肩~手の血流をよくするには、座位・立位の際、下半身にたまりがちな血液をよく回すことも大切です。
ふくらはぎ・股関節内転筋・大腿四頭筋・腹横筋下部(注1)など下半身の大きな筋肉は、収縮・弛緩を繰り返すと下半身にたまりがちな血液を心臓に戻してくれます(=筋ポンプ)。
筋ポンプは呼吸ポンプの補助として必要なのです(注2)。
ところが、立ち仕事だと、脚の筋肉は収縮したままもしくは弛緩したままになりやすいので、筋ポンプはうまく働きません。
筋ポンプがうまく働かないと、脚に血液がたまってうっ血したりむくんだり下肢静脈瘤ができたりしやすくなります。
下肢静脈瘤は、脚の静脈に血液がたまりすぎてパンパンになったために、静脈内にある逆流防止弁が壊れてしまうことによって起こります。
弾性ストッキングをはくと、ストッキングが脚の静脈をしめつけるため、血液がたまりすぎたり弁が壊れたりするのを防ぎます(注3)。
しかしながら、弾性ストッキングは、脚の静脈だけでなく動脈も一緒にしめつけるため、脚に行く血液が減ります(注4)。
つまり、脚が「阻血」(貧血)になってしまうということです。
このとき、敏感な人は脚がだるく感じたりします。
その状態で歩行など脚全体の運動をしてしまうと、酸素不足のためA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となりやすくなります。
脚が阻血にならないよう、末梢(ふくらはぎ~つま先)の圧力は弱くしてある弾性ストッキングも多いです。
そうすれば、末梢の血流だけは確保できますが、だからといって強くしめつけている部分(太ももなど)の筋肉が阻血になることに変わりはないので、やはり脚全体の運動は行わない方がよいです。
それに、そうすると今度は、末梢に血液がたまり「うっ血」になってしまいやすいです。
そうならないためには、筋ポンプはうまく働かなくても、せめて呼吸ポンプだけはよく働かせ静脈の血液を吸い上げることが大切となります。
つまり、弾性ストッキングをはく場合は、
1 単なる立ち仕事のときのみはくこと(はいているときは、歩行など脚全体の運動を行いすぎないこと)(注5)
2 深呼吸を行い、呼吸ポンプをよく働かせること
3 立ち仕事が終わったらなるべく早くストッキングを脱ぎ、血流を回復すること(注6)
が大切となります。
ちなみに、筋ポンプの中でもふくらはぎは重要で、第2の心臓とも呼ばれています。
「それならば、立位でつま先立ち(踵の上げ下げ)を繰り返せば、ふくらはぎが収縮・弛緩を繰り返すことになるため、筋ポンプが働きうっ血を防いでくれるのでは?」とも思えます。
しかし、筋ポンプは、ふくらはぎ・股関節内転筋・大腿四頭筋・腹横筋下部などが総合的に働くことが大切です。
ふくらはぎのみの収縮で血液を心臓に戻そうとすれば、ふくらはぎの負担が大きくなりすぎるため過労になりやすいです。
ふくらはぎはデリケートな筋肉なので、酸素不足や過労で短縮しやすいです(注7)。
ふくらはぎが過労・短縮すると、筋ポンプ作用もなくなってしまいます。
ふくらはぎのみでなく脚の筋肉全体がバランスよく収縮・弛緩を繰り返すには、やはり歩行など脚全体を動かす運動がベストです。
ただし、つま先立ちなどを行いふくらはぎを多く使うくせをつけてしまっていると、どんな運動でもふくらはぎを多く使ってしまいます。
実は、脚の裏面の筋肉(大殿筋-大腿裏の筋-ふくらはぎ-足底筋)は連動していて、どれかが弱ると補い合う関係になっています。
ふくらはぎや大腿裏の筋は過労→短縮しやすく、大殿筋はそれらに甘えて怠けやすい傾向があります。
よって、つま先立ちなどを行いふくらはぎを多く使うくせをつけてしまうと、その分大殿筋が怠けるくせがついてしまう場合があります。
そうなると、いすからの立ち上がりでも歩行でも、大殿筋よりふくらはぎや大腿裏の筋を多く使ってしまうようになります。
その場合は「大殿筋エクササイズ」を行ったり、立ち上がりや歩行のたびに大殿筋を意識し収縮させるよう習慣づけたりする必要があります。
ちなみに、つま先立ちだけでなく、その人にとって負荷の強い運動をいきなり行った場合も、ふくらはぎや大腿裏の筋を多く使いやすいです。
いすからの立ち上がりや階段昇降は負荷が大きいので、ふくらはぎや大腿裏の筋を多く使ってしまう人が多いです。
