流ブログ

その記録

フルボリュームの追憶(散文)

2011-11-10 | 散文的
ボリュームを上げていくと、それに伴う痛みのように玄関のドアが叩かれる。 「うるさいんだよ」「何やってんだよ」「頭、おかしいんじゃないの」 罵詈雑言を立てて、ドアも壊れんばかりに叩かれる。 そりゃそうだ。 真昼間からこんな集合住宅の真ん中でフルボリュームで ZIGGYのGLORIAを聞いていたらそりゃ文句も言われる。 やけっぱちになったわけじゃない。 ジギーに思いいれがあるわけじゃない。 何 . . . 本文を読む

私をスタジアムに連れてって(散文)

2010-08-17 | 散文的
僕の彼女は野球好きだ。 僕自身は野球を好きでも嫌いでもない、まぁいたって普通の男なわけだけど それでも加奈子が、(加奈子が僕の彼女の名前だ)毎年のように野球場に行くうちに 僕も少しが野球のことが何となく好きになっていった。 加奈子は球場でビールをしこたま飲む。 選手への野次も半端ない。暴言だ。たまに暴言を吐く。 一ヶ月に数回内野のいい席でみるけど、ほとんどは外野自由席だ。 早い時間から待ち合わせ . . . 本文を読む

なごり雪 (散文)

2010-03-10 | 散文的
どっちにしたって東京で見る雪はこれで最後になるのかもしれない。 そんな風に3月に降るしきり雪を浴びながら僕は思っていた。 傘もどこかに忘れてきてしまった。 全身をグショグショに濡れながら駅前に立ち尽くす僕には名残雪とは言えない 大粒のボタ雪を見上げる他には出来なかった。 ここでどのくらい待ったのだろう。 キャバクラ『dice-ダイス』から駅前まで歩いて10分 カナコには駅前で待ってて。としか言わ . . . 本文を読む

初雪 (散文)

2010-01-11 | 散文的
まるで世界の端っこにいるみたいだ。 実際問題世界の端っこに行ったことがないから比喩的な表現になるのかもしれない。 キャバクラ『dice-ダイス』は新年明けてからもう4度目。 早いペースで頻繁に行っている。 僕は実家に帰らず、新年をこっちで過ごしたのでどこかに行くあてもなく 毎日寝たり、ご飯を食べたり、キャバクラ『dice-ダイス』に行ったりしていた。 冬のボーナスもだいぶ使い、カナコに会いに . . . 本文を読む

ラストクリスマス (散文)

2009-12-25 | 散文的
今年のクリスマスイブはキャバクラ『dice-ダイス』で過ごした。 先月の終わりの僕の誕生日にプレゼントをくれたけど、僕はあれから少しキャバクラ『dice-ダイス』とは、カナコとは少し距離をおこうと決めた。 それは少しの反骨心と同じ職場で働く咲枝さんと知り合ったということもある。 咲枝さんはバツイチで3歳の女の子を抱え昼は僕の仕事の事務。夜はコンビニと 子供のことを考えて昼夜問わず働いている。 . . . 本文を読む

月のグラナダとりんご (散文)

2009-12-13 | 散文的
宇宙世紀も始まったというのに国のお袋からりんごが送られてきた。 僕は山形のりんご農家の息子なのでりんごの時期になると実家からこうして 毎回送られてくるのだ。 明日からグラナダ勤務になる。 仕官学校では万年Bクラスの落ちこぼれの僕だけど、もう連邦との戦争は 始まりそうだと、クラスのもっぱらの噂だ。 首席で卒業したシャアとか言う奴を昨日見かけたけどキザそうで鼻につく。 今年もりんごは美味しそうだ . . . 本文を読む

雨降りとさよならノーベンバー(散文)

