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美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

インナーマッスルならすべて鍛えていいか?

2016-08-10 16:58:20 | Q&A
筋肉は何層にも重なっていますが、深層にある筋肉をインナーマッスルといいます(注1)。
本書で紹介した「鍛えたい筋肉」の中では短背筋群・腹横筋、「緩めたい筋肉」の中では腸腰筋・腰方形筋などがインナーマッスルになります。

「浅層よりも深層にある体幹筋(インナーマッスル)の方が、脊椎構造を壊さずに体幹を固定できる」傾向はあります。
それは、広背筋・脊柱起立筋群よりも短背筋群の方が、腹斜筋・腹直筋よりも腹横筋の方が、深層にあることからも分かります。
よって、インナーマッスルを鍛えると腰痛予防できる場合があります(腸腰筋・腰方形筋などを鍛えた場合は予防できるとは限りませんが)。

最近は「インナーマッスルの強化」として「四つ這い位や腕立て伏せの姿勢などで、体幹を固定したまま腕・脚を動かす運動」(以下「コア」と省略)が流行っているようです。
「コア」を行うと、「中枢(体幹)の安定&末梢(腕・脚)の自在」を学ぶことができます(「書字の極意」を参照)。
たとえば、「コア」のうち「体幹を固定したまま両腕もしくは両脚を同時に動かす運動」は、「左半身の安定&右半身の自在」を改善しやすいです。
なぜなら、「左半身の安定&右半身の自在」となっていると、両腕もしくは両脚を同時に動かしにくいからです。

ただし、「コア」を練習したからといって、必ずしも「左半身の安定&右半身の自在」を改善できたり、短背筋群・腹横筋を鍛えられたりするとは限りません。
「重度の腰痛の人」「鍛えたい筋肉が弱いため緩めたい筋肉が姿勢保持を手伝わざるをえなくなっている人」「腹斜筋や腹直筋が短縮しているため、内臓をつぶしてしまわないよう腹横筋下部の収縮をストップしてしまう人」(「書字の極意1」)などが「コア」を行うと、体は「短背筋群が弱いのだから脊柱起立筋群が頑張らないと体がバラバラになってしまう」とか「腹筋を収縮させ体を固定したいけど、腹横筋下部を収縮させると内臓をつぶしてしまうから、その代わりに腹斜筋・腹直筋をもっと収縮(短縮)させよう」などと考えるため、緩めたい筋肉↑となりやすいです。

「それでは、激しい運動にせず、体幹が地面に垂直(椎骨をただ積んでおくだけでも姿勢を保てる状態)とすれば大丈夫だろう」とも思えますが、それだと今度は「鍛えたい筋肉」まで怠けてしまうことがあります。
「鍛えたい筋肉が弱いため緩めたい筋肉が姿勢保持を手伝わざるをえなくなっている人」や「腹斜筋や腹直筋が短縮しているため、腹横筋下部の収縮をストップしてしまう人」は、「鍛えたい筋肉も緩めたい筋肉もどちらも収縮しない」か「緩めたい筋肉↑となる」か、どちらかしかできないことが多いのです。

「でも、姿勢保持のために緩めたい筋肉が収縮していると、コアの運動はしにくくなるのでは?」と思った方もいるかもしれません。
確かに、たとえば、「コア」のうち「体幹を固定したまま腕を上げる運動」を行うには、広背筋の収縮をやめなくてはなりません。
なぜなら、体幹を固定するために広背筋が収縮している状態では、腕を上げにくく、無理に上げると肩や腰を傷めやすいからです(図22-1)。
「それならば、体幹を固定するために広背筋が収縮するのはあきらめ、短背筋群が収縮するようになるだろう」とも思えます。
ところが、実際はそうではなく、「腕を上げるときだけは広背筋の収縮をやめる」という具合に、「緩めたい筋肉がかなり器用に働くようになる」だけのことも多いのです。

それでは「脊椎構造を壊さずに体幹を固定できる」(腰痛予防できる)わけではありません。
それに、最初のうちは緩めたい筋肉が器用に働くようになったとしても、長期的には緩めたい筋肉が過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となるため、結局はできなくなることが多いです。

また、腰痛の方の場合は、同じインナーマッスルでも、短背筋群(鍛えたい筋肉)と腰方形筋(緩めたい筋肉)だと、腰方形筋の方が収縮しやすいです。
そのため、「おじぎエクササイズ」のように「下(仙骨)~上(頚椎)を順番に収縮させていくエクササイズ」ではなく、「コア」のように「一度にすべての短背筋群を収縮させておくエクササイズ」だと、「腰方形筋は手伝いすぎてしまい短背筋群は怠ける」ことが多いのです。

しかし、姿勢保持のために腰方形筋が収縮しても、広背筋が収縮したときのように腕を上げにくくなったりはしません(注2)。
よって、短背筋群の代わりに腰方形筋が収縮し過労→短縮しても、腰痛になるまで気づかないことが多いです(注3)。
ですから、「短背筋群の代わりに腰方形筋が収縮するくせ」を改善するには、まずは「おじぎエクササイズ」などを行った方がよいです(注4)。

ただし、中には、「腰方形筋が姿勢保持のために収縮し過労→短縮すると腰痛が軽減する」などというケースもあります。
それは、筋肉がとても弛緩しやすい(収縮しにくい)体質の方です。
そのような方は、「おじぎエクササイズ」などを行い短背筋群を鍛えても、なかなか短背筋群がつきません。
しかし、そのような方であっても、「コア」を行うと、姿勢保持のために腰方形筋が少しは収縮するので、過労→短縮します(注5)。
すると、不安定だった腰椎が安定し、腰痛が軽減する場合があるのです(注6)。
ただし、それでしばらくはうまくいったとしても、長期的には、腰方形筋が短縮したことによる弊害(腰痛など)が出てきやすいです。
ですから、やはり「おじぎエクササイズ」なども行った方がよいです。

ちなみに、「腸腰筋や脊柱起立筋群が少し過労→短縮すると、適度に腰椎前弯するため、腰痛が軽減する」などというケースもあります(注6)。
それは、腰痛の原因が「腰椎後弯↑」の人(図26-1 ×1)です。
しかし、これも長期的には、腸腰筋や脊柱起立筋群が短縮したことによる弊害(腰椎前弯↑による腰痛など)が出てきやすいです。
ですから、やはり「おじぎエクササイズ」なども行った方がよいです。


(注1)一番表面にある筋肉以外すべてをインナーマッスルと呼んでいる場合などもあります。

(注2)ちなみに、短背筋群の代わりに脊柱起立筋群が収縮した場合も、腕を上げにくくなったりはしません。
よって、腰方形筋と同様、腰痛になるまで気づかないことが多いです。
脊柱起立筋群も腰方形筋も短縮すると、胴体が短くなったり腰椎前弯↑となったりしますが、よく観察しないと気づきにくいです。

(注3)腰方形筋が短縮しても、日常生活や「コア」には支障がないことが多いですが、ダンスなどで体幹を側屈する運動がしにくくなります。
なぜなら、たとえば体幹を右に側屈するには、左腰方形筋が伸びなくてはならないからです(伸びないと椎間板がつぶれたりします)(図28-1)。
よって、ダンスなどで体幹を側屈する運動を行うと、腰方形筋が短縮していることに気づく場合もあります。
ただし、このとき「側屈できないのは練習が足りないからだ」などと考えダンスを多く行ってしまうと、椎間板を傷めたりするのでNGです。

