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美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

弾性ストッキングでむくみ予防

2016-04-27 11:03:08 | Q&A
肩~手の血流をよくするには、座位・立位の際、下半身にたまりがちな血液をよく回すことも大切です。
ふくらはぎ・股関節内転筋・大腿四頭筋・腹横筋下部(注1)など下半身の大きな筋肉は、収縮・弛緩を繰り返すと下半身にたまりがちな血液を心臓に戻してくれます(=筋ポンプ)。
筋ポンプは呼吸ポンプの補助として必要なのです(注2)。

ところが、立ち仕事だと、脚の筋肉は収縮したままもしくは弛緩したままになりやすいので、筋ポンプはうまく働きません。
筋ポンプがうまく働かないと、脚に血液がたまってうっ血したりむくんだり下肢静脈瘤ができたりしやすくなります。
下肢静脈瘤は、脚の静脈に血液がたまりすぎてパンパンになったために、静脈内にある逆流防止弁が壊れてしまうことによって起こります。

弾性ストッキングをはくと、ストッキングが脚の静脈をしめつけるため、血液がたまりすぎたり弁が壊れたりするのを防ぎます(注3)。
しかしながら、弾性ストッキングは、脚の静脈だけでなく動脈も一緒にしめつけるため、脚に行く血液が減ります(注4)。
つまり、脚が「阻血」(貧血)になってしまうということです。
このとき、敏感な人は脚がだるく感じたりします。
その状態で歩行など脚全体の運動をしてしまうと、酸素不足のためA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となりやすくなります。

脚が阻血にならないよう、末梢(ふくらはぎ~つま先)の圧力は弱くしてある弾性ストッキングも多いです。
そうすれば、末梢の血流だけは確保できますが、だからといって強くしめつけている部分(太ももなど)の筋肉が阻血になることに変わりはないので、やはり脚全体の運動は行わない方がよいです。
それに、そうすると今度は、末梢に血液がたまり「うっ血」になってしまいやすいです。
そうならないためには、筋ポンプはうまく働かなくても、せめて呼吸ポンプだけはよく働かせ静脈の血液を吸い上げることが大切となります。

つまり、弾性ストッキングをはく場合は、
1 単なる立ち仕事のときのみはくこと(はいているときは、歩行など脚全体の運動を行いすぎないこと)(注5)
2 深呼吸を行い、呼吸ポンプをよく働かせること
3 立ち仕事が終わったらなるべく早くストッキングを脱ぎ、血流を回復すること(注6)
が大切となります。

ちなみに、筋ポンプの中でもふくらはぎは重要で、第2の心臓とも呼ばれています。
「それならば、立位でつま先立ち(踵の上げ下げ)を繰り返せば、ふくらはぎが収縮・弛緩を繰り返すことになるため、筋ポンプが働きうっ血を防いでくれるのでは?」とも思えます。
しかし、筋ポンプは、ふくらはぎ・股関節内転筋・大腿四頭筋・腹横筋下部などが総合的に働くことが大切です。
ふくらはぎのみの収縮で血液を心臓に戻そうとすれば、ふくらはぎの負担が大きくなりすぎるため過労になりやすいです。
ふくらはぎはデリケートな筋肉なので、酸素不足や過労で短縮しやすいです(注7)。
ふくらはぎが過労・短縮すると、筋ポンプ作用もなくなってしまいます。

ふくらはぎのみでなく脚の筋肉全体がバランスよく収縮・弛緩を繰り返すには、やはり歩行など脚全体を動かす運動がベストです。
ただし、つま先立ちなどを行いふくらはぎを多く使うくせをつけてしまっていると、どんな運動でもふくらはぎを多く使ってしまいます。

実は、脚の裏面の筋肉(大殿筋-大腿裏の筋-ふくらはぎ-足底筋)は連動していて、どれかが弱ると補い合う関係になっています。
ふくらはぎや大腿裏の筋は過労→短縮しやすく、大殿筋はそれらに甘えて怠けやすい傾向があります。
よって、つま先立ちなどを行いふくらはぎを多く使うくせをつけてしまうと、その分大殿筋が怠けるくせがついてしまう場合があります。
そうなると、いすからの立ち上がりでも歩行でも、大殿筋よりふくらはぎや大腿裏の筋を多く使ってしまうようになります。
その場合は「大殿筋エクササイズ」を行ったり、立ち上がりや歩行のたびに大殿筋を意識し収縮させるよう習慣づけたりする必要があります。

ちなみに、つま先立ちだけでなく、その人にとって負荷の強い運動をいきなり行った場合も、ふくらはぎや大腿裏の筋を多く使いやすいです。
いすからの立ち上がりや階段昇降は負荷が大きいので、ふくらはぎや大腿裏の筋を多く使ってしまう人が多いです。

なお、ふくらはぎは短縮すると、足関節が硬くなりしゃがめなくなるので目立ちます(注8)。
そのため、強くストレッチしたり、無理やりしゃがんだりすることで、足関節をやわらかくしようとしてしまいがちです。
しかしながら、ふくらはぎはデリケートな筋肉なので、断裂したり防衛反応↑となりかえって短縮してしまいやすいです(注9)。
それでも、ゆっくりと少しずつ緩めることで防衛反応を低下させられれば、やわらかくなりしゃがめるようになる場合もあります。
しかし、それは防衛反応が低下しすぎ筋肉が緩みすぎた状態なので、今度は関節を守り切れなくなるため運動時に捻挫しやすくなりますし、筋ポンプもうまく働かなくなりがちです(「筋肉は強く伸ばさない方がいいのか?」の項を参照)。