2009-12-03 | 散文的
いつものように土曜日になると、キャバクラ『dice-ダイス』の席は客で一杯になり 喧騒と安い酒の匂いで隣にいる女の話す声も聞けないほどになる。 どっちにしたっていつも指名している「カナコ」はお得意さんが来ているらしく 俺の席にはなかなか来ない。 場つなぎで来ている女は始末が悪く、「昔私悪かったし、今は少しでも働いて自分を更正させてくれた塾の先生の為に頑張っているんだ」と とっても暗い話しを連発 . . . 本文を読む

放射冷却の恋人 (散文)

2009-10-13 | 散文的
放射冷却(ほうしゃれいきゃく)とは、 高温の物体が周囲に電磁波を放射することで温度が下がる現象のことである。 「私達には冷却期間が必要だと思うの…」 加奈子がそんなことを言い出したのは分厚いコートを着込み、信号待ちをしているときのことだった。 (冷却期間?なんだそれ?冷却するようなことしたか?うん?待てよ。この前家でご飯を作ってもらうときにいつか分からない肉を冷凍していたことか?) なんて . . . 本文を読む

Fiat 500

2009-07-28 | 散文的
両国のジャンクションでいつもの渋滞。 どうやったってこの道おかしいだろう。って思ってみても渋滞は緩和されない。 この先の箱崎でどんどんと車は下から吸い上げれてくる。 カーブをぐるりと落ちていくと隅田川が見えてくる。 後からすごいスピードで近づく音がする。 側道をルパンの乗ったFiat 500が駆け抜ける。 横には次元がマグナムに弾を込めながら笑っている。 追われているのか、追っている . . . 本文を読む

あるいはそうかも知れない(散文)

2009-02-03 | 散文的
抜け渡る青空が窓の外に広がり、概ね天気は晴れだと天気予報は伝えていた。 まだ僕が20代だった頃に別れた彼女から結婚したと葉書が届いた。 いかにも業務的な別れ方をして後腐れも、喧嘩もなく、ましてや涙もなく別れた彼女だった。 そんな彼女から結婚を知らせる葉書が届いたことは違和感というか、変な気分になった。 パソコンで印字された文句にはいかにもの文章が並び二人で新居を構えました云々。 是非近くに . . . 本文を読む

桜がみたいと君が言ったから(散文)

2009-01-01 | 散文的
もうすぐ年末だと言うのに、急に桜がみたいと君が言い出した。 この前二人で行ったカラオケで、柄にもなくオンチな僕が桜坂を歌ったからか? それともこの前テレビでジョージ・ワシトンの伝記を見たからか? とにかく、僕としても年末は仕事も忙しいし、とても取り合っていられないから 何となく流して桜の話しは終わらせてしまったけど、 本当は何とかして君に桜をみせないといけなかったんだろう。 なのに僕はこれ . . . 本文を読む

真心と誠意と甘酒(散文)

2008-12-28 | 散文的
誠意。 私利・私欲を離れて、正直に熱心に事にあたる心。まごころ。「―のこもった贈り物」「―を示す」「誠心―」 真心。 真実の心。偽りや飾りのない心。誠意。「―のこもった贈り物」「―を尽くす」 甘酒。 白米の固めのかゆに米こうじをまぜ、発酵させてつくる甘い飲み物。もと、神事用につくられ、一夜酒(ひとよざけ)・醴酒(こさけ)ともいう。また、酒かすを湯に溶かして甘みをつけた飲み物。 駅 . . . 本文を読む

革命の夜に①(散文)

2008-12-24 | 散文的
「俺は世界を変えてみせる!」って言って出て行った兄が3年ぶりに帰ってきた。 季節は夏も終わりかけの9月で、夏の終わりを告げるかのように蝉が命を振り絞りながら鳴いていた。 帰ってきたからの兄と言えば、 「なぁ加奈子。この家暑くない?もっとさぁ冷房を強めの設定にしないかな? いくらお兄ちゃんが20度にしても、いつのまにか25度になってるんだよね。 兄ちゃん汗っかきだからさ…なぁ頼むよ」 ってこ . . . 本文を読む