なお、ふくらはぎは短縮すると、足関節が硬くなりしゃがめなくなるので目立ちます(注8)。
そのため、強くストレッチしたり、無理やりしゃがんだりすることで、足関節をやわらかくしようとしてしまいがちです。
しかしながら、ふくらはぎはデリケートな筋肉なので、断裂したり防衛反応↑となりかえって短縮してしまいやすいです(注9)。
それでも、ゆっくりと少しずつ緩めることで防衛反応を低下させられれば、やわらかくなりしゃがめるようになる場合もあります。
しかし、それは防衛反応が低下しすぎ筋肉が緩みすぎた状態なので、今度は関節を守り切れなくなるため運動時に捻挫しやすくなりますし、筋ポンプもうまく働かなくなりがちです(「筋肉は強く伸ばさない方がいいのか?」の項を参照)。
「それでは、ふくらはぎを鍛えればよいのでは?」とも思う方もいるかもしれませんが、ふくらはぎが大殿筋などの代わりまでできるようになるのは難しいですし、大殿筋などをさしおいてふくらはぎばかりが発達するというのはあまりないです(注7を参照)。
(注1)脳の血流不足による立ちくらみが起こったときは、腹横筋下部を収縮させると下半身の血液が押し上げられるため、立ちくらみが改善する場合があります。
(注2)ただし、筋ポンプは呼吸ポンプの補助として使用することが大切です。
呼吸ポンプが働いていないのに筋ポンプだけで血液を回そうとすると、力不足のため血流不足→酸素不足で筋肉が短縮したり、負荷が強すぎるため筋肉が過労→短縮したりしやすくなります(「運動せずに血流を良くする方法」の項を参照)。
(注3)弾性ストッキングをはかなくても、通常人間は立位になると「血管まわりの筋肉が収縮し血管を細くする」ことで血圧を高くします。
なぜなら、立位になると臥位や座位のときよりもつま先の位置が心臓から遠くなるためです。
つま先の位置が心臓から遠くなっても、血管を細くすることで血圧を高くすれば血液を届けることができます。
「血管を細くすることで血圧を高くすれば、心臓から遠い臓器に血液を届けられるというのはどうしてだろう?」と思った方もいると思います。
それは「水道の蛇口から庭に散水するとき、ホースの出口をつぶして細くすると水の勢いが増し遠くまで飛ばすことができる」のと同じ要領です。
しかしながら、静脈は動脈に比べ血管まわりの筋肉が薄いため、十分細くできないことも多いのです。
このとき弾性ストッキングをはけば、動脈だけでなく静脈まで細くできるというわけです。
ただし、「血管まわりの筋肉が収縮した」にせよ「弾性ストッキングが動脈をしめつけた」にせよ、動脈が細くなると心臓は血液を送り出すために強く収縮しなくてはならなくなるため弱りやすいです。
すると、人間の体はもっと動脈を細くしてしまうためもっと心臓が弱る、悪循環に陥ってしまう場合もあります。
「心臓がタフならよいのに」とも思えますが、もしそうだと今度は血液が細い血管の中を勢いよく通り続けるため血管が傷つきがちになります。
蛇口やホースは取り替えがききますが、心臓や血管はそう簡単にはいきません。
ちなみに、心臓の拍動や呼吸ポンプ・筋ポンプが弱り血流が悪くなると、肺の血流も悪くなります。
そこで、肺へ行く動脈も細くすることで肺の末梢にまで血液を送り届けようとする場合があります(=肺高血圧症)。
肺の血流が悪いと、深呼吸をしてもガス交換(酸素を取り込み二酸化炭素を捨てる)があまりできないので、肺の血流は重要ではあります。
しかしながら、肺動脈が細くなると、心臓は血液を送り出すために強く収縮しなくてはならなくなるため弱りやすいです。
心臓の中でも「全身に送り出す部分」(左心室)に比べ「血液を肺に送り出す部分」(右心室)は、血液を全身ではなく肺にだけ送ればよいため、本来なら強い収縮は不要なので、強い収縮を強いられると弱りやすいです。
しかも、細くなったところが何かのきっかけでつまると肺梗塞になってしまいます。
なお、「エコノミークラス症候群(肺塞栓症)は、長時間体を動かさないと起こる」といわれています。
長時間体を動かさないと「筋ポンプが働かないし、運動しなければ呼吸も浅くてよいので呼吸ポンプもあまり働かない」ため、血流は滞ります。
すると、滞った血液が血塊になり、それが肺動脈まで流れ着き肺動脈をふさいでしまうというわけです。