(注4)短背筋群が十分あり、「短背筋群の代わりに腰方形筋が収縮するくせ」が改善している人であれば、「コア」を行っても短背筋群を鍛えることができます。
しかしながら、「短背筋群の代わりに腰方形筋が収縮するくせ」の改善はなかなか難しいです。
「まだくせが十分改善していなくても、短背筋群ばかりでなく腰方形筋も鍛えたい」という場合は、「姿勢保持のために収縮するとき(鍛えたい筋肉の代わりに収縮するとき)とは全く異なる動き」(腰方形筋エクササイズ)を行うとよいです(詳しくは後述します)。

ダンスなど体幹を大きく側屈する運動でも腰方形筋を鍛えられますが、腰痛の人やすでに腰方形筋が短縮している人が体幹を大きく側屈させると、椎間板を傷めたりする場合があります。

(注5)筋肉がとても弛緩しやすい方であっても、短背筋群と腰方形筋だと、腰方形筋の方が収縮しやすいです。

(注6)ただし、「コア」を行いすぎたために腰方形筋(もしくは腸腰筋・脊柱起立筋群)が短縮しすぎると、短縮したことによる弊害(腰痛など)が出てしまう場合もあります。
ですから、腰方形筋(もしくは腸腰筋・脊柱起立筋群)を少し収縮させ、少し過労→短縮させるのがコツです。

V字のポーズ

2016-08-06 21:41:40 | Q&A

昔のことですが、私は軽い腰痛がありました。
また、ヨガの「V字のポーズ」(座位で腸腰筋を強く収縮させることによって両脚を上げるポーズ)をとれませんでした(図10-8)。
腸腰筋の収縮が弱いため、股関節を十分屈曲できず、脚を十分に上げられなかったからです。

そのため、私は毎日のように「V字のポーズ」を練習し、腸腰筋を鍛えました。
ところが、私の場合は、いくら練習してもできるようにならず、腰痛もなおりませんでした(注1)。
そこで、「練習が足りなかったのだ」と考え練習を増やしましたが、やはりできるようにはならないため、結局やめてしまいました(注2)。

その後、私は「大殿筋を鍛えれば腰痛がなおるのではないか?」と考えました。そこで、「大殿筋エクササイズ」を行い、大殿筋を鍛えました。
「座位・立位や立ち上がりの際、大殿筋を50%位収縮させる」ことを意識したりもしました(注3)。
すると、腰椎前弯↑が改善したためか、腰痛の頻度は徐々に減っていき、数か月後にはなおっていました。
そして、ふと「V字のポーズ」を思い出し、久しぶりにとってみると、以前はいくら頑張ってもできなかったポーズが、簡単にできるのです。

今思えば、私の腸腰筋が弱る大元の原因は、「座位・立位や立ち上がりの際、大殿筋を50%位収縮させる」のを忘れたことだと思います。
「大殿筋を50%収縮させる」ことを忘れれば、当然、大殿筋は弱ります。
すると、腸腰筋は大殿筋に対抗する筋肉なので、大殿筋が弱ると腸腰筋も弱るのです(注4)。

それなのに、私は「V字のポーズ」を行うことで腸腰筋を先に鍛えたため、腸腰筋が過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となったのです(注5)。
しかし、私は「大殿筋が弱い」とはいっても、筋力テストなどで明らかに弱いと分かるほどではなかったため、原因をみつけるのは大変でした。

また、私はヨガの「スキのポーズ」(仰向けで腰を上げつま先を頭の上方の床につけるポーズ)をとることができませんでした(図10-8)。
短背筋群や脊柱起立筋群が短縮していて十分伸びないため、背骨が十分曲がらず、つま先を床につけることができなかったからです(注6)。
そのため、私は毎日のように「スキのポーズ」を練習し、短背筋群や脊柱起立筋群をストレッチしました。
ところが、私の場合は、いくら練習しても、短背筋群や脊柱起立筋群が伸ばされ瘢痕が増えたり、防衛反応↑→短縮↑となるためか痛むだけで、つま先をつけられるようにはなりませんでした。
そこで、「練習が足りなかったのだ」と考え練習を増やしましたが、やはり痛むだけで、できるようにはなりませんでした。

その後、私は「腹横筋下部を鍛えれば、座位や立位の際、短背筋群や脊柱起立筋群が過労しなくてすむ(「腹横筋下部はよい姿勢の要」を参照)ので、短背筋群や脊柱起立筋群の短縮が改善し、スキのポーズもできるようになるのではないか?」と考えました。
そこで、「腹横筋エクササイズ」を行い、腹横筋下部を鍛えました(「腹横筋エクササイズ」の項を参照)。
「座位や立位の際、腹横筋下部を50%位収縮させる」ことを意識したりもしました。
すると、数日後には、反動をつけなくても、簡単につま先をつけられるようになっていました。

「動作の注意点-①洗面・歯みがき」の項では、「正常なシステム」で主に収縮するのは「体の後面にある筋肉」なので、そこに腹横筋は含まれませんが、「体の後面の筋肉」(特に短背筋群)がまだ弱い場合は腹横筋によるサポートが重要と述べました。
が、座位・立位を長時間続ける場合も、腹横筋によるサポートが重要だったのです(注7)。

「筋肉が弱い=その筋肉を鍛える」「筋肉が硬い=その筋肉をストレッチする」「ヨガ・ダンス・スポーツなどが上達しない=その動きをひたすら練習する」という具合に、単純な対応をとる人は多いと思います。
が、その対応を続けても思うように改善しない場合は、発想を転換し、基本の筋肉である「鍛えたい筋肉」を鍛えなおすと有効な場合があります。

(注1)大殿筋が弱いわけではなく、単に腸腰筋が運動不足で弱い場合は、「V字のポーズ」を練習したり腸腰筋を鍛えたりしただけで「V字のポーズ」ができるようになる場合もあります。

(注2)私の腰痛の原因は、「鍛えたい筋肉(大殿筋など)が弱いため、緩めたい筋肉(腸腰筋など)が過労→短縮することによる脊椎カーブ↑(腰椎前弯↑)」だったため、腸腰筋を鍛えてもなおらなかったのだと思います。
ただし、中には、腰痛の原因が「腰椎後弯↑」の人もいます。
その場合は、「腸腰筋を鍛えれば腰痛が軽減する」こともあります(詳しくは「インナーマッスルならすべて鍛えていいか?」の項を参照)。

(注3)ただし、「悪い姿勢をとるくせ」がついている人の場合は、単に大殿筋を50%位収縮させるよう意識しただけではNGのことがあります。
その場合は、「座位の注意点」「立位の注意点」「動作の注意点-⑧いすから立ち上がる」の項などを参照ください。

(注4)「大殿筋と腸腰筋の関係」は、「内転筋と中殿筋の関係」と似ています。
中殿筋は内転筋に対抗する筋肉なので、内転筋が弱ると中殿筋も弱るのです(「立位バランス訓練」注2や「股関節内転筋と片足立ち」注7を参照)。

(注5)大殿筋・腸腰筋両方が弱った状態で腸腰筋を先に鍛えると、腸腰筋が過労でA~Bになりやすいです。
「少しくらいなら大丈夫だろう」とも思えますが、少しであっても、弱った腸腰筋にとっては過労になるのでA~Bとなりやすいです。
なお、大殿筋・腸腰筋両方が弱った状態で座位・立位を長時間とった場合も、やはり腸腰筋が多く収縮し過労になるのでA~Bとなりやすいです。
「腸腰筋よりも大殿筋を先に鍛えよう」の項などでは「大殿筋が弱いと座位・立位で腸腰筋が多く収縮しやすい」と述べましたが、大殿筋・腸腰筋両方が弱った状態でも、やはり腸腰筋が多く収縮しやすいのです。