「それでは、ふくらはぎを鍛えればよいのでは?」とも思う方もいるかもしれませんが、ふくらはぎが大殿筋などの代わりまでできるようになるのは難しいですし、大殿筋などをさしおいてふくらはぎばかりが発達するというのはあまりないです(注7を参照)。


(注1)脳の血流不足による立ちくらみが起こったときは、腹横筋下部を収縮させると下半身の血液が押し上げられるため、立ちくらみが改善する場合があります。

(注2)ただし、筋ポンプは呼吸ポンプの補助として使用することが大切です。
呼吸ポンプが働いていないのに筋ポンプだけで血液を回そうとすると、力不足のため血流不足→酸素不足で筋肉が短縮したり、負荷が強すぎるため筋肉が過労→短縮したりしやすくなります(「運動せずに血流を良くする方法」の項を参照)。

(注3)弾性ストッキングをはかなくても、通常人間は立位になると「血管まわりの筋肉が収縮し血管を細くする」ことで血圧を高くします。
なぜなら、立位になると臥位や座位のときよりもつま先の位置が心臓から遠くなるためです。
つま先の位置が心臓から遠くなっても、血管を細くすることで血圧を高くすれば血液を届けることができます。
「血管を細くすることで血圧を高くすれば、心臓から遠い臓器に血液を届けられるというのはどうしてだろう?」と思った方もいると思います。
それは「水道の蛇口から庭に散水するとき、ホースの出口をつぶして細くすると水の勢いが増し遠くまで飛ばすことができる」のと同じ要領です。

しかしながら、静脈は動脈に比べ血管まわりの筋肉が薄いため、十分細くできないことも多いのです。
このとき弾性ストッキングをはけば、動脈だけでなく静脈まで細くできるというわけです。

ただし、「血管まわりの筋肉が収縮した」にせよ「弾性ストッキングが動脈をしめつけた」にせよ、動脈が細くなると心臓は血液を送り出すために強く収縮しなくてはならなくなるため弱りやすいです。
すると、人間の体はもっと動脈を細くしてしまうためもっと心臓が弱る、悪循環に陥ってしまう場合もあります。
「心臓がタフならよいのに」とも思えますが、もしそうだと今度は血液が細い血管の中を勢いよく通り続けるため血管が傷つきがちになります。
蛇口やホースは取り替えがききますが、心臓や血管はそう簡単にはいきません。

ちなみに、心臓の拍動や呼吸ポンプ・筋ポンプが弱り血流が悪くなると、肺の血流も悪くなります。
そこで、肺へ行く動脈も細くすることで肺の末梢にまで血液を送り届けようとする場合があります(=肺高血圧症)。
肺の血流が悪いと、深呼吸をしてもガス交換(酸素を取り込み二酸化炭素を捨てる)があまりできないので、肺の血流は重要ではあります。
しかしながら、肺動脈が細くなると、心臓は血液を送り出すために強く収縮しなくてはならなくなるため弱りやすいです。
心臓の中でも「全身に送り出す部分」(左心室)に比べ「血液を肺に送り出す部分」(右心室)は、血液を全身ではなく肺にだけ送ればよいため、本来なら強い収縮は不要なので、強い収縮を強いられると弱りやすいです。
しかも、細くなったところが何かのきっかけでつまると肺梗塞になってしまいます。

なお、「エコノミークラス症候群(肺塞栓症)は、長時間体を動かさないと起こる」といわれています。
長時間体を動かさないと「筋ポンプが働かないし、運動しなければ呼吸も浅くてよいので呼吸ポンプもあまり働かない」ため、血流は滞ります。
すると、滞った血液が血塊になり、それが肺動脈まで流れ着き肺動脈をふさいでしまうというわけです。
ですから、エコノミー症候群を防ぐためには、筋ポンプや呼吸ポンプを適度に動かすことが重要です。
肺高血圧症になっていると「本来は太い肺動脈」まで細くなっているため、小さい血栓であっても「本来は太い肺動脈」をつまらせてしまうので、肺の広範囲が機能不全になりやすくなります。

(注4)弾性ストッキングは「静脈を圧迫することで脚にたまった血液を心臓に帰すのを手伝う」だけでなく、「動脈を圧迫することで脚に行くべき血液を遮断してしまう」働きもあるということです。
ただし、「弾性ストッキングによってどれだけ動脈がしめつけられるか」は個人差があります。
動脈硬化で動脈が硬くなっている場合などは、弾性ストッキングでしめつけても血流があまり変わらない場合もあります。
しかしながら、毛細血管(筋肉を直接栄養する細い血管)はかなり弱い圧力でもつぶれてしまうので、やはりしめつけた部分の筋肉は血流不足になります。

(注5)「がん手術でのリンパ管切除によって起こるリンパ浮腫」などの場合は、弾性ストッキングを1日中はくよう指導される場合もあります。
リンパ管を切除した場合は、弾性ストッキングによって強い圧力をかけないと、ひどくむくんでしまうことがあります。
ただし、弾性ストッキングは毛細血管も圧迫してしまうため、毛細血管の血流も悪くなります。
毛細血管の血流は、新しいリンパ管をつくるために必要です。

(注6)立位より座位の方がつま先の位置は心臓に近づくため、心臓は血液を回しやすくなります。
なお、いす座位より床座位の方がつま先の位置は心臓に近づくため、心臓は血液を回しやすくなります。
さらに、座位より臥位の方がつま先の位置は心臓と同じ水平線上にくるため、心臓は血液を回しやすくなります。