ですから、エコノミー症候群を防ぐためには、筋ポンプや呼吸ポンプを適度に動かすことが重要です。
肺高血圧症になっていると「本来は太い肺動脈」まで細くなっているため、小さい血栓であっても「本来は太い肺動脈」をつまらせてしまうので、肺の広範囲が機能不全になりやすくなります。
(注4)弾性ストッキングは「静脈を圧迫することで脚にたまった血液を心臓に帰すのを手伝う」だけでなく、「動脈を圧迫することで脚に行くべき血液を遮断してしまう」働きもあるということです。
ただし、「弾性ストッキングによってどれだけ動脈がしめつけられるか」は個人差があります。
動脈硬化で動脈が硬くなっている場合などは、弾性ストッキングでしめつけても血流があまり変わらない場合もあります。
しかしながら、毛細血管(筋肉を直接栄養する細い血管)はかなり弱い圧力でもつぶれてしまうので、やはりしめつけた部分の筋肉は血流不足になります。
(注5)「がん手術でのリンパ管切除によって起こるリンパ浮腫」などの場合は、弾性ストッキングを1日中はくよう指導される場合もあります。
リンパ管を切除した場合は、弾性ストッキングによって強い圧力をかけないと、ひどくむくんでしまうことがあります。
ただし、弾性ストッキングは毛細血管も圧迫してしまうため、毛細血管の血流も悪くなります。
毛細血管の血流は、新しいリンパ管をつくるために必要です。
(注6)立位より座位の方がつま先の位置は心臓に近づくため、心臓は血液を回しやすくなります。
なお、いす座位より床座位の方がつま先の位置は心臓に近づくため、心臓は血液を回しやすくなります。
さらに、座位より臥位の方がつま先の位置は心臓と同じ水平線上にくるため、心臓は血液を回しやすくなります。
(注7)ただし、「つま先立ちを行えば誰でもふくらはぎが過労→短縮してしまう」というわけではありません。
ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには、鍛える以前に「ふくらはぎの血流をよくしておくこと」が重要です。
血流がよく酸素が十分供給されれば、乳酸ができにくいため筋肉は短縮しにくいです。
ふくらはぎ(末梢)の血流をよくするには、腰~太もも(中枢)の血流をよくすることからはじめる必要があります。
なぜなら、ふくらはぎ(末梢)に届く血液は腰~太もも(中枢)を通ってくるわけなので、腰~太ももの血流がよくなければふくらはぎの血流もよくなりえないからです。
血流がよければ筋肉も発達しやすいですから、通常は腰~太ももの血流がよいのであれば腰~太ももの筋肉も発達しているはずです。
つまり、「大殿筋など中枢の筋肉をさしおいてふくらはぎばかりが発達する」というのはあまりないということです。
ですから、ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには、まず大殿筋など中枢の筋肉をある程度鍛え中枢の血流をよくしておくことが重要です。
大殿筋など中枢の筋肉が発達し、血流がよくなったのであれば、ふくらはぎを鍛えてもよいです。
ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには「ふくらはぎを50%位収縮させるトレーニング」を短時間行うとよいです。
ふくらはぎが弱っている場合は、いきなり全体重をかけてのつま先立ちをするのではなく、仰臥位や座位で数回踵を上げ下げするとよいです。
そうしていると、しだいに筋肉がついてくるので、50%の強さで収縮させてもいつの間にか以前より強く収縮できるようになっています(「後頭部が痛くなるかみ方」の項を参照)。
その人にとってつま先立ちが「50%位収縮させるトレーニング」になるのであれば、つま先立ちを行っても大丈夫です。
「大殿筋など中枢の筋肉が明らかにやせているのにふくらはぎばかりが発達している」ように見える人は、発達しているのではなく「むくんでいるもしくは余った脂肪・コレステロールがふくらはぎに沈着している」という場合が多いです。
ただし、大殿筋なども、脂肪が沈着しているために発達して見える場合があるので注意が必要です。
(注8)最近は、大殿筋の代わりにふくらはぎや大腿裏の筋を酷使しているためか、ふくらはぎが短縮ししゃがめない子供が増えているようです。