「それならば、座位・立位で大殿筋も腸腰筋もあまり収縮させないようにすれば、腸腰筋が過労でA~Bになることはないはず」とも思えますが、それでも、「V字のポーズ」などで大殿筋より腸腰筋を先に鍛えると「座位・立位で腸腰筋が多く収縮するくせ」がつくため、A~Bになります。

しかし、腸腰筋が短縮した状態は「V字のポーズ」とよく似ています(図10-3を参照)。
「ということは、腸腰筋が短縮すれば、むしろV字のポーズはとりやすくなるはずでは?」と思った方もいると思います。
確かに、「腸腰筋が完全にA」の場合や「脳性マヒで腸腰筋の痙縮が異常に強い」場合などは「V字のポーズ」のような姿勢になることもあります。
しかし、その場合は仰臥位でも「V字のポーズ」のときと同様に、脚が浮いた姿勢になるほどです。

ただし、「完全にA」の場合でも、強く伸ばしていると、「伸縮しない布を少しゆるめてはりつけた」のと似たような状態になることもあります。
それは「強く収縮しているのだけれど、強く伸ばされ断裂した足底腱膜」の状態とも似ています(「足底腱膜炎の原因」を参照)。
すると、「仰向けになり股関節を伸ばしても完全に伸びないが、かといってしゃがんで股関節を曲げてもしっかり曲がらない」という状態になるので、「立位などで腰椎前弯↑にはなってもV字のポーズはとりにくい」状態となることが多いです。

しかし、「腸腰筋が完全にA」になる人は少なく、多くの人はA~Bの中間「完全には緩まないが、かといって強く収縮できるわけでもない」というめりはりのない状態になります。が、その場合も「立位などで腰椎前弯↑にはなってもV字のポーズはとりにくい」状態となることが多いです。

(注6)短背筋群や脊柱起立筋群が短縮していたりする場合、いきなり「スキのポーズ」をとると、首や腰を傷めるので気をつけてください。

(注7)このとき、「体の後面の筋肉を鍛えれば、疲れなくなるから短縮も改善する」と思う方もいるかもしれません。
が、座位・立位を長時間続ける際、「体の後面の筋肉」だけで体を支えるのは、やはり無理がある場合が多いです。

腸腰筋よりも大殿筋を先に鍛えよう

2016-06-01 16:01:12 | Q&A
立ち上がりや踏み台昇降だけでなく、立位も「股関節の筋肉の使い方」が特に重要です。
立位の際、腸腰筋・大殿筋両方が収縮すれば股関節は安定します。スポーツ時など短時間であれば、それでもよいです。
しかし、「腸腰筋が仙骨を前に傾けようとすれば大殿筋は後ろに傾けようとする」(腸腰筋が股関節を曲げようとすれば大殿筋は伸ばそうとする)力比べのような状態を長時間続けるのは大変です。
そのような状態を長時間続けた結果、腸腰筋・大殿筋双方が過労→短縮すると、股関節が曲がりにくく伸びにくい状態となってしまいます。

そのためか、基本的立位は「前に倒れそうな体を、体の後面にある筋肉(短背筋群や大殿筋など)が収縮することで後ろに引く」というシステムになっています(図21-1を参照)。

つまり、「おじぎエクササイズで起き上がるとき」と同じ筋肉を収縮させれば、正しく立っていることもできる というわけです。
「おじぎエクササイズから起き上がるとき」の筋肉の使い方が、立位の基本なのです(注1)。
これを本書では「正常なシステム」と呼びます(注2)。

ところが、腰痛の方の立位は「(まず体幹を後ろに倒しぎみとした上で)後ろに倒れそうな体幹を、体の前面にある腸腰筋が収縮(短縮)することで前に引く」という、「正常とは逆のシステム」を採用していることが多いです(図21-2 ×1を参照)。
すると、基本的立位に比べ「上半身は後ろにあり、股関節は前につき出した姿勢」となることが多いです。
しかしながら、この姿勢は、腰椎前弯↑・股関節過伸展(伸展しすぎ)となることが多いため、長時間とると腰痛や股関節痛になります(注3)。

それに、「正常とは逆のシステム」(股関節を前につき出した姿勢)を長時間続けると、腸腰筋は立位の間中「伸ばされながら収縮し続ける」ことになるので、過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となります(注4)。
ただし、腸腰筋がAに近くなると、腸腰筋はあえて収縮しなくても短縮しているだけで「正常とは逆のシステム」の姿勢でいることができます。
よって、長時間続けても「楽な姿勢」と感じる場合もあります。

しかしながら、そうしている間にAがさらに進むと、「股関節を前につき出した姿勢」をとれなくなってくる場合があります。
すると、「腸腰筋が短縮しているため股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見伸展して見える形」をつくってしまいます(図21-2 ×2や図38-2 ×を参照)。
それは「大腿裏の筋が伸ばされながら収縮すると膝関節伸展できるが、短縮しすぎると逆に膝が曲がってくる現象」(図38-1)とも似ています。

しかし、それでも頑張って股関節を前につき出し強く伸ばしていると、腸腰筋が断裂し瘢痕ができたり防衛反応↑となるため、さらに短縮します。
が、それでも前につき出し強く伸ばしていると、瘢痕がとても増えるので正常に伸び縮みできる部分が減ります(注5)。
すると、「伸縮しない布を少しゆるめてはりつけた」のと似たような状態になってきてしまう場合があります。
それは「強く収縮しているのだけれど、強く伸ばされ断裂した足底腱膜」の状態とも似ています(「足底腱膜炎の原因」の項を参照)。

すると「仰向けになり股関節を伸ばしても完全に伸びないが、かといってしゃがんで股関節を曲げてもしっかり曲がらない」という状態になる人もいます(ただし、「仰向けになると腰椎が前弯し、しゃがむと腰椎が後弯することでカムフラージュする」ので、一見では分かりにくいです)。
このとき「股関節の前方(腸腰筋の部分)に何かが詰まっている(それが妨害するからしっかり曲がらないように感じる)」と訴える方もいます。

すると当然、収縮機能も落ちているので、歩行時に足を上げる(=股関節を屈曲する)とき、十分上がらずつまずいたりします。
このとき、「腸腰筋を鍛えたり、足を上げる練習をしたりすれば、疲れなくなるからつまずかなくなる」と考える方は多いです。
しかし、「正常とは逆のシステム」の人の腸腰筋は、「立位を支えるために腸腰筋が多く収縮している」ところに「そこからさらに足を上げるため腸腰筋が働かなくてはならない」という、大変忙しい状態にあります(注6)。
つまり収縮機能が落ちたのは「忙しく働き過労になっているせい」なので、ここで鍛えてもさらに過労でA~Bがひどくなるだけなのです(注7)。

それに、腸腰筋は本来大殿筋と同様に働くようにはできていないので、いくら腸腰筋を鍛えても、片足立ちで体をしっかり支えるのは難しいです。
すると、片足立ちの際、支持脚が不安定になるため、ほんの一瞬しかしていられません。
したがって、もう片方の足を高くまで上げている時間がないため、すり足のようになり、つまずいてしまうのです(注8)。