(注7)ただし、「つま先立ちを行えば誰でもふくらはぎが過労→短縮してしまう」というわけではありません。
ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには、鍛える以前に「ふくらはぎの血流をよくしておくこと」が重要です。
血流がよく酸素が十分供給されれば、乳酸ができにくいため筋肉は短縮しにくいです。

ふくらはぎ(末梢)の血流をよくするには、腰~太もも(中枢)の血流をよくすることからはじめる必要があります。
なぜなら、ふくらはぎ(末梢)に届く血液は腰~太もも(中枢)を通ってくるわけなので、腰~太ももの血流がよくなければふくらはぎの血流もよくなりえないからです。
血流がよければ筋肉も発達しやすいですから、通常は腰~太ももの血流がよいのであれば腰~太ももの筋肉も発達しているはずです。
つまり、「大殿筋など中枢の筋肉をさしおいてふくらはぎばかりが発達する」というのはあまりないということです。
ですから、ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには、まず大殿筋など中枢の筋肉をある程度鍛え中枢の血流をよくしておくことが重要です。

大殿筋など中枢の筋肉が発達し、血流がよくなったのであれば、ふくらはぎを鍛えてもよいです。
ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには「ふくらはぎを50%位収縮させるトレーニング」を短時間行うとよいです。
ふくらはぎが弱っている場合は、いきなり全体重をかけてのつま先立ちをするのではなく、仰臥位や座位で数回踵を上げ下げするとよいです。
そうしていると、しだいに筋肉がついてくるので、50%の強さで収縮させてもいつの間にか以前より強く収縮できるようになっています(「後頭部が痛くなるかみ方」の項を参照)。
その人にとってつま先立ちが「50%位収縮させるトレーニング」になるのであれば、つま先立ちを行っても大丈夫です。

「大殿筋など中枢の筋肉が明らかにやせているのにふくらはぎばかりが発達している」ように見える人は、発達しているのではなく「むくんでいるもしくは余った脂肪・コレステロールがふくらはぎに沈着している」という場合が多いです。
ただし、大殿筋なども、脂肪が沈着しているために発達して見える場合があるので注意が必要です。

(注8)最近は、大殿筋の代わりにふくらはぎや大腿裏の筋を酷使しているためか、ふくらはぎが短縮ししゃがめない子供が増えているようです。

(注9)足底腱膜が強く伸ばされ断裂してしまう場合もあります(「ふくらはぎのストレッチ」の項を参照)。

肩~手の血流をよくする方法

2016-04-23 13:27:58 | Q&A


座位・立位だと、肩~手の血流が不足しやすくなります。
なぜなら、肩~手に血液を届ける動脈は、大動脈弓よりも上(頭部方向)に伸びてから腕に向かう形になっているからです(図35-1を参照)。
よって、血液が腕に向かうには、重力に逆らい大動脈弓よりも上に進まなくてはならないのです。
大動脈弓よりも上に進むところが、血流の難所です。
心臓が弱ると、心臓から押し出された血液は重力に逆らう勢いがないため、血流の難所の方には向かわず、大動脈弓を通って下半身に行ってしまいがちとなります。
心臓を元気にするには「呼吸エクササイズ」や「腹斜筋・広背筋・大胸筋のストレッチ」などを行い胸郭を広げるとよいです。

今回は「セルフケアで肩~手の血流をよくする方法」を2つ紹介します。
まず1つ目は「腕のつけ根を動かすエクササイズ」(①)です。
座位または立位で、血流の難所(腕のつけ根)を細かくゆらすと、肩~手の血流がよくなります(注1)。
ただし、細かくゆらすとどうしても速い動きになりやすいです。
速く動かすのは難しいですし、脊椎が変形していたりすると傷めてしまう恐れもあります。
そこで、本書ではもっとゆっくり動かす方法をお勧めします。

背骨を軸として胸椎を左右に回旋させると、腕のつけ根を動かすことができます(図35-1を参照)。
それを、左にひねり5秒、右にひねり5秒という具合に、ゆっくりと行えばよいのです。
回旋はわずか(10~20度)とします(注2)。
顔は正面を向いたままの方が、血流の難所が動きやすいです。

そして、2つ目は「顔の水平移動エクササイズ」(②)です。
インドの踊りに「顔が正面を向いたまま左右に水平移動する動き」がありますが、それを行うと肩~手の血流がよくなります。
ただし、インドの踊りは速い動きであることが多いです。
速く動かすのは難しいですし、脊椎が変形していたりすると傷めてしまう恐れもあります。
そこで、本書ではもっとゆっくり動かす方法をお勧めします。

顔は正面を向いたまま、胸椎を左右に水平移動させると、胸椎に伴って顔も左右に水平移動します(図35-2を参照)。
それを、左に移動させ1分、右に移動させ1分という具合に、ゆっくりと行えばよいのです。
その際、肩は水平を保ち、なおかつ移動した側のわき腹(下部肋骨付近)が伸びるのを意識します。
鏡を見ながら行うとよいです。
水平移動は無理のない範囲(1~5㎝)とします(注3)。

ちなみに、体のゆがみ方が「左半身の安定&右半身の自在」となっている人は、左よりも右半身の血流が不足していることが多いです。
なぜなら、「左半身の安定&右半身の自在」となっている人は左大殿筋の方が厚いことが多いのを見ても分かるように、左半身の筋肉の方が発達している傾向があるからです(「書字の極意2・3」の項を参照)。
血流がよいと筋肉が発達します。
よって、筋肉の発達が左>右となっている人は、血流量も左>右となっていることが多いのです。