(注9)足底腱膜が強く伸ばされ断裂してしまう場合もあります(「ふくらはぎのストレッチ」の項を参照)。
ふくらはぎ・股関節内転筋・大腿四頭筋・腹横筋下部(注1)など下半身の大きな筋肉は、収縮・弛緩を繰り返すと下半身にたまりがちな血液を心臓に戻してくれます(=筋ポンプ)。
筋ポンプは呼吸ポンプの補助として必要なのです(注2)。
ところが、立ち仕事だと、脚の筋肉は収縮したままもしくは弛緩したままになりやすいので、筋ポンプはうまく働きません。
筋ポンプがうまく働かないと、脚に血液がたまってうっ血したりむくんだり下肢静脈瘤ができたりしやすくなります。
下肢静脈瘤は、脚の静脈に血液がたまりすぎてパンパンになったために、静脈内にある逆流防止弁が壊れてしまうことによって起こります。
弾性ストッキングをはくと、ストッキングが脚の静脈をしめつけるため、血液がたまりすぎたり弁が壊れたりするのを防ぎます(注3)。
しかしながら、弾性ストッキングは、脚の静脈だけでなく動脈も一緒にしめつけるため、脚に行く血液が減ります(注4)。
つまり、脚が「阻血」(貧血)になってしまうということです。
このとき、敏感な人は脚がだるく感じたりします。
その状態で歩行など脚全体の運動をしてしまうと、酸素不足のためA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となりやすくなります。
脚が阻血にならないよう、末梢(ふくらはぎ~つま先)の圧力は弱くしてある弾性ストッキングも多いです。
そうすれば、末梢の血流だけは確保できますが、だからといって強くしめつけている部分(太ももなど)の筋肉が阻血になることに変わりはないので、やはり脚全体の運動は行わない方がよいです。
それに、そうすると今度は、末梢に血液がたまり「うっ血」になってしまいやすいです。
そうならないためには、筋ポンプはうまく働かなくても、せめて呼吸ポンプだけはよく働かせ静脈の血液を吸い上げることが大切となります。
つまり、弾性ストッキングをはく場合は、
1 単なる立ち仕事のときのみはくこと(はいているときは、歩行など脚全体の運動を行いすぎないこと)(注5)
2 深呼吸を行い、呼吸ポンプをよく働かせること
3 立ち仕事が終わったらなるべく早くストッキングを脱ぎ、血流を回復すること(注6)
が大切となります。
ちなみに、筋ポンプの中でもふくらはぎは重要で、第2の心臓とも呼ばれています。
「それならば、立位でつま先立ち(踵の上げ下げ)を繰り返せば、ふくらはぎが収縮・弛緩を繰り返すことになるため、筋ポンプが働きうっ血を防いでくれるのでは?」とも思えます。
しかし、筋ポンプは、ふくらはぎ・股関節内転筋・大腿四頭筋・腹横筋下部などが総合的に働くことが大切です。
ふくらはぎのみの収縮で血液を心臓に戻そうとすれば、ふくらはぎの負担が大きくなりすぎるため過労になりやすいです。
ふくらはぎはデリケートな筋肉なので、酸素不足や過労で短縮しやすいです(注7)。
ふくらはぎが過労・短縮すると、筋ポンプ作用もなくなってしまいます。
ふくらはぎのみでなく脚の筋肉全体がバランスよく収縮・弛緩を繰り返すには、やはり歩行など脚全体を動かす運動がベストです。
ただし、つま先立ちなどを行いふくらはぎを多く使うくせをつけてしまっていると、どんな運動でもふくらはぎを多く使ってしまいます。
実は、脚の裏面の筋肉(大殿筋-大腿裏の筋-ふくらはぎ-足底筋)は連動していて、どれかが弱ると補い合う関係になっています。
ふくらはぎや大腿裏の筋は過労→短縮しやすく、大殿筋はそれらに甘えて怠けやすい傾向があります。
よって、つま先立ちなどを行いふくらはぎを多く使うくせをつけてしまうと、その分大殿筋が怠けるくせがついてしまう場合があります。
そうなると、いすからの立ち上がりでも歩行でも、大殿筋よりふくらはぎや大腿裏の筋を多く使ってしまうようになります。
その場合は「大殿筋エクササイズ」を行ったり、立ち上がりや歩行のたびに大殿筋を意識し収縮させるよう習慣づけたりする必要があります。
ちなみに、つま先立ちだけでなく、その人にとって負荷の強い運動をいきなり行った場合も、ふくらはぎや大腿裏の筋を多く使いやすいです。
いすからの立ち上がりや階段昇降は負荷が大きいので、ふくらはぎや大腿裏の筋を多く使ってしまう人が多いです。