「正常とは逆のシステム」がくせになり腸腰筋が短縮すると、単にストレッチを続けてもなかなか緩まないことが多いです。
そんなことをしなくても、大殿筋を鍛え「正常なシステム」を覚えると、頑固に短縮していた腸腰筋があっさり緩む場合もあります(注9)。
「正常なシステム」を覚えると、腸腰筋が過労しなくてすむようになるため、徐々に乳酸やカルシウムが分解・分離されるからだと考えられます。

しかし、ひとたび「正常とは逆のシステム」がくせになってしまうと、再び「大殿筋の収縮」や「正常なシステム」を習慣づけるのは大変です。
その場合は「大殿筋エクササイズ」や「腹横筋エクササイズ」などを行いながら、「立位の注意点」を繰り返し練習します。


(注1)「おじぎから起き上がるとき」というのは、頭が前方にあるため重心が前にあるので、短背筋群や大殿筋が働きやすいです。
「まっすぐ垂直な立位」になると、頭は背骨の真上にくるので、短背筋群や大殿筋などを収縮させなくても、ただ椎骨を積み木のように積んでおくだけで立位を保ててしまいます。
「それでは、立位でも前かがみの姿勢でいれば、頭が前方にくるので短背筋群や大殿筋が収縮しやすいのでは?」とも思えます。
確かに「鍛えたい筋肉」が弱っていない場合は、「前かがみ」になれば、「短背筋群+大殿筋」が強く収縮します。

ところが、現代人の「短背筋群+大殿筋」は弱っていることが多いので、「前かがみ」を長時間とると、過労になりやすいです。
ですから、「前かがみ」は「おじぎエクササイズ」のときくらいにしておいた方がよいです。
立位の際は「体をまっすぐにし、なおかつ地面に垂直に立つ」上で「短背筋群+大殿筋を50%位収縮させる」ことをお勧めします。

(注2)ちなみに、抗重力筋は「体の後面の筋肉」(短背筋群・脊柱起立筋群・大殿筋・大腿裏の筋・ふくらはぎ)が特に重要といわれています。
なぜなら、「体の後面の筋肉」が十分あれば「正常なシステム」を作動させることができるからです。
「体の後面の筋肉」が弱っていない場合なら、「正常なシステム」が最も働くのは「体をまっすぐにし、なおかつ足関節を90度よりやや大きく背屈させ、体全体を前に倒しぎみにして立つ」(マイケル・ジャクソンがムーンウオークをはじめるときのような姿勢になる)場合です。
この姿勢になると「重心がかなり前方にくる」ため、「体の後面の筋肉」すべてが強く収縮し、体を起こそうとします。
人間の体は「重心が前方にくる」ほど「体が前に倒れないようにする反射」が働くため、「体の後面の筋肉」が強く収縮し体を起こそうとします。
(「前かがみ」でも重心は前方にきますが、前方にくるのは上半身だけなので、主に「短背筋群+大殿筋」が強く収縮します。)

ところが、現代人がこの姿勢をとると、特に「大腿裏の筋+ふくらはぎ」が過労→短縮しやすくなります。
この姿勢だと、前かがみのとき収縮する「大殿筋+短背筋群」だけでなく「大腿裏の筋+ふくらはぎ」まで収縮しなくてはなりませんが、現代人は大殿筋が弱っているため、「大腿裏の筋+ふくらはぎ」はさらに大殿筋の分も収縮しなくてはならないためです(「弾性ストッキングでむくみ予防」の項を参照)。
それに、大殿筋が弱ければ、末梢のふくらはぎも血行が悪い→弱いことが多いためです。

ふくらはぎが短縮すると、足関節が底屈ぎみとなるため「体全体を前に倒しぎみ」とすることはできなくなるので、結局は「重心が後方にくる」ことになりやすいです。
そのため、「体が前に倒れないようにする反射」はかえって低下することになります。
ですから、「重心が前方にくる姿勢」は「おじぎエクササイズ」のときくらいにしておいた方がよいです。

ちなみに、正常な立位だと「重心は足裏の長軸の中心よりもわずかに前方にくる」といわれています。
「わずかに前方」ならば、「正常なシステム」(体が前に倒れないようにする反射)が適度に働き、抗重力筋も適度に働くからです。
ところが、現代人は「重心の位置が足裏の中心より後方にきている」人が多いといわれています(最近は重心の位置を測る機械があります)。
「このままでは、立位になると後ろに倒れたり歩けなくなったりする人が出てくるのではないか?」と心配する人もいるようです。

「重心の位置が足裏の中心より後方にきている」のは、先ほども述べたように、現代人は「短背筋群+大殿筋」が弱ったり、ふくらはぎが短縮したりしている人が多いからだと思います。
しかし、たとえば「ふくらはぎ短縮→足関節が底屈ぎみ→重心が後方にきている」としても、その分上半身を前にもってきたりすることで重心を前方にもってくることはできるので、これだけで後ろに倒れる心配をすることはありません。

心配だからといって無理やり重心を前方にもってきても、抗重力筋が弱っていれば、ふくらはぎ・大腿裏の筋が過労→短縮したり(それでも重心を前方にもってくれば、ふくらはぎもしくは足底腱膜が断裂したり)するだけです。
なお、無理やり重心を前方にもってくると、「上半身だけは後ろにもってきてしまう」場合があります。
「股関節を前につき出している姿勢」(図21-2 ×1)になってしまうのです。
この姿勢は「正常とは逆のシステム」なため「短背筋群+大殿筋」が収縮しないので、長時間とると腰痛・椎間板ヘルニア・股関節痛などになりやすいです(注3を参照)。
また、無理やり重心を前方にもってくると、「膝だけは後ろに押し込んでしまう」場合もあります。
そうすると、その分だけ重心が後方にくるため、抗重力筋は楽になります。
「膝を後ろに押し込むには大腿裏の筋が収縮しなくてはならないから、大腿裏の筋は楽にならないのでは?」とも思えますが、上半身もしくは股関節を前につき出したまま膝を後ろに押し込むと、「膝関節伸展ロック」がかかる(=膝関節の靭帯がそれ以上伸展しないよう制限するため、筋肉が収縮しなくても膝伸展の姿勢でいられる)ため、大腿裏の筋などを収縮させなくても膝を伸展していることができます。
ただし、「膝伸展ロック」を利用していると反張膝になります。反張膝も、膝靭帯ねんざや膝痛の原因となります。

(注3)「正常とは逆のシステム」は、必ずしも「異常」というわけではありません。
「正常なシステムを採用していたら短背筋群や大殿筋が疲れてきた」などというときに短時間採用する分には問題ありません。

ただし、「体重が重い場合」や「腰痛・股関節痛がある場合」などは採用しない方がよいです。
「正常とは逆のシステム」を採用すると、単に腰椎前弯↑となるだけでなく、上半身が後ろにくるため上半身の重みが腰椎後方にかかりがちです。
すると、腰椎の椎間板後方に亀裂が入り、椎間板ヘルニアになったりします。
なお、膝関節だけでなく股関節も、伸展しすぎると傷めやすいです(詳しくは「立位の注意点」で説明します)。

(注4)このとき、腸腰筋ではなく「股関節前面にある靭帯」の張力を利用することもできます(図21-2 ×1を参照)。
が、通常の靭帯のやわらかさだと「股関節をかなり前に突き出した姿勢」になってしまいます。
それだと、やや威張ったように見えたり下腹部がつき出して見えたりするため、そこまで突き出さないように腸腰筋を収縮させる人が多いです。

