)肩峰とは肩甲骨にある突起です。三角筋は棘上筋と異なり肩峰の外側を通っているため、はさまれることはありません。
(注7)五十肩や肩関節周囲炎になる場合もあります。
(注8)棘上筋は、肩を屈曲する(腕を高くまで上げる)際、上腕骨頭を下にすべらせることによって上腕骨頭が肩峰にぶつからないようにする働きがあります。
そうすると、スムーズに腕を高くまで上げることができます。
三角筋の収縮のみで肩を高くまで上げようとすると、上腕骨頭が肩峰にぶつかってしまいます。
よって、棘上筋がさらに肩峰と上腕骨にはさまれることになります。
(注9)置いた手を強く押しつけると、体がつぶれたりストレッチが強くなりすぎたりしやすくなりますが、弱すぎると手がすべります。
手のひら全体を体に密着させるようにするとすべりにくいです。
介助者も背すじを伸ばし、広背筋や腕に余計な力が入らない状態で行うとよいです。
余計な力が入ると、力加減の調節が難しくなるため、強く押しつけたり強くストレッチしてしまいやすくなります。
(注10)強く伸ばしすぎると筋肉が断裂したり防衛反応↑となってしまうので、物足りない程度の強さにとどめてください。