なお、ふくらはぎは短縮すると、足関節が硬くなりしゃがめなくなるので目立ちます(注8)。
そのため、強くストレッチしたり、無理やりしゃがんだりすることで、足関節をやわらかくしようとしてしまいがちです。
しかしながら、ふくらはぎはデリケートな筋肉なので、断裂したり防衛反応↑となりかえって短縮してしまいやすいです(注9)。
それでも、ゆっくりと少しずつ緩めることで防衛反応を低下させられれば、やわらかくなりしゃがめるようになる場合もあります。
しかし、それは防衛反応が低下しすぎ筋肉が緩みすぎた状態なので、今度は関節を守り切れなくなるため運動時に捻挫しやすくなりますし、筋ポンプもうまく働かなくなりがちです(「筋肉は強く伸ばさない方がいいのか?」の項を参照)。
「それでは、ふくらはぎを鍛えればよいのでは?」とも思う方もいるかもしれませんが、ふくらはぎが大殿筋などの代わりまでできるようになるのは難しいですし、大殿筋などをさしおいてふくらはぎばかりが発達するというのはあまりないです(注7を参照)。
(注1)脳の血流不足による立ちくらみが起こったときは、腹横筋下部を収縮させると下半身の血液が押し上げられるため、立ちくらみが改善する場合があります。
(注2)ただし、筋ポンプは呼吸ポンプの補助として使用することが大切です。
呼吸ポンプが働いていないのに筋ポンプだけで血液を回そうとすると、力不足のため血流不足→酸素不足で筋肉が短縮したり、負荷が強すぎるため筋肉が過労→短縮したりしやすくなります(「運動せずに血流を良くする方法」の項を参照)。
(注3)弾性ストッキングをはかなくても、通常人間は立位になると「血管まわりの筋肉が収縮し血管を細くする」ことで血圧を高くします。
なぜなら、立位になると臥位や座位のときよりもつま先の位置が心臓から遠くなるためです。
つま先の位置が心臓から遠くなっても、血管を細くすることで血圧を高くすれば血液を届けることができます。
「血管を細くすることで血圧を高くすれば、心臓から遠い臓器に血液を届けられるというのはどうしてだろう?」と思った方もいると思います。
それは「水道の蛇口から庭に散水するとき、ホースの出口をつぶして細くすると水の勢いが増し遠くまで飛ばすことができる」のと同じ要領です。
しかしながら、静脈は動脈に比べ血管まわりの筋肉が薄いため、十分細くできないことも多いのです。
このとき弾性ストッキングをはけば、動脈だけでなく静脈まで細くできるというわけです。
ただし、「血管まわりの筋肉が収縮した」にせよ「弾性ストッキングが動脈をしめつけた」にせよ、動脈が細くなると心臓は血液を送り出すために強く収縮しなくてはならなくなるため弱りやすいです。
すると、人間の体はもっと動脈を細くしてしまうためもっと心臓が弱る、悪循環に陥ってしまう場合もあります。
「心臓がタフならよいのに」とも思えますが、もしそうだと今度は血液が細い血管の中を勢いよく通り続けるため血管が傷つきがちになります。
蛇口やホースは取り替えがききますが、心臓や血管はそう簡単にはいきません。
ちなみに、心臓の拍動や呼吸ポンプ・筋ポンプが弱り血流が悪くなると、肺の血流も悪くなります。
そこで、肺へ行く動脈も細くすることで肺の末梢にまで血液を送り届けようとする場合があります(=肺高血圧症)。
肺の血流が悪いと、深呼吸をしてもガス交換(酸素を取り込み二酸化炭素を捨てる)があまりできないので、肺の血流は重要ではあります。
しかしながら、肺動脈が細くなると、心臓は血液を送り出すために強く収縮しなくてはならなくなるため弱りやすいです。
心臓の中でも「全身に送り出す部分」(左心室)に比べ「血液を肺に送り出す部分」(右心室)は、血液を全身ではなく肺にだけ送ればよいため、本来なら強い収縮は不要なので、強い収縮を強いられると弱りやすいです。
しかも、細くなったところが何かのきっかけでつまると肺梗塞になってしまいます。
なお、「エコノミークラス症候群(肺塞栓症)は、長時間体を動かさないと起こる」といわれています。
長時間体を動かさないと「筋ポンプが働かないし、運動しなければ呼吸も浅くてよいので呼吸ポンプもあまり働かない」ため、血流は滞ります。
すると、滞った血液が血塊になり、それが肺動脈まで流れ着き肺動脈をふさいでしまうというわけです。