靭帯の主な仕事は「伸びないことで、関節が正常可動域以上に動かないよう制限する」ことです。
股関節が伸展しても15度位でとまるのは、「股関節前面の靭帯」が伸びないからです。「股関節前面の靭帯」は比較的丈夫です。
しかし、それでも股関節をつき出し強く伸ばしたために断裂(=ねんざ)すれば、正常可動域よりも大きく動きます。
(ただし、中には「股関節前面の靭帯」がやわらかい体質であるために、股関節が正常可動域よりも大きく動く人もいます。)

しかし、断裂が修復され瘢痕になると、やはり伸びなくなったり硬くなったりします。
それに、腸腰筋が過労→短縮してくると、そばにある「股関節前面の靭帯」も血行が悪くなりカルシウムがたまりやすくなるので、硬くなります。
「股関節前面の靭帯」が硬くなると、腸腰筋はあえて収縮しなくても「逆のシステム」の姿勢でいることができるため、「楽な姿勢」と感じます。

(注5)ちなみに、「股関節を前につき出して立つ」だけではなく、「強いストレッチ」「腸腰筋が短縮し骨盤前傾となっているのに、無理に骨盤後傾し股関節を伸ばして立つ」などを繰り返した場合も、やはり短縮した腸腰筋は無理やり伸ばされることになるので、瘢痕が増えます。
なお、「腸腰筋が短縮し骨盤前傾となっているのに、無理に骨盤後傾し股関節を伸ばして立つ」場合は、骨盤後傾に大きな力が必要となり大殿筋の力だけでは足りないので、「大腿裏の筋を収縮させるくせ」もつきやすいです(「大殿筋エクササイズ2」を参照)。

(注6)腸腰筋は単に忙しいだけではありません。
腸腰筋が収縮すると、①「大腿骨を持ち上げることによって腰椎の方に引き寄せる力(股関節を屈曲する力)」と同時に②「腰椎を前下方に引くことによって腰椎を大腿骨の方に引き寄せる力(腰椎前弯↑とする力)」も発生します(「ノルディックウオーキング」の注2を参照)。
このとき、大殿筋を収縮させることによって骨盤後傾させておけば、腸腰筋の力はすべて①「大腿骨を持ち上げる力」となるのですが、「正常とは逆のシステム」の人は大殿筋をあまり収縮させていないので、腸腰筋の力は①と②に分散してしまいます。
よって、大腿骨を持ち上げる高さが「足を引きずらない程度」であっても、腸腰筋がかなり収縮しなくてはならないためA~Bとなりやすいです。
そのため、足を上げたつもりが上がっていないために、引きずったり小さな段差につまずいたりしてしまうこともあります。

(注7)腸腰筋がBになっていた場合は、鍛えると足が上がるようになり、収縮機能が回復したように見えることもあります。
が、それはBがAになったからです。Aになっても正常に伸び縮みできる部分は減っていくので、最終的にはまた足は上がらなくなります。

(注8)あまり注目されていませんが、つまずく原因が「片足立ちの時間が短すぎて、もう片方の足を高くまで上げている時間がないから」という場合もよくあります。「急いで歩いているときにつまずく」のは、これが原因のことが多いです。

「急いで歩いているわけではないのに片足立ちの時間が短くなってしまう」のは「足を上げる力(腸腰筋)が弱いため、もう片方の足をすぐに下ろしてしまうから」と考える人は多いですが、実は「支持脚を支える筋(大殿筋・中殿筋など)が弱く不安定だから」という場合の方が多いです。
もう片方の足はまだ上げていることができたとしても、「支持脚を支える筋(大殿筋・中殿筋など)が弱く不安定」だと、もう片方の足をすぐに下ろすことによって2本の脚で支えざるをえません。
「片足立ちでくつ下をはこうとするとピョンピョンはねてしまう」人をよく観察すると、「足を上げていること(腸腰筋収縮)はできているのに、支持脚を支える筋肉が弱く不安定なためにピョンピョンはねている」ことが多いです。
ですから、そのような場合は、「腸腰筋の筋力強化」や「足を上げる(股関節を曲げる)練習」よりも、まずは「大殿筋の筋力強化」や「正常なシステムを習慣づけることによって、支持脚を安定させる練習」をした方がよいです。

それでも(注6)で述べたように、つまずく原因が「足を上げる力(腸腰筋収縮)が弱ったためすぐ足を下ろしてしまうから」の場合もあります。
しかし、それは腸腰筋が大殿筋の代わりに収縮し過労となっているからです。
同じ弱っている場合でも、「本来の仕事を怠けたせいで弱っている場合は鍛える(その仕事をさせる)→働く習慣をつける」「弱い筋肉を手伝い過労になったせいで弱っている場合は休ませる(その仕事をやめさせる)→手伝わない習慣をつける」のが基本です。
ただし、どちらも「股関節周囲を軽くさすったり温めたりすることで、血行をよくしながら行う」と効果的であるという点は同じです。

(注9)「あっさり緩む」といっても、いきなり正常になるわけではありませんが、ストレッチのときに強い力を入れたりしなくても、以前より股関節が少し多く曲がる・伸びるようになったり、しゃがみやすくなったりします。
ただし、「強いストレッチ」や「収縮しているのに伸ばされること」(「股関節を前につき出した立位」「大きな歩幅での歩行」など)を繰り返していると、瘢痕組織がとても増えているので、緩めるのは難しくなります。
正常可動域にこだわると、つい「強すぎるストレッチ」を行ってしまうことが多いので、正常可動域にはこだわらない方がよいです。

有酸素運動なら乳酸を分解できるか?

2016-05-21 16:49:29 | Q&A
「運動せずに血流を良くする方法」の項では、「胸郭が下がったまま上がりにくい」(呼吸ポンプがうまく機能しない)人が、脚の筋肉を動かし筋ポンプを働かせると、「脚から心臓に戻る血液」が胸郭の手前までは行けたとしてもその先(心臓)になかなか行けない と述べました。
このとき「でも、有酸素運動なら呼吸が荒くなるので、呼吸ポンプもよく働くはず」と思った方もいるかもしれません。
でも、有酸素運動をする・呼吸が荒くなる=筋肉に酸素が十分供給される・胸郭が十分上がる(呼吸ポンプがよく働く) とは限りません。

有酸素運動とは「ジョギング・ウオーキングなど、運動中も呼吸できるため、酸素を取り込める運動」のこと(を指すことが多い)です。
無酸素運動とは「重量挙げ・短距離走など、息をとめながら行うため、運動中は酸素を取り込めない運動」のこと(を指すことが多い)です。
したがって、「有酸素運動は乳酸がたまりにくく、無酸素運動は乳酸がたまりやすい」といわれています。

しかしながら、「有酸素運動をしながら深呼吸をした」からといっても、必ずしも酸素供給が間に合い乳酸が分解できるとは限りません。
なぜなら、運動すると思ったより多くの酸素を必要とするからです。
それに、深呼吸をしたからといっても、肺や筋肉の毛細血管や血流が不足していれば、酸素が筋肉に十分届くことはできません。
肺の毛細血管が不足していれば、肺胞に新しい空気が入ってきても、その酸素を血中に十分取り込むこと(ガス交換)ができません。
筋肉の毛細血管が不足していれば、血中に酸素があったとしても、その酸素を筋肉に十分取り込むことができません。

また、短背筋群が弱っていたり腰痛だったりする人が運動すると、体は「短背筋群の収縮のみでは、脊椎がバラバラになってしまう」と考えるため、「緩めたい筋肉」を収縮させることによって体を固めてしまいます(図10-7を参照)(注1)。
すると、腹斜筋も収縮するため、胸郭も下がったまま上がりにくくなるので、「たくさん酸素摂取できる深呼吸」がしにくくなってしまいます。