「顔の水平移動エクササイズ」で顔を右に水平移動させると、右半身の血流がよくなります。
ただし、「左半身の安定&右半身の自在」となっている人は、右への水平移動が苦手な傾向があります。
なぜなら、ふだんから左に水平移動した姿勢がくせになっており、左よりも右わき腹の皮膚や右腹斜筋の方が短縮していることが多いからです。
それでも少しずつ行い、慣らしていけば、しだいに左右対称に動けるようになってきます(注4)。

手作業の合間に①・②や「呼吸エクササイズ」を行うと、手の疲労回復が早くなります。
また、①・②を行うと、頚動脈(脳・顔を栄養する血管)の血流もよくなるので、脳や目・耳の健康も維持できます。
のど・目・鼻・口が乾燥しているときに①・②を行うと、血流がよくなるので粘膜が潤います。
睡眠中は長時間水分をとらない・動かない・呼吸が浅い(呼吸ポンプ↓)状態が続くため、粘膜が乾燥し風邪をひきやすいので、就寝前に行うとよいです。

ちなみに、プロ野球の前田健太投手は投球前に深い前かがみになり肩甲骨を動かしています(=マエケン体操)が、これも血流の難所を動かすことになるので、肩~手の血流をよくします。
肩甲骨を動かすのが難しかったら、深い前かがみになることで肩の位置が心臓より下がるだけでも、重力の影響で肩~手の血流がよくなります。
したがって、深い前かがみで手作業すると長時間続けることができます。

ただし、深い前かがみは腰に重力が多くかかるので、「鍛えたい筋肉」(大殿筋+短背筋群)がかなり強くないと腰痛になりやすいです。
すでに脊柱起立筋群が短縮している場合は、ふつうに前かがみになっただけでも腰痛↑になってしまう(図14-1を参照)くらいですから、深い前かがみは危険なことが多いです。

肩~手の血流がよくなれば、広背筋・大胸筋も酸素が供給されて緩むので、胸郭も広がります。
すると、狭い胸郭のせいでつぶれていた心臓も元気になります。
心臓が元気になり血液を大量に力強く押し出せるようになれば、肩~手の血流もさらによくなる好循環となります。

なお、心臓が元気で動脈の血流に勢いがあれば、動脈に続く静脈の血流も当然よくなります。
静脈の血流がよくなればうっ血も改善されるので、腱鞘炎もなおります(「広背筋と大胸筋の関係」の注2を参照)。

通常、細胞は動脈からしみ出た血しょうに溶けている栄養・酸素を受け取り、その代わりに老廃物を血しょうに溶かします(注5)。
そして、老廃物の溶けた血しょうは静脈に回収されます。

心臓の拍動が弱いと、体は血液中の水分を増やしたり血管を細くしたりすることで、血圧を高くして血流をよくしようとします。
すると、「動脈からしみ出す血しょうの量は増えるのに、老廃物の溶けた血しょうは回収されにくい」という事態になります。
なぜなら、血管内は水分でパンパンになっているもしくは細くなっているせいで、血しょうを受け入れる余裕がないからです。
よって、高血圧の人は、ただ血流が滞っている人よりも、むくみや余計な水分による炎症(腱鞘炎)がひどくなる傾向があります。

「血液中の水分が増えたのなら、血管(毛細血管)を増やせばよいのでは?」とも思えます。
しかしながら、老廃物の溶けた血しょうがうまく回収されず細胞が水浸しの状態では、新しい血管もつくりにくいです。

それに、「血液中の水分が増えたために血圧が高い状態」は「血流がよく、栄養が溶けた血しょうが次々とやってくる状態」とは違い栄養不足なので、新しい血管はつくりにくいのです。
なお、「血管が細くなったために血圧が高い状態」も「血流がよい状態」とは違い栄養不足なので、新しい血管はつくりにくいです。

ただし、「血圧を高くしても利点は特にないのか」というと、そうとも限りません。
血圧を高くすると、脳など「心臓から遠いけど大事な臓器」に血流を届けるのに役立つ場合があります(注6)。
血圧が低いと、末梢や高い位置にある毛細血管から消滅していくことになります。
そうすれば、心臓に戻るまでの血管の長さは短くなるので、血流が弱くても血液は心臓まで戻ることができます。

しかしながら、末梢や高い位置にある毛細血管の消失も困ります。特に指先や踵の毛細血管は消滅しやすいです。
指先の毛細血管が消失すると「手荒れ(皮膚再生↓)や指のこわばり」、踵の毛細血管が消失すると「踵のひび割れ」などの症状が出ます。
ただし、血圧が高くても血流が悪く栄養不足なら、やはりどこかしらの毛細血管は消滅します。

(注1)これはセラピストが行う方法もあります。
本人は両脚をそろえ軽く膝を曲げた側臥位となり、セラピストは背面に座るか片膝立ちになります。
セラピストの片手は前身ごろ(乳房の外側あたり)を押さえますが、今回は本人の腕の下を通る必要はありません。
そしてもう片手は後ろ身ごろ(肩甲骨の下外側あたり)を押さえます。
つまり、肩の根本を前後からはさむようにします(ただし、強くはさむと血管が圧迫され血流が途絶えてしまうので、気をつけてください)。
そのまま、肩の根本を両手で細かくゆらします。