ですから、エコノミー症候群を防ぐためには、筋ポンプや呼吸ポンプを適度に動かすことが重要です。
肺高血圧症になっていると「本来は太い肺動脈」まで細くなっているため、小さい血栓であっても「本来は太い肺動脈」をつまらせてしまうので、肺の広範囲が機能不全になりやすくなります。
(注4)弾性ストッキングは「静脈を圧迫することで脚にたまった血液を心臓に帰すのを手伝う」だけでなく、「動脈を圧迫することで脚に行くべき血液を遮断してしまう」働きもあるということです。
ただし、「弾性ストッキングによってどれだけ動脈がしめつけられるか」は個人差があります。
動脈硬化で動脈が硬くなっている場合などは、弾性ストッキングでしめつけても血流があまり変わらない場合もあります。
しかしながら、毛細血管(筋肉を直接栄養する細い血管)はかなり弱い圧力でもつぶれてしまうので、やはりしめつけた部分の筋肉は血流不足になります。
(注5)「がん手術でのリンパ管切除によって起こるリンパ浮腫」などの場合は、弾性ストッキングを1日中はくよう指導される場合もあります。
リンパ管を切除した場合は、弾性ストッキングによって強い圧力をかけないと、ひどくむくんでしまうことがあります。
ただし、弾性ストッキングは毛細血管も圧迫してしまうため、毛細血管の血流も悪くなります。
毛細血管の血流は、新しいリンパ管をつくるために必要です。
(注6)立位より座位の方がつま先の位置は心臓に近づくため、心臓は血液を回しやすくなります。
なお、いす座位より床座位の方がつま先の位置は心臓に近づくため、心臓は血液を回しやすくなります。
さらに、座位より臥位の方がつま先の位置は心臓と同じ水平線上にくるため、心臓は血液を回しやすくなります。
(注7)ただし、「つま先立ちを行えば誰でもふくらはぎが過労→短縮してしまう」というわけではありません。
ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには、鍛える以前に「ふくらはぎの血流をよくしておくこと」が重要です。
血流がよく酸素が十分供給されれば、乳酸ができにくいため筋肉は短縮しにくいです。
ふくらはぎ(末梢)の血流をよくするには、腰~太もも(中枢)の血流をよくすることからはじめる必要があります。
なぜなら、ふくらはぎ(末梢)に届く血液は腰~太もも(中枢)を通ってくるわけなので、腰~太ももの血流がよくなければふくらはぎの血流もよくなりえないからです。
血流がよければ筋肉も発達しやすいですから、通常は腰~太ももの血流がよいのであれば腰~太ももの筋肉も発達しているはずです。
つまり、「大殿筋など中枢の筋肉をさしおいてふくらはぎばかりが発達する」というのはあまりないということです。
ですから、ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには、まず大殿筋など中枢の筋肉をある程度鍛え中枢の血流をよくしておくことが重要です。
大殿筋など中枢の筋肉が発達し、血流がよくなったのであれば、ふくらはぎを鍛えてもよいです。
ふくらはぎを短縮しないように鍛えるには「ふくらはぎを50%位収縮させるトレーニング」を短時間行うとよいです。
ふくらはぎが弱っている場合は、いきなり全体重をかけてのつま先立ちをするのではなく、仰臥位や座位で数回踵を上げ下げするとよいです。
そうしていると、しだいに筋肉がついてくるので、50%の強さで収縮させてもいつの間にか以前より強く収縮できるようになっています(「後頭部が痛くなるかみ方」の項を参照)。
その人にとってつま先立ちが「50%位収縮させるトレーニング」になるのであれば、つま先立ちを行っても大丈夫です。
「大殿筋など中枢の筋肉が明らかにやせているのにふくらはぎばかりが発達している」ように見える人は、発達しているのではなく「むくんでいるもしくは余った脂肪・コレステロールがふくらはぎに沈着している」という場合が多いです。
ただし、大殿筋なども、脂肪が沈着しているために発達して見える場合があるので注意が必要です。
(注8)最近は、大殿筋の代わりにふくらはぎや大腿裏の筋を酷使しているためか、ふくらはぎが短縮ししゃがめない子供が増えているようです。
(注9)足底腱膜が強く伸ばされ断裂してしまう場合もあります(「ふくらはぎのストレッチ」の項を参照)。