胸郭が下がったまま上がりにくい人が「深呼吸」すると、①「無理に吸おうとする」か②「ふつうに息を吐いたところからさらに吐く(ことで吸う量を増やす)」ことになりがちです。
①だと、ふくらんだ肺胞が横隔膜を押すため、肺胞・横隔膜を傷めたり(図24-2 ×を参照)、「胸郭を持ち上げる筋肉である首の筋」が疲労→短縮してすじ張ったりします(「呼吸エクササイズの実際」の項を参照)。
②だと、「気管支など酸素摂取(ガス交換)に関係ない部分」の換気が増えてしまうので、腹斜筋が過労→短縮しやすくなるにもかかわらず酸素摂取量はあまり増えません(「吹奏楽と肺活量」の項を参照)(注2)。

そのため、③「浅い呼吸のまま、呼吸頻度を増やす」ことで換気量を増やすことになりがちです。
しかしながら、「浅い呼吸」は「たくさん酸素摂取できる深呼吸」に比べ「気管支など酸素摂取(ガス交換)に関係ない部分」の換気の割合が多くなるため、無駄が多いのです(注3)。

つまり、胸郭が下がったまま上がりにくい人は、胸郭が十分上がるようになり「たくさん酸素摂取できる深呼吸」ができるようにならない限り、酸素を十分取り込むのは難しいということです。
それでも、少しでも酸素を多く取り込むには①~③を行うしかありません。

短背筋群が弱っていたり腰痛だったりする人が運動すると、「①~③を行い少しでも多く酸素摂取しなくてはという気持ち」と「胸郭を下げたまま上がりにくくしてでも体全体を固定しなくてはという気持ち」が闘ってしまいます(注4)。
運動が激しくなるほど、前者の気持ちと後者の気持ちの闘いは激しくなります。

その結果、「①~③を頑張る」一方で「運動量を減らしたりパフォーマンスを低下させる」ことで折り合いをつけることが多いです。
ですから、生存に必要な最低限の酸素量を摂取するのがやっとで、「運動で発生した乳酸・カルシウム」すべてを分解・分離するのは難しいです。
ましてや、すでにたまっていた乳酸・カルシウムの分解・分離まではとてもできませんから、「呼吸エクササイズの代わりに有酸素運動をすることで短縮した筋肉を緩める」などというのは難しいです。

「安静にした状態での深呼吸」(呼吸エクササイズ)なら、運動時より酸素消費量が少ないので、運動時よりは酸素を「すでにたまっていた乳酸・カルシウム」の分解・分離に回しやすくなります。
それに運動時より腹斜筋が緩みやすいので、短背筋群が弱っていたり腰痛だったりする人でも「たくさん酸素摂取できる深呼吸」がしやすいです。

「運動中、酸素を十分摂取できず乳酸・カルシウムがたまってしまった」という場合でも、後から酸素が入ってくれば乳酸・カルシウムを分解・分離することができます。
ちょっとした運動でも、私たちが考える以上に乳酸・カルシウムはたまっているものなので、運動後は深呼吸を少し長めに行うとよいです。
よく水泳選手が運動後しばらく深呼吸をしていますが、あのようにすればよいのです(注5)。

なお、胸郭が下がったまま上がりにくいと、心臓がふくらむスペースも十分ありません。
よって、胸郭が下がったまま上がりにくい人は、「十分ふくらめない分、心拍数を増やす」か「血流が悪いままで妥協する」ことが多いです。
しかし、そのような人であっても、運動をすれば酸素消費量がかなり増えるので、多くの血液を回さざるをえません。
すると、心臓は「さらに心拍数を増やす」か「急激に心拍数を増やす」ことで多くの血液を回そうとしがちです。
よって、心臓にかなり負担がかかってしまいます。


(注1)「体幹が激しくゆれる運動」であるほど、体は「短背筋群のみで脊椎を守れるか不安」と考えるため、体を固めてしまいやすいです。
ただし、「姿勢を維持する・とめる運動なら、体幹がゆれないから大丈夫」というわけではありません。
「姿勢を維持する・とめるのが大変な運動」であるほど、体は「短背筋群のみで姿勢を維持できるか不安」と考えるため、体を固めてしまいやすいです(「インナーマッスルならすべて鍛えていいか?」の項を参照)。

(注2)ただし、誰もが「ふつうに息を吐いたところからさらに吐いても酸素摂取量は増えない」というわけではありません。
それは、胸郭が下がったまま上がりにくいために、「ふつうに息を吐いたところ」がすでに「肺胞の空気を吐き切った状態」になる人の場合です。
中には、「ふつうに吐いたところ」が「まだ肺胞の空気を吐き切っていない状態」になる人もいます。
それは「日ごろ、胸郭が上がった位置でとまっている人」(図11-3)です(「十分上がった位置でとまっている人」ほど、肺胞の空気が残りやすいです)。
そのような胸郭の人の場合は、「ふつうに吐いたところからさらに吐く」ことで、酸素摂取量を増やすことができます(「胸郭が下がっていても腹式呼吸ならできるか?」の項を参照)。

(注3)呼吸は、1回行うごとに気管支など(ガス交換に関係ない部分)も換気します。
この部分は、換気するために呼吸筋を使い酸素を消費しても酸素摂取できないわけですから、赤字部門となります。
「胸郭が十分上がる人」であれば、1回息を吸うたびに多くの肺胞(ガス交換できる部分)がふくらむため、赤字部門の割合を少なくできます。
よって、「たくさん酸素摂取できる深呼吸」ができます。
「胸郭が下がったまま上がりにくい人」であれば、1回吸うたびに少しの肺胞しかふくらまないため、赤字部門の割合が多くなってしまいます。
そして、浅い呼吸の場合も、1回吸うたびに少しの肺胞しかふくらまないため、赤字部門の割合が多くなってしまいます。
なお、「浅い呼吸のまま、呼吸頻度を増やす」と、肺胞が自然に換気する速度より速い速度にするために、呼吸筋を多く使うことになります。

(注4)体が「体全体を固定しなくてはという気持ち」になると、呼吸を浅くするだけでなく呼吸頻度も抑制しようとします。

(注5)パニック障害・過呼吸など呼吸の乱れやすい人は行わないでください。
また、胸郭が下がったまま上がりにくく「たくさん酸素摂取できる深呼吸」が大変な場合は、「呼吸エクササイズ」からはじめてください。

ノルディックウオーキング

2016-05-18 11:07:31 | Q&A


「足底腱膜炎の原因」の項では「小さい歩幅での歩行」(大殿筋を意識しながら、小さい歩幅で後ろに蹴らないように歩くこと)をお勧めしましたが、正しく行えていない人が多いので、もう少し解説しておきます。

小さい歩幅とは、足長の半分(10~20㎝)位です。
時速1㎞位、通常ゆっくり歩く速度の4分の1程度(かなりゆっくり)となります。
前進することにこだわる必要はないので、その場で「足踏み」でもよいです(注1)。

歩行中は「腹横筋下部を50%位収縮させ、下腹をへこませる」ことで腰椎前弯↓としておきます(「腹横筋下部はよい姿勢の要」の項を参照)。
また、「支持脚(足が接地している側)の大殿筋を収縮させおしりを下げる」ことで骨盤後傾としておきます(図9-3を参照)。