(注2)胸椎は肋骨があるため、大きく回旋することはできません。
大きく回旋すると、首や腰までひねってしまうことになります。
頚椎は傷めやすいですし、頚動脈にプラークがたまっているとはがれる危険もあるので、激しく動かさない方がよいです。
プラークがはがれ脳血管に流れると、脳梗塞になってしまう危険があります。
腰椎も傷めやすいです。すでに傷めている場合は特に注意が必要です。

(注3)胸椎は肋骨があるため、大きく水平移動することはできません。
大きく水平移動すると、首や腰まで動かしてしまうことになります。
インドの踊りでは首や腰まで水平移動していることもありますが、首や腰は傷めやすいため、本書では胸椎のみを動かすことをお勧めします。

(注4)これまで述べてきたことを総合すると
a背すじを伸ばし、右坐骨に体重をかけながら b顔を右に水平移動させ c右上を見ながら d右咬筋(右あご)で軽くカチカチと数回噛む
と、右大殿筋や右短背筋群にスイッチが入ります(a・c・dについては「書字の極意2・3」の項を参照)。
a~dを行っていると、しだいにゆがみが解消され、体が左右対称になってきます。

a~dを行う際は、左右の脊柱筋を触りながら行うと、休んでいた右脊柱筋が収縮するようになるのが分かります(ただし、脊柱筋がひどく退化している場合は分かりにくいです)。
ただし、やりすぎると、右大殿筋や右脊柱筋が過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となってしまうので気をつけてください。
ちなみに、立位で行う場合は、右坐骨に体重をかける代わりに骨盤を右に水平移動させるとよいです(詳しくは後述します)。

(注5)血しょうは血管外に出ると組織間液という名前に変わりますが、ここでは便宜上血しょうと呼んでいます。

(注6)心臓の拍動が弱くなると全身の動脈が細くなりますが、体は脳への血流を最優先するので、特に頚動脈を細くする傾向があります。
よって、頚動脈は、動脈硬化になったりプラークがたまったりしやすいです。

しかし、大事なのは脳だけではありません。
心拍が弱く血流が悪いと、大事な臓器に行く動脈が競うように細くなることで、自分の臓器への血液を確保しようとします。
つまり、血液の奪い合いになってしまうのです。
しかしそれが行き過ぎかなり細くなったところが、何かのきっかけで完全につまってしまうと、梗塞となります。
脳の動脈がつまれば脳梗塞、腎臓の動脈がつまれば腎梗塞、心筋を栄養する動脈(冠動脈)がつまれば心筋梗塞という具合です。

「血管が細くなっても、血栓ができなければつまることはない」とも思えます。
が、生きていればどうしても小さい血栓くらいはできてしまいやすいのです。
特に、ストレス(生命の危険)があると、体は「けがをしたときすぐ止血できるように」と考え血液をドロドロにするので血栓もできやすいです。

それでも、通常は「末梢の細い血管」がつまるだけなので軽症ですみます。
ところが、大事な臓器に行く動脈が競うように細くなっていると、「まだあまり枝分かれしておらず本来は太い動脈」まで細くなっています。
すると、小さい血栓であっても「まだあまり枝分かれしておらず本来は太い動脈」をつまらせてしまうので重症になります。

「まだあまり枝分かれしておらず本来は太い血管」は広範囲に血液を供給しているため、つまると重症になります。
たとえば、冠動脈であっても、「末梢の細い血管」だったら心筋の一部に血液を供給しているだけなので、つまっても心筋の一部が死ぬだけです。
ところが、「まだ枝分かれしておらず本来は太い動脈」は心筋の広範囲に血液を供給しているため、つまると心臓がとまりやすくなります。

いろいろな脊椎カーブ

2016-04-20 10:41:12 | Q&A
腹斜筋・腹直筋が短縮すると体がゆがんでしまいますが、そのときのゆがみ方はこれまで説明してきた脊椎カーブ↑だけというわけではなく様々なタイプがあります。
図26-1、2をご覧ください。


腹筋運動というと「仰向けになり、上半身を起こしながら体幹を屈曲させる動作」が有名です。
「それならば、腹筋(腹斜筋・腹直筋)が短縮したら、ちょうど腹筋運動で体幹を屈曲したときのような姿勢になるのか?」というと、その場合(図26-1 ×1)もありますが、そればかりではありません。
なぜなら、体幹を屈曲した姿勢は、座位や立位だと背中を丸め下を向いた姿勢となり、日常生活が不便だからです。

したがって、なんとかして正面を向く人が多いのですが、正面を向くにも様々な方法があります。
×2は、首を反らすこと(頸椎前弯↑)によって正面を向くタイプです。
×3は、腰を反らすこと(腰椎前弯↑)によって正面を向くタイプです。首はストレートネックもしくは頚椎後弯となります。
×4は、頭のみ後屈しあごを突き出すことによって正面を向くタイプです。首はストレートネックもしくは頚椎後弯となります。
×5は、背骨をまっすぐにすることによって正面を向くタイプです。この場合、仙骨だけは前傾し「くの字」になることが多いです。
これは、腹斜筋が短縮した分、胸郭を大きく下げたり椎間板をつぶしたりすることで、胴体が伸びる量を抑えるタイプになります(「胸を張った方が大きく息を吸えるか?」の項を参照)。
もちろん、×2と×3の複合タイプ(首は×2で腰は×3、つまり脊椎カーブ↑)もありますし、他にもいろいろあります。

×1のように例外もありますが、人間の体は、腹斜筋・腹直筋や首の筋が収縮(短縮)することで「体・頭を前下方に引く力」が発生すると、脊柱起立筋群などが収縮(短縮)することで「体・頭を後下方に引く力」が発生しやすいです(注1)。
そうやって、バランスを取ろうとするのです。