足を上げるときは、前に蹴り出すと腸腰筋が過労→短縮しやすくなるので、地面と垂直に上げます。
その際、高く上げすぎると腸腰筋が過労→短縮しやすくなるので、つま先が引きずらない程度に上げます(注2)。
(足踏みならつまずいて転倒することはないので、引きずってもかまいません)

足を接地させるときは、踵から接地する(踵接地)のではなく、足裏全体をふわりと接地させるようにします(注3)。
そして、足接地後も後ろには蹴らず、足裏全体で地面を垂直に押すことで股関節・膝関節を伸ばします(注4)。
このとき、大殿筋の収縮を意識します。

「小さい歩幅での歩行」を正しく行うとなかなか前に進まないので、我慢できずにもう少し大きな歩幅で歩いてしまう人が多いです(注5)。
が、中途半端ではふくらはぎはあまり緩みません。
大きな歩幅で歩くつもりではなくても、少し大きな歩幅で歩いてしまうと、どうしても地面を後ろに蹴ってしまうことになります。
すると、それにより加速度がつくので、簡単に2~4倍の速度になってしまいます(注6)。

ちなみに「踏み台昇降」は階段昇降と同じで負荷が強いため、筋力・体力が十分ないと大腿裏の筋やふくらはぎを使いすぎてしまいやすいです。
それに、段差の分、足を高く上げざるをえないので、腸腰筋も過労→短縮しやすくなります。

ただし、階段昇降と踏み台昇降には異なる点もあります。
階段昇降は連続して段を上がるため「股関節が軽度屈曲したまま上がる」人が多いのに対し、踏み台昇降は一段上ったら台の上で両足をそろえて立つのが一般的なため「股関節を大きく伸展する」ことになります。

しかし、腸腰筋が短縮している場合、股関節を大きく伸展しようとすると、短縮した腸腰筋が腰椎を前下方に引いてしまいます。
よって、「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見伸展したように見える形」をつくってしまいます(図38-2を参照)(注7)。

ですから、台の上で両足をそろえて立つときは「下腹部をへこませながら、大殿筋を収縮させおしりを下げる」ことによって腰椎前弯↓・骨盤後傾とするよう、特に気をつけることが大切となります(注8)。

余談ですが、最近「両手でストック(杖)をつきながら歩く歩行」(ノルディックウオーキング)が流行っているようです。
「脚で後ろに蹴る力」(大腿裏の筋~ふくらはぎ~足底腱膜)に「ストックで後ろに蹴る力」(広背筋)を加えれば、さらに加速度がつくので、速く歩くことができます。
「ストックで後ろに蹴る力」が加わった分「脚で後ろに蹴る力」を減らせば、大腿裏の筋~ふくらはぎ~足底腱膜の負担を減らすこともできます。

しかし、「ストックで後ろに蹴る力」が加わると歩幅は大きくなりやすいです(注9)。
それに、「ストックで後ろに蹴る力」は広背筋が収縮することで発生するので、広背筋が過労でA 「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となってしまう場合があります。

「ストックで後ろに蹴る」のではなく、「ストックで体を支える」という使い方もできます。
しかし、やはりこれも、広背筋が過労でA~Bとなってしまう場合があります。
それに、「ストックで体を支える」動作は、肘や手で机を押すときと同じく「姿勢保持のために広背筋が収縮し、その分短背筋群が怠ける」くせがついてしまう場合もあります(「書字の極意2」などを参照)(注10)。
ですから、「ストックで体を支える」のは「整備されていない山道のため、不安定で転倒の危険がある」場合などに限った方がよいです。

ちなみに、高齢者が「杖で体を支える」場合も、「姿勢保持のために広背筋が収縮し、その分短背筋群が怠ける」くせがついてしまう場合があります(注10)。
それに、歩行時に体を支えるのは本来は脚の筋なので、「杖(広背筋)を使った分脚の筋が怠ける」くせがついてしまう場合もあります。
ですから、「杖で体を支える」のは「支持面が足底だけでは不安定で転倒の危険がある」など、どうしても必要な場合に限った方がよいです。

さらに余談ですが、ステッパー(ペダルを踏みながら足踏みする器械)も、その人にとって負荷が強すぎる場合は、やはり大腿裏の筋やふくらはぎを使いすぎてしまいます。
それに、ステッパーだと地面にあたる部分がやや不安定になるため、その分体幹も不安定になるので、短背筋群などが弱い場合は、やはり姿勢保持のために広背筋が収縮してしまいやすいです。
「手すりをつかまなければよいのでは?」とも思えますが、短背筋群が弱い場合は、手すりを使用しようがしまいが広背筋は収縮してしまいます(注11)。
それに、地面にあたる部分がやや傾斜し「90度よりも大きく背屈する」形状になっているものも多いので、ふくらはぎや足底腱膜が短縮したり断裂したりしている場合は要注意です(注12)。

なお、トレッドミル(動くベルトの上を歩く器械)は、速度を速くすれば大きな歩幅になってしまいます(注9)。
それに、疲れてきても減速しなければ大きな歩幅で歩き続けざるをえません。
疲れてきたということは「乳酸がたまり筋肉が短縮してきた」サインですから、大きな歩幅で歩くと短縮した筋肉が断裂してしまいます(注12)。
ベルトが動いてくれるので後ろに蹴る必要はありませんが、大きく前に振り出すためにはやはり「後ろに蹴る力(の反動)+腸腰筋の力」が必要です(注2を参照)。

自転車エルゴメーターは、大殿筋よりも大腿四頭筋が発達しやすい傾向にあります。
腸腰筋や大腿裏の筋・ふくらはぎなどの短縮がある場合は、サドルを「脚が伸びきってしまわない高さ」に調節した方が断裂しにくいです。

(注1)「室内でテレビを見ながら足踏み」でもよいです。深呼吸をしながら行うとなおよいです。
時間は、筋力・体力に合わせ、5分~1時間位としてください。

ちなみに、足踏みをさらにゆっくり行うと「片足立ちの連続」となります。
「片足立ちの連続」とは、片足立ちになり1秒位維持してから反対の足で片足立ちになり・・と繰り返す運動です。

筋肉は、「加速度をつける」働きばかりではなく、「姿勢を維持する・とめる」働きも重要です。
「加速度をつける」際は後ろに蹴るので大腿裏の筋・ふくらはぎ・足底腱膜などが多く収縮し、「姿勢を維持する・とめる」際は大殿筋・短背筋群など(鍛えたい筋肉)が多く収縮します(ただし、鍛えたい筋肉が弱っていない場合)。
つまり、正常ならば、大殿筋の収縮は「片足立ちの連続」>「小さい歩幅での歩行」>「大きな歩幅での歩行」となるわけです。

ただし、大殿筋が弱いのにいきなり「片足立ちの連続」を行うと、大殿筋が過労でA~Bとなってしまいやすいです。
ですから、まずは「小さい歩幅での歩行」を短時間からはじめるとよいです。

しかし、「小さい歩幅での歩行」であっても、大殿筋がとても弱い場合は収縮しなかったり過労でA~Bとなってしまったりします。
すると、大殿筋を収縮させたつもりでも、大殿筋の代わりに大腿裏の筋やふくらはぎが多く収縮してしまうため、大腿裏の筋やふくらはぎが筋肉痛になったり過労→短縮したりします(図38-1「膝を後ろに押し込む」図を参照)。
ですから、そのような場合は「小さい歩幅での歩行」より先に「大殿筋エクササイズ」からはじめてください。

(注2)「脚を高く上げた方が、腸腰筋が鍛えられてよいのでは?」とも思えますが、腸腰筋は過労→短縮しやすい筋肉です。
「大きな歩幅での歩行なら、後ろに蹴れば足が振り子のように反動で前に振り出されるから、腸腰筋を収縮させずにすむのでは?」とも思えます。
が、実際のところは正常歩行であっても、大腿裏の筋~ふくらはぎ~足底腱膜の力だけで足が前に振り出されるのは難しいので、腸腰筋が収縮することで足を前に蹴り出していることが多いです。
ただし、この方法なら「後ろに蹴る力(の反動)+腸腰筋の力」となるため、大きく前に蹴り出すことができます。

腸腰筋が収縮すると、①「大腿骨を持ち上げることによって腰椎の方に引き寄せる力(股関節を屈曲する力)」と同時に②「腰椎を前下方に引くことによって腰椎を大腿骨の方に引き寄せる力(腰椎前弯↑とする力)」も発生します(図10-3を参照)。
しかしながら、腹横筋下部や大殿筋を収縮させることによって腰椎後弯・骨盤後傾させておけば、腸腰筋の力はすべて①「大腿骨を持ち上げる力」となります。
すると、少しの収縮でも大腿骨を高く持ち上げることができるので、腸腰筋が過労→短縮しにくくなります。

(注3)踵接地すると床反力により「膝伸展(膝反張)する力」がかかります(図38-1を参照)。
しかし正常歩行では、このとき大腿裏の筋は収縮しているので、大腿裏の筋は「収縮しながら伸ばされる」ことになるため断裂しやすくなります。
(大腿裏の筋が伸ばされないよう強く収縮した場合は過労→短縮しやすくなります)

(注4)股関節・膝関節を伸ばすとき「膝を後ろに押し込む」ようにすると、大殿筋の代わりに大腿裏の筋やふくらはぎが多く収縮してしまうのでNGです(図38-1「膝を後ろに押し込む」図を参照)。
また、腸腰筋・大腿裏の筋が短縮している場合は、股関節・膝関節を完全に伸ばしきると断裂しやすいですし、「膝を後ろに押し込む」くせがつきやすいので、完全には伸ばしきらない方がよいです。

(注5)最初は小さい歩幅で歩けていても、大殿筋が疲れてくると大きな歩幅で歩いてしまう人も多いです。
「疲れてくると、歩幅は小さくなってくるのでは?」と思うかもしれませんが、それは「最初は大きな歩幅で歩いていた場合」です。
「小さい歩幅での歩行」は加速度をつけないので、筋肉が弱いと「大きな歩幅での歩行」よりかえって難しい面もあります。
疲れてきた場合は無理せずそこで終了してください。

(注6)高齢になると特に大殿筋など「姿勢を維持する・とめる」筋肉が弱りやすいです。
すると、「片足立ちの連続」>「小さい歩幅での歩行」>「大きな歩幅での歩行」の順に難しくなります。
それは、まだ歩けても「片足立ちで靴下をはこうとするとピョンピョン飛びはねたりしてしまう」人が多いことからも分かります。
ですから、若いうちから「小さい歩幅での歩行」や「大殿筋エクササイズ」を行い、大殿筋を鍛えておくことが重要となります。

(注7)台の上で両足をそろえて立つとき、「股関節がやや屈曲しているのに合わせ、体幹も前かがみにしておく」のであれば、腰椎前弯↑になりません。
しかし、前かがみは短背筋群の負荷が強いので、脊柱起立筋群が手伝ってしまいやすいです。
脊柱起立筋群が過労→短縮すれば、結局は腰椎前弯↑となってしまいます。
(それに、体力テストでは「前かがみにならないように」と指導される場合があります。)

(注8)大殿筋が弱く腸腰筋が短縮しがちになっている場合は、腸腰筋が伸びるのに時間がかかるため、ゆっくり行ってください。

腸腰筋が短縮していない人であっても、運動中は腸腰筋に乳酸・カルシウムがたまり短縮・収縮したままになりやすいです。
「運動中は呼吸が荒くなるので、十分呼吸できているから、乳酸はたまらないはず」とも思えます。
が、運動すると思ったより多くの酸素を必要とするため、酸素供給が間に合わないことが多いです。
それに、短背筋群が弱っていたり腰痛だったりすると、体を固めてしまうため(その際、腹斜筋も収縮するため胸郭も下がったまま固まってしまうので)十分呼吸できているように見えてもできていないことが多いです(「有酸素運動なら乳酸を分解できるか?」の項を参照)。
ですから、乳酸・カルシウムがたまる前に運動を終了するか減速すべきです(乳酸がたまり出すと軽い疲労感を感じることが多いです)。

なお、腸腰筋の短縮が強い場合は、股関節・膝関節を完全に伸ばしきると断裂しやすいので、完全には伸ばしきらない方がよいです。
(ただし、体力テストでは「股関節・膝関節を伸ばしきるように」と指導される場合があります。)

(注9)大きな歩幅で歩くと「後ろに残った方の脚の股関節が大きく伸展せざるをえない」ため、腸腰筋が短縮している場合、断裂するか「短縮した腸腰筋が腰椎を前下方に引くため、腰椎前弯↑となってしまう」ことになります(図13-4を参照)。
それに、「後ろに残った方の足の足関節が大きく背屈せざるをえない」ため、ふくらはぎや足底腱膜が短縮している場合、断裂したり防衛反応↑となりやすくなります(図37-1を参照)。
また、大きな歩幅で歩くと「踵接地」になるため、大腿裏の筋が短縮している場合、断裂したり防衛反応↑となりやすくなります(図38-1)。

ちなみに、大きな歩幅で歩くと体幹をひねるので、腹斜筋なども収縮させることになります。
腹斜筋が過労→短縮すると、胸郭が下がったまま上がらなくなるため、呼吸が浅くなってしまいます(「腰痛の人の胸郭が下がったまま固まっている理由」の項などを参照)。

(注10)ただし、短背筋群が元々弱い場合は、杖をつこうがつくまいが、姿勢保持のために広背筋が収縮してしまいます。
歩くと体幹はゆれますが、このとき短背筋群が弱かったり脊椎が傷ついていたりすると、体は「短背筋群のみで脊椎を守れるか不安」と考えるため、広背筋など(緩めたい筋肉)を収縮させることで体幹を固めてしまいやすいです。
ですから、短背筋群が弱い場合は、いきなり歩行を行うのではなく、まずは「おじぎエクササイズ」などで短背筋群などを鍛えた方がよいです。
なお、「走った場合」や「山道など支持面が不安定な場合」は、もっと「短背筋群のみで脊椎を守れるか不安」と考えるため、さらに広背筋などを収縮させることで体幹を固めてしまいやすいです。

ちなみに、膝痛などがある場合も、歩行を行う前に「正しい片足立ち」を習得した方がよいです(「正しい片足立ち」については後述します)。

(注11)短背筋群の筋力がまだ十分ない場合は、前腕をカウンター台の上に置き腕の重さを減らすと、短背筋群の負荷を減らすことができます。
しかし、このとき前腕で台を押して体を支えると、姿勢保持のために広背筋が収縮してしまうのでNGです。

(注12)最初は大丈夫でも、歩き続けているうちに、乳酸・カルシウムがたまり短縮・収縮したままになってしまうこともあります。
ですから、ステッパーや大きな歩幅での歩行は、乳酸・カルシウムがたまる前に運動を終了した方が安全です。