しかしそうなると、胴体は縮み様々にゆがみます。筋短縮がひどくなるほど、ゆがみや椎間板の圧迫もひどくなります。
ちなみに、×6は、緩めたい筋肉が短縮したために椎骨がきれいに整列していられずガタガタになってしまった場合です(注2)。

いずれの場合にしろ「鍛えたい筋肉」が弱り「緩めたい筋肉」が短縮していることがほとんどなので、エクササイズも基本的には同じです。
ですから、本書を読み「私は腰椎前弯↑ではないから本書は私にはあてはまらない」などと思った方も、あきらめずに試してみてください。

ちなみに、「椎間板ヘルニア」や「腰椎すべり症」の項を読んだ方は「腰を反らさずに丸め続ければ大丈夫」と思ったかもしれません。
が、脊柱起立筋群がすでに短縮していたりすると、背中を丸めても図26-1×1のようにはならず、図14-1 ×1にある「深くおじぎしすぎたとき」のような腰椎後方の椎間板がつぶれた状態になってしまう場合があります(「おじぎエクササイズの方法」の項を参照)。
今回冒頭の話は「腹斜筋・腹直筋の短縮」からはじまる設定になっていますが、実際には「脊柱起立筋群の短縮」からはじまる場合もあるのです。

それでも、「仙骨を後傾し、背中ではなく腰を無理のない範囲で丸める」のであれば、応急処置的には有効なことも多いです(注3)。
ただし、腰椎前弯↑に比べ割合は少ないですが、腰椎後弯↑でも腰痛にはなるので、やはり「大元の原因である緩めたい筋肉の短縮を緩め、鍛えたい筋肉を鍛える」ことは大切です。


(注1)腹斜筋が短縮すると「体・頭を前下方に引く力」が強くなるため、その分短背筋群には余計な負荷がかかります。
すると、短背筋群の代わりに脊柱起立筋群などが収縮しやすくなります。
筋肉は負荷が強いと過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となりますが、短背筋群など鍛えたい筋肉はBになりやすいため、代わりに脊柱起立筋群などが収縮しやすいのです。

「それなら短背筋群を鍛えればよい」と思うかもしれませんが、短背筋群が余計な負荷に対抗できるようになるのは難しく、過労でA~Bが悪化してしまうだけのことが多いです。
それに、腹斜筋が短縮すると「胸郭が下がり呼吸が浅くなり酸素不足」となるので、A~Bになりやすい環境となります。

(注2)すべり症は、単に椎骨をつなぎとめる筋肉(短背筋群)が弱いせいで起こる場合もありますが、緩めたい筋肉の短縮によって椎骨がきれいに整列していられないせいで起こる場合が多いです。両者の要因がそろうとすべり症は悪化します。

(注3)ただし、すでに椎間板後方に亀裂が入っている場合は腰を丸めると亀裂が広がりやすくなるので、丸めすぎには気をつけてください。

筋肉は強く伸ばさない方がいいのか?

2016-04-06 11:01:21 | Q&A
「セルフストレッチで筋肉を緩める」の項では、「関節を動かすストレッチ法は強いストレッチになりやすい」と述べましたが、関節を動かすストレッチ法は筋肉だけでなく関節(や椎間板)を傷めてしまう場合もあります。
筋肉が短縮すると関節の隙間がつぶれてしまいますが、その状態で関節を動かすと関節の軟骨同士が強くこすれるため傷ついてしまいやすいのです(注1)。
それに、関節を曲げたにもかかわらず外側の筋肉が伸びないと、その分さらに関節の隙間がつぶれることになります(図28-1を参照)。

「それならば、腰椎牽引などのように、関節を動かさず引き離すように引っ張るだけなら大丈夫だろう」と思う方もいると思います。
確かに、牽引は強すぎなければ「関節を動かすストレッチ法」より安全ですが、それでも強すぎればやはり筋肉だけでなく関節(や椎間板)を傷めてしまいます。
たとえば、椎間板ヘルニアだと椎間板の亀裂を広げたり、腰椎すべり症だと壊れた椎間関節をはずしたりする危険があります。
椎間板や椎間関節は「重力などによってつぶされる力」だけでなく「強いストレッチなどによって引き離される力」にも弱いのです。

そのような事情のため、人間の体は強く動かされたり伸ばされたりすると、警戒し防衛反応を強くすることで伸ばされまいとする傾向があります。
すでに腰痛・肩痛などがある場合は、なおさら防衛反応を強めます(注2)。
しかしこれが行き過ぎると、関節の隙間や椎間板がつぶれ体が硬くなります(注3)。

ところが、このとき私たちは「もっと強く動かしたり伸ばしたりしないと硬くなってしまうのだ」などと思い、関節を可動域の限界まで動かしたり伸ばしたりしてしまいがちです(注4)。
しかしそうすると、体はますます防衛反応を強くすることで伸ばされまいとします。
よって、関節の隙間や椎間板がますますつぶれるので、ますます体が硬くなるのです。
こうなると、「防衛反応VSストレッチ(関節可動域訓練)の終わりなき戦い」となってしまいます。
途中まではストレッチが勝ち可動域が増えたとしても、最終的にはかえって可動域が減ってしまうケースもあります。

「それではいきなり強く伸ばすのではなく、呼吸状態や筋肉・関節の状態に気をつけながら、ゆっくりと少しずつ緩めることで防衛反応を低下させられたのなら大きく伸ばしてもよいのか」というと、それも違います。
なぜなら、そうすると「防衛反応が低下しすぎ、筋肉が緩みすぎる」場合があるからです。
そうなると、今度は関節を守りきれなくなるので、運動時に捻挫しやすくなります(注5)。

ただし、「ストレッチさえやりすぎなければ、後は万事うまくいく」というわけでもありません。
ストレッチをうまく行ったとしても、やはり座位・立位になると「緩めたい筋肉」は頑張りすぎてしまうことが多いです。
このとき「やはりストレッチが足りなかったからだ」と思ってしまう人がいますが、そうではありません。
「短背筋群が弱いのだから、脊柱起立筋群が頑張らないと脊椎がバラバラになってしまう」などと体が思い込んでいるからです。
ですから、筋肉を緩めるときは、「鍛えたい筋肉」の強化を並行して行うことが大切です。

腰椎すべり症にまでなってしまうと、短背筋群が「壊れてしまった椎間関節」の分まで頑張って椎骨同士をつなぎとめる必要があります。
ですから、脊柱起立筋群に安心して緩んでもらえるまでになるのは、とても大変です。
しかし、それでも成功した例はあるので(「症例Aさん」の項で紹介します)、あせらず根気強く行ってください。

余談ですが、最近流行っている「動的ストレッチ」(関節をリズミカルに動かすエクササイズ)は、「血行がよくなる」などよい点もあるので健康な人には有効です。ただし、動的ストレッチは反動がつくので、伸ばしすぎてしまいやすいです。
それに、動的ストレッチのようなやり方だと、たとえば股関節のみを動かしたつもりでも腰椎まで動いてしまいます。


(注1)ただし軟骨は表面にしか神経がないので、いったん表面がはがれてしまうと後はこすれた軟骨を再生するために血管が増殖したりはがれた軟骨が関節包に当たったりしない限り、痛みを感じない場合もあります。
そのため、痛みがない間に少しずつこすれていき、気づいたときには摩耗・変形が進んでいる場合があります。

(注2)痛みも防衛反応にスイッチを入れてしまいます。
「防衛反応↑とすることで体が動かないようにすれば、痛みも和らぐだろう」と体が考えるからだと思われます。
確かに、痛みは傷ついているサインであることが多いですし、傷をなおすにはとりあえず安静が必要です。
それに、痛みは呼吸も浅くします。
「呼吸を浅くすることで体が動かないようにすれば、痛みも和らぐだろう」と体が考えるからだと思われます。
深呼吸をすると呼吸に伴って体が動きますが、浅い呼吸にすれば体はあまり動きません。
しかしそれだと、酸素供給↓となるので、さらに筋短縮しやすくなります。
ここで「短縮している筋肉」や「防衛反応↑によって収縮している筋肉」を無理やり伸ばすと断裂し痛み↑となるため、ますます防衛反応↑・呼吸↓となる悪循環に陥ってしまうのです。

(注3)このとき、腰や肩など痛いところだけでなく、全身(頭~つま先)を固めてしまう場合もあります。
すると、関節を動かしたり伸ばしたりしないだけでなく、日常生活に気をつけたり安静にしたりしなくてはならない場合もあります。
なぜなら、ふつうに日常生活を送っただけでも、特に股関節などは「座れば曲がり立てば伸びる」という具合に動いてしまうからです。
つまり、股関節まで固めてしまった場合は、ふつうに日常生活を送っただけでも「関節を動かすストレッチ」をしたことになるため防衛反応↑となってしまうわけです。

それはまるで「筋肉をギプスのようにカチカチにすることで、全身を固めて守ろう」と考えているかのようです。
人間の体は、「伸筋が短縮すると屈筋」「背筋が短縮すると腹筋」という具合に、1つの筋肉が短縮するとそれに対立する筋肉も短縮しやすいため(「広背筋・大胸筋の関係」を参照)、ギプスのように固めることができるのです。

ただし、筋肉はギプスと違い、関節の隙間をつぶす方向にも圧をかけてしまいますし、屈筋と伸筋の短縮具合が同等になるとは限りません。
特に現代人の股関節は、腸腰筋の短縮が強いためやや屈曲位で固まることが多いです。
そうなると、仰向けになっただけでも腸腰筋が伸ばされすぎることになるため、防衛反応↑となってしまいます。
ですから、そのような場合は安静にする際も、なるべく図8-3(2015.10.17)のように、股関節を軽度屈曲位とすると防衛反応↓となってきます。

ちなみに、股関節が固まっているにもかかわらずふつうに日常生活を送ると、仕方なく動くのは股関節とは限らず腰椎であることも多いです。
たとえば、いすに座り股関節を曲げれば曲がらない股関節の代わりに腰椎が後弯し、立って股関節を伸ばせば伸びない股関節の代わりに腰椎が前弯する、といった具合です(図9-3、図10-3を参照)。
なぜなら、股関節まわりの筋肉はとても強く、腰椎よりも固めやすいからです。
つまり、腰痛→腰椎を動かさないために全身を固めたとしても、そのまま日常生活を送ると股関節が動かないためにその分腰椎が動いてしまうわけですから、狙いとは逆の結果になってしまうといえます。

「それなら、せめて股関節だけでも動くようにしたい」と思う方も多いでしょう。
が、股関節が動くようになるには、やはりまずは安静にすることで防衛反応↓となるのを待つことが大切です。
それでも、誤って股関節の代わりに腰椎や仙腸関節などが動くくせがついてしまった場合は、セラピストによる股関節の可動域訓練を行い股関節が動くよう習慣づけていく必要があります。
(ただし、股関節の可動域訓練を行う際は、腰椎や仙腸関節が動かないようにとめておく必要があります。詳しくは「仙腸関節も緩んだ方がいいのか?」の項で説明します)

(注4)「でも、強くストレッチしたり関節を動かしたりしないと、関節が癒着し動かなくなってしまうのでは?」とも思えます。
確かに「交通事故外傷の手術後で関節がゆがんだり癒着したりした場合」などは、関節可動域訓練などで強い外力をかけるとゆがみが矯正されたり癒着がはがれたりして、正座ができるようになったりするケースもあります。
ただし、それは若くて健康な場合です。
血行不良や老化などによる変形や関節可動域制限の場合は、強い外力をかけてもそれに応じて骨をつくり変えるだけの栄養がないので、単に軟骨が摩耗したりかえって炎症を起こしたりするだけで終わる場合が多いです(腱鞘炎の話で説明しましたが、血流が悪くうっ血していると炎症を起こしやすいです)。

「それでは、炎症が鎮静化した後の癒着なら強く動かしてもよいのか」というと、それもケースバイケースです。
炎症の原因が血行不良や老化などでしかもその傾向が改善していない場合は、強く動かすと単に軟骨が摩耗したり炎症が再燃したりするだけです。

(注5)「でも、股関節などがとてもやわらかいのに捻挫しない人もいるけど?」と思う方もいるかもしれません。
その場合は、捻挫しないようトレーニングを積んでいることが多いです。
しかし「トレーニングを積んでいる動きは大丈夫でも、それ以外の運動を突然行うと捻挫しやすい」ということが多いです。
たとえば「バレエ・ダンスはトレーニングを積んでいるから大丈夫だけれども、トレーニングを積んでいない短距離走を突然行うと捻挫しやすい」といった具合です。


書字の極意3

2016-03-05 09:40:32 | Q&A
さらに余談ですが、「左に傾けている姿勢」だと、視野だけでなく意識も左にずれてしまうためか、「食物を主に左咬筋(左あご)で噛むくせ」がついている場合も多いです。
そのため、咬筋の発達も左>右となり、右咬筋が退化してしまっている場合があります。

ただし、だからといって咬筋の短縮も、左>右となっているとは限りません。
なぜなら、あごは左右一体になっているので、「左咬筋が収縮すれば、右咬筋もそれに合わせ最低限は収縮しなくてはならない」からです。
右咬筋が退化してしまっていると、左咬筋に合わせて収縮するだけで、過労→短縮となってしまう場合があるのです。
すると、咬筋の短縮は左<右となってしまいます(注1)。

ですから、そうなる前に「左右両方でバランスよく噛む」ことが大切です。
ところが、すでに右咬筋が退化している状態で、急きょバランスよく噛むと、思わぬ落とし穴があります。
すでに右咬筋が退化している場合、バランスよく噛んだだけでも右咬筋にとっては負荷が強すぎることになるため、余計過労→短縮となってしまう場合があるのです。

しかし、だからといって右咬筋を鍛えることをやめてしまうと、ますます左咬筋は発達し、右咬筋は退化してしまう可能性もあります。
ですから、最初は「短時間弱く噛む練習」からはじめることが大切です。

「噛む刺激」は抗重力筋のスイッチとなるので、「右咬筋(右あご)で噛むと、右大殿筋・右短背筋群が収縮しやすくなる」という利点もあります。
(ただし、右咬筋が未発達の場合は噛みすぎないよう気をつけてください)

ちなみに、筋肉は、多く意識すると発達する傾向もあるので、右咬筋を多く意識することも有効です。
(ただし、多く意識すると、多く使ってしまう傾向もあるので、右咬筋が未発達の場合は使いすぎないよう気をつけてください)


(注1)「左咬筋は短縮していない」という意味ではなく、「左より右の短縮の方がひどい」という意味です。
全員がこのようなゆがみ方になるわけではありませんが、このようなゆがみ方になる人が多いです。

ただし、「最初はこのようなゆがみ方だったが、どこかの関節に痛みが出たので、それをさけるために姿勢を変えた結果、さらに複雑なゆがみ方になってしまった」などという場合もあります。
その場合は、咬筋の短縮も左<右となっているとは限りません。

咬筋の大きさに左右差があるか否かは、左右のえらを触りながら、左右の咬筋を同じくらい収縮させて噛むと分かります。
右利きの方の多くは、左咬筋の方が大きいと思います。

咬筋の短縮に左右差があるか否かは、鏡を見ながら口を大きく開けてみると予測がつきます。
口を大きく開けた際、咬筋の短縮が強い側の顎関節は大きく開きません。
さらに、咬筋の短縮が強い側の顎関節に痛みが出る場合もあります(大きく開きすぎないよう気をつけてください)。

(注2)左咬筋が右咬筋の分まで働いたために過労→短縮してしまう場合もあります。
すると、「咬筋の短縮は左<右となっているが、痛みが出るのは左顎関節」となることもあります。

その場合は、最初のうちは食物をやわらかいものにするなどして咬筋を休ませ、疲労が回復したら、左右とも「短時間弱く噛む練習」を行います。
「呼吸エクササイズ」などを行うことで、咬筋や咬筋に負担をかける大元の原因である腹斜筋に十分な酸素を供給し、短縮を改善することも重要です(「咀しゃくと腹筋の短縮」の項を参照)。